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俺達は筋肉の可能性を知らなかった。筋肉の起こす奇跡を何も知らなかった

新米信者が筋肉制御の開放を完全に身に着けたため、戦闘師の指導は次の段階に向かうことになる。


俺達は今日も体育館に集められた。すでに戦闘師は祭壇の上で座禅をなさっている。

そのお姿は神々しく、後光がさしているようにさえ見える。


戦闘師は新米信者が全員集まったのを確認されてから、ゆっくりと説明を始められた。


「さて皆さんは、ここまでの練習により筋肉の出し得る限界のパフォーマンスを身に着けることができました。しかし私たちが普段使っている筋肉だけで行きつける領域には限界があります。」


「教団は人体解剖を繰り返すことにより、普段は使っていないが覚醒すれば"通常の筋肉を遥かに上回るポテンシャル"を生み出す隠された筋肉があることを突き止めました。これを教団では裏筋肉と呼んでいます。」


「この裏筋肉を用いた戦闘法こそ、現代の軍隊格闘術の神髄なのです。」


裏筋肉!?俺は叫びそうになった。戦闘師のお言葉でなければ一笑に付すところだ。

本当にそんな隠された筋肉があるのか…?そう考えそうになった途端、俺の思考から疑問が消えた。

戦闘師があるとおっしゃるのだから、あるのだ。それだけは間違いない。


「そして、裏筋肉の中でも戦闘術、暗殺術に特化したものを厳選し、どの軍隊格闘術にも存在しない教団だけの特殊な筋トレ法を開発したのです。」


「それによって実現されるのが"相手を著しく凌駕するスピード"です。最初に筋肉の開放を学ぶのもスピードのためです。」


「では、通常の筋肉だけ鍛えた者と、裏筋肉を十分に鍛えたとき者で、行きつけるスピードが、どのくらい異なるかを体験していただきましょう」


戦闘師はそういうと、俺を指さして


「そこの君、全力で私に斬りかかってきなさい」


俺は目を丸くする。教団の下っ端の俺が戦闘師に斬りかかっていいのかな?

しかし戦闘師の命令は絶対だ。とにかく斬りかかるしかない。


近くにいた教団のスタッフが俺にナイフを渡す。刃渡り10㎝のバタフライナイフだ。

全力で来いと言われたので、俺は筋肉の制御を100%開放する。鼻や耳から血が噴き出るが、一時的ならそんなに酷いことにはならないだろう。


シュバッ!!


俺は全力で戦闘師に斬りかかった!!

はずだったが…


消えた!?


俺の斬りかかった場所にはもう戦闘師はいなかった


「チェックメイト」


気が付いたときには、もう戦闘師のナイフが俺の首筋に当てられていた。

俺はトップスピードで斬りかかったのに……。

戦闘師のスピードはそれとは比べ物にならない。というかいつ動いたのか見えなかった。


「このように裏筋肉を鍛えれば、通常筋肉だけとは比べ物にならないスピードを身に着けることができるのです」

戦闘師がナイフをおさめ、おだやかな笑顔でおっしゃられた。


新米信者達が戦闘師をたたえる声を上げる。俺も思わず叫んでいた。


「神政復古教、万歳!!」「高畑戦闘師、万歳!!」


一通り、俺達が戦闘師を讃えたところで、戦闘師が俺達を鎮められた。


「皆さん、鎮まりなさい。私を讃えてくれるのは嬉しいですが、今は貴方達に裏筋肉について教えなければなりません」


戦闘師がそうおっしゃると、俺達はピタリと叫ぶのをやめた。


「皆さんには私が消えたように見えたかも知れませんが、決してそんなことはありません。」


「私は皆さんと同じように、筋肉を使って早く避け、早く接近したに過ぎません」


「ただ違うのは、私は裏筋肉も使って動いた。ということだけです」


少なくとも、俺には戦闘師の動きが見えなかった。消えたと言われればそうだと思うほどだ。

しかし、あれが裏筋肉のお陰なんだとしたら、なんとしてでも裏筋肉について知り、鍛えなければならない。

あれを身に着ければ、俺もきっと教団の未来のために戦える。


俺は自分の敗北を通じて体験した"筋肉の可能性"に感動していた。

一瞬でも裏筋肉の存在を疑ってしまったのが恥ずかしい限りだ。


「早く動くためのカギは関節にあります」


「各関節には最も深く関節に張り付いて、緊急時以外は全く使われない裏筋肉があります。

教団では、これを人間の限界を超えるスピードを生み出す裏筋肉としてスピード筋と呼んでいます。」


「火事場の馬鹿力と呼ばれるものの中には、通常筋肉のポテンシャルを100%発揮しただけでは説明のつかないものが数多くあります」


「教団はそれらの事案について調べ、馬鹿力が出るときに体のどこがどう動いているのか調べました。また解剖により、人間に知られていない筋肉がないか調べ続けました」


「そして太腿と膝の関節に鍛えればオリンピック選手など問題にならないほどのスピードで動くことができるスピード筋があることを突き止めました」


「また、肩と肘の関節には鍛えれば音速に近いスピードでナイフを振りぬくことができるスピード筋があることもわかりました」


俺は戦闘師の言葉に圧倒されていた。裏筋肉なんてものがあっただけでも驚きなのに、暗殺に特化した、スピードに特化した裏筋肉があるという。


俺は無性に感動していた。目からとめどなく涙がこぼれる。

見れば他の新米信者も同じだった。教団の素晴らしさ、暗殺に対する飽くなき研究を知らされて、俺達はこの教団に入れたことを主上(教祖)に感謝した。


「そして表と裏のすべての筋肉をただただ相手に接近し、首を討つために連動させる技術があります。必殺技…と言ってもいいでしょうが」


「神の恵みにより、限界を超えたスピードで近づき、気づかぬうちに殺す技

ゆえにこれを”神雷殺”と呼んでいます。」


それから14年、俺は死に物狂いで神雷殺を極めた。

裏筋肉を表同様に鍛えるのに半年かかった。

そして戦闘師には及ばないものの俺なりの神雷殺を編み出すのに3年かかった。


そこからは実戦だ。2年ほど、神雷殺を覚えた者同士で組手をし、6年目からは特例で外部での暗殺業務を任された。


仮想桃が俺の逃亡用に、国のデータを改ざんして作っていた偽の戸籍を再利用することで、

俺は別人に成りすまして、刑務所外での任務を遂行できたんだ。


◇◇◇◇◇◇


そして、俺が府中刑務所に収監されてから15年、新政復古教に入信してから14年が過ぎた。


これまでも任務を引き受けてきたが、ここからは本格的に教団の敵を消していくことになる。特に宗教団体がバックにいる与党・公民党の議員は消さなきゃダメだ。政治に関わる宗教団体は神政復古教だけで十分だからね。


他には、自明党議員でこちらに従わない者や野党でまだ力を持っている者もだ。


この15年で教団は強く日本の政治に食い込んだ。野党議員を消して椅子を奪い、教団がバックについた神政党から50人の議員を出していて、自明党の協力者と合わせれば改憲の発議に必要な三分の二にもすでに届いている。


日本を乗っ取るまでもうすこしだ。


俺はただの兵隊だが、これからも党のために貢献していこうと思う。


"俺は強い決意を固めて刑務所から一歩、足を踏み出した……。"


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