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桃の中の狂気

~刑務所ぐらしが始まってから数か月が過ぎたある日~


その日、俺達7人はその日の作業を終え、共同室に戻りとりとめのないことを駄弁っていた。


すると、ヤクザ達が非常にくだらない話題でもめ始めたんだ。


「犬の方が可愛いに決まっとるやろが!!」


「い、いやいくら兄さんでもこれは譲れません!猫の方が可愛いに決まってるでしょう!」


いや、いい大人のヤクザが何を言い合ってるんだろうね…。

少しあきれていると、桃が話しかけてきた


「そういえば、たかしくんは犬好きだって言ってたね」


そういえば、前にそんな話をした気がする。

ちょっと言っただけだと思うけど、覚えててくれたのか。なんかすごく嬉しいな。



「ああ、犬は最高の友人だ。愛情を与えたら与えただけ返してくれるからね」


ゴロウ…

野良犬だったゴロウを茂としずくと3人で拾ってきて育てたんだよね。

最初は懐いてくれなかったけど、頑張って世話しているうちに心が通じ合ったんだ。


そうそう、しずくがゴロウの成長日記を学級新聞に載せたせいで、俺の家にクラスメイトが押しかけて大変だったんだっけ。


「桃は猫の方が好きだって言ってたね」


俺は一旦、犬の話を切り上げ、逆に桃に聞いてみた。


「へへへ、そうなんだよ~」


桃の表情が崩れ、にやにやした表情になる。可愛い。


「うちのミケちゃんもね~。すっごく可愛くて~」


さらに表情がだらしなく、へにゃへにゃになる。すごく可愛い


「普段ツンツンしてるのに、たまにベロベロに甘えてきてね~。ホンっとに可愛くて」


眼を輝かせながら、語る。


「それじゃあ、ここにいる間、会えないのは寂しいね」


俺もゴロウに会えないのは寂しい。愛情では負けないと思うが、桃のデレデレっぷりを見ると、ちょっと可哀そうだ。


俺がそう言った瞬間、桃の表情が変わる


「ミケちゃんは……お友達と一緒に遊んでた時に……」


「僕が……」


……?一瞬、桃の眼が赤く光った気がした


「桃?どうした?大丈夫か?」


もしかして何か触れちゃいけないことを聞いちゃったのかも知れない。


「えっ?あれ?僕、今どうしてたの?」


また桃の表情が変わり、きょとんとした顔になる。

いつもの桃だ。


「えっと、何か急に変な感じになったから、大丈夫かなって」


俺は心配そうに桃の顔を覗き込む


「変な感じ?う~ん、よくわからないや」


桃は首をかしげる。本当にわかってないみたいだけど…。

じゃあ、さっきのは何だったんだろう。


どちらにせよ、もう猫については触れない方が良さそうだな。


「だから猫ですって!!もうどこから見ても存在自体が可愛いじゃないですか!!」


「アホゥ!!犬こそ座って尻尾振ってるだけで可愛いやんけ!!完璧や!!」


言い知れない不安を抱える俺の横で、ヤクザ達がまだ言い合っていた


◇◇◇◇◇◇◇


それから、また数か月がたったある日


その日の桃は、朝から調子が悪そうだった。


「ね、ねえ桃?あんまり辛そうなら刑務官に言ってみた方がいいんじゃない?休ませてもらえるかはわからないけど、不安過ぎて見てられないよ」


寝てないのか、目の下にクマができてる。

可愛い顔が台無し…いや、やっぱり可愛い。


「だ、大丈夫……だよ?心配してくれてありがとね」


どうみても大丈夫そうじゃない。

俺への返事もいつものハキハキした物言いじゃなく、やっと絞り出したって感じだ。


「大丈夫…大丈夫だから」


あまりしつこく言うのも悪いかと思い、俺は一旦放っておくことにした。

作業が終わって共同室に帰ったら、全力で休ませよう。


桃はふらつきながらも、作業だけはきっちりこなしていった。

そして夕方になり、その日の作業が終わった。


「ふわ……ふわわ……」


やっぱり朝の時点で休ませておくべきだった。

桃は目の焦点が合ってないし、足取りもおぼつかず、可愛い鳴き声…ではなくうめき声をあげている。


「ふにゃっ!?」


変な悲鳴を上げたかと思うと、桃が前のめりに転びそうになる。


「危ない!」


俺は、とっさに飛び出して、桃の体を抱き留め

横に抱える


「桃、大丈夫?じゃないよね。これはもう病院だよ。刑務官に相談しないと」


これだけ調子が悪ければ、なんらかの処置はしてもらえると信じたい。

ほら、桃ったら顔も赤くなってるし、もしかしたら熱があるのかも


「あの、あのね。たかしくん。

あ、抱き留めてくれてありがとう。それで」


桃の顔が耳まで赤くなってきた。相当熱が上がってきたのかも知れない。


「も、もう降ろしてくれても大丈夫だよ?」


そういえば、抱きかかえたままだったね


「あ、ああ。ごめんね」


俺は桃を降ろしてあげた。

俺の顔もちょっと赤くなる。いや、男同士だから別に照れることはないんだけど。

桃が可愛すぎるんだよね。


「えっとね、別に嫌とかじゃないんだよ?

でも、ずっと抱えてたら重いでしょ?」


桃はもじもじして、こちらをチラチラ見ながら言った。


いや、俺もマッチョな方じゃないとはいえ、桃くらいの体重ならいくらでも抱えてられるけどね


「桃はすごく軽いと思うけど」


俺の台詞に対し、桃は珍しく大声をだして


「それでも!ずっと密着してたら

えっと、恥ずかしいもん」


ぷん!と頬を膨らませ、いつもの可愛い怒り方をする。

思ったより元気なのかも知れない。

なんて、呑気なことを考えていたのだが


次の瞬間、俺は戦慄した

!?なんだ?空気が変わった!?


まわりの気温が1,2度下がったんじゃないかと思った。

そうじゃない。桃の雰囲気があまりに変わったせいで、

俺の体が極度の緊張状態になり、体温が下がったように感じたんだ。


「も、桃?」

桃の瞳が赤く輝く。

瞳孔が大きく開く。狂気を感じる…。


恐ろしくて…美しい…。いや待て変だ。

美しい?どういうことだ?目の前の桃は怖い。怖いはずだ。

なんで美しいなんて感じる…?


「ねえ、たかしくん」

桃の口から発せられる声は、いつもと同じ可愛い声だけど、

トーンが違う。威圧感がある。


「もし……僕に何かあったら……」


「これを………」


カードキーのようなものを渡された


「桃?これ何なんだ?それに桃に何かあるって―――」


そこまで言ったところで、再び桃の雰囲気が変わった


「あれれ?僕、今何か言ったかな?」


いつもの雰囲気に戻った。

一切の悪意がない無邪気な笑顔で首をかしげている。


「そ、そうだ僕、たかしくんに抱きかかえられて…あわわ」


そう言って顔を赤らめる桃は、いつものままだったが……


俺はなんとなく、これまで通りには見れなくなっていた。


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