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伊達の脅威と、秘めた才能

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1536年8月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳


【美濃国 稲葉山城 評定の間(仮)】


 四階にあった評定の間は、俺が床をぶち抜いたせいで、無くなってしまった。よって一階のできるだけ広い部屋を、仮の評定の間とした。


 ここには、俺と康孝・正利、長井規秀の他に当家の洗脳兵の一部、川並衆、長井家家臣の主だったもの。そして、今だ目を覚まさない龍人野郎がいる。


 龍人野郎は今のところ小康状態だな。あまり目を覚まさないようなら、細胞に刺激を与える必要があるか。


「では、今後のことについて指示する。長井家の者達も、俺の家臣になった以上、ちゃんと指示に従うように」


「ははっ!」


 規秀達は仰々しく土下座をして、服従を誓った。けど、条件によっては何を言い出すかわからないからな。ワンチャン再戦の準備もしておいた方がいいかも知れない。


「その前に、お前たちが使えてる”あのお方”ってのが、どこの誰なのか教えてくれ。そいつがどの程度でかい勢力かによって、お前たちにしてもらうことも変わってくるからな。」


 美濃にいる人口の八割を毒人間にしたなんて、ただごとじゃないからな。他にこんな状態になってる国がどれくらいあるのか。龍人と毒人間以外に、どんな遺伝子改変生物がいるのかも、知っておく必要がある。


「なるほど。分かりました。我らも、あのお方を倒すのに協力せねばなりませんしな。すべてをお話いたしましょう」


 規秀は覚悟を決めた表情で話し始める。やってることの規模から考えて、三人目の”四神の焼き印”は、ものすごい範囲を支配しているはずだ。


 もし本願寺の支配領域に匹敵するようなら、作戦の練り直しが必要かも知れない。


「我らの主…その名前は伊達稙宗公でございます」


 規秀がそう呟いた瞬間、突然龍人野郎が起き上がった。


「稙宗公じゃっと!?」


 おお!たくさん細胞を失って、わりと生死の境をさ迷ってたんだけど、普通に復活したな。良かった良かった。もっともやっぱり継続的な治療は必要だ。


 何より、失った両腕・両足は治らないからね。本願寺に義腕・義足を頼まないと…。


「おお、龍人野郎…って、そういえば名前知らないな。まあ、元気そうで良かったよ」


 俺が軽い感じで話しかけると、龍人野郎はかなり困惑していた。


「なんじゃ!オイラはどうしたんじゃ。…自爆はできなんだのか?」


「自爆は俺が止めた。体を分解して、ウランを抜き取り、再構成したんだ。腕や足の細胞は守り切れなかったが、臓器や脳は正常な状態にできたと思う」


 思う…が、絶対とは言い切れない。何か症状が出たら死につながる恐れがあるから、隙なく見守ってないとダメだ。


「自爆を止めたじゃと!?馬鹿な…とても、そねえなことが可能たあ思えん。なんちゅうやつじゃ」


 龍人野郎は俺の言葉に驚愕し、暴れまわろうとする。といっても両手両足が無いので、ゴロゴロと寝返りを打つだけになってしまっている。


「おいおい、あんまり無理に動くなよ。ギリギリで治したんだ。しばらくは絶対安静だぜ」


 もっとも手足がないんじゃ、動き回るってわけにもいかないだろうけどね。


 龍人野郎は、腕や足が無くなってしまった自分の体を見回す。一応、羽根は無傷で再生できているが、今飛んで逃げたら百mも持たずに墜落するだろう。


「なるほどのう。お主がオイラを助けたというわけか。一体、何をたくらんどるんだ?自爆を止めるまではわかるが、殺してしもうた方が後腐れがねえじゃろう」


「決まってるだろ!!お前がうわごとで言っていた、お前の事情だ。あれを聞いてしまった以上、俺はお前を救うしかなくなった」


「オイラを救うじゃと?どういう意味じゃ?」


 こいつを救うという言葉の定義は二つある。一つは命を救うことだ。俺が一度、細胞をバラバラにしてしまったせいで、まだ病状は予断を許さないからな。最低でも数か月程度は見守る必要がある。


 もう一つは、不幸・不遇なこいつの境遇を変えるということだ。龍人を生み出す実験のため稙宗に拾われ、他の孤児達を人質にされて稙宗に協力している。彼のためなら死ぬこともいとわない。


 せっかく能力があるのに、そんな人生を歩むのは悲惨だ。俺のエゴだろうけど、どうにかしてやりたい。


「俺から見ると、お前は不幸だ。成功するかもわからない人体実験をやらされ、孤児を人質にとられ命がけで戦っている。その状態を改善したいんだ」


「同情される覚えはないぞ。オイラは好きで稙宗様に従っとるんじゃ」


 一応、稙宗を尊敬する気持ちはあるみたいだな。それなら、確かに余計なお世話なのか…。だが、だとしてもひとつ問題がある。


「お前が稙宗に従うのは勝手だ。けど、孤児の命は見過ごすわけにいかない。お前が従ってくれなくても、俺は勝手に孤児を救うぞ」


 今、龍人野郎は動けない。龍人野郎が稙宗の元に帰らなければ、裏切ったか殺されたと思うだろう。


 どちらにせよ、龍人野郎が任務を果たせなかった時点で、人質になっている孤児達は皆殺しだ。


「孤児を救うたって…どうやって救うんじゃ?お前には羽根もないし、ここから稙宗公のいらっしゃる陸奥まで二百十里(約700㎞)ほどもあるんじゃぞ」


 稙宗は陸奥が本拠地なのか。まあ距離に関しては方法がある。俺は一時的になら音速で動けるからな。さすがに数十分も音速で動き続けると十日、眠り込むことになるけどね。


 一日に六分までなら、その日ぐっすり眠るだけで充分に回復する。音速は時速1225kmだから、一日に120㎞くらいは移動できるわけだ。


 つまり、一週間ほどあれば陸奥までたどり着くことは可能だ。上手くすれば、”龍人野郎敗れる”の情報が稙宗に届くより先に着けるかもな。


「俺は短時間なら音の速度を超えて動けるんだ。お前も見ただろ?放射能光線を分解したときだ。そいつを利用すれば一週間ほどで、陸奥に着くことができる」


 俺の言葉に、龍人野郎や規秀だけでなく康孝・正利まで呆れたような表情になっている。


「本当にものすごいやつじゃのう……。しかし、いくら行けるけぇって”あのお方”に逆ろうてまで孤児を救うっちゅうんか?」


「あのお方ってのは伊達稙宗か?あ、そうか。そういえば、さっき聞きそびれたぞ。稙宗はどのくらいの規模の大名なんだ?」


 規秀に聞こうとしたところで、龍人野郎が目覚めたから聞きそびれたんだ。陸奥に殴り込むにしても、その情報は必要だ。


「そうか。そういえば言っとらんかったのう。まあ、考えれば解るじゃろうが、美濃にまで手を出しとるんじゃ。当然、間の国はすべて支配しとる。」


 北陸は朝倉宗摘を大将とし、龍人を中心とした伊達空軍

 甲信・駿河は今川義元を大将とし、虎人を中心とした伊達陸軍

 関東は北条氏綱を大将とし、魚人を中心とした伊達海軍


 そしてみちのく全体を支配するのは、”幻想動物”を元にして遺伝子を改造し作り出された”超人”を中心とした”伊達近衛軍”


「待て待て待て!ちょっと待って!それじゃあ、伊達稙宗は日本の半分近くを制覇してるんじゃないか!」


 おまけに、大決戦で戦うことを想定していた勢力が、伊達家にとりこまれてる。こうなると、本願寺を将軍にするって話を通すには、伊達と戦って勝つしかない。


「そういうことになるのう。どうじゃ、それでも孤児を救い、稙宗公と敵対するつもりか?」


 日本の半分か…。とはいえ、そうなると天下を統一するためには、どうしても伊達家の領土を切り崩さないといけないんだ。


 それに、大決戦の準備はもう整ってしまっている。複数の中規模大名と戦うはずだったのが、一つの超巨大大名と戦うことになったわけだ。


 戦場になる場所は、やはり加賀の尾山御坊・摂津の石山本願寺・三河の井田野だろうな。でも、海軍や近衛軍が援軍にくるなら、戦況が予測しにくくなるぞ。


「決めた!やはり陸奥に乗り込むぞ。ただし、孤児を取り戻すだけじゃない。少し、先制攻撃をしておく必要が出てきた」


「なんじゃと!?日本の半分を支配する稙宗公に対して先制攻撃じゃって!?一体何をやらかすつもりじゃ?」


 そうだな、やはり相手の戦力を削る必要がある。超人と呼ばれてるやつらの内、幹部を一人か二人誘拐するのがいいだろう。


「敵の幹部を何人か誘拐する。幹部と言うくらいだから、下っ端のお前より強いだろうが、なんとかする」


 そうだ。なんとかできる…!そう俺の脳の高度計算機能が告げている……のだが、具体策がわからない。キーは正利…正利を連れていくことだ。そうすれば、幹部をなんとかできる。


 もしかしたら俺や正利をさらにパワーアップさせる何かがあるのかも知れない。だとすれば、この陸奥行きをやらない限り大決戦に勝つ術はないってことになる。


 大決戦に近衛軍の幹部が出てくる可能性は高いからね。


「なんとかって、一体どうするんじゃ。言っとくが幹部の強さはオイラとは比べ物にならんぞ」


「そうだろうな。だが、俺はどうもこれをやらなきゃいけないらしい。俺の勘がそう言ってるんだよ」


 俺はそういうと、正利の方を向き、頭を下げた。


「正利!これから行く場所は死地だ。勝てる見込みはないし、俺があれだけてこずった龍人野郎の何倍もの実力者がいるという」


 俺は、そこで言葉を区切る。正利は自分が声をかけられたことが信じられないみたいだ。俺も脳の高度計算機能に従ってるだけで、何故正利なのかはわからない。


 俺の感じている感情が、康孝や信秀に対するものと違うってことか…?よくわからないが…ツープラトン以上の何かを生み出せる気がする。


「だが、お前でなくては駄目なんだ。俺はお前を選ぶ。どうか、俺と一緒に陸奥に行ってくれ!」


 俺のその言葉に対し、正利は言葉もなく涙を流す。その整った顔が涙でぬれていく。たっぷり数分ほど泣いた後、正利はどうにか声を出した。


「も、もちろん…で…ございます。……どうか……私を連れて行ってください……!!」


 正利も土下座をし始めたので、お互い土下座をしあっているという妙な状態になってしまった。龍人野郎はクスクス笑っている。


「信孝様のために、命をかけられることをとても光栄に思います。今ならどんな敵をも、この拳で打ち倒してみせましょう!!」


 正利は拳を天に突き上げて、そう言った。最初会ったときは、おっとりしたイメージだったけど、俺のことになると急に元気になるよな。


 正利が張り切る中、康孝も俺に声をかけてきた。


「兄上、正利殿。辛い戦いになるでしょうが、頑張ってきてください。私は二人を信じてますぞ」


 康孝は笑顔で俺達を激励してくれた。でも、表情は取り繕っているが、陸奥行きに選ばれなかったことに少々不満そうだな。


「康孝、お前にも重要な仕事があるぞ。この美濃の国主となって治めてくれ。」


 信秀には尾張・三河方面を任せ、康孝には美濃を任せる。美濃は規秀が反乱を起こす可能性が残ってるから、半蔵を補佐に着ける形にする。


「わ、私が美濃の当主ですと!?」


「そうだ。半蔵を補佐につける。反乱が起きないようしっかり見張ってくれ」


「あ、ありがとうございます……まさか私が国主になるとは……。清康公の時代ですらあり得ないことでした」


 さっきまでとは打って変わって康孝は嬉しそうだ。よし、これでいい。準備は整った!さっそく陸奥に向かうぞ!

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