邪神と戦うと、ちょっとしたことで神界が滅びそうで困る
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1536年8月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【神界 地球 北極 北極点】
帝都ベルディナスから打ち上げられた次の瞬間、もう北極点に到着した。何せ光速だからな。33ミリ秒くらいかかったか。
南極は大陸だが、北極は流氷が漂っている海の中だ。だから、北極点も本来は海上にあるはずなのだが……。
俺たちの目の前では、まるで海水が北極点の上を避けているかのように、海に円柱状の穴が開いていた。
「この穴の下に、邪神が封印されてるのか」
良く見ると、穴の底に黒い靄に覆われた神殿のようなものが見える。あそこに邪神が封印されているのだろう。
そう思っていると、ネックレスからラーの声が聞こえた。弟のもとに近づいているのが嬉しいらしく、非常に興奮した様子だ。
『あれよあれ!わずかだけど、ブーくんの気配も感じるわ!』
正利のネックレスからも、コンスの声が聞こえた。普段は大人しいやつだが、今回ばかりは声に嬉しさがにじみ出ている。
『神殿の……『中央の祭壇』……ブーはそこだ…!』
ラーとコンスは神力を感じ取ることで、邪神がどこにいるかわかるらしい。だから、ここからは二人の指示に従い、『中央の祭壇』とやらを目指すことにする。
そんなことを考えていたら、今度は『四次元中継カメラ』から声がし始めた。
「さーて、神界の皆さん!ご覧ください!あれが邪神の神殿です!神界を救う英雄たちは、ついに邪神の元にたどり着きました!」
どうやらカメ子が今の状況を実況しているらしいな。つまり今、神界全体の住民が俺たちの行動を見てるわけか……。
俺は恥ずかしいような、恐ろしいような絶妙な気持ちになった。だが、これをやってアイドルポイントを稼がないと邪神には勝てないだろう。
俺たちは光のまま穴を降りていき、神殿の入口に着いた。随分と巨大な神殿だ。高さは千メートル近くある。
俺は入口から中の様子を探ろうとしたのだが、神殿全体が黒い靄に覆われていて、全く見えない。
俺は息を飲んだ。こんなおどろおどろしいとこに、ロクな前情報もなく入らないといけない。緊張で流れる汗を、腕で拭った。
「よし、ここからは慎重に行こう。何が出てくるかわからないからな」
俺の言葉に正利とティティスは頷いた。ネックレスからも『うん』と言う、ラーとコンスの声が聞こえた。
俺たちはひとまず光から元の姿に戻り、神殿へ入った。そしてラーとコンスに神力を探ってもらいながら、『中央の祭壇』を目指した。
神殿は奥に入れば入るほど、黒い靄がより濃くなってきた。これじゃあ真っ暗で何も見えないぞ。
そう思っていると、ネックレスからラーの声が聞こえた。
『神力を集中してみなさい。これくらいの闇なら、あたしの光で祓えるはずよ』
そう言われて、俺は少しホッとした。正直真っ暗な中を進んでいると、メンタルがやられてくるんだ。周りを照らす方法があるのは助かる。
俺は自分の不安を悟られないよう、できるだけ軽い調子でラーの言葉に答えた。
「お、そうか。よし、やってみる」
俺は、周りの靄を切り開くイメージで神力を集中した。
すると、俺の体が激しく輝いた。そして、その光を受けた靄がみるみるうちに、晴れていった。
『どう?すごいでしょ~』
そう言うラーに対して、俺は素直に感心していた。今更だがラーとコンスの力が借りられて本当に良かった。
「ああ、助かるよ。ラーがいないとここまで来れなかったしな」
『ふふん、当然ね』
そんな話をしながら、どんどん奥に進んでいくと広い部屋に出た、部屋の奥には祭壇があって、黒い球が祀られている。
なんだろう。見ているだけで、心がぞわぞわしてくるな。汗が頬を伝っている。叫んで逃げ出したい気分になってきた。
俺が球の不気味さに圧倒されていると、ラーが言った。
『あれね。球からブーくんの神力を感じるわ』
「ブラックホールってのは、お前たちみたいに天体じゃないのか?」
と言ってもよく考えてみれば、地球の中にブラックホールがあったんじゃ。地球ごと吸い込まれそうだ。
元々は宇宙にいたのを、稙宗が何らかの神術でこの状態にしたってことか。
そんな風に考えていると、コンスが少し震えた声で言った。怒っているのか怯えているのかよくわからない声だ。
『……ブーは天体だよ。……けど、あの球の中に封印されてるんだ』
天体が球に封印されている……か。これまで色んな神術を見てきたから、そんなことも不可能じゃないのはわかるが……。
なんだ?何か違和感があるような……。
そうだな……一旦、邪神についてわかってることをまとめてみよう。
1.邪神は天体『ブラックホール』である。
2.稙宗は『ブラックホール』に数百体のSランク神の神力球を吸収させた
3.稙宗は『ブラックホール』に魔珠を植え込み、邪神にした
4.稙宗は邪神を黒い球に封印した(天体だが、球の中に封印された)
5.10年後、フォルティアが邪神に接触した
6.『暗黒太陽』で神界全体の神力が邪神に注がれた
疑問なのは、数百体のSランク神を吸収した邪神を、稙宗は『どうやって封印した』のか?
また、封印する力を持ちながら『何故殺さなかったのか』?もし失敗作だと考えていたなら、絶対に殺したはずだ。
うーん……、何か邪神と戦う上での鍵が見えそうなんだが……。
それに、どうして稙宗は封印した邪神を、『ほったらかしのまま神界を離れた』んだ?何か目的があってパワーアップさせたんだとしたら不自然だ。
もしかして、封印から『10年待つ』ことに何か意味があるのか……?
色々考えたけど、答えは出ない。やっぱり情報が少なすぎるな。
そのとき突然、黒い球から巨大な神力が膨れ上がった。分析にはまり込んでいた俺は、すぐには対処ができなかった。
『暗黒宇宙』
再び、周囲が真っ暗になった。こいつは……ヤバい!!ラーを含む、神界中の恒星がこの場所に引き寄せられてるのか…!?
この最大のピンチに『四次元中継カメラ』から場違いな声が響き渡る。
「なんと!邪神は神界中の恒星を引き寄せて、吸収しようとしている!!英雄たちはどうやってこのピンチを切り抜けるのか!?」
神界が滅びそうだというのに、カメ子は異常なテンションでまくしたてる。
続いて喋ったフォルティアの声は明らかに、カメ子に引いていた。
「の、のう。あまり叫んでは、ご主人様たちの邪魔にならんじゃろうか?」
十分、邪魔になっているが、今はそんな場合じゃない。一つの恒星系に複数の恒星が呼び寄せられたりしたら……!!
太陽系の星々は燃え尽きてしまう!
そう思ってると、コンスが叫んだ。
「……正利!ここは僕たちが何とかしないと!」
地球から近いせいか、恒星であるラーの力は吸われつつある。だが衛星であるコンスの力は、減衰していない。
そして、ラーから聞いた創世紀からすると、神界の月は太陽光を照り返すだけでなく、光と反する『闇の神力』を持っているらしい。
『闇神術 反重力』
正利がそう唱えると、それまで邪神に向かっていた引力が反転し、近づいて来ていた恒星たちが地球から離れ始めた。
コンスはこんな力を秘めていたのか!俺があまりの事態に圧倒されていると、正利が能力を止めた。
「ふう、元はこのくらいの位置でしたね。あまり離し過ぎると、逆に地球が極寒の星になる恐れがありますから」
正利たちはラーや他の恒星を、うまく調整して、元々あった位置で止めたようだ。
俺は正利の瞳を見つめ、にっこりと笑って言った。
「さすが、正利だ!助かったぞ!」
俺がそういうと、優しい笑顔を浮かべて『そうですね』と言った。
そして、自分のネックレスを見つめながら言った。
「これが、わが友コンス殿の力でございます」
ハルナ王国で何があったのか。そして、月でコンスとどんな言葉をかわしたのか。それを今聞いている暇はない。けど、正利とコンスの間にとてつもない信頼関係があるのが伝わってきた。
嫉妬がまるでないわけじゃないが、基本的には喜ばしく思う。
おっと、今はそんなこと考えてる場合じゃなかったな。
やつが今のを連発してきたら、いくら正利たちでも何度もは守り切れない。一刻も早く決着をつけなくちゃ!
「あんなのを何発も食らったんじゃ、いずれやられてしまう。とっととハドロン・インフェルノを試してみよう」
ラーの話では、邪神を浄化する方法は『ハドロン・インフェルノ』による十兆度の聖炎しかないらしい。
ラーは『ふむ』と唸りながらも、基本的には俺の意見に合意した。
『それしかないわね。けど、今のブーくんの神力だと完全に浄化できるかどうか怪しいわよ』
ラーの言葉に、また俺の頬を汗が伝った。俺はどうも焦りと緊張に弱いな。
もし、切り札として用意してきた聖炎が効かなかったら……。そんなことになれば、それこそ俺と正利が愛の力を爆発させ、未知の必殺技を編み出すしか生き残る方法がない。
ええい!悩んでも始まらない!!とにかく聖炎をぶつけるんだ!!
「ティティス!頼むぞ!!」
ティティスが待ってましたとばかりに、俺と正利を光にした!
『光変化の5!光速砲!!』
俺たちの身体が光になった。俺と正利は他宇宙のエネルギーを引き出し、陽子に分解した。
「行くぞ!!俺たちのツープラトン!!」
俺の言葉に、正利も答えた!!
「了解です!!見せつけてやりましょう!」
俺たちは互いの方向に光速で移動し、ぶつかる寸前でティティスのところに転移した。
聖炎をまとった陽子が激突し、大爆発を起こした!!
『ハドロン・インフェルノ!!』
陽子の衝突により、ラーの聖炎が十兆度の炎となって燃え上がった!!
その瞬間、周囲を覆っていた靄が、黒い球の方に集まっていった。
『……これは……っ。そんな……まさか……』
それを見たコンスが、困惑した声を上げた。何かあるのか!?
俺たちの周囲は十兆度の聖炎で、みるみる浄化されていった。にもかかわらず、黒い球の周囲だけがどす黒く染まり始めた。
そのとき、コンスが怯え切った声で、絞り出すように叫んだ!
『ま、まずいっ……早くハドロン・インフェルノを止めないと……っ!!』
コンスがそう言い終わる直前に、黒い球から言葉が発せられた。
『超完全反射』
その言葉と同時に聖炎が黒い球の周囲に集まり、圧縮されて小さな塊になった。
「な、なんだ!?何が起こってる!?」
俺がそう言ったのと同時に、正利の胸でコンスが叫んだ。
『あ、あれは……僕にしか使えないはずの冥神術の極技……すべての冥力を込めることで、相手の技を三倍の威力にして返す……!!』
「「三倍だって!?」」
俺と正利がそう叫んだ瞬間、『塊』から、増幅された聖炎が発射された。
「あーっと!!これは絶望的!!英雄たちの切り札『ハドロン・インフェルノ』が三倍の威力になって跳ね返されたあ!!」
「ま、まずいぞ。このままではご主人様たちは……い、いや帝都にいるわらわ達すら、焼き尽くされてしまうではないか!!」
カメ子たちの実況が、むなしく響き渡る。どうすればいい……?何か突破方法があるのか?
だってラーの力を借り、知恵を絞ってやっと十兆度の炎を作り上げたというのに、それが三倍になって帰って来たんじゃどうしょうもないだろう?
――――システムメッセージ――――
システムNO.1からシステムNO.2へ
“ホノオヲ ヒカリニ”
お?よし!来たぞ!茂…いや、アンドロイドNO.1のメッセージだ!『炎を光に!』そうか!!
対策を思いついた俺は、ティティスに向けてあらん限りの声を張り上げて叫んだ。
「ティティス!あの炎を光にしてくれ!!」
「え?あ、ああ。だが恐らく光にしても破壊力は変わらないぞ」
やはり、光にしただけじゃダメなのか。だが、光にすることはできるんだな!
「構わない!光にしてくれれば、俺が何とかする!!」
「了解した!!」
『光変化の極 光化!』
ティティスがそう叫ぶと、塊から噴出された聖炎が、聖光へと変化していく。
よし、今の内だ。聖光がこの神殿を出て広まってしまうと、手が付けられないからな。
『神術!!枝伸ばし!!』
俺は、人間から神聖樹の姿に戻った。
そして、ラーの神力をめいっぱいまで使って、神殿全体を覆うように枝を伸ばした。
さらに、すべての枝に可能な限りたくさんの葉っぱをつけた。
俺は植物だ。葉っぱに光を受ければ神力を吸収できる!!ハドロン・インフェルノの三倍だろうが、植物には栄養でしかないぜ!
そう思っていたのだが、光にも熱が含まれる。一部の枝や葉っぱが燃え始めた。
だが、燃えたところは再び枝を伸ばして修復する。そして温度が高そうなところに極小エネルギー弾を送り込み、原子の振動を阻害して温度を落とした。
「ぬおおおおおっ!!こ、これに耐え切れば……なんとか!」
俺がそう叫んだ瞬間、俺の体からこれまでにないほど神々しい光があふれ出した。
「レ……レジェンド……!!!」
ふいに、俺の耳にカメ子の声が聞こえた。
「レ、レジェンドです!!今ここに、神界 創世以来初のLランク神が誕生しましたーっ!!」
創世以来初なら、誰がLランク神と名付けたんだ?ってそうじゃない。Lランク神って何だ?
「な、なあ、正利。俺はどうなったんだ?」
俺は植物のまま正利の方に振り向き、乞うような目で現状の説明を求めた。
「い、いや……私にもわかりませんが……」
俺の変化に、二人で困惑していると、ネックレスからラーの声が聞こえた。
『どうやら、信孝は太陽樹になったようね。あたし達 原初の神すら超えた、究極の神よ』
「「太陽樹!?」」
究極の神と聞いて、もう一度驚愕した。だんだん何をしに神界に来たのかわからなくなってきたな。
だが稙宗が今の俺より強い可能性はあるんだ。油断してはいけない。
『そうね。あたしの聖炎をはるかにパワーアップさせて、さらに三倍にした神力を吸収したんだもの』
ハドロン・インフェルノを実現させただけでも、ラーの百倍ほど…そこからさらに三倍したエネルギーをそのまま吸ったから……。
つまり、最低でもラーの三百倍の神力を吸収した……!!それによって、SランクやSSランクをはるかに超えた神力を手に入れた……。
それがLランク神ってことか!
「なるほどな。確かにものすごい神力だ。これまでとは格が違い過ぎる……!!」
俺は、人間に化けた。そして、黒い球に近づいていった。もう球からは、さっきほどの不快感や圧迫感を感じない。俺の神力が邪神をはるかに凌駕しているからだ。
俺が無防備に球に近づいたので、ティティスが慌てて止めた。
「お、おい!近づいても大丈夫なのか?」
俺は極めて落ち着いた声で答えた。心配なんてする意味がない。
「ああ、大丈夫だ。わかるだろう?ラーも言った通り、神力の格が違う。何をされたとしてもダメージなんてないよ」
俺は、そのまま歩いて黒い球の所まで来た。
そして、球に手をかざし、浄化の神術を使った。
『極神術:極聖光』
みるみるうちに、黒かった球が白くなり、淡い光を放ち始めた。浄化に成功したのだろう。
「これで『ブラックホール』は浄化できたみたいだな」
だが、しばらく見守っても球は光を放ったまま、何の変化もない。封印が解けたなら天体のブラックホールが出てくるはずだ。
『妙ね……?今で間違いなく、ブー君の中の魔珠は浄化されたはずよ』
「だったら、ブラックホールが復活して、宇宙に戻るんじゃないのか?」
今ここで戻られると、地球が吸い込まれる恐れがあるから、フレンド転移なりでワープさせる必要があると思うけどな。
『ね~!ブーくん、聞こえる?ラーよ!お姉ちゃんよ!』
球から反応はない。
『フレンド転移』
俺たちが不思議がっていると、目の前に一人の男が転移してきた。
「ふむ、まさか浄化してしまうとは想定外でしたが、概ね問題ないでしょう」
その男は白衣で、眼鏡をかけている。髪は肩にかかるほど長い。顔は随分と整った……端正な顔立ちってやつか。
どうも、神界には顔のいいやつが多いな。
「あんた、誰だ?どうやってここに来た」
どう考えても、こいつは転移してきた。それも確か『フレンド転移』と唱えたよな。俺以外にもフレンド転移を使えるやつがいるのか?
「知らないのですか?いいでしょう。教えてあげますよ」
そう言って男は眼鏡をくいっと上げ、俺の目を見つめた。
そして、柔らかな笑顔でこう言った。
「私は”日本”で東日本全土を支配しております『伊達稙宗』と申します」
俺は驚愕と緊張で頭がクラクラしてきた。




