本願寺の秘密兵器
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1536年 7月 信孝22歳 信秀26歳 証如22歳 蓮淳72歳
【尾張国 聖山の麓 蓮淳の陣】
[願正寺蓮淳サイド]
「マシンガンと手榴弾を奪われたじゃと?」
門を破壊した先行部隊から報告役が来た。なんと例の石弾で百人近くが殺された上、彼らの持っていた手榴弾を投げつけられさらに百人ほどの死者が出たという。
さらに、そのとき倒れた者達のマシンガン・手榴弾を松平の忍びがどさくさに紛れて持ち去ったらしい。
「しかしマシンガンを奪ったところで、やつらには使い方がわかるまい」
マシンガンの構造は種子島銃とは大きくことなる。説明なしでは弾丸の込め方すらわかるまいし、安全装置も解除できまい。加えて、知識もなく不用意に扱えば、味方に当てたり暴発したりする危険がある。
「それが……その後、さらに攻勢をかけたところ、やつらはマシンガンを巧みに使いこなし、我らの軍を食い止めているようなのでございます」
やつらがマシンガンの使い方を知っている…?そんな馬鹿な。我らの情報統制は完璧じゃし、そもそも実践投入はこの戦がはじめてじゃぞ!?
「ふむ、本当に使い方がバレていたとすると…教育を受けた専門兵が尾張に逃げていたことになる。それも使い方を教えるには時間がかかる。かなり早い時点で裏切者がいたことになろうのう」
そう考えれば、我らがマシンガン専門兵を最初に募集したときから、聖王家の息がかかったものが紛れ込んでいたことになる。門徒の中でも信心深いものだけを慎重に集めたはずじゃというのに…。やはり服部の忍びか。
「い、いかがいたしましょう?こちらの方が、はるかに数は多いですから、無理攻めして勝てぬこともないでしょうが」
ワシは沈黙して思考にふける。確かに無理攻めで落とせぬことはないじゃろうが…。何かがおかしい気がする。敵は200ほどのはずじゃ。例え奪ったマシンガンや手榴弾を使ってきたとしても…。
「まだ決着がついてないのはおかしいじゃろ」
マシンガンは刹那に数十発の弾を撃つ。相手も撃ってくるにしても数の暴力があるのじゃ。小半時(30分)も撃ち合って決着がつかぬはずがない。
「で、ですが現に、先行部隊は攻めあぐねているようでございます」
「ふむ、前線の戦いで何か変わったことは無かったか?例えば、目にもとまらぬ速度で動く者が現れたりせなんだか?」
もし信孝がかけつけたのだとすれば、決着がついていないのも理解できる。もしそうであれば奥の手を切るしかあるまいが…。
「え、ええと目にもとまらぬ速度の者はあらわれませんでしたが…」
「変わったことならございました。戦場におどろおどろしい叫び声が響き渡ったと思ったら、味方が急激に戦意を無くしたのでござます。」
「その隙を突かれ、石弾の攻撃を受け、手榴弾を投げ込まれたのでございます」
「戦場に…声じゃと?」
味方が急激に戦意を無くしたなどただ事ではない。まさか新しい”四神の焼き印”が現れたのか?
いや、ワシらとてこの十一年間各地に諜報役を送り、死に物狂いで調べさせてきたのじゃ。そんな者が現れれば耳に入らぬはずはない。だとすれば…。
叫び声か…可能性があるのは信秀じゃろうの。十一年前の戦いで、信孝は叫び声によって様々な動物を使役して本願寺を破った。
まさか動物と話すだけでなく、叫び声で人間に不利益を与えられるというのか?この戦いで覚醒したのか…あるいは戦を見越して訓練していたのか…。
どちらにせよ脅威であることには変わりないのう。あれを使って一気に勝負を決めるしかあるまい。
ワシは手榴弾のとてつもない爆発力を見て、あれをはるか遠くから投げ入れることができれば、城に近づかずとも城を木っ端みじんにできると考えていた。
しかし、今のところ火薬を使った大砲は、鉛玉を飛ばすことはできても爆弾を飛ばすことはできない。推進力をつけるために、砲内で火薬を爆発させれば、爆弾も一緒に爆発してしまうからのう。
榴弾砲という爆弾を飛ばす大砲については、証如の夢にはでてきたのじゃが、現在の技術水準では、まだ実現不可能じゃ。
そこでワシは、火薬を使わずに大砲以上の飛距離が出せる兵器として、投石器を開発しようと考えた。
それもただの投石器ではない。トレビュシェットは、てこの原理を利用した大掛かりな投石器で、重りを重くすればするほど飛距離を伸ばすことができる。
そして我々は改良に改良を重ね、巨大化を続けた結果、麓から聖山城の天守まで手榴弾を届かせる規模のものを開発したのだ。大きすぎて、ここまで運搬してくるのも大変じゃったがの。
「よし、トレビュシェットを使うぞ。準備せよ!」
陣の中央に鎮座しているトレビュシェットに手榴弾を配置する。この作戦では手榴弾の構造上、ピンを抜いてから配置する必要がある。ピンを抜きトレビュシェットに乗せて、投げて、着弾時に丁度爆発させるには訓練が必要じゃった。
きちんと着弾時に爆発させるため、時間をかけて訓練したが、その過程では爆発してトレビュシェットも作業員も木っ端みじんになったこともあった…。じゃが今ここにおる者達は違うぞ!
「よし!目標!聖山城天守!!手榴弾設置始め!!」
ワシがそう叫んだのを聞いて兵士が手榴弾のピンを抜こうとしたまさにその瞬間
ドゴォォォォォォン!!!!ドゴォォォォォォン!!!!
突然、陣の後方からけたたましい轟音が聞こえたきた。
「ま、待った設置止め!!!何事じゃ!?確かめさせろ!」
ワシは慌てて目の前の兵士にトレビュシェットへの設置を止めさせた。投げてしまっても良かったが、状況がわからないまま突き進むのは危険じゃ。
判断することが増えれば、どっちもおろそかになりそうじゃしの。
何せ、この轟音は間違いなく手榴弾の爆発じゃ。それも少なくとも二度聞こえた。
本願寺の手榴弾は決して誘爆しないよう、入れ物が頑丈に作ってある。ピンを抜かない限り絶対に爆発はしない。
そして一つならまだしも二つも一度に不注意で爆発させてしまうほど、専門兵は間抜けではない。間違いなく陣の後方で何事かが起こったのだ。
ドゴォォォォォォン!!!!ドゴォォォォォォン!!!!
「また爆発!?何だ一体何が起きておる!!」
まずいのう。猛烈に嫌な予感がするぞ。これは事故や仲間の裏切りなどではない。絶対に我らと敵対する何者かが故意に爆発させておる。しかも本願寺が鍛え上げた専門兵から手榴弾を奪って…!
「信孝かのう。じゃとするとまずいぞ。」
光の速度は大げさじゃろうが、信孝は超高速で動けるという。専門兵に気づかれず近づき、手榴弾を奪って投げては、また他の専門兵に気づかれずに近づく。
そんなことが可能なら、この爆発はやつが疲れて動けなくなるまで続くことになる。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
「ば、爆発の感覚が早くなってきた!?くっまずいこれではまた」
「も、もうしあげます!こ、後方で松平信孝と思われる者が手榴弾を奪って…」
その瞬間、報告役の首が飛んだ。
「見つけた!貴方が大将だよね?」
ワシの目の前に絶望が広がった。




