少年・正利とエルフの姫
むかしむかし、あるところにエルフの王国がありました。
エルフの王様には、二人の王子がいました。
優しく正義漢の強い第一王子エルファイン。
怒りっぽいが武勇に優れた第二王子エルファクス
二人は事あるごとに比べられ、次の王の座を狙って争っていました。
あるとき、二人は同じ女性に恋をしました。
エルフ一の美貌とうたわれた、平民エルフィーナです。
エルフィーナは優しいエルファイン王子を気に入り、いつも仲良くしていました。
そのことが気に入らなかったエルファクスは、この世のすべての恨み・憎しみを糧に成長する『邪黒樹』に、兄を倒す力が欲しいと願いました。
エルファクスは邪黒樹の力を借りて、極大暗黒魔法を放ちました。そうすると暗黒のエネルギーが全宇宙を侵食し、あらゆる物質を原子レベルに溶かしてしまいました。
ただし、エルファイン王子とエルフィーナは世界樹の加護を受けていたので無事でした。
しかし、宇宙には何も無くなってしまいました。それに、このままではエルファクスに殺されてしまいます。だから、他の宇宙に逃げようと考えました。
そして二人は世界樹の最後の神聖パワーを借りて、ブラックホールの”目”に飛び込みました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1521年1月 正利[オマッ]5歳
【エルフ神聖王国 石狩領 上川郡 神居古潭】
「そして、エルファイン王子とエルフィーナは、ブラックホールの”目”を抜けて、この神居古潭に降り立ったそうよ」
母さんはそう言って、お話を締めくくった。このお話はエルフの宇宙渡りといって、村に伝わる昔話だ。
毎晩、寝る前に母さんが話してくれるから、とっくにお終いまで覚えちゃってる。
だから、僕はお話の続きが気になって、母さんに聞いてみた。
「それから、エルファイン王子とエルフィーナはどうなったの?」
「お二人は神居古潭を拠点に、先住民のアイヌと時に戦い時に協力して、瞬く間に蝦夷全土を支配する王となられたのよ」
「へー、王様って強いんだね!僕もいつか、王様くらい強くなりたいなあ」
僕はカムイ村の少年、オマッだ。オマッっていうのはアイヌ語で”愛”と言う意味なんだって。お母さんが、愛に溢れた人生を送って欲しいという思ってつけてくれたんだよ。
僕たちの住んでる国はエルフ神聖王国って言うんだ。昔、蝦夷と言われてたところを、エルフの王様になったときに変えたんだって。
「それからずっと現在まで三万年もの間、エルファイン王はこのエルフ神聖王国の王様を続けていらっしゃるわ。」
「ええっ!?じゃあ、僕たちの王様は三万歳より年上ってこと?」
「そうなるわね。エルフはすっごく長生きなのよ」
「へえ~…いいなあ」
僕は素直に感心してた。三万歳なんてすごい。確か、村の長老でも七十歳くらいだっけ。
「明日は、その王様が村に視察にいらっしゃるそうよ。最近、魔獣が増えて困ってるでしょう?王様と騎士団の方が討伐してくださるらしいわ」
“まじゅう”っていうのは、熊や鹿なんかとは見た目も強さも全然違う化け物だ。あいつらが現れると、人間も動物もみんな殺されちゃうんだ。
だから王様は僕達のために、魔獣退治に来てくれるんだよ。それにしても、あんなやつらを倒せちゃうなんて、王様ってやっぱりすごいんだな。
「じゃあ、もしかしたら王様に会えるかもしれないね!楽しみだなあ」
「だったら早く寝なさい。明日起きられなかったら、王様に会えないわよ」
そっか!せっかく王様がいらっしゃるのに、寝過ごしたら損だもんね。じゃあ、さっそく寝なくっちゃ…。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
………次の日。
【エルフ神聖国 石狩領 上川郡 神居古潭】
僕は早起きして、王様が来るという村長の家を、のぞきに行った。
村長の家には王様と騎士団の皆さん、そして可愛い女の子がいた。王様の子供かな?
皆、エルフだ。僕たちの国では、昔からいるアイヌと、王様の子孫のエルフ達が共存してるんだって、お母さんが言ってた。
「それでは、近く『スタンピード』が起こるということですか」
「そうだ。正確な時期はわからぬが、ここ一ヶ月ほどの間には必ず起こる。『スタンピード』が起これば、村に多くの魔獣が押し寄せる。魔獣退治は我らに任せ、村の者は家に入り決して出てはならぬ」
“すたんぴーど”というのはよくわからなかったけど、村にたくさん魔獣が来るらしい。そんなことになったら大変だ。でも王様が倒してくれるなら、大丈夫だよね…。
「アリスよ。村長との話は長くなりそうだ。村の子供たちと遊んでいなさい」
「………わかりました」
王様の子供らしい、女の子がそう言われて村長の家から出てきた。村の子供達っていうんなら、僕だってその一人だ。
あの子に話しかけてみよう。
「ねえ君!」
女の子は一瞬、驚いたような顔をしたけど、すぐに落ち着いた表情になった。子供なのに大人びた表情だな。
「貴方……村の子供ね。」
「そうだよ!君、王様に村の子と遊べって言われたでしょ。だから僕が一番に声をかけたんだ」
女の子はちょっと怯えたような表情になった。あまり人に慣れてないのかな?でも、こんなに可愛いのに友達がいないなんてことはないと思うけど。
「……そう。事情はわかったわ。……私はエルフ神聖王国王女『アリス』よ。よろしくね」
王女様ってことは、やっぱりこの子は王様の娘らしい。王様に似て美人さんだもんね。
「僕はオマッだよ。村一番の力持ちなんだ」
「へえ……そう……それは興味深いわね………。それで何して遊ぶの?力比べでもするのかしら」
「女の子と力比べしたってしょうがないよ。そうだなあ、かくれんぼなんかがいいんじゃない?」
それから僕達は数時間にわたって遊んだ。アリスは何をやっても、ものすごく強くてとても敵わなかった。
力比べだけはどうにか勝てたけど、自慢にならないよね。
「…………貴方の力、普通じゃないわね……。訓練を積んだってわけじゃないんでしょ?」
「んー、そうだなあ。特に力持ちになるために、何かしたりはしてないよ」
僕は生まれつき、力持ちだった。お母さんはカムイのご加護だって言ってたけど…。
「ぐおがががおおおおおーーーー!!」
そんなことを考えてたら、突然、何かが大きな声をあげて襲い掛かってきた。魔獣だ!
魔獣は見た目は虎っぽいけど、顔が猿で胴体はタヌキ、尻尾が蛇だ。確か、ヌエっていう魔獣だと思う。
「に、逃げよう!僕達じゃ、こんなのどうしようもないよ!」
「…………こいつはものすごい力と速度を持っているわ。逃げたって、追いつかれて爪と牙の餌食になるでしょうね………」
そうだ。そういえばお母さんもそう言ってた。でもだからって、このまま殺されるのは嫌だ。目の前で女の子が殺されるのも耐えられない。
僕はアリスの前に出て、彼女をかばうように大きく両腕を広げた。
「僕が相手だ!!!」
「ちょっと……!!危険よ!やめなさい!!」
「ぐおおおお!!!」
まずい!ヌエが僕に飛び掛かってきた。このままじゃ殺されちゃう!でも、僕の後ろにはアリスが……。
「仕方ないわね………。メガフレイム!!!」
アリスは、30㎝ほどの長さの杖を構えて、叫んだ。その瞬間、杖からヌエの体を覆うほどの炎が出てきた。そして炎はヌエを焼き尽くした。
「くけえええええーーーー」
耳が痛くなる叫び声をあげて、ヌエは焼け焦げて動かなくなった。
「い……今の……一体…………」
「今、見たことは忘れてちょうだい………」
「え………でも……」
こんなすごいこと、母さんに話さないなんて、僕には難しい。
「助けてあげたでしょ。だから……忘れなさい!!」
「う………うん」
こうして僕とアリスの間に二人だけの秘密ができた。
それからしばらく、アリスはカムイ村に住むことになった。
“スタンピード”が起こるまでは、王様と騎士団はカムイ村にいるんだってさ。
僕とアリスは、その間毎日遊んだ。何をやってもアリスの方が強かったけどね。
アリスは”せんとうくんれん”だと言って、僕にケンカのやり方を教えてくれた。女の子にケンカの方法を教わるのは恥ずかしいけど、アリスはめちゃくちゃ強いんだからいいよね。
「スタンピードが起こったら……自分で身を守らないといけない時もあるはず……。強くなっていて、損はないわ……」
できることなら、僕だって強くなりたい。母さんはもちろん、アリスだって守ってあげられるくらい強くなれたらいいな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アリスたちが来てから一ヶ月が過ぎた、ある日のこと…。
僕はいつも通り、アリスとの戦闘訓練に励んでいた。
僕が疲れて、一旦休憩しようという話になったとき、突然空が暗くなった。
いきなり夜になったのかと思って、僕は空を見上げた。
「ド、ド、ド、ドラゴンだあああああああ!!!」
山ほどもある、羽根の生えたトカゲみたいな生き物が、空を飛んでいた。村長の話だと、ドラゴンの鱗はどんな刃も通さない。それに炎も吐いてくるらしい。
「…………あれはちょっと………私でも無理ね」
アリスにどうにもできないんだったら、僕に何かができるわけがない。炎を吐いてこないように祈りながら逃げるしかないのかな。
「とにかく、逃げよう。いや、それより村長の家だ。王様に報告しないと!!」
「そうね……。早くお父様に報告しないと………。ドラゴンが炎を吐けば、村が跡形もなくなるわ」
アリスがそう言った瞬間、ドラゴンが大きく口を開けた。
「まずい……!!ブレスがくるわ……!」
そう言われて、僕がドラゴンの方を見たときには、ドラゴンの口から炎が発射されていた。
「ど、どうしよう」
「逃げなさい……!ここは私がなんとかするわ!!」
確かに、アリスなら一人でも持ちこたえられるかな。でも女の子を一人置いていっちゃダメだ!でも、僕がいても役に立たないんだったら…。
「大かまくら」
アリスがそう叫ぶと、カムイ村全体が巨大なかまくらに覆われた。やった!これなら、ドラゴンのブレスでも溶けるもんか!
「早く行きなさい……!!ブレス相手じゃ、私の魔法だって長くはもたないわ……!」
あんな大きなかまくらでもダメなの!?一体、ドラゴンって、どれだけ強いんだ!?
僕は、村長の家に向かって全力で駆け出した。
でも、その瞬間に僕たちの頭上の雪が解けて、ブレスが僕とアリスの頭に降りかかってきた。
「危ないっ!!」
アリスが僕の目の前に飛び込んできて、モロにブレスを食らい、焼け焦げながら吹っ飛んだ。
「アリス!!どうして!!!」
アリスはお姫様だし、女の子だ。ホントなら僕がアリスを守らないといけないのに!!逆に僕のせいでアリスが大怪我しちゃった!!
「わ、私は大丈夫………とっさに体の周りに氷の膜を貼ったから……。それより……お父様に……報告を……」
僕がアリスに駆け寄ると、アリスの持っていた杖が、僕の手に吸い寄せられてきた。
「なんだこれ?」
杖はもの凄い光を放っている。アリスが握っていたときはこんなことなかったのに。
「ね、ねえアリス!これどうなってるの!?」
「まさか………世界樹の勇者………!こんなところに居たなんて……!!」
ゆうしゃ?ゆうしゃって何だっけ…??
「いいわ…!貴方と私の力があれば、ドラゴンも倒せる……!」
「ええ!?ホント!?」
アリスは起き上がって、一緒に杖を握ってきた。アリスと僕の手が重なった。ちょっと恥ずかしいな。
その瞬間、杖が周り中を照らすように激しく光った。
「行くわよ!!」
アリスがそう言うと、自然に言葉が浮かんできた。
「「メテオストライク!!」」
僕とアリスがそう叫ぶと、はるか上空にドラゴンの数倍の大きさがある『燃え盛る隕石』が現れた。
「よーし!これならいける!!」
俺とアリスは、炎の球がドラゴンにぶつかるように念じる。
「「いっけええええええええ!!」
大隕石がドラゴンにぶつかると、大爆発を起こした。お空で爆発したから良かったけど、もし地面で爆発してたら、村が無くなっちゃったかもしれない。
「やった!すごい!!アリス!僕達ドラゴンを倒しちゃったよ!」
「………………………………………」
アリスは難しい表情で黙り込んでいる。どうしたんだろう。せっかくドラゴンが倒せたのに、嬉しくないのかな?
「貴方が世界樹の勇者なら………案内するわ……。私たちの『超進化研究所』へ……」
「私のお母さまを救うために………!!」




