人力の殺人兵器
そういえば、去る一月十二日は、この作品を初投稿した日らしいです。一年間、ご愛読ありがとうございます。これからも頑張ります。
1536年 7月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【尾張国 聖山付近 空中】
[主人公サイド]
「き、貴様!何ということをするのだ!!このままワシと心中しようというのか!」
蓮淳が喚き散らす。俺達はトレビュシェットに投げられて飛んでいるのだから、いつかは勢いを失い失速する。
蓮淳は俺達がこのまま落下して死ぬと思っているのだろう。だが俺はまだ脳の高度計算を発動している。落下のダメージを最小限に抑えることなど簡単だ。
ただ懸念もある。長時間、脳の制御を開放しすぎたせいで、さっきから頭に大激痛が走っている。このままだと、無事に聖山城の天守に着地できたとしても、そこで気絶して蓮淳や門徒兵に殺されちゃうんじゃないかな?
そう思いながらも、俺は無理やり笑顔を作り、蓮淳に対して余裕を見せる。
「平気だ!俺は高いところから安全に着地する方法を知ってる。言ったでしょ?信秀のところに一緒に行こうってね。」
蓮淳はとても信じられないという顔をしていたが、しばらくして納得したような顔をした。
「なるほどのう。それが貴様の能力というわけか。それならばわからんでもない」
「しかし、これまで貴様が見せたのは”目に見えぬほど早く動く”、”門徒兵に気づかれずに手榴弾をばらまく”、”トレビュシェットで空を飛び安全に着地する”か…」
「できることが多すぎて、何の能力か予想がつかぬのう。」
蓮淳は冷静に俺の能力を分析してくる。
「へへっ。何の能力だと思う?」
俺はヘラヘラとした顔で蓮淳を挑発する。まあ脳の制御を開放するなんて技、そう簡単にばれることもないだろう。
きっかけとなる、走馬灯すら普通は死にかけなきゃ見れないんだしね。
蓮淳は多分、俺の能力を見て俺を”四神の焼き印”の一人だと勘違いしているんだろう。確かに俺のやったことはとんでもないが、俺の体に焼き印はない。
あくまで、俺の能力は前世で暗殺者として身に着けた能力を、修行によって強化したものだからね。
そんなことを話していると、天守が近づいてきた。とりあえず一旦屋根に着地しよう。
俺は脳の高度機能により、体が勝手に動き安全に着地できる体勢をとる。五点接地というやつだ。
「とぉぅりゃああああーーーーー!!」
叫び声とともに、俺は爪先で着地する。足の指ではなく爪の先、本当に一点だけで着地するのがポイントだ。これでまず全体的なダメージを限界まで軽減する。
そして転がる!俺は体を丸めて転がり、衝撃をスネへ、尻へ、背中へ、肩へと分散させていく。蓮淳を抱えたままやるのは大変だが、脳の高度計算が働いてるから大丈夫だ。
衝撃で屋根瓦がゴリゴリ削れていくが、後で直せばいいだろう。
「よし!天守についたぞ!」
俺は拳を固め、腕や手首の筋肉・裏筋肉を開放して屋根を殴りつけた。
ドッゴォォォォォン!!!
俺のパンチで屋根に大穴が開き、俺は蓮淳を抱えたままそこに飛び込んだ。脳の高度計算によると、この下の部屋が信秀達のいる評定の間だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1536年 7月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【尾張国 聖山城 評定の間】
「帰ってきたぞぉぉぉ!!!!!!!!」
俺は評定の間に着地すると、全力で叫んだ。
「兄上!危ない!」
康孝が叫び終わる前に、俺は俺に向かって投げつけられた五個ほどの手榴弾をつかみ取り、すべて爆発する前に投げ返した。
ドゴォォォォォォォン!!!
天守の一部が吹っ飛び、ここまで登ってきていた門徒兵が粉砕された。
しかし、何でこいつら天守まで登ってきてるんだ?城の近くまで来れたなら、外から手榴弾を投げつけるだけで、城を粉々にできただろうに。
蓮淳がそう指示しなかったから…か?蓮淳は後方にいたんだし、思いつかなくても仕方ないだろうけど…。もし、城を爆破されてたら、俺は信秀達を失い途方に暮れてただろう。敵からすれば千載一遇のチャンスを逃したわけだ。
「あがっ…!!」
そんなことを考えてたら、頭痛がさらに激しくなり俺はうめき声をあげた。
「ま、まずい…そろそろ限界だ」
脳の高度計算機能が、俺が倒れる前にやっておくべきことを思いつかせた。今なら、この脳の機能が完全に開放されている状態なら伝えることができるぞ!!
「の……信秀……相手を倒す意思をこめて…た、高くてでかい…音…めちゃくちゃに高くてでかい音を出せば……戦は終わりだ!」
音は空気の振動である。振動数が大きいほど高い音で、音圧が大きいほどでかい音である。
この振動数と音圧から、騒音の単位として知られる”デシベル”の数値が計算できる。
20デシベルごとに100倍のうるささで、飛行機のエンジン近くだと120デシベルとなり聴覚に障害がでる。
現代で暴徒鎮圧に使われている音響兵器は146 デシベルという、周囲にいるものが一瞬で気絶するほどの音をばらまくことができる。
そして、脳の高度計算能力によると、今の信秀は220デシベルまでの騒音を出すことができる!
俺の理性が”人間の声帯はそこまで大きい音は出せない”と否定するが、できるのだ!理屈は後から考えよう。
「今の……お前なら……人を殺せる騒音を……出せる!」
そこまで言って、俺の脳に一段と巨大な衝撃が走り、俺はついに意識を失った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1536年 7月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【尾張国 聖山城 評定の間】
[織田信秀サイド]
戦が始まって以来、俺は”敵を脅す声”を何度も発し、信孝が修行の前に使い方を教えたマシンガンや手榴弾を駆使して敵を食い止めていた。
だが、どうしたって数が違い過ぎる。同じ武器を持って百人ほどで一万近くを追い返そうなんてどだい無理な話だ。俺達は次々やってくる門徒兵に対し抵抗しきれず、天守の中に入り込まれていた。
そして門徒兵が天守を木っ端微塵にするべく、新爆弾を俺達に投げつけたその時、奇跡が起きた。
ドッゴォォォォォン!!!
けたたましい轟音とともに、突然天井に穴が開いて信孝が降ってきた。それだけじゃねえ。あいつ、敵の大将を連れてきやがった。人質に取るつもりか?これだけ劣勢だと、交渉にもならねえと思うけどな。
そして、俺達に投げつけられた新爆弾をとっさに掴み、爆発前に敵に投げ返した。知ってはいたが、とんでもない身体能力だぜ。
信孝は目に見える外傷はないんだが、すでにヘロヘロだった。そして息も絶え絶えに俺に話しかけてきた。
「の……信秀……相手を倒す意思をこめて…た、高くてでかい…音…めちゃくちゃに高くてでかい音を出せば……戦は終わりだ!」
俺は何故か、その言葉の意味が”スッと”理解できた。あいつの話じゃ俺の能力は、相手の声の波長を細かく分析し、言葉に頼らなくても相手の意思を理解できるらしい。
その能力の一部なのか、俺は信孝が言った”めちゃくちゃ高くでかい音”を出す方法を、どうやるか考える前に理解できた。
「今の……お前なら……人を殺せる騒音を……出せる!」
そういうと同時に信孝は前のめりに倒れこむ。あわてて康孝が抱き留める。
「よし、やってみるか。」
俺は相手を倒す意思を強く念じる。強く!強く!この戦いを終わらせちまおう!殺された洗脳兵達の仇を取るためにも…!!
「――――――――――!!!!」
一瞬、何の声も出なかったかと思った。だが、間違いなく俺は声を出してる。まさか、音が高すぎて聞こえねえのか?そんなことがありうるのか?
天守に乗り込んできていた門徒兵達がバタバタと倒れていく。さっきの手榴弾で開いた穴から見下ろすと、城を囲んでいた門徒兵も皆、倒れてるみてえだ。生きてんのか死んでんのかは遠目にはわからねえ。
「な、なんて威力だ。こりゃあ…」
門徒兵共が使う、新爆弾を見たときにゃあ、これよりすごい武器はねえと思ってたが…。もしかしたら、俺の声は新爆弾に匹敵する破壊力かも知れねえ。
しかも建物やなんかは壊さねえみてえだ。城を奪うのに使えば、奪った後の城を修理なしに使えるぞ。
「こいつが”四神の焼き印”を押された者の力ってわけか。俺も証如のやつに負けちゃいねえ」
そこまで考えて、あることに気づいた俺は後ろを振り返る。信孝と康孝は無事か!?戦いに勝ったとしても生き残ったのが俺だけじゃあ、この先本願寺と戦っていけねえ!
俺が振り返ると、康孝は優しく微笑んだ。どうやら二人とも無事みたいだ。俺が敵を攻撃する意思を持って声を出したからか?思った以上に都合の良い能力なのかも知れねえ。
「信秀殿、とりあえず敵の生死を確認せねばなりますまい。もし生きているものがいれば拘束する必要があります」
技のとんでもない威力に浮かれていた俺に対し、康孝が助言をくれた。そうだな全員死んでるとは限らない。
「ああ、そうだな。ならこの山の動物達に手伝ってもらって、門徒兵の生き残りがどれだけいるか調べよう。」
俺達は信孝を寝室に寝かせた後、とりあえず現状の確認をするため、動物達とともに倒れた門徒兵達を調べ始めた。




