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召喚の儀

異世界生活開始三日目


俺たちはクリスと数人の魔術士に連れられて王城外れの大聖堂に来ていた。


遠目で見たときは気づかなかったが、大きさはかなりあってフランスのブールジュ大聖堂位はあるだろうか。

外装も神秘的で青いラクリマが周りを回ってたりする。

まさにSF世界の教会って感じだ。

他のやつらも大聖堂や初めての王城の外に感激している。


 「皆さん、ここが『召喚の儀』を行う会場です。」


クリスが大聖堂の入り口で振り返り無駄話をしている生徒たちに通る声で言い放った。


 「『召喚の儀』とは古より勇者が魔族と戦うために神より神器を与えられたとされる儀式のことです。神器という存在は私たちも詳しくは知りませんが、書物によりますと、人間が神器を持つと神大な力をその者に与え、たとえ光属性の攻撃でなくても魔族に致命傷を与えられるようになるのだとか...」


わだかまり無く話すクリスだがその顔は明らかに伝承を信じていない、というよりは、信じたくないという表情だ。


 そう思うのも無理はない。もしも本当にそんなチート武器があったら今頃こんな劣勢に追い込まれていない。

仮に、神器とやらが召喚されて俺たちが魔族を圧倒しても、では、俺たちが来るまでに死んでいった兵士や魔術士たちは無駄死にだったのかという話になってくる。

今彼女はさぞ複雑な心境なのだろう。


 「ねぇねぇ、悠くん。」


そこへヒョコっと小花代が現れた。

突然の登場に俺は驚く。


 「どうした小花代、そんなもじもじして...まさかトイレか!?全くどうしてここに来る前に行かなかったんだ。」


 「ち、違います!トイレはさっき行きましたっ!私はそんなことを言いにきた訳じゃなくて...」


 「お、おう、そうか、トイレはもう行ったか...」


 冗談で言ったつもりだったんだが...


そこで小花代も自分の言ったことに気がついたのか顔が赤く染まっていく。


 「その...さっきのは...その...嘘で...」


頑張って嘘だと主張するが、耳までに真っ赤にしてうつむく姿に説得力はない。


 可愛いすぎるっ!

 これが俗に言う萌えなのか。

 ああ、今すぐ、抱きしめたい。

 もう、力一杯抱きしめたい。

 

抱きたい衝動にかられる。

思わず右手が小花代の頭へ伸びる。


 まてっ!早まるな俺!

 誰もこちらを見ていないとはいえ、

 こんな公衆の面前でそんな変態をさらけ出してみろ。

 その瞬間、俺の人生は終わりを告げるぞ。


 「そ、そっかー、嘘だったかー。」


左手でなんとか右手を食い止めた。


 たとえこの場にいる全員に嫌われても、

 小花代にだけは絶対に嫌われたくないっ!


俺の言葉を聞いた小花代は顔を上げた。


 「そ、そうだよっ!残念、騙されたねっ!」


 あんな棒読みの言い訳を信じちゃうところも可愛い。


 「それで、俺に何のご用で?」


 「え?...っあ、そうだった!」


 これは忘れてたな。


また小花代はもじもじし始めた。


 「あの...これが終わった後時間空いてる?」


 「この儀式がいつ終わるかによるけど、とりあえず予定はないぞ。」


それを聞いて小花代の表情がパッと明るくなる。


 「そっかっ!それじゃあ、このあと時間空けといて!」


それだけ言うと小花代は綾崎たちのところへ走り去って行った。


 え?何いまの?

 告白かな?告白がいいな。絶対告白だわ。


都合の良い方に考えが向く。

...が、すぐに冷静になる。


 んな訳ねぇか...


ため息を一人ついた後、大聖堂の中に入っていく列に並んだ。





大聖堂の中は外装とは違い白を基調とした意外とシンプルな作りだった。

中心の通路のわきに二列ずつ長椅子が並んでいてその先には十メートルはあるかと思われる女神の石像が壁に彫られていた。

簡単に言えば超でかい礼拝場だ。


クリスは女神像の前まで行くと女神様の左膝より一つ低い場所を押した。

すると、女神像がゴゴゴと音を立てて横にスライドし、後ろに隠れていた下へ続く階段があらわになった。


「すげえ!」という声が上がる。


 あっちの世界にもこんな隠しダンジョンみたいな仕掛けがあればよかったのに...


そんなことを考えてしまう。


 「この先です。」


そう言ってクリスは階段を下りていく。

階段の先は暗く細い。

クリスや他の魔術士たちの姿が見えなくなる前に一列になって下りていく。

三分ほど下りたとこで広けた空間に出た。

祠のような場所の中心には階上にもいた女神像が佇んでいた。


 「ここが『召喚の儀』を行う場所です。」


 「神器の召喚は天界より現れし勇者しか出来ないと書物には書かれていました。また、神器は召喚した勇者と異体同心となり、勇者様自身が死んでしまったり、この世界から消えれば、神器も消滅しまいます。」


神器の簡単な説明をした後クリスは持っていた杖で女神像を指した。


 「あちらは女神エルピス様、希望の女神です。勇者様には一人ずつエルピス様の前に立ち祈りをささげてもらいます。」


 祈りって言ったってどうすればいいんだよ。

 まさか十字を切ればいいのか?

 でもそれはキリストに対する祈り方だしな。


 「祈り方は自由で構いません。」


クリスが俺を見て言う。


伝承を信じてない人はずいぶんと適当だなと思ったがクリスの無気力な表情を見て顔をそむけた。


 「では、最初の方は出てきてください。」


クリスが促すと委員長が前に出た。

あらかじめ、話を聞いていたのでくじ引きで順番を決めていたのだ。

ちなみに俺は最後から四番目だ。


委員長が女神像の前に立ち目をつぶる。

魔術士たちが委員長を囲むように並び呪文のようなものを唱え始めた。

すると、床に委員長を中心とした魔法陣が構築されていく。


魔法陣が完成して数秒後、魔方陣から沢山の小さな光の粒が放出し女神像の顔の前で一つに集約されていった。

女神の顔の前で集まった光の集合体が祭壇の周りを飛び回る光の粒をすべて吸収したと思ったら強く光りだした。

あまりの眩しさに目をつぶる。


ゆっくりと目を開くと光の集合体があった場所には青緑に輝く一本の剣が浮いていた。

その光景にその場にいた誰もが言葉を失った。

青緑色の剣はそのまま委員長の腕に収まった。


 「あれが...神器...」


最初に口を開いたのはクリスだった。

その顔は先ほどまでの無気力なものではなく瞳はいつもよりうるんでいた。

それだけでクリスが今までどのような戦況を強いられてきたのかを物語っていた。


 「これで...私たちは救われるのですね。...やっと、死んでいった仲間たちの無念を晴らせるのですね。」


頬を一筋の涙が零れ落ちた。

その瞬間歓声が沸き上がった。


 「おぉっ!すげぇ!」


 「神秘的だったわ!」


 「俺自分の神器にかっこいい名前つけよう。」


その後も召喚の儀は行われ、人それぞれの形の神器が召喚された。

中には、懐中時計の形の神器とかもあった。


そんなこんなで、神楽代の番が来た。

S級の勇者の神器が気になり全員が注目する。


神楽代が女神像の前に立ち、床に魔法陣が形成される。

そこまでは、何も変わらない。


しかし、それからが異常だった。

魔法陣から放たれる光の粒が明らかに多いのだ。

光の粒が神楽代の体を覆い隠す。

そして、二つの大きな集合体へと変わりそれぞれが強い光で輝いた。


その集合体は一つは白く輝く剣へと、もう一つは青く輝く指輪へと変化した。


 「神器が二つも...」


 「前代未聞です。神器が二つも召喚されるなんて...そんなの書物に書かれている勇者でもいませんよ。」


クリスも信じられないって顔してる。


二つの神器はゆっくりと神楽代の手に乗った。


再び沈黙が訪れる。

そして、その沈黙を破るかのように神楽代が剣を掲げて叫んだ。


 「女神より受け給わりしこの二つの神器に誓い、俺が魔族を打ち倒し、この醜い戦争に終止符を打とうっ!」


その言葉に呼応して今日一番の歓声が上がった。



―――



あれからも十数人分の召喚の儀が続いたが生徒たちは最初ほど興味を示さなくなった。

それほどまでに、神楽代のインパクトが強すぎたのだ。


俺は一人神楽代に嫉妬していた。


 あのセリフ、俺が言いたかったなぁ。


とことん、俺が望むことを俺に代わってしてくれるのが神楽代という男だ。


 こうなったら、超かっこいい鎧とか来ないかな。


そんなことを考えてるうちにとうとう俺の番が回ってきた。


女神像の前に立つ。


 近くで見るとよりおっきく見えますね女神様。


深呼吸をして目をつむる。

周りからは魔術士たちの声だけが聞こえてくる。


その時、暗くなった視界の中で誰かの声が響いてきた。

魔術士たちの声ではない。

もっと、聞くだけで体が震えてしまうような...そんな声。


 「あなたは、力を求めるか...」


男の声だ。


 「お前は誰だ?明らかに女神様の声じゃないだろ。」


質問しても答えない。

 

 「あなたは、神をも殺す力を望むか...」


は?何で自分たち神様を殺す力を俺に与えるんだよ。


 「あなたは、神に抗いこの世界を導く力を望むか...」


だから、お前はだれだ!?なぜ神を敵に回す!?


 「もう時間がない、早く答えなさい、これが最後です…」


急に声色が冷たくなったとおもったら、男の声が遠ざかっていく。


 「あなたは、全てを敵に回してもなお、この世界を救う覚悟はありますか...」


これが最後ってことはもう迷ってる暇はないのか。


俺は...このまま神楽代に先を越されたままでいいのか...

...だめだ。


 「最後にこれだけ聞かせてくれ。その力でしかこの世界は救えないのか?」


 「そうです。あなたしかもう頼れる者はいません。あなた以外はことごとく奴らに阻まれた...」


俺は...俺にしか出来ない使命を投げ出していいのか...

...だめだ。


 「分かった。俺がその力でこの世界を救ってやるよ。」


 「契約完了です。あなたの勇気と覚悟に感謝を。」


もう男の声はささやき程度にしか聞こえない。


 「そして最後にもう一つ助言を授けましょう。あなたはこれから幾多の困難に見舞われるます。沢山の挫折をするでしょう。その時はあなたの真の仲間を探しなさい。あなたの未来に祝福があらんことを...」


そう言って、男の声は完全に途絶えた。

その代わりに何かが俺の中に入ってくるのを感じた。



ゆっくりと目を開く。



が、そこには何も浮いていなかった。

金色に輝く聖剣もかっこいい鎧も何もなかった。


 「は?」


後ろを振り返る。

そこにいる誰もが得体のしれないものを見る目を向けてきた。


 おい、どういうことだよこれ...


クリスが慌てた声で他の魔術士に結果を聞く。


 おい、おっさん!!


クリスに尋ねられた魔術士が答えた。


 「カナグリ・ユウマ殿には...」


 世界を救える力って言ってたじゃねぇかよっ!!


 



 「...神器は召喚されませんでした。」

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