これが俺達のツープラトンだ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1536年 7月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【尾張国 聖王城 評定の間】
俺は脳の制御を開放し、ツープラトンを編み出し始める。
俺が黙りこくってしまったため、三人は妙な雰囲気になっている。何せ今のところ蓮淳は敵だし、何より縛られてるからね。
気まずい空気を打破すべく、康孝が俺に質問してきた。
「しかし兄上、先ほどからおっしゃっている、そのツープラトンとやら、具体的にはどんな技なのです?」
康孝の質問に対し、俺はすでにまとまりつつあるツープラトンのアイディアを説明する。
「ああ、この技は活人兵器、つまり相手を殺さず無力化することと、俺と康孝が全く同じ動きをすることが重要となる。」
まずはそこが基本だ。康孝達は納得したようなよくわからないような表情になる。そりゃあそうだろう。まだ肝腎なところを話してないんだ。
どうやって敵を無力化するか…ってところが一番大事だからね。
そう考えていると、蓮淳が急かすようにそのことについて尋ねてきた。
この爺さんはどうも、とかく珍しいことや新しいことに、随分と興味があるらしい。
「しかし、無力化と言ってもどうするのじゃ?お主と弟殿がどういう動きをすれば、長井の兵を無力化できる?」
俺は待ってましたとばかりに話し出す。思いついてから今まで言いたくてたまらなかったからね。
「ああ、そいつを聞いてくるのを待ってたよ。簡単に言えば、敵全軍が落ちるような大きな地割れを起こすんだ。足元にいきなり地割れが起きれば、当然敵は落ちて動けなくなるだろう?」
「この状態なら相手の行動を阻害しつつ、士気を大きく下げることができるはずだ。そうすれば後は適度に説得なり脅迫をして、こちらに降らせるだけでいい。」
俺はツープラトンの概要を話す。そう、敵を地割れに落とすことがこの作戦のポイントだ。
「「「地割れを起こす!?」」」
三人の声が重なった。まあさすがに言われて理解できるような作戦じゃないだろうね。
「全く兄上はいつもいつも……」
康孝は明後日の方向を向いてぶつぶつと言っている。
一方、信秀は楽しそうに聞いてきた。
「で、どうやって地割れを起こすんだよ?」
さて、ここが重要だ。地割れを起こす理論、どうして二人で同じ動きが必要なのか。俺は頭の中で考えをまとめ、わかりやすさを意識して説明した。
「どんな物質も原子という小さな粒が繋がりあうことでできている。だから、原子同士が繋がっている点を突くことができれば簡単に破壊できるんだ。」
ここがポイントだ。原子の継ぎ目、それが見えれば大抵のものは破壊できる。
そう言われて三人はあまりにも予想外の話だったらしく、あっけにとられた表情になっている。
「そして俺の脳…いや能力を使えば、その原子の継ぎ目を見極めることができる。」
脳の制御を開放すれば…と言おうと思ったが、このことは蓮淳にはバレない方がいいな。とりあえず地割れを起こす方法を説明できればいいだろう。
「原子の……継ぎ目………?」
三人は理解することを拒否したように、ポカンとしている。当たり前だ。この時代の科学はそんなに進んでない。原子という概念はまだないはずだ。
「説明するより、実際やって見せた方が早そうだね。」
俺はそう言って脳の制御を開放した。そして、足元にある床板の”原子の継ぎ目”を見極め、指で突いた。
サラ………
床板だったものは、見えないほど小さな木くずとなり下に零れ落ちた。
「「「はぁ!?」」」
また三人が驚愕する。俺だって、脳の高度機能計算に目覚める前に見せられたら、マジックの類だと思っただろうからね。普通に考えたら触ったものが分解されるなんて、ありえないよな。
だが、俺にとってこれは物理的に可能な技術に過ぎない。
「つまり直接触れることさえできれば、なんでも崩せるんだけど…、さすがに戦だとその触れるのが難しいからね。これだけだと余り実践向きじゃないんだ」
俺の言葉に蓮淳が反応する。地割れを起こす方法を早く知りたくてウズウズしているようだ。
「つまりこれだけでは、地割れは起こせぬのじゃな?」
蓮淳が確信をついてきた。そうだこれだけじゃダメだ。地割れを起こすには、この技術を応用する必要がある。
「ああ、床板や大岩ぐらいなら、指で突くだけで壊しようがあるが、地面となると大きすぎて手作業じゃ無理だ。手榴弾を使う必要がある」
そう言った俺の言葉に対して、康孝が突っ込んできた。呼吸が浅く、顔は汗まみれだ。どうも想定外のことを言われ過ぎて、相当混乱しているみたいだ。
「し、しかし、手榴弾で爆破するとしても、せいぜい周り一帯が壊れるぐらいで、地割れを起こすのは不可能ではありませんか?」
「普通にやったらそうだね。けど地面にも”原子の継ぎ目”はあるんだ。そこを突けば地割れも起こせる。」
そう言って、俺は地面の”原子の継ぎ目”について詳しく説明した。
「地面は石や砂なんかが無数に集まってできてるわけだけど、この石や砂にも当然、”原子の継ぎ目”がある。そして地面全体を見ると、小石や砂の”原子の継ぎ目”が集まった、極端に脆い層があるんだ。」
「この地層は脆くてヒビが入りやすいので、”亀裂脈”と呼ばれている。”亀裂脈”に手榴弾で強烈なショックを与えることができれば、想定した場所に地割れを起こすことができるんだ。」
集中して語る俺の話に、三人はどうにかついてこられているらしい。本当にできるか信じられない風ではあるが、理屈は分かるみたいだ。
そして信秀が、一番重要なところを聞いてきた。
「しかし、それのどこがツープラトン…併せ技なんだ?」
そこだ。この技がツープラトンでなければならない理由…それは亀裂脈の破壊は二人じゃなきゃできないからだ。
「そこなんだ。いくら亀裂脈が脆いとは言っても、ちょっとやそっと地面を爆破したくらいじゃ、地割れが起こるほどの衝撃は与えられない。」
「亀裂脈の最も弱い点に、全く同時に手榴弾を複数回爆発させることで、亀裂脈に連鎖的にヒビが入り、地割れを起こすことができるんだ。」
だが、問題はまだある。位置とタイミングがシビアなんだ。亀裂脈の最も弱い点は半径一ミリほどの円だ。またタイミングにしても、0.1秒ずれても連鎖的破壊は起きない。
「しかし、この最も弱い点は一寸もないほど小さいんだ。また全く同時というのも刹那ほど遅れてもダメだ。」
だから脳の高度計算機能を使わないと、破壊する位置やタイミングを合わせることができないんだよね。
「だから、俺と康孝、二人の力が必要なんだ。そして、そのためには康孝自身が一目で地面の亀裂脈を見抜けなければならない。…つまり、俺と同じ能力に目覚める必要があるんだ。これは一ヶ月もあれば可能だ。」
俺みたいに滝に落ちるなんて修行はしなくてもいい。最初の一人さえ脳の制御を開放できれば、もっと安全な修行法を考えてあるんだ。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくだされ!ワシがそんな人外めいた能力に目覚めなければならないのですか!?」
康孝が随分慌てている。ああ、そうか修行がキツイと思ってるんだろうね。大丈夫、俺の考えたプランは完璧だ。確実に、俺より楽に短期間で脳の制御を開放できるようになるよ。
「ああ、問題ない。要するにひたすら瀕死から蘇ればいいんだからね。」
「人間を構成する原子にも繋がりが弱い部分がある。その弱い部分から、微妙に外した位置を攻撃すれば、死にかけてギリギリで生き残るはずだ。しかも急所を外してるから、しばらくすれば回復するよ」
小一時間もすれば、完全な状態に回復するはずだ。つまり仕事や睡眠時間を除いても一日五~六回は試せるだろう。
「そ………その様な訓練をワシがするのですか…」
康孝はすごく不安そうだ。心配するな!俺が直接指導してやるんだ。絶対に脳の制御を開放させて見せる!
「まあ、大変だろうけど上手くいけば美濃が手に入る。それに大決戦に勝てば、政権の中枢に食い込めるからね。」
まずはここで、美濃を手に入れることだ。
そして来年か再来年起きる、反本願寺との大決戦で今川義元を討ち取れれば…!三河はもちろん遠江・駿河も手に入るかも知れない。いや、駿河は武田か北条に先に奪われそうかな。
これなら天下も遠くない!と俺は多少楽観的になっていた。まさか大決戦に三人目の”四神の焼き印”が参加してくるとは思ってなかったからね。




