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巫女が生き残ってたので、これからどうするか決めてみた

次に意識が戻ったとき、俺は廃墟のような場所に倒れていた。

「……俺はどうなったんだ?」


目覚めたばかりで頭がはっきりしないが…

しかし倒れる前の状況は切迫していたはずだ。

確か、川大蛇から逃げて熱田神宮に向かって…。

そこで予期せぬ妖と、突如現れた信雄の襲撃を受け、俺たち萬松寺の雲水はもちろん、熱田の神職達もみんな食い殺されたはずだ。


「どうして俺は助かったんだ…?」

段々と頭がはっきりしてくるにつれて、倒れる前の状況を思い出してきた。


そうだ。安福が食われたときに、妙な声が語り掛けてきて…。

その声に応じたことで俺は鬼化して妖を粉砕した……んだと思う。


信雄を殺したところまでは覚えてるが…、その後、あの妙な声がまた聞こえてからは覚えていない。


「オートバトルモードとか言ってたな…」

俺の意思とは無関係に戦い続ける状態ということだろうか。

ゲームじゃあるまいし、無意識に戦い続けるなんて恐怖でしかない。


よく見れば周りには妖の残骸が転がっていた。

ちなみに信雄の死体はマンティコアのままで、人間に戻ってはいない。


「ってことはこの廃墟は熱田神宮なのか」

周囲にはおびただしい数のバラバラの木材の切れ端がいくつも転がっている。

これが何時間か前まで神社だったというのは、ちょっと想像がつかない。


信雄を倒した時点では間違いなく神社だったんだから…俺がぶっ壊したんだろうか…?

信雄マンティコアの肉体を粉砕したときのパワーを考えれば恐らくそうなんだろうが、自分にそんなことができるとは信じ難い。


そもそも長年修行をつんだはずの安福をあっさり食い殺した信雄マンティコアを、どうして俺が軽く倒せたんだ…?

瘴気をコントロールしながら戦うより、身を任せた方が強いってことか…?


だが、安福達の話では邪悪に心を呑まれた者は、二度と正気を取り戻せないようだった。

「俺は明らかに怒りに呑まれて正気を失ってたはずだ。どうして戻ってこられたんだ…?」


俺が答えの見えない独り言をつぶやいていると、瓦礫の中から一人の少女がはい出してきた。



「話には聞いていましたが…。まさか百鬼夜行を蹴散らしてしまうとは…」

少女はザ・巫女という感じの衣装で黒髪が腰まで伸びている。幼さの残る真面目そうな顔だ。年齢は中学生くらいだろうか?


そういえば、神主の季信が巫女と一緒に逃げろとか言ってた気がする。

この娘が、神を降ろし天叢剣の力で結界を張るという熱田の巫女なのか。


「あんたが熱田の巫女なのか?」

とりあえず聞いてみる。この状況で熱田に関係ない人物が話しかけてくるとも思えないが、一応確認だ。


「ええ…熱田で巫女をしております、ミコと申します。もっとも神宮がこの状態では熱田の巫女と呼べるかはわかりませんが」

言われて気づいたが、俺はこの娘の実家を跡形もなく破壊しちゃったのか。

さすがに罪悪感があるな。話を変えた方がいい


「ええと…それで何の用…っていうか、そうだな状況の確認がしたい」

「状況の確認ですか?」

「ああ、とりあえず妖と熱田神宮を消し飛ばしたのは、鬼になった俺ってことでいいのかな?」

神主の話だと、この娘だけなら百鬼夜行の妖からも結界で身を守れるということだった。

恐らく俺の暴走からも身を守り、生き延びたんだろう。

だとしたら、俺が暴走してからの一部始終を見ていたかも知れない。


だが、だとすれば彼女にとって俺は危険な妖に過ぎないはずだ。

話しかけたりせずにとっとと逃げるべきだろう。


だからまず状況の確認と、その上で何故彼女が話しかけてきたのか…が知りたい。


「ええ、貴方は腕の一振りで数十の妖を消し飛ばし、神宮の建物を粉砕しました」

「そしてひとしきり暴れた後、人に戻って眠りにつき、今目覚めたわけですね」

「瘴気に呑まれた人ってのは、そう簡単に戻ってこられるもんなのか?」

「普通は一度 心が邪悪に呑まれたら、破壊衝動と殺人衝動に支配されたまま、死ぬまで戻って来れないですね」

「じゃあなんで俺は正気に戻れたんだ?」

「それは私には分からないです。よほど貴方の精神が強かったのか…」

正直ニートの俺の精神がそんなに強いとは思えない。

それに…あの謎の声のこともある。

俺が転生者だからなのか…。あのRPGめいた謎のメッセージが…

俺が瘴気に呑まれながらもどうにか戻って来れた原因なんじゃないか…?


「じゃあ…、ええと俺になんのようなんだ?妖になるような人間には普通近づかないと思うが」

「私は熱田の巫女として、百鬼夜行の情報を広く日本中に伝える役目があります。」

「は?急になんだ?」

「今回の百鬼夜行は1000年周期からも外れていますし、誰かが人工的に起こしたもの

だと考えられます」

「安福和尚もそんなこと言ってたな」

「ええ、それで人工的に起こせるということは、もう一度どこかで誰かが百鬼夜行を起こしてしまうかも知れない…ということなのです」

「は!?アレが他のところでも起こるのか!?」

「ええ、今回のことは信雄様の仕業かも知れませんが…とても彼が単独で

行ったこととは思えません」

「ほぼ間違いなく、妖や瘴気に詳しいものが手を貸したはずなのです」

「その者がもし他の土地でも百鬼夜行が起こせば、きっと多くの人が亡くなることになるでしょう。

ですから、私はこの情報を広く全国に伝え、注意を促す義務があるのです」


確かにあんなのが日本中で起こったら一大事だ。日本の坊さん達がどのくらい強いのかはわからないが、少なくとも一般市民に防御手段はないからな。間違いなくとんでもない数の死者が出るだろう。


「しかし、全国に伝えるって言ってもどうやるんだ?」

電話もインターネットもないんじゃあ、手紙を出すとか歩いて伝えに行くしかないだろうが…それだと手遅れになる恐れがありそうだ。


「伊勢神宮の巫女が八咫鏡に神気を込めれば、各国国府にある受鏡へと

伝言を送ることができるのです」

いやいやいや、ちょっと待て 確かにファンタジー的な世界だとは思ってたが…

三種の神器が電話?かメールみたいな機能を持ってんのか?


「……なるほど。まさかそんな、とんでもない機能があるとはな」

つまり伊勢神宮にいって、そこの巫女に頼みさえすれば、全国に百鬼夜行への注意を

促せる。似顔絵なんかも送れるなら、犯人の指名手配もできるかも知れない


「あんたが情報を伝える必要があるのはわかったが…。

俺に話しかけたことと、どう関係があるんだ?」

俺はただでさえ弱い上に、なんかの拍子に暴走する恐れもある。

その上、信雄を殺したことで秀吉から目をつけられた恐れもある。

どう考えても厄介者だ。少なくとも道中の護衛としては失格だろう。


「私はあなたを百鬼夜行を上回る脅威と考えております。

一方で暴走しさえしなければ安全な可能性があるとも」

化け物と思われてることは思われてるようだが…


「暴走しなければ安全な可能性?」

「ええ、貴方がわざわざ私に危害を加えようとしないこと、

暴走のきっかけが親しい人の死だったことなどから判断いたしまして」

「貴方の暴走を食い止めることさえできれば、

脅威ではない…と」

随分、楽観的な話という気がする。俺自身にとっても未知の力なんだし…

一歩間違えたら神社がふっとぶし、俺の手で大量虐殺をしてしまう可能性もある。


「しかし暴走を食い止めるたって、どうするんだよ?

瘴気に呑まれたくはないから俺も努力はするが、何かの拍子にブチ切れたりしたら

俺の意思に関係なく暴走しちゃうんじゃないのか?」


「内裏に保管されているという八尺瓊勾玉ならば、

恐らくあなたの鬼化を制御可能なものにできるはずです」

また三種の神器か…。しかし鬼化をコントロールする方法があるなら、

頼らせてほしいところではある。


「でも内裏って偉い公家の人しか入れないんじゃないか?」


「私は入れませんが、貴方は確か「従五位下・侍従」を賜っているでしょう?

充分、偉いお公家様だと思いますが」


そうか秀吉の命令で出家したものの、朝廷の官位は返したりしてないんだったな

しかしいきなり頼んで三種の神器を使わせてもらえるもんなんだろうか…

まあ、この娘は天叢雲剣を気軽に使ってるみたいだけど…。


「三種の神器を使うのって天皇の許可とかが必要じゃないのか?」


「八咫鏡については、あらゆる管理を伊勢神宮に委任されていますので、伊勢神宮の

許可がでれば使えます」

「八尺瓊勾玉については帝の許可が必要ですが…、熱田と伊勢から直接の要請であれば

許可はでるかと思います」

なるほど、だったらとにかく伊勢神宮にいって、八咫鏡で日本中に注意を促すことだな。

それができれば、あとは伊勢神宮の協力を得て、天皇に八尺瓊勾玉の使用を要請すればいいだろう。


「しかし伊勢神宮まで歩いていくのか?父上(信長)のおかげで、ある程度平和になったのかも知れんが、盗賊とかに襲われないか?」

基本的に俺はタダのおっさんニートだからな。荒事になったら絶対殺される自信があるぞ。

もしくはそうなる前に暴走して、今度こそ戻ってこれないかも知れない。


「話は聞かせてもらったずら」

俺たち二人の会話に一人の男が急に割って入った。

「あ、あんたは…確かごんべさん!」

俺が熱田まで誘導してきた農民だ。水大蛇の流れ弾を悠々と跳ね返したり、

俺なんかよりはるかに強い。

だが…まさか、百鬼夜行を生き抜いていたとは思わなかった。


「えっと…この方は?」

「おらぁ、ごんべだ。信長様んとこで、足軽やっとったでな。戦いには自信があんで」

「つまり、あんたが伊勢までの護衛をしてくれるってことか?」

基本的に戦闘手段のない俺たちからしたら願ったりかなったりだ。

「そうだでな。おまらの話じゃ、このままいけば日本中がおらの村みてえに

妖に皆殺しにされるっちゅうじゃねえか」

「おらあ家族が死んで悲しかったでな。こんな思いを、みんながするんは止めないかんで」


随分と理想に走った思想という気はするが…。

しかし村を全滅させられたら、そんな気分にもなるか…?


「当面の食料は、おらの村の貯えから出すでな。持てるだけもっていくべ」


こうして俺たち三人は、百鬼夜行の危機を伝えるため伊勢神宮を目指すことになった。


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