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戦国時代で出家したんだが、俺の知ってる坊さんと違う

それから数日後、俺は出家するために尾張国の萬松寺という寺に連れてこられた。


美濃か、もしくはもっと寺の多い近江とか山城で出家するのかと思ってたけど、なんで尾張なんだ?信雄領だから監視役をもぐりこませるのに面倒だろうに

まさか信雄領に押し込むことで、俺か信雄が暴発するのを狙ってるのか?


んー、だとするとここも危険やんけ。秀吉に殺されなくても信雄に殺されたんじゃしょうがないぞ。


「よぉ、お前が信孝か」

俺が考えにふけっていると、袈裟を来たスキンヘッドの爺さんが話しかけてきた。

袈裟を着てるんだから坊さんだと思うんだけど…彼のボディは俺の知ってる坊さんと違い過ぎる。


顔はジジイらしくしわがれているのに、肉体はプロレスラーのようにマッチョだ。

和服に袈裟を羽織ってて、中の筋肉がわかるんだから相当だ。


「俺は安福って坊主で、ここの住職だ」

「今日の得度式は俺が仕切ることになってる」


目の前の老人はマッチョだし、ヤンキーのような口調だし、とても偉い坊さんには見えない。

「得度式って何ですか」

「まあ簡単にいやあ、お前の頭を剃ることだな」

「あとはまあ、色々と坊主になる手続きだ」


そうか、俺もついにスキンヘッドになるのか。まあ自分から言い出したことだししょうがないな。一応覚悟はしてきたし。とりあえず秀吉に殺されずに済むならスキンヘッドぐらい朝飯前だぜ。


「あ、坊主としての名前とかって自分で決めれるんですかね?できれば露鳥下種とかがいいんですが!」

「……お前がホントにそれでいいんなら、いいけどよ」

「すんません…。もっとちゃんとしたのがいいです」

「はっはっは。お前、妙なやつだな。とてもあの信長様の息子とは思えんぜ」


まあ、いま信孝の中にいるのは、令和から来たニートのおっさんだからな。

信長の子なのはガワだけだ。


「無難なとこなら、今の名前からとって「安信あんしん」か「安康あんこう」ってとこだな」


どっちにしろ音が悪い気がするな…。安心とか魚のアンコウを連想しそうだ。

それならアンコウよりは安心できる方がいいか?


「じゃあ、安信でお願いします」

「そうか、いいだろう。」

「ではこれより安心の得度式を執り行う」



「とりあえず髪はこんなところでいいだろう」

俺の頭髪はすっかり剃り落とされスキンヘッドになっていた。


「さて得度式はここからが本番だ」

「え?頭剃るだけで終わりじゃないんですか?」

確か頭を剃って坊主だと認めてもらう式だと言われた気がする

「坊主になる手続きがあると言っただろ」

ああ、そうか。書類とか印鑑とかが必要なのか?

「今から恒例の新雲水歓迎座禅会を行う」

「は?」

「今が大体、未の刻(14:00頃)だからな。今から日付が変わるまで

の4刻、寺の雲水全員で座禅を行う」

4刻…未来の単位だと8時間か!?いや、そんな長くただ座ってるだけって

どうかしてるだろ

「曹洞宗の基本は只管打坐だからな。正式な雲水と認めるために、とにかくまずは座禅を覚えてもらうんだ」

坊主になるには、座り続ける精神力が必要ってことか…

思ったよりとんでもないところに来ちゃったみたいだぜ。


「まずは座れ、何も考えずに座るんだ。そうすりゃあ、座ることに

どんな意味があるかわかるはずだぜ」

意味って…座ることに意味なんかあんの?

いや前世の座禅だと精神統一とか集中とかかな?

「いいから座れ」

安福がすごい表情で威圧してくる。こいつも坊さんのはずなんだが

こう暴力的でいいんだろうか。

とりあえず俺は座ってみることにした。



座り始めてから1時間ほどが過ぎただろうか…。

ここには時計なんてないし、目をつぶり続けているから時間の経過がわからない。

1時間でもよくもった方だろう。こんなことを8時間も続けたらおかしくなりそうだ。


しかし安福和尚の話では、8時間座禅に耐えることが雲水(曹洞宗の坊さん)になる

条件みたいな話だった。雲水になれなかった場合、武士として秀吉や信雄の配下に回される可能性もある。ここの方が安全なのは確かなんだ。…たぶん。

だとすると俺が生き抜くには、まず8時間耐えきる必要がある。そうすりゃ一応の身分は保証されるからな。


そんなことを考えながら、俺はとにかくにも座り続けた。

異常を感じ始めたのは座り始めてから2時間ほど経ってからだ。


くそっ…いつまでこんなことを続けるんだ?いったい何の意味がある…

そもそも俺は何故この時代に来たんだ?未来にいれば少なくとももう何年か

ニートを続けられたのに…。


そもそも秀吉が悪いんだ…。俺を殺そうとするから…。殺す…殺せば…

そうか俺もやつらを殺せば…安全を確保できるかも知れない…。

まず手始めにこの寺の…


バシッ!!


俺の肩に痛烈な痛みが走った。

「心を乱し過ぎだぜ」

「あ…?」

どうやら安福が棒のようなもので、俺の肩を叩いたらしい。

この棒は警策といって座禅のとき居眠りなんかをしてるやつの肩を叩く道具みたいだ。

「座禅をすると周りの瘴気が集まるからな。心が邪心に支配されそうになるだろうが、

どうにか我慢しろ」

……瘴気?いやまて俺が来たのは戦国時代のはずだ。ファンタジー世界じゃないはず

だとすると瘴気ってのは座禅に集中できない心の乱れとかを例えたものなんだろう。

「我慢たって、どうすりゃいいんです?」

「座ることに集中しろ。何も考えずにいれば邪心にとらわれることはねえ」

何も考えるなか…。2時間座ってみて、それがどんなに大変なことかなんとなくわかってきた。あと6時間ももつだろうか。


それから俺は1時間ごとに警策で叩かれつつも、どうにか8時間を耐えきった。


「中々スジがいいじゃねえか」

スジがいい?いや俺は1時間ごとに殺人衝動が出てきて、その度に警策で叩かれてたんだが…。スジがいいってのはどういうことだ。


「大抵のやつは半刻ともたずに発狂して、殺しにくるからな。叩かれるまで我慢できるだけでも、かなりマシな方だ」

30分で発狂!?座るだけと思ってたが、なんちゅう過酷な修行なんだ。

加えて、やっぱりこの世界は元の世界とは、何か違うみたいだ。前世で30分座禅したら発狂して人殺しをするなんて聞いたことがない。

瘴気…というのが現実に存在する、よくないパワー?ってことなんだろうか…。よくわからん。


「何にせよ、これでお前も正式に萬松寺の雲水だ。これからよろしくな」


こうして俺は最初の修行をどうにか乗り越え、雲水になった。


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