しずくを生き返らせることは不可能ではない
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1536年 7月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
[主人公サイド]
「でゅあああああああっ!!!?」
俺はけたたましい叫び声をあげて目覚める。
「また、あの夢か…」
滝修行で最初に2050年の記憶を見てから、眠る度に夢に同じ映像が出てくる。
未来の知識で言うなら、本来埋め込まれてる三十一歳までの記憶チップと、これまで封印されてた六十一歳までの記憶チップの間で同期をとってるって感じかな?
“俺は人間じゃない”
この夢を見るたび、その事実を突きつけられているようで、はっきりいって不快だ。だが向き合わないわけにもいかない。これからの、俺の人生に関わってくる重大事項だからね。
正直にいえば、俺が他の宇宙から送り込まれたアンドロイドなんて、にわかには信じがたい…。だが俺が見る未来の記憶は極めて鮮明で、どう考えても現実にあったこととしか思えない。
「認めるしか、ないってことかな」
だとしても、俺はアンドロイドとしてこれからどうしていけばいいんだ?
俺はアトランティック・キーを開くために、本物の俺と茂によって、”元の宇宙”から”この宇宙”に送り込まれたのだという。だがアトランティック・キーについてのヒントはゼロだ。どうやったら開けるかさっぱりわからない。
それより何より、それを開けばこの宇宙のエネルギーが、すべて元の宇宙に流れ出してしまいこの宇宙は滅びてしまう。当然、俺も死ぬだろう。
だから、前提として本物の俺や茂の思惑に乗ってやるわけにはいかない。しずくを生き返せる可能性がありながら、それができないってのは身を引き裂かれるほど辛いことではある。
だが、今の俺は康孝や信秀達、ここでの家族を護りたい。しずくを失ったことがあるからこそ、これ以上大切な人を奪われるのは嫌だからね。
じゃあ、どうするか…?何にせよ、俺がこれまで目標としていた元の時代に帰るという目標は絶たれたんだ。何せ元の時代なんてない。そもそもタイムスリップしてきたわけじゃなかったんだしね。
もし元の宇宙に戻れたところで、元の宇宙は2050年以降のはずだしな。
だったら俺はこの世界で生きていく上で何を望むんだ?確かに康孝や信秀、半蔵や洗脳兵達は大切な仲間になった。かけがえのない仲間を護るため、戦っていくのは重大な目標だ。
だが、その場合天下を目指す必要があるのか…?本願寺はあれだけでかいんだし従属してしまえば、本願寺が幕府かなんかを開いたときに、上手く長いものにまかれていけるんじゃないだろううか?
…………何だ?何かもやもやする…。だがその正体が掴めない。
俺は脳の制御を開放する。脳の高速演算機能により現状が整理されて……。答えが…出ない!出ない…どうやっても…出ない!!
高速演算機能なら、何でも最適行動を出してくれるんじゃなかったのか?
判断するのに材料が少なすぎたり、俺が余りにも迷ってると通用しないのか?それとも…高速演算機能でもわからない見落としが……。
俺は脳の機能をフル回転させて、可能性を探る。俺が生きる意味を、たどり着き得る最善策を探す。1分近くが経ち頭痛を感じ始めたとき、俺の耳に聞こえるはずのない人の声が聞こえた。
――――システムメッセージ――――
システムNO.1からシステムNO.2へ
『BH4231 ゴクウ ウチュウツクレ』
はあっ!?し、茂…!?い、いや茂がいるはずない。そもそも本物の俺と茂は、他の宇宙に行く術が無かったからこそ、俺達アンドロイドを送り込んだんだ。
だったら今のは…?いや待てよ。今確か…”システムNO.1からシステムNo.2へ”って言ったか?
確か未来の記憶では、茂の記憶を持つアンドロイドをNo.1アンドロイド・茂と呼び、たかしの記憶を持つ俺をNo.2アンドロイド・たかしと呼んでいたはずだ。
じゃあ今話しかけてきたのは、まさかNo.1ってやつか…?茂の記憶チップが埋め込まれているなら、俺に協力してくれても不思議はないだろうけど…。
しかし…アンドロイド同士にしても他の宇宙と交信する方法なんて、あるとは思えないんだが…。
少なくとも、夢に出てきた本物の俺達はそんな方法は知らないようだった。他の宇宙に送り出したアンドロイドから情報を回収するには、もう一度ブラックホールの目を抜けて、元の宇宙に帰ってきてもらう必要がある。
だったら今のは何だったんだ?
いや、待てよ…。確か…。そうだ。ここに来てすぐ、井田野の戦いの準備を始める前に確か…。茂の声を聞いた覚えがあるぞ!あの時は幻聴か何かだと思ったが。
――――システムメッセージ――――
システムNO.1からシステムNO.2へ
“オレ………モ………マッ………テル”
“俺も待ってる”
俺が未来に戻ると決意したときに、確かに”俺も待ってる”という声が聞こえた。しかもシステムNO.1からシステムNO.2へ…と確かに言っていた。あのときは意味がわからなかったが…。
あのときも茂が…いや、茂の記憶を持ったアンドロイドが答えてくれていたのか。
いや、待て。一旦落ち着こう。とりあえず茂のアンドロイドが俺にメッセージを送ってくれたとして、このメッセージはどういう意味なんだ?しずくを生き返す方法を教えてくれてるのか?
『BH4231 ゴクウ ウチュウツクレ』
BHってのはブラックホールかな?とすると、誰かが4231番というナンバーをつけたブラックホール?
つまり、その4231ってブラックホールの目を抜けて、行った先で何かをしろってことか?そこにしずくを生き返すヒントがある?
ブラックホール4231の先にある”他の宇宙”へ行って、ゴクウ?に会い、宇宙を創れ?これだけじゃ何のことかわからないな…
いや、待てよ。時間遡行魔法とやらを使うには宇宙三つ分のエネルギーが必要だって話だったはずだ。もし、本当に宇宙を創れるやつがいるとしたら…既存の宇宙を消滅させずに時間遡行魔法を使える可能性がある。
俺自身や康孝達を死なせずに、しずくを生き返らせることができるなら…話は別だ。誰が何といおうと、俺はたかしなんだ。しずくの復活を望まないわけがない。
そして、しずく復活の鍵になるのが、ゴクウってわけか。しかしゴクウって何のことだ?
パッと思いつくのは、やっぱり孫悟空だよな。
でも、まさか”あの漫画のあの球”が実在する宇宙に行って、”あの龍”にしずくを生き返してもらえってわけじゃないだろう。そんな便利なものがあるなら、本物の俺と茂が見つけてないわけがないからね。
もし、宇宙を創れるなんてやつがいるなら、そいつは本物の俺と茂にとって想定外の存在のはずだ。
しかし、だとしたら西遊記の孫悟空ぐらいしか思いつかないな…仮に西遊記の孫悟空が実在する宇宙があったとしても、悟空に宇宙が創れるとは思えないけどね。だが、ヒントがこれしかない以上、悟空に会うことを目指すしかないだろう。
ともかく…。俺はブラックホール4231まで行き、その先の宇宙で悟空に会い、宇宙を創り、時間を戻してしずくを生き返らせる。そいつがこれからの目標ってわけだ。
もちろん、しずくを殺したのは本物のたかしであって、アンドロイドの俺じゃないけどね。だからと言って、俺の中にある贖罪の念、しずくのことを思う気持ちも…俺にとっては間違いなく本物だ。
俺がアンドロイドで、俺の記憶や感情が本当はただのデータに過ぎないんだとしても、そんなのは関係ない。
しかし、しずくを生き返すのを目標にするとして、どうやって他の宇宙に出るんだ?この地球には月に行く方法だってないのに…。
鍵は”四神の焼き印”のやつらを改造し、能力をつけた何者か…か。少なくとも、本願寺が四百年ほど文明の針を進めた今の日本より、さらに文明レベルが高いことは間違いないだろう。
そもそも、この日本ではある時期まで、元の宇宙の戦国時代とほとんど同じ歴史をたどってたんだ。それが”四神の焼き印”のやつらが能力を使うことで、大きく歴史が変わった。
じゃあ、”四神の焼き印”のやつらを誘拐し、能力を目覚めさせたやつらは何者なのか?
この”能力を目覚めさせる”技術がどんなものなのか、俺にはわからないけど…。
この地球で生まれた技術とは考えにくいんじゃないか?だって、技術が一足飛びに進化しすぎてる。それまでなかった技術がいきなり現れたようにしか見えない。
研究過程の不完全な結果がどこにも出てこないのに、成功した結果がいきなり出てくるのはおかしい。
もしこれが地球内で、普通に研究・試行錯誤を繰り返して生まれた技術なら、研究の過程でもっとこれまでの歴史に影響を及ぼしてるはずだ。この技術が”使い始められる”まで、元の地球と同じ流れを辿ってたなんて不自然すぎる。
だから、この技術は地球とは別のどこかで、研究・試行錯誤を経て完成した技術を地球に持ってきたものなんじゃないか?
地球じゃないどこか…だとすると、宇宙人…異星人かな?が介入してきた可能性はゼロじゃないだろう。そいつと接触できれば、宇宙船を手に入れることができるかも知れない。
そいつらを引っ張り出すためにも、蓮淳・証如そしてもう二人の”四神の焼き印”の連中から、彼らを改造した何者かの情報を探る必要がある。
「当面は蓮如かな。信秀の”高くてでかい声”で死んでなけりゃいいけど」
しずくを生き返らせるという新たな目標に俺の心は燃えていた。だから、この後の蓮如との交渉が、あれほど”ややこしくすさまじい”ものになるとは想像だにしていなかった。




