大虐殺を防ぐ戦い
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1536年 7月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【尾張国 聖王城 評定の間】
俺達は評定の間へと場所を移し、今後の方針を考えることにした。ツープラトンを生み出すのは最優先だが、その前にこの戦をどうおさめるか考えないといけない。
「それで?蓮淳達、幹部連中はどうなったんだ?」
実は俺の洗脳法は、一定以上意思の強い人間には通じない。元の宇宙では、もっと確実な洗脳方法もあっただろうがアナトミーとかは、今の技術じゃ試せないな。
蓮淳達は坊主で信仰に誇りを持っている。こういう意思が強靭な人間は、監禁して刺激を絶ったり、恫喝したとしてもいつまでも恐怖や混乱に耐えきってしまう。
だからと言って、より強烈な拷問をしたとしても、どこまでいっても屈服しない。結局、これ以上やったら肉体的ダメージで死んでしまうというところまで来てしまう。
殺しちゃ意味ないからね。結局、洗脳できないわけだ。
だから幹部連中はきっと、門徒兵とは別扱いにしてるだろうと思って聞いたみた。
信秀もこの質問は予想していたのか、落ち着いた雰囲気で答え始めた。
「蓮淳達はこの城の地下牢に閉じ込めてるぜ。幹部を洗脳するかどうかはお前の判断を待とうってことになってな。」
「ああ、やっぱりそうか。実はあの洗脳は意思の強すぎる奴には通じないんだ。いくらやっても平気だったり、やりすぎると死んじゃったりするからね。」
俺と信秀と康孝は頷き合った。この洗脳法の特性は皆、おおよそ理解しているみたいだ。
しかし、蓮淳が無事で良かった…。あやうく初っ端から、異星人の情報源がゼロになるところだったよ。
つまり現状は、敵の幹部(実質当主)をこっちが押さえてるってわけだ。”お話合い”には有利な状況だね。そうだ、戦争は和睦が成って初めて完結する。”異星人”についての情報提供も含め、本願寺との和睦の条件を決めないといけない。
普通に考えれば、和睦の条件ってのは勝った側が何を奪うか、負けた側が何を奪われるか決めることだ。けど、ちょっと今回は事情が違う。
事と次第によっては、日本人が絶滅するかも知れない異常事態だ。単純に領土と賠償金を奪って終わりってわけにはいかない。
俺が神妙な顔つきで考え込んでいると、康孝がこちらの様子を伺いながら話しかけてきた。
「それで兄上、これからどうするおつもりですかな?本願寺に侵攻するには兵糧が足りぬと存じますが」
そう訊ねた康孝に対し、俺はちょっと高めのテンションで答えた。
「ああ!そいつは、目が覚めてからずっと、考えてたんだ。聖王家と、本願寺にとって最良の方法をな!」
何といってもこのままじゃまずいからな。今、本願寺はウチを攻めたせいで兵がほとんどいないし、門徒以外を皆殺しにしてきたため、農民が極端に少ない。
弱体化した本願寺の領土に、他の勢力が攻め込んだとしたら…最悪だ。
そうなったら、本願寺以外の勢力がマシンガンや手榴弾、そしてその工場を手に入れてしまう。
そしたら近代兵器同士で大虐殺だ。確実に死人は増える。それでなくとも、これまでの皆殺し政策で、近畿地方の人口は10年前の1/10になってるんだしね。
そこから今度はお互いがマシンガンを持って殺し合うんじゃあ、下手したら近畿地方の農民は絶滅してしまう!
そうだ…兵士が専門化してないこの時代だからこそ、まずい。国を守るには農民を投入するしかないからな。
その農民兵同士がマシンガンで撃ちあって激減し、また農村から無理にでも徴兵して投入される…。そんなことを続けていたら、本当に絶滅してしまう。
単に人が死んでほしくないという倫理面の問題もあるが…。実利で考えても、農民が死に絶えて、その土地の生産能力がゼロになるってのはまずい。もし占領できたとしても他所から移民を入れないと米が採れないんじゃ、コストも手間も甚大になるからね。
それにいずれ日本全体に武器が広まっていけば、日本全体でマシンガンの撃ちあい、手榴弾の投げ合いだ。日本人の人口は激減するだろう。
活人兵器の可能性を見出した今、日本をそんな状態にするわけにはいかない。何より、この阿鼻叫喚の地獄を防げるのは俺だけなんだ!
そうさせないためには、多少大変でも本願寺がよそから攻め込まれないよう、俺達・聖王家が力を貸すしかない。今、やつらが攻め込まれるのは双方にとってデメリットが大き過ぎるからね。
そのための活人兵器だ。本願寺に敵対する勢力を信秀の”声”と、俺と康孝の”ツープラトン”で撃滅する…。それができればウチは領土を増やし、本願寺は他所から領土を奪われずに済む。
もちろんそれに応じた対価はもらう。高くつくぜ。何せ今の本願寺は、俺達の助けがなきゃすぐにでも滅びる運命なんだからな!
そうさ。せいぜい俺達が成り上がるのに利用させてもらうよ。そしてこちらが力を付け、最低限の犠牲で本願寺領をそっくり乗っ取れるところまできたら、潰してしまえばいい。そうすりゃ天下統一も目前だな。
だって、どの道やつらが門徒以外皆殺しという、危険思想を持った集団であることに変わりはないからね。いつまでも生かしておいてはそれこそ、人口の激減に繋がるだろう。
俺がまた、自分の世界で考えを巡らせていると、信秀が不思議そうな顔をして聞き返してきた。
「互いにとって最良の案だと?」
信秀は“互いにとって”、という表現を不可解に感じたようだ。まあこの時代の交渉と言えば、相手のことなど考えず奪いつくそうとするのが当たり前なんだろうね。
俺は二人の方を向いてにっこりとほほ笑むと、起きてからずっと準備していた台詞をキメ顔で言った。
「ああ、そうだ。天下泰平のため無駄な争いを避け、最大効率で強くなるために…」
「俺は本願寺に幕府を開かせる!!」
そう言った俺の言葉に対し、信秀は”そうでなくちゃ”と言いながら手を叩いて喜んでいた。一方、康孝は疲れ切った顔で”またですか…”と言っていた。
俺の作戦はこうだ。本願寺が幕府を開いても、周辺にはまだ大勢力がいくつもある。そんな中で俺は本願寺に”惣無事令”を出させ、大名同士の私闘を禁じさせる。
その上で各大名家へと手紙を出し、石山本願寺に登城して証如に臣下の礼を取るよう命令するわけだ。
そうすれば、本願寺の弱体化を知ってる連中は、連合して本願寺を攻めようと考えるだろう。その時がチャンスだ!上手く誘導して本願寺VS反本願寺連合の大決戦に持ち込む。天下分け目の大戦ってわけだ。
そいつに勝てば、本願寺に逆らえる勢力は遠方だけってことになる。おまけに本願寺は完全に勢力を取り戻したわけじゃないから、聖王家からの要請に簡単には逆らえない。
つまり大決戦に勝ちさえすれば、俺は天下人にかなり近いところまで行けるってわけだ。
そのためにも!今からの交渉が重要だ。蓮淳を説得して幕府を開かせなくては……
俺は、まだあっけにとられている信秀達を尻目に、半蔵に命令した。
「蓮淳と話がしたい。評定の間に連れてきてくれ」




