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伊達家の音速船

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1536年8月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳


【美濃国 稲葉山城 評定の間(仮)】


「準備は整った!さっそく陸奥に向かうぞ!」


 俺がそう叫んだ直後、龍人野郎がツッコんできた。


「待て待て待て。お前、孤児を助けたとしてどうやって連れて帰るつもりだ?それに、陸奥のどこに孤児が囚われてるか知らないだろ」


 準備万端のつもりだったが、意外と基本的なところでつまずいていた。先を考えすぎて足元がおろそかになるのが、俺の悪いとこかも知れない。


「確かにそれは重要だな。皆を乗せて運ぶ乗り物が必要だ」


 俺がそういうと、龍人野郎が信じられないことを話し始めた。


「伊達領にゃ、お前らと同じように”音速で移動できる”乗り物が結構ある。孤児を救う前にそれを奪えりゃ、孤児を連れて帰るこたぁ可能じゃろう」


 俺は驚き過ぎて、しどろもどろになりながらも、何とか言葉を発した。


「だ…伊達領には、音速で移動できる乗り物があるのか……?」


 俺は混乱から立ち直れないまま、龍人野郎に訊ねた。龍人野郎はクスリと笑った後、落ち着いて答えた。


「当たりめぇじゃ。東日本全体を支配しとるんじゃぞ。当然、その範囲を短期間で行き来できるに決まっとるじゃろ」


 龍人野郎の言葉は衝撃的だった。冗談じゃないぞ。東日本全体を音速で行き来できる…?頭の処理が追い付かない。


 しかも乗り物だ。疲れたら休む必要がある俺と違い、連続して音速で移動することができるのだろう。


 時速1225㎞だからな。悪くすれば、もう”龍人野郎敗戦”の報が陸奥に届いていてもおかしくない。


「そ、それじゃあ俺が正利を抱えて、陸奥まで走ったところで間に合わないじゃないか!」


 絶望的な顔で叫んだ俺に対して、龍人野郎はまあまあと俺をなだめた。


「まあ待て、実はこの稲葉山城にゃあ地下室に通じる抜け道があっての。その地下室に緊急脱出用の音速船が隠してあるんじゃ。それを使やあ、向こうに負けん速度で陸奥に着けるじゃろ」


 稲葉山城にも音速船がある?そうか、だったら遅れは取らずに済むかも知れない。


「だが、燃料は行きの分しかねえで。どの道、向こうで船か燃料を奪わにゃいかんぞ」


 そうか…待てよ燃料…?音速で飛べる燃料って…?


 そんなの無理だろ!!!


 だってあり得ない。俺が言うのもなんだが、この世界が元の宇宙と似た物理法則を持った世界なのであれば、エネルギー保存の法則があるはずだ。


 音速で移動するには、それだけの燃料が必要なはず…。それに燃料が漏れない器や、爆発を動力に変えるエンジン…。どれをとっても戦国時代に可能とは思えない。


 遺伝子を改造することで可能だとも思えない。いや…ものすごく脳の容量を増やした生物がいれば可能か…?


 いや、すべての理論を知ってて、装置の完成図がイメージできてたとしても、戦国時代の文明から音速ジェット機が飛ぶ文明まで進化させるのに100年以上はかかるだろ!


 何かあるぞ…。俺の知らない何かが…!!


 俺が思考の海にはまっていると、龍人野郎がさらに話を続けた。


「だが、音速船に何の燃料が使われとるかは極秘事項なんじゃ。無論オイラも知らん。じゃから、船自体を奪えにゃあ、美濃まで戻ってくるなぁ難しいで」


 ふうむ…謎は多いが、とりあえずやることは決まったな。


1.稲葉山城にある音速船で陸奥まで行く

2.孤児達を見つけ出し、助け出す

3.幹部と戦い、拘束する

4.音速船を奪い、それに乗って帰る。


 当然、孤児や幹部を誘拐し、音速船を奪ったことがバレれば、敵も音速船で追ってくるだろう。幹部や稙宗は、音速船よりはるかに速く動けるかも知れない。


 場合によっては、航空戦になる恐れもある。そうなったら脱出用の船じゃとても戦えないぞ。できるだけ戦闘に適した船を奪わなきゃダメだ。


「わかった。孤児と敵の幹部、そして音速船を奪うことが、俺達の使命ってわけだな」


「ここまで聞いても本気でやる気なんか。仕方ねえのう。オイラも付き合っちゃろう。孤児がおる場所は何となくわかるけぇな」


 龍人野郎が孤児がいる場所まで案内してくれるという。だが…こいつは絶対安静なんだよな…。


 もっとも、俺が美濃を離れてしまえばこいつの看病をするやつがいなくなるからな。結局は連れていくしかないわけか。


「わかった。ありがとう龍じ…いやいや、一緒に行くんなら名前をいい加減、教えてくれよ!」


「オイラは龍人009号て呼ばれとったな。ちゃんとした名前はねえで」


 名前が無い!?ま、まあそうか。稙宗にとって孤児は実験動物だからな。わざわざ名前なんてつけないってことか…。ひどい話だ。


「そうか…けど、名前が無いと呼びにくいだろ。そうだ!俺が名前をつけるってのはどうだ?」


「悪くねえが、どんな名前にするんじゃ?」


 そうだなあ。こいつは龍人なんだから、龍の字を入れた方がいいだろう。後は、俺の名を取って…龍考たつたかだと”た”が二つあってゴロがわるいから、龍信(たつのぶ)信龍(のぶたつ)がいいか。


 後は名字だな。松平でもいいが…、こういうのは、出身地の名前を付けたりするんだっけ。だとすると稲葉山…いや…!


「よし!今日から龍人野郎の名前は岐阜(ぎふ)龍信(たつのぶ)だ!」


「龍信というのは、龍人とあんたの名前を合わせたもんじゃな。岐阜というのは、どねぇな由来があるんじゃ?」


 その言葉を聞いて、俺は考えを巡らせた。この稲葉山城は元の宇宙では信長が”岐阜城”と名前を変えた。周の文王が岐山を拠点にして天下をとったのにあやかったんだ。


 だから岐阜というのは天下統一の始まりの地という意味だ。龍信を引き入れたことで、俺達は稙宗と天下を争う戦いを始める…!


 東日本を支配してるやつから孤児を、幹部を、そして大決戦では土地を奪うんだ。俺の天下取りは龍信と稲葉山から始まる。だから、龍信と稲葉山城の名前を岐阜にしよう。


「周の文王は岐山を拠点にして天下を取ったという。俺は龍信をきっかけにして天下をとる。だから岐阜という名字にしたんだ」


「ほうか、オイラが天下の始まりか。やはり面白いこと言うやっちゃ」


「ついでに、稲葉山城の名前も岐阜城とする。俺の天下取りの始まりの地だからね」


 俺の原点となる城は合歓木城だが、本格的な戦いの始まりの地は岐阜城ってわけだ。いわば第二の原点ってところか。


「さて、龍信!じゃあ、さっそくその抜け道ってやつに案内してくれ。陸奥へ向かうぞ!」


「ほうやな。一緒に行くんは、聖王の信孝と川並衆の正利じゃったか。オイラは動けんけぇ、連れてってくれや」


 龍信がそういうと、俺は龍信を抱きかかえた。こいつは俺の治療のせいで両手両足がない。放射能光線は吐けるけど、戦いの役にたつとは考えない方がいいだろう。


 いざ戦いになったときは、こいつを守りながら戦わなくちゃいけないわけだ。


「ここや。この厠の裏に抜け道があるんじゃ」


 俺は龍信に導かれて、厠の裏に来た。見ると、床板の内一枚だけが違う色をしている。この床板をはがすのか。


 俺は抱いていた龍信を一旦、床に置き床板をはがしてみた。そこには穴があり、穴の中にウォータースライダーのよう筒状の管があった、これを滑り降りて音速船まで行くらしい。


「この中に音速船があるんじゃ」


 俺は龍信を抱き直し、穴に飛び込んだ。するすると滑り降りていくと、下の方に光が見えてきた。


「な、なんじゃこりゃ!?」


 そこにあったのは、ロボットアニメに出てきそうなメカニックなデザインの戦闘機だ。


「この鳥のようなものが、乗り物なのですか?」


 正利も随分困惑している。いつもは落ち着いてるイメージなんだが、俺のせいで慌ててる姿をよく見るよな。


 そう考えてみると、正利は顔もきれいだけど所作も美しい。ヤクザが所作を美しくする訓練をするとも思えないよな…何かあるのかも知れない。


「おうよ、燃料は不明だが、後部から光線のようなものを出して、それを推進力に飛ぶんじゃ」


 光線か…。戦国時代はおろか、元の宇宙の戦闘機から考えてもよくわからない仕様だな。少なくとも、油や核燃料で飛ぶわけじゃないみたいだ。


「何はともあれ、乗り込んでみるか。一刻も早く陸奥に着かないと、孤児が殺されそうだからな」


 俺達は、その音速船の”コックピット”に乗り込んだ。座席は前部に二人分、後部に二人分あるな。普通、戦闘機と言ったら一人乗りか二人乗りだと思う。まあ、こいつは脱出用だっけ。できるだけ人が乗れるようにしてあるんだろう。


 それにしても、稙宗の技術はもう宇宙人を超えていそうだよな。いや、さすがに宇宙船は開発できてないかな?


 宇宙船か…俺が天下統一を目指す目的の一つに宇宙人と交渉して、宇宙船を手に入れることがある。


 アンドロイドNo.1の情報によると、”孫悟空”に新宇宙を作ってもらい、その宇宙のエネルギーを使えば、茂と本物の俺が研究していた時間遡行が使えるらしいからな。


 時を戻せれば、俺が死なせてしまった、しずくが生き返るんだ…。


 だから、稙宗が宇宙船を持ってるとしたら、天下統一をしなくても目的が達成されるかも知れない。さすがに都合が良すぎるかな。


 俺は操縦席に着き、龍信を隣の席に座らせた。正利は後部座席に座った。正利は俺の隣に座りたかったかもしれないが、操縦法を知ってるのは龍信だけだからな。


 龍信に手足がない以上、俺が奴から聞きながら操縦するしかないだろう。


「そこのボタンを押すんじゃ。そうすりゃ、後は自動操縦で、稙宗公のいる桑折西山城付近に着陸する」


「「自動操縦!?」」


 俺と正利が素っ頓狂な声を上げる。どうやったら、自動操縦のプログラムなんて組めるんだ?そもそもこの世界にはコンピュータがあるのか?


 すべての技術、機械がオーパーツ過ぎる。この宇宙での日本は、宇宙人が”四神の焼き印”の連中に”チップ”を入れるまで、元の宇宙に似た歴史を辿ってきたはずだ。


 だとすると、稙宗はここ十数年でここまで技術が進化させたことになる……!!


「やることが一つ、増えた…。どうして伊達領だけ、ここまで技術革新ができたのか。確かめる必要がある」


「そりゃええが、難しいと思うで。こん技術は伊達家の中枢、要塞化した工場の中にだけあるもんじゃ。そこに侵入できん限り、技術の内容はわからん」


 なるほど…、いずれは突き止めるにしろ、今回は見合わせた方がよさそうだな。正利や龍信、そして孤児たちを無駄な危険にさらすことになりそうだ。


「わかった。技術の調査は諦めよう。今回は孤児の奪還が最大の目的だからね」


 そう言って、俺は操作パネルの中央にあるボタンを押した。これで寝てても桑折西山城に着くはずだ。


「よし!今度こそ出発だ。今回の戦いは相当、きついものになるだろうが、二人とも俺についてきてくれ!」


 俺がそう叫ぶと、正利はまぶしい微笑みを浮かべて、喜びを噛みしめながら言った。


「もちろんでございます。何がでてこようと私の拳で粉砕してみせましょう」


「稙宗公は怖いが、孤児の命は見捨てられんけぇな。オイラもできる限りは協力するで」


 相変わらず、龍信はひょうひょうとした態度だ。変なチームだけど、頼りになる。俺達の手できっと孤児を助けよう!


 地下室の天井が自動で開いていく、本当にどういう仕組みになっているんだろう。


『発射 五秒前』


 地下室内にアナウンスが流れた。録音した音声かな?いや…録音できる技術まであるのか?


「な、なんですか?今のは?他に誰かこの部屋にいるのでしょうか」


 正利が驚いてきょろきょろしている。アナウンスをした人物を探しているみたいだ。よくみると、壁にスピーカーみたいなものがあるな。


『四秒前・三・二・一……発射!!』


 アナウンスのその言葉とともに、音速船はマッハ3ほどのスピードで上空に打ち上げられた。マッハ3は時速3675㎞だから、十二分もあれば桑折西山城に着くのか。


 果たして俺を待ち受ける近衛軍とは…?そして稙宗はどうやって、超進化した科学技術手に入れたのか。


 俺は死闘を乗り越えた先で、その秘密を知ることになる。


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