愛識を成長させる方法~モンスターを倒してLOVEを上げる~
1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳
【甲斐国 都留郡 青木ヶ原樹海 風穴ダンジョン 入り口前】
俺たちはナタリアの案内で、樹海の中を進んでいき風穴ダンジョンへとたどり着いた。
ここが風穴ダンジョンか。
崖に大穴が開いている。見た目はただの穴だ。けど、中から邪悪な雰囲気を感じるな。
「なあナタリア、ダンジョンてのは何なんだ?パッと見はただの穴だが、中から感じる雰囲気は普通じゃないぞ」
俺がそういうと、ナタリアは不意をつかれたように『ああ!』と叫び、びっくりして飛び上がった。
「そうでした!申し訳ない。説明しようと思っていて、忘れていたでござる」
ナタリアは心の動揺を隠すように、『てへっ』と笑って見せた。
そして、一旦深呼吸をして心を落ち着けた。
「ふう。ようやく落ち着いたでござる。さて、ダンジョンについてでござったな」
ナタリアはこの樹海に、無数にあるというダンジョンの説明を始めた。
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【ダンジョンとは】
愛族が耐え切れないほど『強い憎悪』を持ったとき、『愛識が暴走』する。
暴走した愛識は『ダンジョンへと変化』する。一方で『肉体はダンジョンボス』になる。
また、ダンジョンに変質するほどではない『軽い憎悪』は、ダンジョンに引き寄せられる。引き寄せられた『軽い憎悪』は少しづつ溜まっていき、ダンジョンモンスターに変化する。
憎悪から生まれたモンスター達は、愛の力に弱い。
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ダンジョンが、暴走した愛族の『愛識』から生まれる!?
冗談みたいな話だが、愛識で愛を伝え合うことが、宇宙数千個分のエネルギーを持つなら、ダンジョンくらいできてもおかしくない気もする。
いよいよ常識が危うくなってきたな
そう思っていると、いきなりナタリアが激しく飛び跳ねがら、すごいテンションではしゃぎ始めた。
「つまり!LOVEでござる!ダンジョンを突破するにはLOVEが重要でござる!」
俺たちは、あまりのテンションに圧倒された!随分と感情を、ストレートに出してくるな。
しかし、LOVEか……。なんでわざわざ英語で言うんだ?英語であることに何か意味があるのか?
愛が強ければ、エネルギーも強いというのはすでにわかってることだが、LOVEとやらにはそれ以外の意味がある?
「それは、より強く愛し合ってる方が強いってことか?」
そう言った俺に対して、ナタリアはまだウキウキしながら、腕を振り回して俺に訴えかけるように言った。
「そりゃもちろんそうでござるが、それより何よりラブ球でござる!」
そう言われて、わけがわからなくなった。ラブ球?なんだそれは?まあ『何より』というくらいだから、かなり大事なものなのだろう。
だが、ここまでのナタリアの説明には出てきていないはずだ。
「とりあえず、落ち着いてくれ。ラブ球って何だ?それを集めることに何の意味がある?」
俺がそういうと、ナタリアは『あっ』と両手を開いておおげさに驚いてみせた。そして、頭をかいて照れくさそうな表情をした。
「へへ、こりゃまたうっかりでござるよ」
ナタリアはまた、『すまんでござる』といいながら、頭を下げてきた。
そんなナタリアを見て、正利がなだめる様な落ち着いた声で言った。
「大丈夫ですから、ゆっくり説明してください」
そう言われてナタリアはにっこりとまぶしい笑顔をみせて、『助かるでござる』と言った。
そしてナタリアは、ラブ球についての解説を始めた。
「えっとでござるな。そもそも憎悪は愛を元に発生するのでござる。だから、憎悪の成れの果てであるモンスターを倒すと、邪悪な部分が取り除かれて『愛だけが残る』のでござる」
憎悪は愛から生まれる……か。確かに愛しているからこそ、嫉妬とかの感情が強くなるってことはあるだろうな。
「この残った愛の結晶が、『ラブ球』でござる。『ラブ球』を吸収すると、その人の愛識は少しだけ成長するでござる。これを繰り返せば、愛のレベルすなわちLOVEが上がるのでござる」
『憎悪と愛』から生まれた、ダンジョンモンスターを倒すと、『愛が残る』。その愛の結晶を、手に入れることで……。
ただでさえとてもつもないエネルギーを生み出す愛識を『成長させる』ことができるのか。
「ちなみに信孝殿と正利殿は愛識に目覚めたばかりでござるから、まだLOVE1でござるよ」
なるほど、いくら俺と正利の愛が最高でも愛識を鍛えないことには、強くなれないってことだな。
そしてナタリアの口ぶりからすれば、風穴ダンジョンには『LOVE』が高くないと倒せないモンスターがゴロゴロいるってことか。
「ちなみに、風穴ダンジョンのボスはどのくらいのLOVEなんだ?」
俺の質問に対して、ナタリアは首をかしげた。どうもダンジョンボスのLOVEは彼女にもわからないらしいな。
「誰もいきついたことがないので、わからないでござるな。LOVE100ともLOVE200ともいわれてるでござる」
少なくとも、現状で愛族がいきつけるレベルでは『愛の核』にたどり着けないってことだな。
稙宗のやつ、ここまでわかった上で俺たちにここを紹介したのか?
思った以上にとんでもなく途方もないミッションだぞ。正直、現状では突破できるビジョンが見えない。
けど、悟空あるいは稙宗ですらダンジョンボスを上回る強さの可能性は高い。結局は強くなるしかないんだ。
俺は自分のやる気を絞り出すために、決意を口にした。
「結構、時間がかかりそうだ。だが、確実にしずくを救うためにはやるしかない」
そうと決まれば一刻も早く『ラブ球』を集めよう。
気持ちが焦ってきた俺は、ダンジョンの入口に立ち二人を急かした。
それに対して、正利は俺の側に駆け寄ってきて、肩を抱きながら言った。
「ええ、そうですね。信孝様の目的は、私の目的です。一刻も早く、ダンジョンに入りましょう」
よし、これでいい。やはり俺達二人の愛の前に敵はない!!どんどんモンスターを狩って、ラブ球を集めればいいんだ!
「よし、だったら早く行こう。試しに、最初のモンスターを狩ってみようぜ」
俺はそう言ってダンジョンに入ろうとした。すると、ナタリアが慌てて止めた。
「待ってくだされ!信孝殿たちの今の強さでは。簡単にモンスターにやられてしまうでござる。最初は拙者に戦うのを任せて欲しいでござる!」
なんと!どうやら今の俺達では弱すぎるらしい。まあ、愛識のLOVEが1だからな。当然だ。ノリだけでいけるもんじゃない。
「ナタリアが倒して……ラブ球をくれるってうのか?」
さすがに話が旨いという気がしないでもない。しかし、稙宗の話じゃあ愛族たちは基本的に温厚な種族らしい。
つまりナタリアは全くの善意で、俺たちが死なせないために、初期のLOVE上げを手伝ってくれるってことか。
この娘にも、愛族の王にも俺たちを育てるメリットがあるとは思えない。なのに、こいつらは俺たちを死なせたくないという理由だけで、手伝ってくれるらしい。
……なるほど。温厚な種族か。おまけにどうしようもないお人好しだな。俺も人のことは言えないかも知れないが。
「わかった。あまり頼り切りになるのも申し訳ないが、俺たちが弱いんじゃしょうがない」
そこまで言ってから、俺はナタリアに頭を下げた。
「改めて、お願いする。俺たちのLOVE上げのため、モンスターと戦ってくれ」
俺があまりに真面目に頼んだので、ナタリアは恐縮した。
顔を赤くして、汗を散らしながら『アワアワ』と手を振っている。
「い、いえいえいえいえ、拙者が勝手に手伝いたいだけでござるから!そんな風に言われると困るでござる」
俺とナタリアが頭を下げ合っていると、正利が『まあまあ』と言って俺たちをなだめてきた。
「いつまでも頭を下げ合っていても仕方ありません。それでは戦闘は、ナタリア殿に任せるということで、中に入りましょう」
正利の言葉に俺は『ああ』と言った。ナタリアも頭を下げるのをやめた。
「もちろん!戦いは任せて欲しいでござる!!では入るでござるか」
ナタリアがそう言って歩き出したので、俺たちも彼女のあとをついて風穴ダンジョンへと入っていった。
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1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳
【愛界 宇宙ダンジョン 表層 第一階層】
俺たちは宇宙に放り出された。三人で宇宙を漂っている……。俺は宇宙空間でも生きられるよう作られているけど、二人は大丈夫なのか?
というか、何故ダンジョンに入ったはずなのに、宇宙に放り出されてるんだよ!?
「風穴ダンジョンは、宇宙ダンジョンとも呼ばれているでござる」
「……ということは、これまた他の宇宙に移動させられたというわけか」
しかし他の宇宙はともかく、宇宙のど真ん中に放り出されてダンジョンなんて言われてもな。
「しかし、宇宙ダンジョンたって宇宙に漂ってるだけだろ。これのどこがダンジョンなんだ?」
「この宇宙にはいくつか、『次の階層』に続くワームホールがあるでござる。正しいワームホールを抜けないと、あらぬところに飛ばされるから注意するでござるよ」
なるほど、つまりこの宇宙全体が巨大なダンジョンで、ワームホールは階層を分ける『階段』みたいなものってことか。
そして、正しいワームホールを選び進んでいけば、いつか最下層にある『愛の核』まで辿りつくわけだな。
「階層ってのは何だ?宇宙に上も下もないだろう」
俺の言葉に対して、ナタリアはポンと手を打って『そういえばそうでござるな』と言ったが、その直後に明確な答えを返してくれた。
「『愛の核』がある場所を中心として、そこからどれくらい離れているかで『階層』と呼んでいるのでござる。1階層が5000光年くらいあるでござるが、ワームホールで移動するからあんまり関係ないでござる」
そうか「愛の核」への近さで、階層と言っているのか。
しかし、本当に50階層もあるんだとすると、『愛の核』は入口から250万光年も離れていることになるな。
今のところ、光速以上のスピードを出す術がない以上、ワームホールを使わずに移動するのは、まあ無理か。
そんなことを考えていると、ナタリアが少し不安そうな顔で言った。
「上層~中層30階層くらいまでは、自信をもって案内できるでござる。けど、それより下層はほとんど行った人がいないので、拙者も自信ないでござる」
ああ、そういえば愛族の今のLOVEでは、『愛の核』までたどり着けていないんだったか。
下層は『未踏の地』ってことだな。
とはいえ、このままグダグダ言っても始まらない。とりあえず、ここのモンスターがどんなのなのか見てみたいぞ。
「よし、大体はわかった。あとは実際に見てみないと……」
俺がそう言いかけたとき、俺の愛識からごっそりエネルギーが奪われるような感覚を受けた。
「信孝殿!?危ないでござる!!」
ナタリアが俺の前に飛び出た。それと同時に、それまで俺に向かっていたらしい謎のエネルギーが、ナタリアへと矛先を変えた。
ナタリアは愛識からバリアのようなものを出して、俺と正利とナタリア自身を守っている。
ナタリアは、俺と正利の体をペタペタと触り、傷がないことを確認した。
そして、俺たちが大丈夫そうなのがわかり、少しホッとした表情になった。
「気をつけてほしいでござるよ。もう少しで死ぬとこだったでござる」
ナタリアの言葉に、俺は強く反省した。そうだ、もうダンジョンに入っているんだ。
ナタリアの話と、その分析に夢中になり過ぎていた。ダンジョン内はいつ敵に襲われてもおかしくないのに、油断しすぎだ。
「す、すまん。そうかダンジョンに入れば、もう戦場だよな。気を抜き過ぎていた」
宇宙ダンジョンのインパクトが強過ぎて、完全に気を取られてしまっていたな。
良く見ると、はるか彼方……地球と火星ほど離れた距離に巨大な天体が見える。あいつが俺のエネルギーを吸ったのか。
「あれは『ゼロ次元』でござるな。一階層ではよく見る雑魚モンスターでござる」
その言葉に正利が、珍しく大声をあげて反応した。
「ゼロ次元ですと!?確かすべての物質をエネルギーに分解してしまうという……」
そういえば正利は前世で、アンドロイドNo.1と思われる『ゼロ次元』に会っているらしい。前に映像で見せてもらったんだよな。
しかし、全ての物質をエネルギーにするなんて、めちゃくちゃヤバいぞ。俺はエネルギーを持っていかれただけで体は大丈夫だったが、それは途中でナタリアがかばってくれたからだ。
あのまま飲まれていれば、俺はエネルギーに分解されてしまっていただろう。
「そんなとんでもないモンスターが、ここでは雑魚なのか?」
話からすれば、宇宙の一つ二つは滅ぼしてしまいそうな能力だ。実際、正利の映像で『ゼロ次元』は自分のいた宇宙を滅ぼしてしまったと言っていた。
「当たり前でござるよ。LOVE1の信孝殿が不意打ちを食らって死なないくらいでござるからな。雑魚中の雑魚でござる」
そういうと、ナタリアは居合のような構えをした。
「雑魚でござるから、拙者が軽く片付けてしまうでござる」
な、なんだ!?ナタリアの愛識に超巨大なエネルギーが生み出されていく!!
これは……俺たちが愛識から生み出すエネルギーの数十倍!?一体ナタリアのLOVEは いくつなんだ!?
そう考えていると、ナタリアがハグするときのように、両腕を大きく広げた。
「受けてくだされ!拙者の愛を!! 愛・ラブ・オール!!」
そう叫ぶと、ナタリアの愛識に集まったエネルギーが、彼女の持つ刀へと移動していった。
『奇跡・プリティラブスマッシュ!!』
ナタリアはそう叫び、刀で空中を横なぎに斬った。すると、刀に込められたエネルギーが、超エネルギーの斬撃となって『ゼロ次元』へ襲い掛かった!
「ぎょあ……ああ…ああああ……!!」
『ゼロ次元』がそんなうめき声を上げた。恐らく愛識から出した声だから、空気のない宇宙空間でも聞こえるんだろう。
その瞬間、巨大な天体である『ゼロ次元』が爆発し、強烈な爆風が俺たちを襲った。
俺は、とっさに愛識から正利に特大の愛を送った。正利も愛を返し、巨大なエネルギーが生まれた。
だが、ゼロ次元の爆風は俺たちのエネルギーを軽く吹き飛ばした!
「ぐあああっ!!」
「大丈夫でござる!!拙者が何があっても、お二人を守るでござるよ!!」
そういうと、ナタリアは刀を振るっては爆風に斬撃をぶつけた。これなら確かに、俺たちが爆風にやられることはないな。
「ふう!こんなものでござるな。お二人とも、お怪我はないでござるか?」
そう言われて、俺は自分の身体を見た。外傷は見当たらないし、痛みもないな。
「ああ、ナタリアがしっかり守ってくれたからな。傷一つないぜ」
俺がそう言うとナタリアは飛び上がって喜んだ。
「それは良かったでござる!!さあ、さっそく今のやつのラブ球を回収するでござるよ」
そう言って、俺たちは愛識のエネルギーにより光速にまで加速した。
『ゼロ次元』がいたとこまで、7500万キロメートルほどだとすると、4分ちょっとで着くかな。
それから4分後、俺たちは『ゼロ次元』がいたところに着いた。そこには、ハートの形をした宝石が宙に漂っていた。
ナタリアは、その宝石を手に取り、俺の鼻先まで持ってきて言った。
「これがラブ球でござるよ」
俺はラブ球をナタリアから受け取って、手のひらに乗せた。
「これを吸収するとLOVEが上がるのか?」
「そうでござる。けど、『ゼロ次元』のエネルギーを考えると、LOVE2になるのに5つくらい必要でござるよ」
今のやつを五匹か。ナタリアは楽勝そうだったけど。
「まあ、たったの5つでござる。一時間もかからずLOVE2になれるでござるよ。ただし
……」
そこでナタリアは神妙な顔になった。モジモジしながら『申し訳ないのでござるが』と言った。
「王からの命令で『階層ボス』とは皆さん自身で戦ってもらうことになるでござる。もちろん十分にLOVEを上げてからのことでござるが」
なるほど。当然だな。『愛の核』まで行きたいのは俺達なんだし、何より下層のモンスターはナタリアより強いんだ。
宇宙ダンジョンのモンスターと戦闘経験がないまま、下層にいくのは危険すぎるからね。
「そいつは当然だ。結局、下にいくほど俺達が戦う機会が増えるんだからな。ここで慣れておくべきだろう」
俺がそう言うと、正利がアゴに手を当てて『そうですな』と言った。
「むしろLOVE2まで上がったところで、さっきの『ゼロ次元』と戦ってみてもいいかも知れませんね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳
【愛界 宇宙ダンジョン 表層 第一階層 転移門前】
それから数時間後、俺たちのLOVEは4まで上がっていた。これくらい高ければ大丈夫だろうということで、俺たちは第二階層に続く転移門の前に来た。
「階層ボスは、その階層のモンスターよりLOVE2くらいは高いでござる。けど、今のお二人なら余裕なはずでござるよ」
ナタリアは、俺たちの手を握り『頑張って』と言った。
さて、あれが転移門か。
ここから、地球と月くらいの距離に『門の形をした天体』がある。サイズは地球の数倍くらいか?
そう考えていると、腹の底を殴られるような重くるしい声が、周囲の恒星系全体に響き渡った。。
「この門を通ろうとするのは誰だ」
門そのものが喋った!?そうか!あの天体を浄化すれば、次の階層へのワームホールが開くってことか!!
こうして、最初の階層ボスとのバトルが始まった!




