表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/202

時間転移ができるかも知れない!

1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳


【甲斐国 都留郡(つるぐん) 青木ヶ原樹海 入口】


 元いた宇宙に戻ってきた俺達は、さっそく稙宗が持っている音速船に乗り込み、富士の樹海へと向かった。


「この先が、あらゆる感覚が失われ『愛職(マナしき)』に目覚めなければ、指一本動かせなくなる『無明域(むみょういき)』です」


 そう言った稙宗の言葉に、俺たちは目の前に広がる鬱蒼(うっそう)と生い茂った森を見た。見た目だけでも相当不気味な雰囲気を放ってるな。


 だが……それ以上に不気味なことがある。


 正利もそれを感じたようで、少し不安そうな顔で言った。


「何者かが……いますね」


「ああ。何かが……森の中を蠢いてる。目にも耳にも感じないけど」


 『何か』を感じるのだが、五感はもちろん神力や他宇宙のエネルギーでも感知できない。何だかわからない何かが蠢いている。


 俺たちの言葉に対して、稙宗は少しほくそえんでから答えた。


「ほほう。それを感じるとは、やはり貴方がたを選んだ私の目は正しいようですね」


 どうやら、稙宗は森に蠢く『何か』が何なのか知っているらしい。


 話の流れからして『愛職』でなければ感知できない何かなのだろうか。俺たちは『愛職』に近いところにいるから何となく感じるのか?


 ともかくここには、この宇宙の物理法則では説明できない何かがいる。だとすると、やはりここには、エルフとは異なる『他の宇宙の生物』が住んでるのだろう。


 そう思っていると、正利が稙宗に『何か』について聞いた。


「……あれは何者なんですか?私たちに対して害意があるのでしょうか?」


「彼らは愛族(マナぞく)と呼ばれる種族ですね。『愛職』でしか意思疎通をしないため、五感や『意識』が退化した種族らしいですよ」


 五感はまだしも、意識が退化したら死んでそうだけどな。だがその分『愛識』が発達してるから大丈夫なのか。


 そう考えると五感と『意識』が途絶える、『無明域』は彼らにとって絶好の住処なわけだ。自分たちは平気で、人間が入れば死んでしまうんだからね。


 もちろん自然にこんな現象は起きないはずだ。無明域は恐らく彼らが、神力か何かで作り出してるんだろう。


「愛族は、基本的には愛に溢れた種族です。しかし彼らとの意思疎通は愛職でしかできません。そのため愛識を使えない者が樹海に侵入すれば、脅威と見て排除しに来るでしょう」


 その言葉を聞いた俺と正利の顔が歪んだ。『愛識』に目覚めてないと排除されるだと?


「ちょっと待て、じゃあ俺たちは見えない相手と戦わないといけないのか?」


 目に見えない、神力や他宇宙のエネルギーでも感じることができない相手と戦ったら絶対勝てないだろ。しかも、今の話じゃ相手は愛識で、こちらを認識できるみたいだし。


「それは貴方がた次第ですね。『愛識』で意思疎通できれば、攻撃されませんから」


 ということは、樹海に入った後できるだけすぐに愛識に目覚めないと、野垂れ死にとか以前に愛族に殺されるわけか。


 そう考えていると、稙宗がニヤニヤしながら言った。


「意思疎通さえできれば、温和な種族なんですよ。本当に」


 意思疎通ができれば……か。今回もロクでもない展開だが、まあ命がけの戦いは今に始まったことじゃないよな。


 いいだろう。やってやろうじゃないか。俺と正利の愛に不可能はないんだ!


 そんなことを考えていると、横から正利が耳打ちしてきた。


「信孝様、私たちの愛はこれまでどんな困難をも乗り越えてきました。今回も愛を深め、さらに強めることができれば、きっと突破できるはずです」


 俺は少し照れた。だが、さすがに密着されるのは少し慣れてきたぞ。うん……慣れたはずだ。少なくとも飛び上がったり叫んだりはしないもんね。


 そう考えながら、俺は正利の言葉に答えた。


「ああ、もちろんだ。『愛識』で繋がりあえば、俺と正利の愛は深まり『愛族』からも攻撃されない。一石二鳥じゃないか!」


 俺たちは視線を交わしてから『では』と声をそろえて言った。そして、お互いの手を強く握った。


 そう、二人一緒なら大丈夫だ。


 俺たちは覚悟を決めた。『愛の究極』にたどり着き、悟空を倒す。それだけのエネルギーがあれば、時間遡行もできる。


 結局は、この樹海に入るのが、俺たちの目的を一番早く達成する手段なんだ。だったらやるしかない。


「よし!行くぞ!!」


 俺は気合いを入れるためにそう叫んだ。そして俺と正利は、樹海の闇の中へと突入した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1536年8月 信孝22歳 正利24歳 稙宗4048歳


【甲斐国 都留郡 青木ヶ原樹海 無明域】


 樹海に入った瞬間 確かにつないでいたはずの手の感覚が消えてなくなった。触覚が消されたのか!?


 それだけじゃない。たちまち目の前は真っ暗になり、耳も聞こえなくなった。


 臭いや味は確認しようがないが、話の通りなら五感すべてがやられているはずだ。


 まるで何もない空間に、独りで漂っているような不安を感じた。何も感じないというのはこんなに怖いのか。


 こんな状態では、当然正利とコミュニケーションもとれないぞ。『愛識』に目覚めない限りは……。


 だったら、急いで「愛識」に目覚めないといけない。今は考えることができているけど、もうすぐ『意識』も奪われるはずだ。

 

 意識が奪われたら、死ぬまで眠ったような状態になるのだろうか。そうなったらお終いだ。


 とにかくどうにかしないと……。


 俺が必死に正利への愛を想った。


 だが、それに答えたのは正利ではなく、さっきから蠢いている『愛族』たちだ。


 何かを感じるけど、何かはわからない。もちろん、それに返答するなんて不可能だ。


 そう考えていると、俺の体に大きな衝撃が走った!


 何だこれは……?まるで体の中心を、力まかせに破壊されたような感じだ。


 そこから全身が崩れ去るような痛みが広がった。これはヤバい。


 そ、そうか。こちらの未発達な『愛識』に『愛族』の発達した『愛識』から対話のためのエネルギーをぶつけたせいで、こっちの愛識がズタボロになりそうなんだ。


 無明域のせいか、愛識が傷ついたせいか、意識がおぼろげになってきた。まずいぞ。


 身体の反応を見る限り、生き物は『愛識』を破壊されると生きていけないみたいだ。


 一刻も早く『愛識』をコントロールして、向こうの発信に応答しないと……死ぬ!


 だが、気ばかり焦って考えがまとまらない。どんどん体が崩れていく感覚が、さらに俺の冷静さを奪っていく。


 どうすればいい?


 意識が薄れる……。


 だが……なんだ?この暖かい感覚は?死の痛みに対して脳内物質が出まくってるのか?


 違う!周りからくるエネルギーが、とても温かで優しくて……。相手を慈しみ育むようなエネルギーなんだ!!


 か、体は壊されているが、これは悪いものではない……?


 だとするとまずい!愛族たちは悪気があって俺たちを攻撃してるんじゃないってことになる!!


 俺たちが死んだら、彼らはどんなに傷つくだろう。


 ダメだ、ここで死ぬわけにはいかない。正利への愛はもちろん、本当は温和な種族だという愛族を絶望させるのもいけない!


 俺の心が愛に満たされた。そうだ集中すればいい。彼らのエネルギーは体のどこにぶつかっている?


 全身の感覚がない今ならわかるはずだ。体の中で唯一感覚があるところを探せ!


 痛覚が麻痺しているのにどうして痛いと感じる?どうして愛に包まれて気持ちいいなんてわかるんだ?俺はどこでそれを感じている?


 本当は痛くないのに、幻痛を感じているんだとしたら?この体が崩れるような感覚も、幻覚だとしたら?それはどこで起こっているか……。


「それは脳だ!!」


 俺は叫んだ。いや叫んだような感覚になった。多分、口や喉は動いていないだろう。だが叫んだような感覚があった。


 もしかして口ではなく、愛識から声を発したのか?愛識に声を乗せて愛を出したってことか。そんなことが可能なのかわからないが、今はこれしかヒントが無い。


 イメージだ!脳に愛識があるなら、イメージしよう。


 俺は、俺から愛が出て、あの蠢いている愛族たちに届くところをイメージした。さらに、愛族たちからの愛を俺が受け取るところをイメージした。


 強く……強く……愛が届くと信じてイメージした。


 その瞬間、俺の体が光り輝いた。


 そして、俺の姿が人間から太陽樹に戻った。枝の先に花が咲いて、愛族たちが発したメッセージを受け取った。


 そうか。脳に愛識の中枢機能があるとしても、当然体の表面に愛を受け取る器官が必要だ。


 視覚なら目、聴覚なら耳のように、体の外側に『中枢と神経で繋がっている器官』がなければ他人の愛識から愛を受けようがない。


 俺にとっては『花』が愛を受け取るための器官ってわけだ。


 花を通して、愛族の見た目や声、形 においや味まで段々具体的に感じてきたぞ。


 言葉が聞こえる。


「アナタタチ……ハ……ダレ……」


 おお!理解できる言葉が聞こえるぞ!!これが『愛識』での対話なのか。


 俺は脳から言葉が生まれ、それが花を通して音となり愛族たちに届く姿をイメージした。


「俺たちは、『愛識』を極める修行に来た、人間だ!」


 俺がそう言うと、愛族同士の間に愛のエネルギーが、激しく飛び交い始めた。どうやら俺たちについて相談してるみたいだな。


「オマエタチ……オウサマ……アウ……ミンナデ……キメタ……」


 王様?愛族には王様がいるのか?っていうか、勝手に入ってきた俺たちを王様に会わせていいのか?


「君達の王様だって?けど、住処に勝手に入ってきた俺たちを王様に会わせていいのか?」


「アイゾク……ミンナデキメル……ミンナデキメタカラ……アッテイイヨ」


 民主主義とか合議制みたいなものか?と思ったが……違うな。


 なんというか、愛識で意思疎通を続けていると、だんだんと俺が俺で無くなり、愛族たちの『共有の意識』みたいなものに取り込まれそうになってくる。


 どうも『愛識』で情報を送りあっていると、『自分と他人の境目』がだんだん(おぼろ)になるようだ。


 愛識で通じ合うのはいいが、俺は『共有の意識』に飲まれず、自分という存在を確立し続けなきゃいけない。


 俺は愛識から感じる『映像』と『音』を頼りに、愛族の連中についていった。


「ああ、信孝様。ごぶじだったのですね!!」


 俺の愛識にそんな声が聞こえた。正利だ!


 どうやら正利は先に愛識に目覚め、王様とやらのところに案内されていたらしいな。


 そう思った瞬間、俺と正利が愛識から飛ばしたエネルギーが互いに共鳴し始めた。


「おお!?これは……これがまさか!」


 俺はその言葉を愛に乗せて愛識から飛ばした。すぐに正利が『ええそのようです』という言葉を返した。


 俺と正利の間に『愛』が行きかう。どんどんエネルギーが増幅されていく。


「こ、これが愛の究極!?」


 俺と正利が『愛の究極』の果てしないパワーに圧倒されていると、どこからか俺たちの愛識に愛に乗せた『声』が感じられた。


「お前たちか。愛識で語り合うことを知る人間というのは」


 な、なんだこの声は?もしかして愛族の王様か?


「我が名は愛王(ラブ・キング)。すべての愛族を統べる王だ」


 その言葉と共に俺たちの愛識に無限とも思うほどの、超巨大な愛が降り注いだ。俺たちの『愛の究極』をはるかに超えるエネルギーだ。


 愛の王とはここまで桁違いのパワーを出せるのか。


 俺は多少、緊張しながらもとりあえず自己紹介をすることにした。


「ええ、初めまして。ええと、尾張で聖王と呼ばれている松平信孝といいます」


 神界にいた時間が長すぎて忘れかけていたが、この宇宙における俺の肩書は聖王だ。


 そう考えていると、俺に続いて正利も自己紹介をした。


「私は、信孝様の部下で、このたび夫婦……になった蜂須賀正利です」


 夫婦か。照れるよりも感慨深いものがあるな。ずっと一緒に戦ってきたからね。


 しかしどっちが夫でどっちが妻かなんて考えてなかったな。どっちも夫でいいんだろうか。


「愛族はお前たちを歓迎する。我々は愛識の発達したものを、基本的に愛するからな」


 俺たちが会話できているのも、互いに愛を飛ばし合っている結果だ。ただ……やはり強烈な愛を前にすると飲まれそうになる。


 共有の意識に取り込まれそうになる。あまりここに長くいるとまずいかも知れない。


「それで、お前たちは何を求めて樹海に来たのだ?」


 俺たちは『愛識』を認識して『愛の究極』に至るために来たんだが、こうやって王様と愛のぶつけ合いによる会話ができている時点で、その目的は達成されている。


「俺たちは『愛識』を認識して『愛の究極』に至るために来たんです。だから目的は達成したと思うんです」


 少なくとも、今は樹海を観光してる場合じゃない。『愛の究極』に至った今、早いところ稙宗のもとに戻るべきだと考えていた。


「ほう、『愛の究極』か。ならば風穴(ふうけつ)ダンジョンに行くのだな」


 ん?なんだ、風穴ダンジョン……ダンジョン!?


 俺は王の言った言葉の意味が分からず、困惑した。もし顔の筋肉が動かせたら、さぞ間の抜けた表情になってることだろう。


 そうか。この宇宙にはダンジョンがあるのか。


 この宇宙は、俺が作られた宇宙と同じような歴史を辿っていると思っていたが、どうもそんなことはないらしいな。


 ともかく王の言った意味を確認するため、俺はダンジョンについて聞いてみることにした。


「ダンジョン?ダンジョンがあるんですか?」


 ちなみに正利はダンジョンという言葉の意味自体がわからなかったようだ。普通に質問した俺を見て、さらに困惑している。


「ああ、もちろんだ。富士の付近にはダンジョンがいっぱいあるぞ」


 そして予想を飛び越えた答えを受けて、俺もまた戸惑った。この空間では汗がでても自分で感じることはできないけど、これほど狼狽しているんだからきっと体は汗まみれだろう。


 風穴ダンジョン以外にもたくさんダンジョンがあるのか……。


 もちろん、神界で経験したことを考えればこの宇宙にダンジョンがあることくらいなんでもない。


 なんでもないはずのだが、自分の常識を超える事象が起こると、すぐに対応するのは難しい。


 いやいや、落ち着け!今、問題にしなきゃいけないのは王の発言だ。


 王の話じゃあ、俺たちは『愛の究極』に至っておらず、風穴ダンジョンとやらに行くことでそれが得られるらしい。


 とすると、さっき感じた異常なエネルギーの高まりは『愛の究極』じゃないってことか?


「すいません。『愛の究極』がどういうものか説明していただいていいですか?我々はよく知らないで来たんです」


 俺の言葉を受けて王は『なるほど』と言い、愛識を通じて俺たちと映像を共有した。


 俺たちは愛識から『風穴ダンジョン』の映像を受け取った。


 『風穴ダンジョン』はその名の通り富士山の風穴にできたダンジョンだ。五十階層に分かれていて、それぞれに階層主(フロアボス)がいるらしいな。


 その穴は遥か地下までつながっていて……。


 最奥には『愛の(コア)』がある。


 『愛の核』に触れれば、宇宙中の愛し合う人たちと『愛識』を通じて繋がることができる。


 愛識は、人間二人が通じ合うだけでも宇宙数千個のエネルギーを作り出すことができる。それが宇宙全体の愛し合う人たちの愛識を利用できれば、まさに無限のエネルギーを出せるというわけだ。


 そこまで情報を得たところで、映像が途切れた。


 なるほど、『愛の核』を見つけることができれば、単に愛識で繋がりあうよりはるかに巨大なエネルギーを得ることができる。


 ……そして、多分悟空を倒すにはそれだけのエネルギーが必要ってことか。


 稙宗が俺たちをここに来させた以上、王と会うことも計算済みのはずだ。つまり『愛の核』に触れてこいということなんだろう。


「なるほど。話はわかりました。じゃあ、『風穴ダンジョン』まで案内してもらえますか?」


「待て……力が欲しいのはわかるが、風穴ダンジョンは命がけだ。まして『愛の核』に触れれば取り込まれる恐れもあるのだぞ」


 他人と愛識で繋がると『共有の意識』に取り込まれそうになる。ましてや宇宙全体の『共有意識』と繋がれば自分なんてちっぽけだ。


 相当に強い自我を持っていなければ、とりこまれてしまう。


 だが、それでも行くしかないだろう。俺たちには力が必要だ。


 もちろん、悟空を倒すというのは俺の目的ではない。稙宗の目的だ。


 俺はとりあえず稙宗より強くなれれば、仲間を守るという目標を達成できるからな。悟空を倒すことにこだわりはない。


 だから、命をかけてまで悟空を倒せる強さを目指すのは、『強くなる方法を教えてくれた』稙宗への『義理』ってことになる。


 『義理』は正利が非常に重要視している概念だ。だから大切にしたいし、そもそも俺だって約束を破るのは嫌だ。


 だが……『それよりも』!!

 

 俺は一旦、思考をやめた。これは俺の人生の中でも一番大きな決断になりそうだ。


 慎重に、しかし素早く決断しないといけない。


 そうだ。義理を通すことよりも、さらに重要なことがある。『愛の核』の話を聞いて可能性が見えてきた。『時間遡行』ではなく『時間転移』が使える可能性だ。


 俺はこれまで『時間遡行』つまり時を戻すことを目指していた。けど、ずっと気にかかっていたことがあったんだ。


 2050年に作られたアンドロイドである俺は、しずくが死んだ2006年には作られていない。


 つまり単純に時間を戻したんじゃ、俺はしずくを救えないわけだ。その時間の茂や本物のたかしは、しずくが死ぬことを知らないわけだしね。


 それでは結局、同じ歴史を繰り返すことになってしまう。


 つまり、しずくが死ぬことを知っている誰かが、その場に行く必要がある。そして……。


 例えしずくを救えたとしても、そのことを茂や本物のたかしにバラすと俺たちが作られなくなる可能性がある……けど、それは後で考えよう。


 まずは救う手段を見つけなきゃ話にならない。


「俺たちには、やらないといけない理由があります。だから案内してください」


 俺がそういうと、王は俺たちの目をしっかりと見つめた。覚悟を探っているんだろうか。執拗に愛を飛ばしてくる。油断していると取り込まれそうだ。


 多分、愛識を使って俺たちの本心を探っているんだろう。


「いいだろう。そこまでの覚悟なら案内させる。だが、くれぐれも命の保証はないぞ」


 そう言うと、王は愛を飛ばして部下を呼んだ。


「騎士団長のナタリアを呼べ!やつに、この人たちと同行してもらう」


 どうやら、騎士団長が俺たちを案内してくれるようだ。いや、そんな強そうなやつを呼ぶということは、ダンジョン内にもついてこさせるつもりだろうな。


 こっちとしてはおおむね問題ないけど……。


 そんなことを考えていると、騎士団長があらわれた。


 銀色の髪が腰まで伸びている。胸と身長がでかい女性だ。鎧の上からでもそれがわかる。


 そして、少し垂れた優しそうな眼が特徴的だ。


「信孝どの、拙者(・・)は」


 その女騎士らしい風体の女性は、俺に頭を下げ落ち着いた声で自分の名前を名乗った。


「愛族、近衛騎士団団長の、ナタリアでござる」


「………」


 女騎士なのに、侍キャラ?


 俺は頭の中でそんなどうでもいいツッコミを入れていた。これから向かう風穴ダンジョンがどんなに過酷かも、全く知らずに……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ