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俺が求めるもの

【服部半蔵サイド】


「頭、それでどうでしたか信孝は?」


部下が興奮した様子で信孝との会見について尋ねてくる。

やつの器量次第で我々の未来の良し悪しが変わるのだから、当然だ。


ここは岡崎城近くの小さな社だ。清康公が無くなって以来、我ら”服部”一族は、この社に身を潜め三河中の仲間に情勢を探らせている。


そして、拙者は服部半蔵保長、保長という名前は清康公から頂いたものだ。清康公の三河統一を支えられて誇らしく思っている。


だが清康公が亡くなられてから三河は乱れ始めた。我々は誰につけば生き残れるかを考えねばならなくなった。


そんなことを考えながら、俺は部下の問いに答えた。


「普通ではないのは確かだ。そして金になる策を多くもっているようだが…器量のほどはわからんな」


部下が困惑した表情になる。拙者は人を見る目には自信がある。かつて将軍・足利義晴の下でくすぶっていたときに、偶然出会った清康公に仕えると決めたのも拙者だ。


その拙者が信孝の器量を図りかねている。部下が困惑するのも当然だ。


拙者は平屋清兵衛として松平信孝と会見した。平屋は清康公が諜報と運転資金の確保のため、服部の忍びを使って作った商家だ。


もっとも信孝はもちろん、となりの頭が切れそうなやつもそのことについて全く知らされていなかったようだがな。


「例の質問には何と?」


例の質問とは俺が信孝に聞いた”何をお求めですか”というものだ。

この質問で三河統一への野心、それを実現できるだけの器量を測ろうとした。


ただ注文を聞いただけと勘違いしたのなら論外、三河統一の意志を見せれば及第点、統一の具体的計画を持っていれば合格と言ったところだが…。


「さんざん迷ったあげくに”天下”と答えた」


さすがに部下が仰天した顔になる。忍びは表情を見せてはならぬのだが、今回は仕方がないともいえる。


いくらか思案した後、オウム返しに聞き返してきた。


「天下でございますか!?」


「ああ、天下だ。ただ天下というだけなら、ただのおおうつけ ゆえに我らが従うことはないのだが…」


やつは、天下統一への計画、その足掛かりとなる上洛への具体的な計画を持っていた。

特に三河はもちろん、尾張・美濃・近江の統一計画だ。


もちろん統一計画の中には、まだ誰も知らぬ武器や我ら忍びでも困難な身体能力を要求するものもあったが…。


「やつは天下統一の具体的計画を持っている。実現可能かはわからないが、可能そうに語っていたのは確かだ。」


具体的計画、という言葉に部下が反応する。周りに潜んでいる他の部下達も興味を隠し切れていない。


「では、我らはやつが天下の器だとして、従うのですか?」


器量があるかどうかは、正直わからなかった。全部やつの妄想と切り捨てることもできるのだが…。それにしては具体的過ぎる。

だが、到底不可能そうな武器や技術を使うことを前提としているため、判断に困る。


「いや、そう判断するには、やつの言動に意味不明なもの、実現可能かわからないものが多すぎる」


「だが信定や、広忠を担ぐ家老たちよりはマシなのも確かだ。だからこそ、やつの策が妄言でない証拠として目に見える結果が欲しいところだ」


可能性という点で見れば、先々代との跡目争いに負けた時点で信定の器量は知れている。

広忠を支える家老達はそれぞれが自分の利益を主張してまとまるまい。


消去法でいけば信孝しかおるまいが…信孝もダメとなれば、今川・織田に降ることも考えねばならぬ。清康公への義理立ては必要だが、部下たちの生活には替えられぬからな。


「なるほど。では此度の戦は、やつを試す試験というわけですな」


そうだ。此度の戦で信孝を試す。清康公が亡くなられてから、すぐに織田家が動き出したことは確認が取れている。恐らくは数ヶ月後に攻めてくるだろう。

この動きにどう対抗するかで、信孝に仕えるべきか判断する。


「ああ、やつが織田を追い返す以上の結果を出せれば、我らはやつについていく」


「織田を追い返す以上の結果…ですか?」


此度の織田の動きは、清康公が奪った領地を取り返すのが目的じゃ。

じゃから、信孝にとっては領地を取り返されないことが最低限の条件となる。


しかし、それしかできぬのならわざわざ従うことは無い。だから”それ以上”どこまでいけるのかが重要となる。


「そうじゃ。それが信秀の首か三河の統一か、あるいは尾張にすら手を伸ばすのか…」


三河の再統一以上のことができるならば、器量は清康公に匹敵する。是非ともこちらから頼んで仕えたい。


「では、どちらにせよ、此度の戦は静観ですな」


「そうじゃな。やつが天下男か、大ぼら吹きか、この目でしかと見極めてやらねばのう」


こうして信孝の知らないところで、信孝の運命を決める決断がなされようとしていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【松平信孝サイド】


清兵衛と別れた後、俺は洞窟のゴツゴツした岩に正座させられ、康孝に叱られていた。

普段、落ち着いている康孝だが、今回ばかりは鬼の形相で怒っている。


しかし俺は、説教から康孝の俺や松平家を想う気持ちを感じてしまい、反省するよりも

微笑ましく感じてしまっていた。


「信孝様!なんですか今の話は…」


俺は清兵衛に”求めるもの”を問われ、その意味するところがタダの注文じゃないことに気づいたまでは良かったのだが、自分の求めるものが思いつかなかった。


正確にいうなら、俺の求めるものを説明するのは難しい。

未来に帰って、幼馴染に謝るなんて、どう説明しても理解してもらえないだろう。


さんざん悩んだ挙句、出した答えは”天下”だ。未来に戻るという目標を達成するには、”死なないこと”と”情報集め”が必要だ。


この三河に閉じ籠っていては、もし生き残れたとしても未来に戻るための情報は得にくいだろう。だから天下、さらには海外侵略が必要だ。


そう思って、俺の求める者は天下だと答えたのだが、ここで問題が発生した。清兵衛が天下統一のプランを聞いてきたんだ。


一介の商人が、そんなの聞いてどうするんだろうとは思ったが、俺はある程度の計画を話した。


細かい部分はばれると価値がなくなるのでぼかしたけど、尾張→美濃→近江→山城と攻めあがって上洛する予定であることと、それぞれの国を奪うのに障害となる城を落とすプランも説明した。


もちろん、現時点で予定しているものであって、事態が動くにつれ、それに合わせていくつもりではあるけどね。



いずれ作るつもりの秘密兵器が完成した場合も含めて、身体能力に頼った作戦だというのは説明した。


それで、何故康孝が怒っているかというと、まだ信用のおけない相手に重要過ぎる情報を話しちゃったからだ。


俺は一応、それなりにセーブして話していたつもりではあるんだけど、清兵衛の口から誰に伝わるかわからないもんね。何かの拍子に織田家や今川家、あるいは松平家中の人達に伝われば対策されてしまう。


「いや、清兵衛は信用できるやつだと思う。俺の直感だけど、奴は自分でこれと決めた人物は裏切らない性格だと思う」


俺がこんなことを言えるのは”判定師(プル)の資格”のおかげだ。教団に洗脳された方の記憶では、俺は教団の研修を受け、”洗脳が完了しているかどうか判定する” 判定師(プル)の資格を持っていた。


よって、教団に対する忠誠心、反逆心を見抜くことができるんだ。


この基準から行くと、清兵衛は信用できる。裏切らない人物だ。


「もしそうだとしても、やつは商人ですぞ。わざわざ秘密を話すこともありますまい」


俺のプランの中では、未来知識でできたものを売りさばくことの重要性が高い。だから商人に秘密を話すことはいずれ必要にはなるんだけど、安全性を考えれば、その都度小出しにしていくべきだ。


それでもこの時点で清兵衛に話したのは、やつに只ならぬ可能性を感じたからだ。


「いや、これも直感だが、やつは必ず俺達の役に立つ。何故そう思うかはわかんないけど、才能?みたいなものを感じる。」


とは思うんだけど、俺の未来知識に平屋清兵衛なんて人物は出てこない。もちろん、俺が知らないだけかも知れないけど。


才能はあったけど、何かで殺されてしまった人物なのかあるいは…


「平屋清兵衛ってのが偽名って可能性はあると思うか?」


一番ありそうな話だ。本当は俺の知ってる歴史上の人物で、ここでは違う名前を名乗っただけってパターンかも知れない。


「何をおっしゃいます!平屋は清康公の頃から当家の懐を預かる大商家ですぞ!」


その発言に違和感を感じた。由緒ある…というなら、遥か昔から関係があってもおかしくないのに、兄貴の代からというと長くて10年ちょっとだ。


「清康公の頃から……?ちょっと待って、もしかして平屋は兄貴の代になってからできたのか?」


俺の質問に対し一瞬、康孝の表情が曇る。どうやら俺と同じことを考えているらしい。


「……ええ、そう聞いております」


康孝も、平屋が兄貴の代に開かれ、蜜月の関係で大きくなっていったことの意味を考えているようだ。そしてそれは未来知識とも結びつく。


「ちょっときな臭いな。兄貴の肝入りでできた商家なんだとすると…諜報機関ってこともあるかも知れない」


康孝の表情が納得したような顔になる。商家はものを売る過程で多くの人と関わるし、町に完全に溶け込めるからな。諜報機関としてはぴったりだろう。


「……そうかも知れません。しかしだとするとまずいですぞ。忍びはその日を食いつなぐためなら誰にでも情報を売る可能性があります」


確かにそれはそうだ。特に、忍びはなんでもやるから忍びと言える。俺達の情報は織田や今川にとって重要な情報だ。さぞかし高く売れるだろう。


「ましてやつらが忠誠を誓ってた清康公はもうおられぬ…。我らに肩入れする理由はございません。」


「いや、だったらわざわざ俺とあったりしないだろう。本当に忍者なら俺と康孝が話してることなんて筒抜けだろうし、とっとと三河を去って情報を売ればいいはずだ」


もちろん、俺がさらなる有益な情報を持ってることを知っていて、それを奪おうとして会談した…という可能性もなくはない。だとすると俺は、まんまと情報を取られてしまったことになる。


しかし、さっきも言ったとおり、俺の判定師(プル)としての知識と経験によれば清兵衛は俺達に敵対的ではない。少なくとも今のところは。


「つまり食いつなぐことが本分ではあるが、できれば清康公を裏切りたくないと?」


「そうだね…。俺か信定か広忠を支えてる家老たちか…松平の誰かが、一族郎党の飯の保証をしてくれるなら仕えたいってところかな」


というか清康に仕えてた忍者だとすると、服部保長かも知れない。俺達がよく知ってる服部半蔵といえば主に服部正成のことだ。保長はその父親らしいけど…清康が死んでからの動向は不明だ。


もし清兵衛の正体が本当に服部の手の者だとして、彼らが俺達の味方になってくれるなら心強い限りだ。少なくとも俺の目利きでは清兵衛と名乗ってた人物は信用できそうだしね。


何より情報収集ができるやつが味方にいれば、筋肉と未来知識だけで戦わずに済む。広く領土を広げていけばいくほど、情報は重要だからね。


「すると…此度の戦で、誰についていくべきか、あるいは三河を離れ新たな主を求めるべきかを見極めようというわけですな」


康孝が神妙な顔をして、そう言った。そうか俺達は試されてるってことか。

だが俺も信定も広忠の家老達も見限られるようだと、恐らく織田か今川に情報を売るだろう。


第一、史実では松平は今川に臣従している。それが服部から今川に情報提供があったせいだとしても不思議じゃない。


「おそらくそうだろうね。つまり元々負けられない戦いが、より重要度を増したってことか」


清兵衛に話したプランを実行するためにも、ここで信秀の首をとり、尾張に侵攻しなくちゃいけない。


三河同士で争ったら、確実に戦力が弱まり、織田・今川の侵攻を許すことになる。だから、俺が尾張を手に入れ、三河での争いの抑止力になる必要があるんだ。三河のライバル達を黙らせるには戦力と米と金が必要だからね。


三河が安定してれば、農業改革や新商品の開発とかを邪魔されずにできるからね。そこから得られる収益で俺は西を目指せる。


もちろん収入の一部はライバル達にも還元しよう。俺に逆らえば人が死に、俺に協力すれば儲かることを理解してもらわないとね。


「よしっ!やるぞ康孝!!服部に!織田に!今川に!そして松平に!」


「松平信孝ここにありと知らしめてやるんだ!!」


俺は心の中心が燃え上がるのを感じた。何せ前世の俺は、どちらの記憶にせよ、必死に戦ってはどうしようもなく騙されて、どん底に落とされてる。


だが、この世界では未来の知識や技術があるし、どこまでも俺と共に戦ってくれる康孝がいて、俺に可能性を見ている服部がいる。


今度こそ!今度こそ!しずくのときや桃のときみたいなことにはしない!

仲間を護り!期待にも応えてやる!そして未来に戻るぞ!


茂、待っててくれ。必ず会いに行くからな。


――――システムメッセージ――――

システムNO.1からシステムNO.2へ

“オレ………モ………マッ………テル”


どこかで茂の声がしたような気がした。

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