愛の試練1『みんなと仲良くなりましょう』
1536年8月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【陸奥国 楢葉郡 富岡 神愛の塔】
あれから俺と正利は地下室を出て、研究所内から神殿らしい施設を探した。そしてすぐに見つかった。
研究所の中央に立つ塔、天まで届くかと思われるほど高い塔があった。入口には、神聖な魔力を放ち続ける重厚な門がある。
「これが神愛の塔か」
俺は目の前にそびえたつ巨大な塔を見て、そう言った。
富岡にある神殿は”神愛の塔”というらしい。真実の愛の上は神の愛ってことか。
とはいっても、どうすれば神の愛に目覚めることができるかは全くわからないね。
伊達稙宗は、すでに神の愛に目覚めているらしい。一体やつがここで何を成し遂げたのか…まだ想像もつかない。
「とりあえず、最初の扉は真実の愛に目覚めていれば開くはずです。その後、どんな試練が待っているかは完全にわかりませんね」
正利も俺と同じ考えのようだ。結局、入ってみなくちゃ何もわからないってことだな。
気になるのは、稙宗は一体『誰との間で』神の愛に目覚めたのかだな。まあ、普通に奥さんとかなのかも知れないけど。
俺と正利クラスの運命の出会いなんて、そうそうないだろうからね。
「じゃあ、とりあえず…あれ、扉に世界樹の杖を差し込まないといけないんだっけ?俺の体を差し込むのは無理があるんじゃないか?」
さっきの映像で正利とアリスは世界樹の杖を真愛の神殿の扉に差し込んでいたはずだ。ここも同じシステムなら、世界樹と同じ素材の俺の体を突っ込まないといけないことになる。
「それは恐らく大丈夫でしょう。私たち二人で扉に触れれば開くと思います」
杖が扉に触れた判定になるってことかな…。まあ、ちゃんと開くなら細かいことは考えなくていいよね。
俺達は手を繋ぎ、もう片方の手を扉に押し当てた。
ズズズズズズ…………
扉が真っ白な光を放ち、重い音を鳴らしながらゆっくりと開いた。
『真実の愛に導かれし勇者よ、ようこそここにたどり着きました』
俺達が塔の最初の部屋に入ると、場内にアナウンスが流れた。これも魔法でやってるんだろうか?
『貴方がたには、神の愛に至る試練を受けていただきます』
「神の愛に至る試練?どんなことをすればいいんです?」
『勇者に求められるものは、真実の愛を自分達だけで独り占めにしないこと。分け与えることです』
「愛を分け与える?なんだか抽象的だな」
『まずは第一の試練を受けていただきます』
そうアナウンスが流れた直後、空中に白く輝く文字が現れた。
【試練1『みんなと仲良くなりましょう】
「みんなと仲良くなりましょう?」
俺はわけもわからず文字を読み上げた。
その直後、俺達の周りに無数のスライムが湧いてきた。
『彼らに愛を分け与えてください。一体でも殺せば、不合格と見なします』
「「なんだって!?」」
俺と正利の声が揃った。何せスライムは数えるのも嫌になるくらいいる。
今いる部屋は学校の体育館ぐらいの広さがある。その部屋中にびっしりとスライムが敷き詰められているんだ。
「あ、愛を与えるってどうすりゃいいんだろ?」
とりあえず、このままスライムに攻撃されたらまずい。極小エネルギー弾で動きを止めてしまうか?
「そうですね…。彼らを説き伏せて仲間にする…ということでしょうか?」
正利の言う通りなのかも知れないが、何せこいつらは一体数十cmだ。自我があるとは思えない。どうコミュニケーションすればいいんだ?
「とりあえず極小エネルギー弾で、動きを封じようかと思ったが…攻撃すると機嫌を損ねるかな?」
「それはまずいです。よく見てください。彼らは中心に核があってそれに水分がまとわりついているようですが、核の大きさがナノ単位のようです」
確かに、スライムたちのコアは小さい。下手に原子の振動を阻害しようとしたらコアそのものを傷つけてしまいそうだ。
「そうか…じゃあ極小エネルギー弾は使えないな。誤って殺しちゃったら目も当てられないからね」
でも…だったらどうしよう?
そう考えていると、スライムたちが俺達の身体に引っ付いてきた。こちらにダメージはないが不用意に動くと倒してしまいそうだ。
「正利!とりあえず相手を傷つけないバリアか何か張れないか?このままだと身動きが取れないぞ」
「そうですね」
正利が俺を抱きしめ『バリア』と唱えた。俺達に引っ付いていたスライムがバリアの壁に押されてゆっくりと離れていく。
「まともにバリアを張ったら跳ね飛ばしてしまいますからね。ゆっくりと張ってみました」
そんな調整ができるのか。魔法というのは思ったより融通が利くらしい。
「さて、スライムを引き離すことには成功したが、どうやってこいつらと仲良くなるか、考えないといけないな」
コアがナノ単位のやつに自我があるとは思えない。どうやって仲良くなったものか…。どうしたらいいかまるで思いつかなかったので、とりあえず俺はスライム達を観察することにした。
彼らの動きを見ていれば、何かヒントが見つかるかも知れない。
スライム達は元気にバリアに飛びついて来ている。
だが、よく見てみるとその飛びつき方に特徴があることに気づいた。攻撃的に思いっきりぶつかってきているものもいれば、ぶつかるというよりバリアに乗って遊んでいる者もいる。
そして、どうにか俺達に近づこうと、バリアの壁を押している者もいる。
つまりこいつらにはこいつらなりの個性や性格があるってことか。
そうか!だったら!!
「正利!このスライム達の仲から何匹か、進化させることはできるか?」
「魔界からの魔力と、信孝様の身体があれば可能です」
単純に進化させるだけなら、魔法でできるわけか。超進化には真実の愛が必要なんだろうけどね。
この状態でも個性があるなら、進化させれば知能が上がって対話が可能になるかも知れない。そうすれば、仲良くなることも可能なはずだ。
「じゃあ、こいつらの中で友好的そうなやつを選んで進化させてみよう。バリアに乗っかって遊んでるやつがいいかな」
「わかりました。やってみましょう」
再び、正利が俺を抱きしめて魔法を唱える。
「進化!」
俺の体が虹色に光り、俺の手から魔力が近くのスライムに流れ込んでいく。
俺達の近くのスライム三匹ほどが、他のスライムより二回りほど大きくなった。元が茶碗ぐらいなら、今はどんぶりくらいかな。コアも数センチくらいはありそうだ。
「さて、これでコミュニケーションが取れるかどうかだな」
とりあえず話しかけてみるか。それで言葉が通じれば一番話が早いからね。
「スライムさん、俺の言葉が分かるか?」
「うん!わかるよ~。大きくしてくれてありがとう!」
「あたし達と仲良くなりたいんですって?」
「僕らは構わないんだな」
三匹のスライムは、子供っぽいやつと女性っぽいやつとオタクっぽいやつだ。仲良くなるのは構わないって言ってるけど…。
どうなったら仲良くなった判定になるのかわからないな。一緒に遊べばいいのか?
「君たち、俺と遊んでくれるか?何をして遊びたい?」
俺はスライムたちに問いかけた。するとスライムたちは相談を始める。なんだか、すごく楽しそうだ。
しばらくして、スライムたちは答えを出した。
「スライムごっこしよう。きみたちも魔法を使えばできると思うよ~」
「スライムごっこ?なんだそれ?」
スライムなのに、スライムごっこをするのか?というかスライムごっこって何だ?スライムになりきる遊び?いや、だからそれだとスライムがやるのはおかしいだろ。
俺がそう考えてるとスライムが力を抜いたように、地面に張り付いた。元々スライム達は某ゲームのスライムのように雫みたいな形をしている。
けど力を抜いたせいで、液体部分が水をぶちまけたみたいに波状に広がっている。
「これがスライムごっこだよ~。こうして地面にべたーっと張り付いたまま、果てしなくずーっと何もしないんだよ」
………俺と正利は固まってしまった。どういう遊びなんだ。
とはいえ、仲良くなるには相手の気持ちを知ることも必要だ。やってみるしかないんだろうか。
「正利、水になる魔法はあるのか?」
「え、ええ。そりゃあありますが…。やるんですか?これを」
馬鹿馬鹿しい気はするが、これがスライム達の好きな遊びならしょうがない。
どの道、この神殿を突破できなかったら、どの時点かで稙宗に殺されるだろう。命がかかっている以上、手段を選んでる場合じゃない。
それに…そうだ。これはきっと俺と正利の愛をさらなる次元に導くために、必要な作業のはずだ。
「ああ、これは俺達の愛に与えられた試練だと思う。真実の愛を神の愛とやらに進化させるために必要なことなんだ」
「……そうですね。わかりました」
正利は納得しきれない表情だが、一応理解はしてくれたようだ。俺だってこの忙しいときに、地面に張り付いて果てしなく何もしないなんて嫌だけど…。
やるしかないならやろう!
「ではいきますよ」
正利が俺に抱き着き、液体化の魔法を使った。
「液体化!」
正利がそう唱えると、俺と正利の身体が溶けて液状になった。中心にはコアがある。こんな状態だが、思考は液状化する前と同じようにできるみたいだ。
「こ、これでいいのか?」
俺はそう聞いてみた。すると、子どもっぽいスライムがプリプリと怒って答えた。
「ダメだよ~。もっと力を抜かないと、べちゃ~って水を地面に這わせるんだよ~」
力を抜く…か。そうだな、難しいけどやってみよう。俺は全身の力を抜き、大地と一体になるつもりで、全身の液体を地面に這わせた。
「ふああああ~あ~……」
「うん!いい感じだよ!そっちのお兄さんも頑張って!」
正利も必死に体から力を抜こうとしているのだが、真面目なのと普段から手を握りしめる癖があるようで、どうしても力が抜けない。
「まさとし~…。頭をからっぽにするんだぁ~。そうだ、おれのことだけかんがえてくれ~。そして真実の愛をみつめるんだ~」
すっかり力の抜けた俺は、喋り方まで力が抜けてしまっている。
「わかりました!力を抜き……頭をからっぽに………信孝様のことだけを考えれば………」
「ふああああ~……~」
俺と正利とスライム達はすっかり力が抜けて、液体の身体を地面に這わせている。面白いかどうかはともかくリラックスはできてるね。
「お兄さんたち、とっても上手だよ!!」
液状のまま、ダラダラしていると心が洗われるようだ。俺はそのまましばらくぼーっとしていた。
すると、スライム達から俺と正利に向かって、魔力が流れ込み始めた。俺は無意識に流れてきた魔力を正利に流し込んだ。
そして正利は、またスライムに返す。魔力循環のようなものが行われた。
「なんだ?これ?これもスライムごっこの一環なのか?」
「そーだよ~。こうして体も魔力も一つになることが、スライムの仲良しの証なんだよ~」
そう言った瞬間、三匹のスライムが白く輝きだした。まさか、さらに進化するのか?
「やったぁ!僕達はお兄さんたちと友情を結んで『フレンドスライム』に進化したよ!」
【フレンドスライムの独自能力】
『フレンド魔法』:友人同士で様々な便利機能を使うことができる。友人が増えるほど、より便利な機能が解放される。
Lv1フレンド魔法:フレンドチャット 友人といつでも連絡をとることができる。
あと七人でLv2に上がります
俺の頭の中に、そんな情報が流れた。正利やスライム達にも聞こえているんだろうか?
それにしてもなんだ?この魔法は?まるっきりMMOとかのフレンド機能じゃないか。いくら魔法とはいえ、現実でそんなのが使えていいのか?
「うーん、なんかすごい魔法おぼえちゃった!お兄さんたちのおかげだよ!ありがとう!!」
「あ、ああ。こちらこそ。どうやらこの魔法は俺達にも使えるみたいだしね」
とりあえず、この三匹とは仲良くなれたみたいだ。後は、他のスライム達も進化させて仲間になればフレンド魔法が解放されていくってことかな。
「じゃあ、他のみんなとも仲良くならなくちゃな、この三人と同じようにとりあえず進化させてみようか」
俺が正利にそう言ったのだが、スライム達はにっこり笑ってそれを否定した。
「だいじょうぶだよ。もうみんなには『フレンド申請』を送ったからね」
「は?フレンド申請?それってフレンド登録をお願いしたってことか?」
MMOならフレンドになるために、申請を送ったりするんだろうけど…。もしかして、この何千匹いるかわからないスライム全員に送ったのか?
フレンドが1万人になりました
フレンド機能Lv5が解放されました。
Lv1フレンド魔法:フレンドチャット 友人間でいつでも連絡をとることができる。
Lv2フレンド魔法:フレンドマップ 脳内に地図が出てフレンドのいる位置が青く光ります
Lv3フレンド魔法:フレンド共有 フレンドの視覚を自分のものとして共有できます。
Lv4フレンド魔法:フレンド転送 フレンドの身体から他の魔法を発射できます。
Lv5フレンド魔法:フレンド転移 フレンドのいる場所に一瞬で転移できます。
フレンド共有!?フレンド転送!?フレンド転移!?おいおいおい、魔法が出てきたときから、そんなのがあればいいと思っていたけど…。
まさか転移魔法が手に入るなんて!!それにスライムのいるところから魔法が撃てるのも大きい。これなら何ヶ所同時に戦争になったとしても戦えるぞ!
いや、そもそも転移があるんだから俺が行けばいいんだ。スライム達を日本各地に配置できれば無敵の戦いができるぞ!!
………いや待て待て、稙宗もこの試練を乗り越えたはずだ…。恐らくあいつも転移が使えるんだろう。油断はできないぞ。
『真実の愛に導かれし勇者よ。よくぞ第一の試練を乗り越えました』
また場内アナウンスだ。どうやら数千匹のスライム達とフレンド登録できたことで、第一の試練を突破できたらしい。
「やりましたな!信孝様!!」
正利が喜んで抱き着いてきた。俺も抱き返す。魔法を何度も使ってせいで、なんとなく抱き合うことに抵抗が無くなって来たな。
「ああ、正利と…スライムの皆のおかげだ!ようやく最初の試練突破だな!!」
そこまで言って、ふと疑問が浮かんだので聞いてみた。
「ちなみに試練ってのはいくつあるんだ?」
『内緒です。ですが、貴方達の愛が本物ならば、きっと神の愛にたどり着くことができるでしょう』
あくまでやってみるまでわからないってことか。しょうがないな。
俺がそう考えていると、突然俺達の身体が宙に浮かび始めた。
『それでは第二の試練にご案内します』
天井が開き、俺達は二階に運ばれていった。
俺はこのとき、ちゃんとフレンドリストを確認すべきだった。まさか稙宗もフレンドになってるなんて気づかなかったんだ。




