大決戦に向けて~恐るべきライバル達~
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1536年 7月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【尾張国 聖王城 評定の間】
半蔵が蓮淳を連れてくる間、俺は交渉のことについて考えていた。
この交渉で一番重要なのは本願寺に幕府を開かせることだ。つまり、本願寺自身が天下に向けてそう宣言し、朝廷から征夷大将軍の位を賜わるよう交渉する。
それをやってくれるように、蓮淳を説得するわけだね。
そしてもう一つの目標が、蓮淳から異星人の情報を引き出すことだ。俺の予想では”四神の焼き印”のやつらを改造したのは異星人ってことになってる。
だから”四神の焼き印”の関係者は異星人の情報を持ってる可能性があるわけだ。まあ、これは可能性だからね。もし、蓮淳が何も知らなそうなら、直接証如に聞くしかないだろう。
そんなことを考えてると、半蔵が蓮淳を連れてきた。信秀や康孝もかしこまった表情で俺を見守ってくれている。
さあ、交渉の始まりだ。
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「お連れしました」
半蔵が蓮淳を連れてきた。蓮淳は後ろ手に縛られており、そう簡単には逃げ出せない状態だ。もっとも、半蔵が横についてるんじゃ拘束がなくても逃げるに逃げられないだろうけどね。
そんな状態なのに、蓮淳は不敵な笑みを浮かべ、飄々とした態度で話し始めた
「ほほう、お主が聖王か。お初にお目にかかる。」
十日前に二人で空のダイブをしたんだが…。まあ、初めましてみたいなもんか。
「ああ、俺が聖王の松平信孝だ。」
俺は自己紹介をした後、言葉を少し区切り本題を切り出した。
「此度の戦、聖王家が勝った。本願寺門徒の生き残り六千人は俺の部下になることを誓ってくれたからな。完全勝利と言っていいだろう」
もっとも信秀の”高くてでかい声”が上手くいくかどうかは博打要素もあったから、実際には薄氷の勝利だけどね。
「門徒兵が全員降った?馬鹿な、彼らは門徒の中でも信仰心の強い者を選りすぐったのだぞ。そう簡単に降るはずもあるまい。」
蓮淳がまくしたてるが、この件については確認がとれてる。信秀は音を感じ取る能力で、人の声の調子や震えなどから、本当に屈服してるかどうかわかるんだ。
どんなに信心深いやつらか知らないけど、信秀の耳を信じるなら門徒兵達が俺に降ってるのは間違いない。
だから、俺は余裕たっぷりの表情を見せて、蓮淳にそれを説明した。
「悪いが、ウチは特殊な洗脳法を持ってるからね。信心深い門徒を降らせるくらいは、わけないさ。最も、幹部連中は別だけどね」
とにかくお互いの現状を把握し合う必要がある。そうでなければ脅すどころじゃない。蓮淳は完全に孤立している上に、このまま行くと本願寺自体がピンチってことを理解してもらわないといけない。
「洗脳法じゃと…?それもお主の能力だというのか?」
蓮淳が不思議そうな顔で尋ねてきた。
蓮淳に見せた俺の行動は、”超高速で動く”ことや”高い場所から着地する”とか、”門徒兵に気づかれずに手榴弾をばらまく”とか色々あるけど…。これらはすべて”暗殺者としての記憶”を元に修行して身に着けた能力だ。
"四神の焼き印"のやつらみたいに攫われて改造されたわけじゃないけど、それを教えてやる必要もないよね。
「まあ、そう思ってもらって構わないよ。まだまだ色々隠し玉はあるけどね」
俺は落ち着いた風を装って、蓮淳にそう言った。実際あまり駆け引きは得意じゃないから緊張しているんだけどね。
「ほほう。やはりお主は興味深いのう」
そこまで言ったところで、お互いの言葉が途切れた。よし、ようやく本題に入れそうだね。それからしばらく、お互い話を切り出すタイミングを伺って、沈黙が続いた。
そこへ出し抜けに信秀が叫んだ
「お前ら、黙ってちゃわかんねぇだろうが!」
俺はびっくりして飛び上がったが、蓮淳はおかしそうにクスクスと笑っている。
信秀は空気の読めないやつではない。俺たちが話を進めやすい様に気を使ってくれたのだろう。
俺は信秀の方を向き、笑顔で答えた。
「ああ、そうだな。何にせよ、話し合わなきゃしょうがないよね。こちらの要求を伝えないと」
俺がそういうと、蓮淳は面白そうな顔で
「ほほう。聖王は、この勝ち戦で何を望まれるのかな?」
本来なら、本願寺が搾取されるような交渉なのに、俺と話す蓮淳はなんだか楽しそうだ。俺達が良くも悪くもあんまりにも変なことをするから緊張がほぐれてきたのかも知れない。
「聖王家は本願寺に……幕府を立て、武家社会の長になることを要求する!」
俺が勢いよく叫ぶと、蓮淳は喜びと驚きが入り混じったような顔をして、高い声で叫んだ。
「ほおっ!!」
そして蓮淳はワクワクした表情になり、体を乗り出して俺の話に耳を傾けた。幕府を開けと言われて嬉しいというよりは、俺の突拍子もない話に興味津々と言った感じだ。
俺はできるだけゆっくりと、わかりやすいように本願寺の状況と、取るべき対応を説明する。
「俺達が兵を吸収したせいで、本願寺にはほとんど兵が残ってないはずだ。それに皆殺し政策のせいで兵糧も少ない。」
「もし、今よその勢力に攻め込まれたら、マシンガンなどの近代兵器が流出してしまう。もし近代兵器同士での大戦争になれば、畿内周辺の人類が絶滅するかも知れない」
俺の”人類絶滅”という言葉を聞いて、蓮淳は眉唾に思ったのか、訝しむような表情をした。だが、話自体は理解しているようだ。
「俺はそうなることを防ぎたい。そのために本願寺に介入し、本願寺が他所から攻められたときに、共に戦いたい。」
蓮淳はニヤニヤした表情をしながら、頷いた。
「なるほどのう」
俺はからかわれてるような気持ちになったが、ともかく話を続けた。
「俺の作戦としては、証如が将軍として惣無事令を出し、大名の私闘を禁じる。その上ですべての大名に対し、石山に集まって証如へ忠誠を誓うよう手紙を出す。」
「そうすれば、周辺の大勢力は、それに反発して大勢力が連携して攻め込んでくるだろうから、本願寺と俺達でそいつらを叩きのめす!」
「そうすれば本願寺の領土もウチの領土も増えた上で、本願寺は本当に幕府を運営できるだけの実力を得られるってわけだ」
そこまで聞いた蓮淳はいきなり大声をあげた。
「大勢力をおびき出して、叩き潰すじゃと!?」
「はっはっはっ!!はははははっ……はぁ…はぁ…くぅ…」
そんなに笑うようなことを言っただろうか。この作戦は少なくとも俺にとっては最善のもので、信秀達もそこは同意してくれている。
「俺の作戦はそんなにおかしいのか?」
俺の質問に対し、蓮淳は少しせき込んだ後、息を整えて答えた。
「い、いいや。お主の作戦は悪くないぞ。ただのう、そのような考え方をする者には長いことあって無かったから、あんまりにもびっくりしたんじゃ」
蓮淳は楽しそうな顔で、さらにまくしたてる。
「だってそうじゃろう。大勢力は強い。戦えば死ぬかも知れぬ。普通はあえて手を出そうとはせん。相手が一勢力だけでもそうじゃ。」
「それを周囲に三~四つはある、天下を掌握してもおかしくない勢力を一気に相手どろうとは……並みの胆力では考えつかぬ発想じゃ」
「まして実際に行動に移すなど、少なくとも前例はなかろうの」
一気に話したので、蓮淳は息を切らしはぁはぁと激しく呼吸をしている。
確かに一つでもめちゃくちゃ強い勢力といくつも戦うのは無謀だ。だが、俺達には能力と武器があるからな。
信秀の能力といくらかの兵だけで、勢力のうち一つは相手どれる。そして俺と康孝がツープラトンの活人兵器を編み出せば、もう一つは相手どれる。あと一つは本願寺に自分でなんとかしてもらうとして、一度に三つまでは戦えるわけだ。
「今の俺達ならそれぞれの軍を、信秀軍・俺と弟の軍・そして本願寺に分ければ、三つまでは戦う自信があるよ。」
そこまで考えて、俺は周辺にどんな大勢力があるかあまり把握してないことに気づく。尾張の周りだと今川や斎藤がいそうだけど…。
「三つのう。今、本願寺が惣無事令を出せば、反発する大勢力は四つあるぞ。」
【周囲の大勢力】
1.本願寺に畿内を追われたあと瀬戸内の海賊すべてを従え、四国を統一した、”四国の覇王”阿波の≪三好長慶≫
2.何度となく加賀一向一揆の侵攻を食い止めた、門徒殺しの鬼人“古今無双”越前の≪朝倉宗滴≫
3.権謀術数の毒で美濃を蝕む、”人食い蝮”美濃の≪長井規秀(斎藤道三)≫
4.足利が絶えれば吉良が継ぎ、吉良が絶えれば今川が継ぐ。最も将軍に近い家格“王者の血脈” ≪今川義元≫
「今川はお主が隣接しておるのじゃから、本願寺だけなら戦わなくてすむがの。もっとも、本願寺だけで戦えるのはせいぜい一勢力だけじゃがな。」
なるほど。確かに少なくともこの四つの勢力は、”石山に来て忠誠を誓え”と命じれば反発しそうだ。とは言っても、聖王家で対応できるのは二勢力までだよな…まして、美濃で邪魔されたら越前までいけないし…。
「待てよ…」
俺は皆に聞こえるように、わざと少し大きな声でおおげさに言った。
「できる!!できるぞ!今の俺達なら!」
蓮淳や信秀達が何事かと目を見合わせる。
「この数か月、収穫が終わって他所が農民兵を動かせるようになるまでに…、俺は稲葉山城を奪って、美濃を統一できる!」
ついに俺達の連携を見せるときがきたね!墨俣一夜城を建てるのはもちろんだけど…それだけじゃないぞ!俺と康孝のツープラトン・活人兵器で誰も殺さず!稲葉山城を奪ってやる!
「ちょっと待っててくれ、今からツープラトンを編み出すから」
あっけにとられる三人をしり目に、俺は脳の制御を開放し、ツープラトンの内容と修行法を考え始めた。




