疑惑の記憶
◇◇◇◇◇◇◇
…………!!!!なんだ…?この記憶は…!?
落ち着け、少なくとも桃が死んでしまったところまでは、俺の記憶の通りだ。いや、今の記憶も俺の記憶なんだけど…、別の記憶がある。
桃…偽桃と別れてからの記憶が二つに分かれている。何故だ!?
俺は誰だ?いや俺はどっちなんだ?どっちが本当の記憶で…?
俺は混乱していた。だって、桃が死んでから”普通に服役し、茂に謝ることを決意した”記憶と、”教団に洗脳された”記憶が共存している。
そして奇妙なことに、”今”洗脳の影響を感じない。そちらの記憶で起こった出来事はどこか遠くから見ていたような感じだ。実感が感じられない。
やっぱりこっちの記憶が偽物なのか?
しかし誰がどうやって俺の脳に…いや”松平信孝の脳”に?そんな記憶を植え付けたっていうんだ?
俺はうすら寒いものを感じた。だからと言ってどうできるもんでもないけど…。
「より詳しく調べないといけないかも知れない」
俺がどうやってこの世界に来て、松平信孝に憑依したのか、誰が俺に異なる二つの記憶を植え付けたのか?
そして、どうやったら未来に戻れるのかを。
今のとこヒントなんてどこにもないけど、まだこの時代に来たばっかりだからね。
来れたからには帰る方法が、きっとあるんじゃないかな。
俺は可能性が薄いと思いながらも、はかない希望を抱いていた。
「生き残らないといけない」
何もわからないまま、謎を抱えたまま死ぬなんて嫌だ。未来に戻って、しずくのことを謝らなくちゃいけないんだ。方法を探すためにも、死ぬわけにいかない。
思考の深みにはまり、頭を抱えて悩み始めた俺を見て、康孝が心配そうな顔でこちらを見つめてくる。
「信孝様?どっどうなされました?大丈夫ですか?」
突然”生き残らないといけない”なんて口にしたから、康孝はびっくりしたようだ。俺のことをすごく心配した表情で見つめている。
俺は冷静を装い、何事もなかったかのように答えた。
「ああ、織田と今川に対する対策を考えてたんだ」
一応、ウソではない。まあ、ちょっと回想が長過ぎたのと、想定外の事態はあったけどね。
そして一番取り乱したのは、その想定外のせいなんだけど、話してもしょうがないので黙っておく。
「左様で、ではどの様な策をお考えですかな?」
ここは重要なところだ。史実の信孝が何をどうしたか知らないので、
俺のとる選択がどんな結果を生むかわからない。
しかし、生き残るには思い出した記憶を役立てるしかないよね。あの教団のやってたことを真似するのは嫌だけど、生き残るためにはしょうがない。
ただ、問題はどうやって洗脳と訓練の場を作るかだ。
「そうだな、えっとこの城の近くに、使われてない誰も来ないような洞窟はないかな?」
俺の突拍子もない質問に康孝はあっけにとられたような表情になる。
とりあえず周りにばれずに洗脳兵を増やせる場所が必要だ。城の牢を使うと、洗脳が完了する前に誰かが気づいて助け出してしまう恐れがある。
とりあえず、教団がやっていた方法なら、7日~10日ほど監禁できれば洗脳は可能だ。
誰も来ない洞窟があるなら、周りを見張りながら監禁し、見つかったら俺が発見者を始末すればいい。
信孝の肉体は裏筋肉こそ鍛えられていないものの、戦闘に関連する表筋肉は十分に鍛えられている。筋肉制御を60%開放すれば、数人程度は一瞬で殺せるだろう。
「洞窟でございますか?それが策に関係があるのですか?」
康孝が怪訝な顔で見つめてくる。まあ、普通に考えたら戦争に勝つ策と洞窟が関係あるとも思えないよね。
俺は康孝に、俺が教団で受けた洗脳方法を事細かに説明した。
もちろん、康孝が知らない内に信孝がそんな目に合ってたら変なので、そんな方法を思いついた…という風に濁しておいた。
しかし俺があまりにリアルに語るせいで不審に思われたかもしれない
「なるほど……確かにその方法で洗脳されれば二度とは逆らわないでしょうが…」
康孝も、この方法なら二度と逆らわない兵隊を作れると思ってくれてるみたいだ。未来での実績もあるしね。
「しかし人道的に…いえ乱世で、そのようなことは言っていられませぬな。しかし他の者にばれれば、必ず邪魔をされましょう。次に洗脳されるのは自分、と考えるでしょうからな」
康孝は苦虫をかみつぶしたような表情になっているものの、反対はしない。
この方法の重要性を理解してくれているらしい。さすが戦国時代を生き抜いてるだけのことはある。
「実際に洗脳する相手以外には、絶対にばれないってのが重要だね」
俺がそう言った後、康孝は少し思案するような表情になる
「話はわかりました。城の付近に洞窟はございます。しかし誰を洗脳なさるのですか?」
そうだな…。城の兵を洗脳したいところだけど、全員を一度に洗脳するのは難しいだろうな。
武将の三男・四男を集めるってのも難しい。家族にばれたら反乱を起こされそうだ。
これらの方法では、第三者にばれるのを防げないよね。
となると…やっぱり罪人とか奴隷とかかなあ。
「死刑囚や、戦で捕まって売られた者とか、浮浪者・サンカ・河原者の類をとりあえず100人ほど集めることができるかな?」
とりあえず、暮らしていく当てのない者に食料を与えれば、ついてくるんじゃないかな?
俺の質問に対して、康孝はしばらく考える。どうも実行する場合の問題点を吟味しているみたいだ。
しばらくして、考えがまとまったらしく俺に新たな質問をしてくる。
「それは可能でしょうが…、ずっと雇うのであれば食料はどうします?当家は、今いる者が食べていくだけでギリギリですぞ」
人を集めるのは可能か。それは良かった。食料については未来知識でなんとかするか?
でもすぐに食料生産を増やすのは無理だな。今は冬だし、米が育つには春から秋までかかるはずだ。
となると金を稼ぐ方法を編み出して、他所から食料を買うしかないよね。
お金になる未来知識はいくつかありそうだけど、今はすぐにできるものが必要だ。
「よし、康孝。酒蔵に連れてってくれ。濁酒に灰を入れるんだ」
康孝の表情が、今日見た中で一番くらいに曇った。




