5.5兆度までなら、地球の科学で出せるらしい
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1536年8月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【神界 太陽系 太陽中心核】
「こ、こんなのもらっていいのか?」
正直言って、ラーがくれたネックレスは一緒に戦ってもらうよりすごい。文字通り、俺に全てを託したわけだ。
俺の愛と、土壇場の新必殺技にそれだけの価値を見出してくれてるわけだな。
「頑張りなさいよ!そのネックレスが壊されたら、あたしも死ぬんだから!あんたならイケると思って、託すんだからね!」
何だ、その重い設定…。いや、そもそも神界の運命を背負ってるんだから、たくさんの命が俺の肩にかかってるのは確かなんだが…。
直接言われると、プレッシャーだぞ。
俺はうつむき、ネックレスを見つめた。
ラーが……そして地球で待ってるフォルティアとティティスも、俺が神界を救うと信じている。誰の命を背負おうと、俺は頑張るしかない!!
俺は自信を取り戻した。神力だけじゃなく勇気も湧いてきたみたいだ。表情にも自信があふれていたのか、俺の顔を見たラーが言った。
「中々、いい顔をするじゃない!いいわね、あんたなら、絶対ブーくんを救えるわ!!」
「ああ。ここまでされたらやり遂げるしかない!!必ず『ブラックホール』を救ってみせるぞ!」
しかし、そのためには確認しておかないといけないことがある。
『ブラックホール』は魔珠によって『邪神』にされた。それを、どうすれば元の『ブラックホール』に戻せるのか、ということだ。
「じゃあ、どうやったら邪神をブラックホールに戻せるか、教えてくれ」
戻し方を知らずに戦ったんじゃ、勝てたとしても殺してしまう危険がある。確実に助ける方法を聞いておかなくちゃいけない。
「そっか!それをまだ言ってなかったわね」
ラーは俺がやる気になってるのが、よほど嬉しいようだ。ラーが激しく喜ぶと、それに呼応するように彼女の背中に炎が立ち上った。
そして人差し指をたてて「いーい?」と言い、張り切って邪神を救う方法を語り始めた。
「あいつはブーくんに魔珠を植え付けた。だから、魔珠さえ取り除ければ、ブーくんは元に戻るわ」
まあ、それはわかるが……。魔珠ってのが何なのか、まるでわからないな。どうやって植え付けたのか…どうやったら取り除けるのか?
「しかし、どうやって取り除くんだ?というか……そもそも魔珠って何だ?理性を失うとはいえ、神のランクを上げるアイテムなんて異常すぎるだろ?」
俺がそういうと、ラーは『全くだわ』と言いながら、何度も頷いた。
「魔珠は、人の憎しみ恨み悲しみと言った負の感情を大量にかき集めて『八卦炉』で錬成したものらしいわ」
「………八卦炉?」
八卦炉というのは、道教だかで仙人が不老不死の薬を作るのに使う炉だっけか?もちろん、元の宇宙ではフィクションだけど、この宇宙にはそれがあるのか?
「八卦炉は、感情や魔力、神力のような目に見えないものを溶かして、球の形に固める装置らしいけど…それはどうでもいいのよ!」
ラーは俺の鼻先まで顔を近づけて、『重要なのは』と言った。そして、この話の重点をまとめて、話した。
「確かなことは、八卦炉は熱で溶かしてるってこと!そしてあたしの炎は負のエネルギーを浄化するってことよ!!」
ラーの剣幕に、俺は少し気おされた。だが、話の要点はわかったぞ。熱でいいなら、俺の得意分野だからな。
「じゃあ、ラーの聖炎なら魔珠を浄化できるってことか?」
まあ、一人で浄化できるなら、わざわざ俺にすべてを託したりしないだろう。けどラーの聖炎プラス極小エネルギー弾で温度を高めれば、どうにかなるんだろうか?
「で、できるけど!あたしだけじゃ火力が足りないのよ!そこで、あんたの必殺技作成能力が必要ってわけ!」
なるほど。つまりラーの聖炎だけで浄化できないのはもちろん、極小エネルギー弾をつかっても火力が足りない。
だから、俺にそんな理屈を飛び越える、『とんでもない必殺技』を編み出させて、足らない火力を補おうってわけか。
「よっしゃ、面白いじゃないか。つまり神界の命運が、俺のアイディアにかかってるってわけか!!」
一応、構想はあるぞ。確か、元の宇宙で最も高い温度が出た実験ってやつだ。あれを再現できれば、5.5兆度までは、温度を上げられる。
モデルはCERNの粒子加速器だ。ただ電気で加速させることができないからな。借りるのは、高熱を生み出す理屈だけだ。
単純に言えば…『陽子と陽子を光速に近いスピードでぶつければ』5.5兆度の爆発が起こる。
他宇宙のエネルギーから陽子を取り出すことはそんなに難しくない。あとはスピードだな。
ティティスの能力で光になれば、光速で動ける。けど、光のままじゃ何も持ったり触ったりできない。
つまり、光速で移動してる途中で人間に戻ればいいんだ。そうすれば、質量を持った状態で光速で動けるぞ。
つまり…
1.二人の人間がお互いの方へ向かって光速で移動する
2.二人が他宇宙のエネルギーから陽子を取り出す
3.ぶつかる寸前にフレンド転移で移動する
これで人間同士はぶつからずに、陽子だけぶつけることができるはずだ。
名前は…そうだな。モデルになった装置から名前をとって、『ハドロン・インフェルノ』だ!!
俺が新技について考えていると、ラーがアゴに手を当てて難しい顔で言ってきた。
「そうね、少なくとも一兆度…できれば十兆度ほどは欲しいわ。それも、星やブーくんを破壊せずによ」
今のプランが可能なら5.5兆度まではいけると思う。しかし十兆度となると、もう一声アイディアが必要だな。
あとどうやって、『ブラックホール』の安全を守るか?
「一応、今考えた作戦が可能なら5.5兆度は出せる。ただ、さすがに十兆度は難しいな」
俺がそう言った瞬間、ラーではない声が俺の耳に聞こえた。これは…この声は…!!
「私たちの愛と!このコンス殿の力があれば、十兆度の壁は破れます!」
正利だ!!何故ここに…ハルナ王国はどうなったんだ?いや会えた!会えたからいい!!
俺は宇宙を飛んできた正利の胸に飛び込んだ。
「正利!正利!!会いたかったぞ!!この四日間、本当に大変だったんだ!!」
俺は正利を抱きしめ、正利も俺を抱きしめた。俺は正利の胸で年甲斐もなく声を上げて泣いた!
ひとしきり泣いたあと、皆の注目が集まっていることに気づき、恥ずかしくなって俺は正利から離れた。
俺は咳ばらいをして、一旦気持ちを落ち着けた。そして何事もなかったかのように話し始めた。
「それにしても、どうやって太陽まで来れたんだ?」
俺がそういうと、正利は小さく『ああ…』と一言つぶやいた。そして地球の方を見て、思い出を懐かしむような表情をした。ここ四日間の苦労を思い出しているのかも知れない。
「こちらもハルナ王国で色々あったんですよ。Sランク神の方に光に化けさせてもらい、ここまで来たんです」
俺たちが話し込んでいると、横から一人の少年が話しかけてきた。
「あ……あの、僕のこと……忘れないで」
その少年の姿を見て、ラーが飛び上がって驚いた。
「コンちゃん!!何でここに来たの!?」
俺はわけがわからず、正利の顔を見つめ『コンちゃん?』と聞いた。
どうも、正利に会えたことが嬉しすぎて、正利が連れてきた少年の姿が目に入ってなかったみたいだ。
この子は、ラーの知り合いなのか?いや状況から考えて、この子が月神コンスだ!つまり俺がラーの力を借りたように、正利は月に行ってコンスの力を借りたのか。
その少年はしばらく俯いていたが、ラーの方に向き直り目を見つめてはっきりと言った。
「あのね……。僕もブーを救うのを手伝いたい」
コンスの言葉にラーはハッとした表情を見せる。そして息が詰まったような声で『でも…』と言った。
そのとき、少年の言葉を補足するように、正利が言った。
「私も信孝様と同じく、邪神を救うため『月』と契約したのです」
やはりそうか。正利は神愛の塔を突破するために、この世界を救いたい。コンスは弟を救うために、人間の力が必要だ。お互いの利害が一致したってことだな。
よく見ると、正利の首にもネックレスが下がっている。
ラーは『はぁ~』とためいきをついた。コンスが戦いに参加することがよっぽど心配らしい。
そして俺たち三人の顔を見渡してから、言った。
「なるほどね。つまりあたしと信孝、コンちゃんと正利、太陽と月の力をフルに引き出せば、魔珠を溶かすことも可能ってわけね」
俺は少し不安の晴れた顔で、ラーの言葉に答えた。
「ああ、と言ってもできれば十兆度を出すまで、できれば二~三日ほど練習したいけどな」
もちろん、邪神が復活すればかけつけるしかない。誰かを見張りにしておいて、ギリギリまで練習するしかないか。
「それじゃあ、もうさっそく地球に戻るの?」
ラーは上目づかいで、少し寂しそうな表情を見せた。こんなところに住んでいたら、人と話す機会も少ないのかも知れない。
「ああ、今は一分一秒でも惜しいからな。とっとと帰って、新必殺技の練習をするよ」
俺がそういうと、コンスが正利の顔を見上げて細々とした声で言った。
「僕たちは地球まで着いてはいけないけど……ネックレスを通じてサポートするね」
ネックレスを通じてサポート?もしかして、このネックレス神力が引き出せるだけじゃなく、通信機能みたいなものがあるのか?
ラーを見ると『あれ、言わなかったっけ』とでも言いたそうな表情になってるな。
「よし、じゃあ地球に帰るぞ。正利、二人で神界を救おうな!」
俺がそういうと、正利はにっこり笑って拳を握った。
「もちろんです!邪神に私たちの愛を見せつけてやりましょう!」
魔珠を『十兆度の聖炎』で浄化し、邪神を『ブラックホール』に戻す!!そうすれば神界は救われる!
恐らく、この戦いに勝てば神愛の塔に戻れるはずだ。こんなことになってまでベルトワ皇国とハルナ王国が戦争する理由はない。
戦争を止めて、神界の滅亡を防ぐんだから、合格のはずだ。
「では、戻りましょう。ベルトワ皇国にフレンド登録している人はいますか?」
正利がそう聞いてきた。言うまでもなく、フォルティアやティティスとはフレンド登録をしている。
フレンド転移で帝都ベルディナスに戻ればいいだろう。
今にも戻ろうとしたところで、俺は重大なことを聞き忘れていることに気づいた。
「待てよ、邪神…いや『ブラックホール』は地球のどこにいるんだ?」
これを聞くのを忘れていた。邪神の場所がわからないと、帰ってもしょうがないからな。
ラーはきょとんとした表情になっている。どうやら、とっくに話したつもりだったようだ。
「ブーくんは地球の北極に封印されているわ。いつ復活するかは、ちょっと予想できないわね」
北極か。ティティスに光にしてもらえば、帝都から数秒もかからず行けるだろうな。
「では、一刻も早く戻りましょう」
正利の顔にも少し焦りが見える。俺は正利の耳元で『大丈夫だぞ。俺がついてるからな』と言った。
正利は赤くなり、ビョンと跳ねた。
その後、『コホン』と咳ばらいをして気持ちを落ち着けた。少しは焦りから気がそれただろうか?
ラーが『なんだこいつら』という表情で見てくるが、まあいいだろう。
俺は気を取り直して別れの挨拶をした。
「じゃあ行ってくるよ。神界の未来は任せてくれ」
俺がそういうと、ラーは精いっぱいの笑顔を見せて言った。
「ええ、任せたわよ。必ず、神界とブーくんを救ってね!」
コンスも、モジモジしながら正利に向けて言った。
「正利なら……きっとやれるよ。頑張って」
太陽神ラーと月神コンスに見送られ、俺たちはフレンド転移で地球に戻った。




