愛の試練2:みんなのアイドルになろう
1536年8月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【陸奥国 楢葉郡 富岡 神愛の塔2F 器の間】
俺達が二階につくと、一階の天井だった部分が閉まり床になった。
俺達は警戒しながら周囲を見回した。
「何もない…ですね」
あまりにも何もない空間が広がっているので、俺と正利は呆気にとられた。
二階はひたすら真っ白な部屋で、壁もなくどこまでも白い空間が広がっている。なんだ?ここは?
『真実の愛に導かれし勇者よ。よく二階にたどり着きました。貴方がたに第二の試練を与えましょう』
「こんな何もない空間で、一体何をさせるんだ?」
最初の試練はスライムと仲良くなることだった。だったら第二の試練も誰かと関わるものかと思っていたけど…。何もない空間で何をさせられるんだろうか。
『貴方がたは第一の試練で愛を与える方法を学びました。第二の試練では愛を受ける方法を学びます』
愛を受ける?誰かに愛されるってことか?俺はすでに正利と愛し合ってるんだが…。
まあ、スライムのときみたいに広くたくさんの人に愛される必要があるってことかな。
「しかし、ここには誰もいないではありませんか?一体、誰から愛されろというのです」
正利の言うことも、もっともだ。ここは何もない空間だ。ひたすら真っ白い空間がどこまでも広がっている。地平線すら見えない。
『それでは、試練の舞台にお連れしましょう』
アナウンスがそういうと、たちまち周りの景色が変わり始めた。
俺と正利はあまりのことに気が動転して、顔を見合わせた。
次の瞬間、俺達の周囲には広大な平野がどこまでも広がっていた。はるか遠くに城が見える。まあこれも、映像でアリスが増えたときみたいに幻覚かも知れないが…。
『ここが第二の試練の舞台です。貴方がたは今、大国であるベルトワ皇国とハルナ王国の国境にいます』
俺はまだ混乱から立ち直れずにいた。それを見た正利は混乱しながらも、大きく息を吸ってどうにか気持ちを落ち着けた。そして、いつもの澄んだ声でアナウンスに質問した。
「塔の中に国家…ですか?しかし、この塔の広さはそれほど広くないと思いますが」
神愛の塔は円柱型の塔だ。正利の言う通り、いくらこの塔がでかいと言っても広さは半径数百mと言ったところだ。数㎞にも渡る広大な平野が塔の中に入っているとは思えない。
『貴方がたは真愛の神殿が魔界に続いていたことをご存じでしょう。この神愛の塔もまた、別の宇宙と繋がっているということです』
「ちょっと待て!だったら、俺達は今もう別の宇宙にいるってことか?」
『はい。ここはすでに神界の一角です。さきほど特殊な魔法で移動しました』
「「ここが神界!?」」
俺と正利は声を合わせて叫んだ。異常なことが起こり過ぎて感情がぐちゃぐちゃになっている。ここが神界…!他の宇宙に転移したなんて!!
てことは、あの白い空間までは元の宇宙で、そこから転移したのか…。
だとすれば、この塔のシステムには別の宇宙に移動する魔法があることになる…もしそれを身に着けることができれば……。
以前アンドロイドNo.001から聞いた、『宇宙を創る能力』を持つ孫悟空ってやつに会いに行けるかも知れない。
時を戻し、しずくを救うには宇宙三つ分のエネルギーが必要だ。『宇宙を創れる』やつに会えれば、既存の宇宙を破壊せずに時を戻せる…と思う。
俺は深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。とにかく、これから何をさせられるにしても、現状の確認が必要だ。聞けるだけのことは聞いておかないといけない。
「ここが神界の一角?俺達は神界の…ベルトワだか言う国にいるってのか?」
神界というからには、ここは神のいる宇宙なんだろう。試練は『愛を受ける』ことか…つまり神達から愛さればいいのか?やっぱり具体性がないな。
「それで?俺達はこのベルトワ皇国で何をすればいいんだ?」
『信孝さんは国境から北にあるベルトワ皇国に、正利さんは南にあるハルナ王国に向かってください。両国の戦争を止めるのです』
「戦争を止める?どっちかを勝たすじゃなくてか?それに…それぞれ別の国に行けだって!?」
むむむ、無茶苦茶厄介だな。下手したら政治問題に介入することになる。スライムのときみたいに、殺しちゃダメなら不用意に武力をちらつかせるわけにもいかない。
そして何より正利と離れるのは嫌だ。心理的にはもちろん、戦力的にも俺達が離れるのは問題だ。
『どちらかの人口が80%未満になると失格です。また一定期間内に戦争を止められなかった場合、両国もろとも貴方がたも消滅します』
それまでの話とはレベルの違う悪条件に、さすがに俺は憤慨した。
「なんだそりゃ!条件が厳しすぎるだろ!!達成条件も曖昧だ!そんなのやってられるか!!」
正利は俺よりは感情を抑えているようだが、イライラしてるのが見てとれる。
それにしても、俺達が殺しちゃいけないのに加えて、両国が戦争で殺し合ってもダメなのか。それに期間以内に止められなかったら、国も俺達も消滅するらしい。
いや、そもそもどうなったら戦争が止まったことになるんだ?
和平条約みたいなのを結ばせればいいのか?
「ダメだ。もうちょっと詳しく説明してくれよ。戦争を止めるってのは、和議を結ばせればいいのか?それに期間ってどれくらいなんだ?」
『期間は十日…どうなれば戦争を止めたことになるかは秘密です。ただ、止まったと判断したときには、神愛の塔に戻します』
条件を教えないだと!?それに戦争を止めるのにたったの十日!?まずい……!想像以上に大変なミッションだ!!
俺は目の前がクラクラしてきた。正利も随分と憔悴している。
“こんなのどうしたらいいんだ”という気持ちがお互い伝わってくる。
だって王様に会見して、説得して両国を会談の場に立たせてと考えたら…お互いの王様が会うだけでも一ヶ月くらいかかりそうだ。
無茶苦茶じゃないか。正直逃げたい……。正利と二人で、どこか遠くへ逃げ出せないだろうか?
俺は現実逃避しそうになる心を気力で押さえつけて、アナウンスに質問と抗議を続けた。
「なんでそんな無茶苦茶な条件なんだよ?『愛を受ける』試練って何なんだ?」
『その答えは、この十日間で自ら導き出すのです。貴方達なら必ずできます。』
【試練2:みんなのアイドルになろう】
そのお題が出たっきり、アナウンスの声は聞こえなくなった。最後だけ、それまで機械的だったアナウンスの声が少し優しかった気がした。
しかし『アイドルになろう』だって…?アイドルって…あのアイドルか?歌ったり踊ったりする?
いや違うな。アイドルってのは元々偶像って意味だったっけ。仏像とか神像みたいな信仰の対象となる像のことだな。
試練の内容は『愛を受ける』だ。つまり両国の国民から愛され、『信仰の対象になる』ことで戦争を止めろってことか?
やっぱり無茶苦茶だな。まあ、逃げる方法があるわけでもない。どうにかやってみるしかないだろう。どうせ、十日に間に合わなければ死ぬんだしね。
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1536年8月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【ベルトワ皇国・ハルナ王国 国境】
俺達は現状を受け入れるために、たっぷり一時間ほど休憩した。
そして、やっとのことで何とか重い腰を上げて、行動を始めることにした。
さて、さっきの話では、ここはベルトワ皇国とハルナ王国の国境付近って話だったな。
「あの声は、俺がベルトワ皇国、正利がハルナ王国に行けって言ってたな。恐らく逆らうと失格になるんだろうから従うしかないか」
そうすることに何か意味があるんだろうしね。
できれば二人一緒のうちに作戦をたてたいところだが…。二つの国の状況が全くわからないんだよな。
横を見ると、正利も美しい顔を歪めて、随分と不安そうな顔をしている。
「そうですね…。信孝様と一時でも離れるのは辛いですが…。それぞれに行けと言われた以上、そうするしかないでしょう」
んん~正直心もとないな…そう思っていると…
「ねえ!ぼくたちもいるよ!!」
突然、そう言われて何かと思ったら、俺の肩に三匹のスライムが乗っていた。大きさは数十cmくらいか。肩に乗れるサイズになっている。
おお!こいつらは下の階でフレンド登録したやつらだな!
いいぞ!こいつらがいるならフレンド魔法が使えるはずだ。離れていても正利と視界を共有したり、連絡できるのは大きい。
それにスライムや正利のいる場所になら転移できるからな。
俺は、俺一人でもスライムの視界を共有したり、連絡機能が使えることを確認した。どうもスライム達の魔力を借りて使えるらしい。
「よし!スライムの皆がいれば心強いぞ!そうだな…俺に二匹、正利に一匹ついていってもらうのがいいだろう」
「なるほど。私は魔界から魔力を呼び出せば魔法を使えますが、信孝様にはできませんからな。そちらに二匹ついていた方が心強いでしょう」
加えて、お互い連絡がとれるように一匹は正利についてもらわなきゃ困る。
俺達が話している間にも、スライム達はぴょんぴょんと楽しそうに俺達の周りを飛び回っている。
無邪気に飛び回るスライムを見ていると、少し元気が湧いてきた。こいつらがいるならいけるかもしれない。
「とりあえず、ここから見えるあの城に向かおう。ここから北側がベルトワ皇国で、南側がハルナ王国だっけ?」
俺は太陽の位置から、南北がどっちか判断した。遠くに見える二つの城を順番に見る。これからあそこで、『愛される』ための戦いが始まる。
そしてフレンド通話で連絡が取れるとはいえ、しばらく正利と離れ離れになる。悲しいけど、これも試練だ。稙宗から俺と正利の命を守るためでもあるんだからしょうがない。
「正利!!」
俺は無我夢中で、正利に抱き着いた。知り合ってからずっと一緒だったからな。十日だけとは言え離れるのは嫌だ。
正利は、嬉しさと悲しさが入り混じったような顔で、俺を抱き返した。
「信孝様…。ええ、わかっています。私も同じ気持ちです。ですが、お互いのため民のためにも今は別々に頑張りましょう」
正利も離れたくない気持ちをわかってくれた。お互いの気持ちが通じ合って嬉しい。俺は正利の瞳を見つめた。
そして、一度目をつぶり戦いに赴くことをもう一度決心した。
「あ、ああ…そうだな。とりあえず城に乗り込んで、王様とやらに話をつけるしかないだろう」
城の警備や護衛を殺さないように気をつけなくちゃな。それに『愛される』ことが目標だから、拷問で洗脳なんてわけにいかない。
「そうですね。こちらも…相手がどんな方かはわかりませんが、必ず説得してみせます」
俺達は変わらぬ愛情と、目的の達成を共に誓い合った。少々離れていようが、俺達の愛に不可能はないと信じよう。
そして俺達は共通の目的を果たすため、ベルトワ皇国とハルナ王国に向け、それぞれ別の道に歩き出した!




