殺人兵器と活人兵器
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1536年 7月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【尾張国 聖王城 聖王寝室】
俺は重い頭をどうにか目覚めさせる。
「ああ…どうも二度寝したみたいだね」
これからの目標を見定めるために、脳の制御を開放したせいで、またしばらく眠っていたらしい。まずいな。随分、政務をほったらかしにしているはずだ。聖山城の戦いからどれくらい経っているんだろうか。
俺は、人を呼ぼうとして辺りを見回す。ほどなくしてどこからともなく、半蔵が現れた。
「お目覚めになりましたか」
そういいながら、半蔵は部下に合図して、信秀達に俺が目覚めたことを伝えるように命じた。
「ああ、状況を教えてくれるかい?あれからどうなったんだ?」
やはり聖山城防衛戦はこっちが勝ったらしいな。問題は信秀の音響兵器がどの程度の効果だったかだ。皆殺しにしたのか、いくらか生き残ったのか…。
「はい、詳しい説明は信秀殿達にしていただくとして」
「聖山城防衛戦から、すでに十日が経っております」
「十日!?俺はそんなに寝てたのか!?」
まずいな…十日もあれば戦況は動く。逃がした兵力によっては再戦もありうるぞ。敵や俺が手榴弾を投げたせいで、今の聖山城はボロボロだ。とても戦える状態じゃない。
「戦はどうなったんだ?蓮淳は?一万いた門徒兵はどうなった?」
俺がそう半蔵に聞いたところで、信秀と康孝が寝室に入ってきた
「兄上!」
「信孝!」
二人の声が重なる。随分心配してくれたみたいだ。こんな時代だが、二人との間には絆のようなものを感じる。俺からすれば出会って間もないはずなんだけどね。
「二人ともすまない。随分と心配かけたみたいだね。だが、あの場はああするしかなかったんだよ。」
あの戦いで俺は脳の制御をギリギリまで開放して、最善策を探り続けた。その結果、戦には勝ったが十日も眠り続けることになり、皆に心配をかけてしまった。
「謝るこたあねえよ!お前のお陰で俺は新しい技を編み出し、本願寺を無力化できたんだからな!」
本願寺を無力化?殺さなかったってことか?しかしじゃあ、倒した後の門徒兵はどうしたんだ?それに俺が連れてきた蓮淳は?
「無力化か…。俺は寝てたから、あの後どうなったか知らないんだけど、説明してくれるかな?」
「ああ、それなんだが。お前が倒れた後すぐに、俺はお前に教えられた"高くてでかい声"を試してみた。そして六千人ほど残っていた門徒兵は、全員倒れた」
「だが、動物達と一緒に調べてみたところ、倒れた門徒兵達は気絶しているものの全員生きていた。俺は殺すつもりで、でかくて高い音を出したんだが…一人も殺せなかったんだ」
殺す意思を込めたのに一人も殺せなかった…?妙だな?信秀の能力なら込めようとした意志に応じて音の大きさや高さが決まるはずだ。加えて、そもそも"高くてでかい声""を出そうと意識していたんだしね。
あのとき俺が脳の高度計算で算出した、信秀の出せる騒音は220デシベルだ。そんな音を聞いて生きていられる生き物なんて、少なくとも元の宇宙には存在しない。
信秀の能力に、何か俺の知らない仕様があるのか?それとも、信秀は心のどこかで人を殺したくないと思ってるんだろうか…。
「その後、俺達は六千人の門徒兵を動物達に見張ってもらって厳重に拘束し、洗脳を施すため尾張の洞窟やほこらなど、密閉された空間に閉じ込めた。」
「そのまましばらくは、何の刺激も与えず放置してたんだが、康孝の思い付きで、ある程度憔悴したやつには、俺が絶えず"脅す意思"の声をかけ続ければ恐怖により洗脳が早くなるんじゃないかと考えて、試してみることにした」
「こいつがかなり上手くいってな!今じゃ六千人の元門徒兵がお前の忠実な僕になったんだぜ!」
信秀の声で洗脳…?そうか本来、俺の洗脳法は拘束され、何も刺激が与えられないことによる恐怖と混乱によって精神ダメージを受けたところに、こちらの都合が良い情報を刷り込むというものだ。
つまりある程度、放置した状態から信秀の能力で甚大な恐怖を与えれば、それだけで精神ダメージが一定量に達するってことか。
「おお!それはすごいね!それだけの兵力がこっちについてくれたら、今後の戦いは随分有利になりそうだ」
何せ、この十日間で六千人も洗脳できたなら、これからは基本的に敵兵を捕まえれば十日未満で洗脳できるってことだ。
上手くすれば城を囲んで、信秀に"絶望の歌"みたいなのを歌ってもらうだけで城が落とせるかも知れない。少なくとも防御機能が大きく低下するだろう。
本願寺が"殺人兵器"なら、信秀は"活人兵器"ってとこだな。人を殺さず無力化させることができれば、敵の兵を吸収できる。これと農業改革が合わされば、無尽蔵に兵を増やせるね。
そこまで考えて俺は、体に電流が流れたような衝撃を受けた。
「活人兵器………!!」
俺はたまたま思いついた自分の思考を言葉にした。人を殺さず、無力化して従えるという発想に思った以上に強く心を打たれたからだ。
“人が死ななくて済む”その可能性があるのか?
俺は戦国時代なんだから、殺し殺されるのが当たり前だと思っていた。しかし考えてみれば殺さず従えるのが一番効率がいい。
それに………
俺は昔のことを思い出していた。昔と言っても俺の記憶はチップに入れられたもので、本当の経験ではないらしいけどね。
暗殺者としての記憶では、俺は教団の言うままに数限りない人間を殺してきた。"たかし"の記憶でだってしずくを殺してしまったし、刑務所では桃の死を食い止められなかった。
もし!もし”誰も死なないで済む”可能性があるなら、俺は誰にも死んでほしくない。
もちろん殺さなきゃこっちが死ぬなら話は別だが…、信秀の活人兵器は勝って、人を生かすことができる。
だから…それだったら!
「俺も…俺も活人兵器と呼べる技を編み出したい!」
俺が突拍子もないことを言い出したので、信秀と康孝が呆れる
「また、何を言い出したんだ?」
「兄上のいつもの発作ですね。…けれど、兄上の発作は常に松平家を良い方へ導いてきました」
二人は呆れた表情だが、俺は自分の思い付きに自分で心震えていた。俺も活人兵器が使えたら…。より多くの人間を殺さず従えることができる!
そうだ、しずくを生き返すという目標を、他の誰かを殺さずに達成できるんだ!
「そうだ!俺の発作も捨てたもんじゃないだろう!!」
俺は大声で叫ぶ。活人技の片鱗はすでに見えている。
それは俺の記憶の中にあった。
俺は"たかし"の記憶で茂・しずく・桃という大親友を作ったが、しずくと桃を死なせてしまった。暗殺者の記憶では、共に戦う仲間はいたがお互い洗脳されて教団のために戦ってたんだ。そんなのは本当の仲間とは言わない。
俺は今、この戦国時代で信頼できる仲間を得た。信秀と康孝だ。そうだ!仲間だ!今の俺が、"アンドロイドの信孝"が持っている最強の武器だ。
「だから俺の使う、新奥義は……ツープラトンでなければダメだ!」
「ツープラトン!?」
信秀と康孝が素っ頓狂な声を上げる。
そうだ!道は見えた。これならいけるはずだ。食い止めて見せる。
本願寺が破れたことによっておこる、未曽有の危機を…近代兵器同士の虐殺劇を!
俺と仲間のツープラトン・活人兵器で!




