筋肉にギリギリまで無理をさせる訓練
俺達新米信者は長き特別研修を乗り越え、ついに判定師によって研修合格が認められたよ。
そして、新しく府中刑務所に就任した刑務官達の命令により体育館に集められた。
今日はここで教団の戦闘術を教えていただけるらしい。
基本的に教団の兵隊の育成は刑務所内で行い、刑期が終わった者から実戦投入されるんだってさ。
それにしても教団の教えがこれほど素晴らしいものだなんて思いもよらなかった。そりゃそうだよね。日本は元々、神の国なんだから神の子である主上(教祖)がお治めになるのは当然のことさ。
それを邪魔する日本政府は滅ぼすべき悪だ。我々信徒が主上のため、日本政府に誅伐を下さなければいけないよね。
俺は体育館への移動中、目を輝かせて教団のために戦う決意を新たにしてた。教団のため主上のために、必ず戦闘術を身に着けてみせると誓った。
◇◇◇◇◇◇◇
体育館に着くと、恐れ多くも教団の幹部であらせられる、戦闘師・高畑が俺達・新米信者を迎えてくださった。
戦闘師によると、今日は筋肉の制御を開放する方法を教えていただけるらしい。
壇上には祭壇が設けられ、眩い宝石がちりばめてある
戦闘師は祭壇に座禅をして精神統一を始められた。
やはり幹部だけあって、なんとも神々しいお姿だ。
数分ほど経って、戦闘師は目を開かれ
ゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた
「さて、皆さんまずはくつろいでお聞きください。」
戦闘師の洗練された美声が俺達の耳に入ってくる。
俺達はうっとりとした表情で、そのお言葉を聞き入った。
「ご存知の通り、人間は筋肉を損傷してしまわないように普段は筋肉に制御をかけています。つまり人間の筋肉には隠されたポテンシャルが眠っているのです。」
それは理解できる。いつもMAXじゃ筋肉が引きちぎれちゃうし、脳にも損傷が出るかも知れない。
大声を出したりすれば、多少制御を破れるのかも知れないが、大きくは変わらないだろう。
一体、教団はどんな方法で制御を破っているのだろうか。
「こちらが、その筋肉の制御を破り潜在能力を開放するためのプランでございます」
プロジェクターにスライドショーが表示される。
そこにはこうかかれていた。
1.重い物を急に手渡しで渡す。(このとき一瞬、筋肉は限界を超えて重りをキープしようとする)
2.重りを持ち上げた場合と比べて、どの程度筋肉が限界を超えているか測定する。
なるほど、確かに急に重りを持たされると、絶対持てるわけない重さでも数秒なら耐えられる気がする。
そうやって、疑似的に筋肉の制御を破った状態を作り出すってことだね。
「"普通に持ち上げられる重さの限界"と、"急に手渡されてキープできる重さの限界"の差が、普段と比べ"制御を破った"部分だと考えられます。」
俺達、新米信者は戦闘師の声に聞き入っていた。
誰もが戦闘師の声に酔いしれ、その言葉を聞き逃すまいと集中していた。
「まずは練習によって、徐々に制御を破った割合を増やしていきます。」
「その方法は単に少しずつ重りを重くしていくだけです。通常の筋肉の発達を除いてどのくらいの重りを持てるようになったかによって、制御を破った割合を計算します。」
「そして筋肉を100%引き出せるようになったら、今度は重りによってではなく自分の意思で制御を開放する訓練を始めます。」
「その方法としては、特定の合図を決めておいて、その合図をしたら重りを手渡すという訓練を繰り返します。」
「こうすることによって、重りによってではなく"合図によって"筋肉の制御を破れるようになるのです。」
俺達は戦闘師の説明に感動し、思わず彼を讃える声を上げていた。
「神政復古教、万歳!!」「高畑戦闘師、万歳!!」
戦闘師は俺達の称賛を一通りお聞きくださった後、鎮まるように命令なさった。
そして戦闘師の指導の下、俺達は筋肉制御を破る訓練を始めた。
この訓練はコツとかを探すより、ただひたすら繰り返した方が効果が高いみたいだ。
要するに、急に重りを持った時に"どのくらい無理できるか"の割合を増やしていくってことだからね。何度も繰り返してすこしずつ脳を騙すしかないわけだ。
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それから数日間、俺達は寝る間も惜しんで訓練した。戦闘師から"他のことはせず、筋肉制御を破る訓練だけを続けろ"とのご命令を頂いているので、食事と睡眠以外はひたすら訓練だけを続けた。
その結果、開始から数日後にはどうにか合図によって、100%を引き出せるようになった。
ただし、100%を引き出すと目や鼻から血が噴き出し、短期間で戦闘継続能力を失ってしまうため、普段は60%くらいで戦うのが良いと戦闘師はおっしゃられてた。
ちなみに教団軍部では60%程度をギア壱 80%程度をギア弐 100%をギア全開と呼んでいるらしい。そういえば、あの日 桃が"ギアを上げないと"とか言ってたっけ。あのときは弐から全開へ上げたのかな。
筋肉制御を破れるようになったことで、通常では考えられないパワーとスピードを手に入れたけど、それでもまだ序の口らしい。
戦闘師がおっしゃるには、俺達の体にはまだまだ隠れたポテンシャルが眠っているという。
「現状ではせいぜい力持ちってところかな」
道は遠く果てしない。俺はまだまだ戦闘術の入口に立ったに過ぎなかった。
それをすぐに思い知ることになる。




