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運命の出会い

1525年 9月 信秀15歳

【尾張・山中】


ターン!!ターーーーン!

山中に鉄砲の音が響き渡る。


「なんだ!あの武器は!弓なんて目じゃねえ!とんでもねえ速度で鉛玉が飛んできやがる」


「本願寺め、あんなもんを隠し持ってたのか」


悪態をつく信秀だったが、それどころではない。

鉛玉が馬達に当たり、次々と馬が倒れていく。


「佐助!めぐみ!!クソ…皆が…本願寺め…俺たちが何したってんだ」


佐助とめぐみは信秀が10歳のときに生まれた馬で今年で5歳になる。

人間でいえば20歳くらいで、つがいとなりもうすぐ仔馬が産まれるはずだった。


定八に拾われたときから、ずっと一緒に過ごしてきた家族が次々と殺されていく。

信秀よりは悲しみよりも、自分の無力さに怒りを感じていた。


「どうして俺は弱いんだ!家族が殺されてるってのに何もできねえじゃねえか!」


「俺のせいだ。人間の危険性は理解していたつもりだったのに…。甘く見すぎていたってのか」


ヒヒーン………


定八とイヌイが悲しそうな声でいななく


信秀は彼らが何を伝えようとしているかわかった。


「お前らを見捨てろってのか!!」


定八とイヌイは信秀を拾った時点で成馬だった。今年で20歳になる。人間でいえば還暦60歳だ。


二頭は年寄りの自分たちでは早く走れない。信秀だけでも生き残るために若い馬に乗り換えて逃げろと言っている。


「お前らは俺の親父とお袋だぞ!見捨てて逃げるなんてできるもんか!」


だが、ずっと一緒に過ごしてきた信秀には、二人の気持ちが痛いほどわかった。

第一このまま弾丸の嵐を食らっていたら、全滅だ。本願寺に復讐するにしても信秀が生き残っていなければ話にならない。


「わかった……わかった……お前らがそこまで言うなら……」


信秀は涙を流しながらも、逃げて生き残ることを選んだ。


「虎鉄!!虎鉄は生き残ってるか!!」


虎鉄は定八とイヌイの孫で今年四歳になる。人間なら二十歳で気力・体力ともに最高の年齢だ。そのスピードは群れの中でも随一で”走り屋・虎鉄”のあだ名で呼ばれるほどだ。


ヒヒィィィィーーーーン!!!!!


虎鉄が大きくいななき、信秀に近づいてくる。


「虎鉄!頼むぞ!このまま麓に抜ける!!」


さっそうと、虎鉄に乗り換えた信秀は麓に向かって山を駆け下りていく。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

1525年 9月 信秀15歳

【尾張・山の麓 蓮淳達の陣】


蓮淳達は山の麓、風上になる位置に陣取っており、周囲を精鋭隊が固めていた。


「どうやら上手くいってるようじゃな」


鉄砲のおかげで、救世主の馬達は大混乱を起こしているようだ。何頭かは討ち取ったという報告も来ている。


「のう爺、山を燃やしてしまっては救世主も死んでしまうのではないか?」

証如が心配そうに蓮淳に尋ねる。


あまり派手にやりすぎたため、証如が不振に思ったようだ。


「ああ…それはですね」


部下たちに話したのと同じように”救世主は何者かに守られている”と説明しようした瞬間一頭の馬が陣に飛び込んできた。


「よっしゃあ!!山を抜けたぞ!!」


信秀が門徒兵の銃弾を避けきって麓まで下りてきた。しかし運が良いのか悪いのか、蓮淳達の目の前に飛び出してしまったのだ。


「何!?貴様はまさか……救世主か!?」


蓮淳は一瞬、あっけにとられた。このまま部下の誰かが討ち取って終わればいいと期待していた救世主が目の前に出てきたのだ。


「ん!?何だてめぇら…まさか本願寺の親分か!?」


信秀は定八達のかたき!と思うも、このまま向かっていっても門徒兵に囲まれるだけだと考えた。


今はまず、安全なところまで逃げることだ。復讐はそれからでいい。


そう思っていたのだが……。証如を見た瞬間、それまで出会った誰よりも


“才能?” “可能性?” いやそんな生易しいものとは次元が違う。


“天下” 証如を見た瞬間、その言葉が浮かんだ。こいつは…こいつの器はそれを為し得る。

だが…こいつは今、お飾りで親分をやってるように見える。何故だ?これほどの器に本願寺のやつらは気づかないのか?


そう思った瞬間、勝手に口が開いていた。


「俺と一緒に天下をとろう」


「て…天下?」


証如は自分に対して言われたのだということにしばらく気づかなかった。

そして、ようやく気付いた後、やっとのことで信秀の言葉をオウム返しにした。


「そうだ。俺は家族が誰も死なない世界を作りてえ。そのためには、どんな戦も仲裁できるくらい強くならねえといけねえんだ!だとしたら天下をとるしかねえ!」


世の中には将軍という偉いやつがいて、本当ならそいつが部下の領地の取り合いを仲裁するものらしい。もちろん従わないやつを叩き潰す武力が前提だ。


けど、今は将軍が力を失ってて誰も仲裁できないから、武士達は好き放題に土地を取り合っている。


それもしょうがない。誰だって自分の土地がとられるのは嫌だ。米は地面に植えないと生えてこないんだから、土地が減ることは命に関わる。


だが、武士が土地を取り合えば、巻き込まれた農民は死ぬ。兵士にされたやつだけじゃなく村に残った者達もだ。食料を軍に持っていかれることもあるだろうし、人手が足りなくて田んぼが作れないこともあるだろう。


そいつらにも家族がいる。信秀は定八達が死んだとき、自分の体を引きちぎられたような思いがした。こんな気持ちのやつを増やしちゃいけねえ。


「お、同じだ!僕たち本願寺の理想と…!」


本願寺は侵略の大義名分として”天下泰平”を掲げていて、証如にもそれを教えていた。

だが、それはあくまで建前で、蓮淳達が欲しいのはあくまで権力と金だ。


蓮淳は舌打ちをし、証如への言い訳を後回しにして、信秀に向けて銃を構えた。

言い訳はいつでもできるが、救世主を殺すチャンスはここだけだ。


「爺っ…!彼こそが救世主なんだろう?理想が同じなら、僕なんかより彼に本願寺を指揮してもらうべきだっ!爺にもわかるだろう?彼の才能は海より深く空より高い!」


証如がそんなことを叫ぶ。蓮淳からすれば信秀を法主にするなど冗談じゃない。だが、信秀の才能がすさまじいのは事実だ。証如と結託されれば、本当に本願寺を乗っ取られる恐れがある。


そのとき、証如が何かに気づいたように、訊ねた。


「そ、そうだ!子供の頃、誰かに攫われて数日間、行方不明になったことはないかい?」


信秀は少し考え、記憶をたどる。


「………ある。10歳のとき、突然姿を消して数日後に発見されたんだが…、俺はその間のことを一切覚えちゃいねえ。恐ろしい話だぜ。」


信秀の言葉を聞き、証如は身を乗り出して、さらに訊ねる。


「……!やっぱり!だったらあるはずだ!体のどこかに白虎の焼き印が!」


「白虎の焼き印だと?」


「そ、そうだ!僕らを攫ったやつらは目印のつもりなのか、体に四神の焼き印を押しているんだ。僕にも朱雀の焼き印がある」


信秀は自分の腹を触りながら答えた。


「そうか…。昔から妙な形の火傷だと思っていたが…」


二人の話を聞いて、蓮淳は驚愕する。証如が本願寺の秘密をペラペラ喋ったことも、信秀が本当に証如に並ぶ存在だったことも、ある程度は予測していたがもうめちゃくちゃだ。


これ以上、二人に話せてはいけない。


「四神の焼き印ってことは、俺らみたいなのが後二人いるってことか」


信秀と証如が白虎と朱雀なら、他に青龍と玄武の焼き印がある者がいるのだろう。


「そう…そうだよ!四人もいるんだ…。皆で力を合わせれば、天下泰平も夢じゃない!」


「なるほどな…。そのためにも、まず俺とお前が手を組むってわけだ」


他の二人が協力するかはわからないが、信秀と証如が組むだけでも日本を動かすだけの力が

あるのは確かだ。


「そうだよ。君に本願寺の法主になってもらって…」


タターン!!


蓮淳が火縄銃の引き金を引いた。弾丸は信秀の方に向かっていったが、わずかにそれて虎鉄の頭に命中した。


「ちっ…外したか。だが馬をやられては逃げられまい」


「こっ…虎鉄!!」


カチッ……


信秀の脳で何かの音がした。



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