相互依存の法則
「小花代、いるか?」
俺は綾崎の部屋のドアをたたいた。
意外にも小花代は簡単にドアを開けてくれた。
「...悠くん?」
寝間着姿の小花代がドアの隙間から顔を出す。
あまりの自分との対応の違いに気が重い。
ここまで来るときに何を言うべきか考えたが、やっぱり素直に謝るのが一番だ。
「あの...さっきはごめん...」
俺の顔を見た小花代は謝罪の言葉よりも俺のの赤く腫れ上がった顔を心配してくれた。
小花代の目元は赤くはれていて、今の今まで泣いていたことがわかる。
小花代も傷ついてるだろうにこの対応の差...
あぁ...本当に自分が情けない。
小花代が周りの目を気にしたのか部屋の中に入れてくれた。
部屋の中に入った途端女の子のいい香りが広る。
あらかじめ断っておくが、こんな時でも考えてしまうのは思春期の男の子の逃れられない定めなのだ。
決して変態などではない。
そんな俺を尻目に小花代がベットに腰かけた。
どうやら、俺が何か話すのを待ってくれているようだ。
相手がわざわざ話させてくれる機会を用意してくれたのだ。
ここでかっこ悪いことは言えないだろう。
一つ咳払いをする。
「あのさ小花代、俺さっきパーティーの夜に言ったこと思い出したんだ。あの時確か俺は小花代に悲しい顔をさせないって言ったよな。」
「...そうだね。」
単調に答えるところがいつにも増して怖く感じる。
「それがどうだよ。あれからたったの二日でこのザマだ。」
三日坊主もびっくりだ。小花代からしたら、本当にやってられないだろうな。
「ちゃんと後悔して決心して、決めたことのはずなのにな。」
それまで不機嫌そうに俺の話しを聞いてた小花代が口を挟んだ。
「ちがうっ!それは私が悠くんの気持ちをよく考えないで......」
小花代はこんな時でも俺に非がないと言ってくれるのか。
「やっぱり小花代は優しいな。今さっき自分を傷つけた相手にそんなことを言ってくれるなんて。」
小花代と同じように俺も真剣な顔になる。
「俺もついその優しさに甘えたくなる。...でも、それじゃダメなんだ。それじゃいつまで経っても小花代との約束を守れない。」
小花代は押し黙って悔しそうに手を握りしめた。
「でも、それはっ....!」
小花代もなんとか反論したい様子だが、言葉が出てこない。
「だから、小花代が優しい言葉で許してくれたとしても、俺が俺を許さない。...もう、そんな顔をさせたくないから。」
「自分が許せないから、自分のことが憎くてしょうがないから。今まで約束も守れないで、散々小花代に迷惑をかけてたくせに俺が今ものすごく都合のいいことを言ってるのは分かってる。でも、そのうえで......俺にもう一度小花代を守るチャンスをくれないか?」
小花代の赤い瞳が潤む。
その瞬間また、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「.........いやだよ。それじゃ......また私は悠くんに守られてばかりになる。悠くんになんにもしてあげられない。......そんなの嫌だよっ!」
ベットに座っていた勢いよく立ちあがる。
「もっと私を頼ってよっ!もっと私に悠くんを守れせてよっ!」
「......昔からそうだった!私をかばって傷つくのはいつも悠くんで私はただ後ろで守られてるだけだった!私が聞いても悠くんはいつも笑って隠して絶対に私に傷を見せようとはしてくれなかった!」
そこまで勢い良くいい放った小花代は、力なくその場にへたり込んだ。
「......もう、嫌だよ。そんなの辛いだけだよ。もっと......私を......悠くんのそばにいさせてよ......」
あまりの急な告発に驚く。
小花代がそんな風に思ってたなんてこれっぽっちもわからなかった。
「.........小花代。」
俺と同じように小花代も悩んでたんだ。
こんな泣きじゃくるまで必死で考えて、出した答えだが時折見せたあのお姉ちゃんのような優しい態度だったんだ。
「悩んでいるのはお前だけじゃない。」ね。ホントその通りだったよ綾崎。
俺は何やってるんだろうな、まったく。今も分かってないじゃんか。
「ごめん。ごめんよ小花代。」
小花代は俯きながらグスグスと鼻をすすっている。
「......でも小花代、それは少し違う。」
「俺は小花代に数えきれないほど助けられてきたよ。小花代がずっとそばにいてくれたから、どんな時でも強くあれた。小花代がずっと俺をそばで支えてくれたからどんなことにも諦めずにいられた。今の俺であれたのは全部小花代のおかげなんだ。小花代がいてくれたからなんだ。」
無造作に乱れた小花代の髪を整えるように頭をなでた。
彼女にここまで言わせたんだ。その想いに答えずに俺だけ適当なことを言うわけにいかない。
彼女が本気で言ってくれたのだから、俺も本心から答えるのが道理だ。
「だからさ小花代。まだまだ人の気持ちも察することができない勝手気ままな俺だけどさ......もし、小花代が俺を助けてくれるんだったら、これからも俺の隣にいてくれないか?それで、俺が間違ったことをしようとしていたら小花代が俺を止めてくれよ。」
小花代が落としていた顔を上げる。
「私なんかが大丈夫かな?」
「もちろん。」
「私なんかで良いのかな?」
「小花代がいいんだ。」
多分俺の方が小花代と釣り合わないんだろうな。
小花代にはもっといい人の隣にいるべきなんだ。
そう思うだけで胸の奥が痛む。
それでも俺は絶対に小花代を手離したりなんかしない。
たとえそいつが俺の前に現れて小花代を連れて行こうとしても。絶対にだ。
もう一度小花代の頭を優しく撫でた。
「だから、ずっと俺のそばにいろ。小花代。」
「......うんっ!」
小花代は満面の笑みで答えた。
そこにはもう涙は無かった。
「そこまで情熱的に言われたんじゃ私だけ元の世界に帰るなんて出来ないね。」
が、すぐに意地悪く笑う。
「う、うるせぇよ...ていうか、小花代が元の世界に帰るなんてこれっぽっちも考えて無かったや。」
「悠くん、そういう所だと思うよ。」
「ははっ、まったくだな。」
完璧じゃない。どころか故障品みたいな俺だけど、小花代だけは絶対に手離してやるものか。
そう京悠馬は決意した。




