目覚めていく八つの上院恋愛傾向~かんな達VSキリスト~
【 2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 八愛地獄 自己虐の迷宮 】
気がつくと私は、遊園地のミラーハウスのような、無数の鏡に囲まれていました。
間違いなく、自己虐の迷宮に戻ってきたみたいですね。
私は周囲を見回します。閻魔様はもういないみたいですけど……。
私と同じように、どこかにワープさせられた輝夜さんと太上老君さんはどうなったのでしょう?
そう思っていると、無数の鏡の内 1つの鏡が強い光を発しました。
「やっと帰ってこられましたわ」
「か、輝夜さぁん!!!無事だったんですね!」
色んな事が起こり過ぎて、感情がぐちゃぐちゃですが、輝夜さんが無事なら言うことはありません。
ですが、輝夜さんの後ろから次々と輝夜さんにそっくりな人達が出てきました。これはもしかして……?
「おーっほっほ!わたくしは輝夜のフラウティアですわ!さあ、愚民の皆さまわたしくをめちゃくちゃに甘やかすのですわ!」
「あたしは輝夜のストルゲだよ。姉さんはこう見えておっちょこちょいだから、放っておけないんだ」
「プラグマ……。私と輝夜はずっと一緒……それを阻むものは全て……私と仲良しに……してしまえばいい……」
「輝夜さんも、三人の自分と会ったんですね?やっぱり吸収できなくて連れてきちゃったんてすか?」
タイムスリップ前の時間軸でも、輝夜さんと太上老君さんは自分のコピー達を連れてきていました。
キリストとの対決にも参加してもらったのですが……やはり戦いの役には立ちませんでしたね。
「ええ。せっかく恋に落ちた愛しい人たちを犠牲にするわけにはいきません。ルダスは手に入れられませんでしたが、……それでもわたくし達ならきっと!キリストを倒すことができますわ!」
『三人……、力を……合わせなくては……輝夜……貴方の脳にも、ストルゲ達の……記憶を送る……!!」
「な、なんですの!?この記憶は……これは、あの世界でわたくしが体験した……い、いいえ!これはこの子達の記憶ですわね!!」
他人から相手にされず攻撃的だったフラウティアは他人に心を開き甘える方法を学んだ……。
姉に甘え、依存するばかりだったストルゲは、姉の世話をし、足りないところを補い合う方法を学んだ……。
全てを排除することしか頭になかったプラグマは、あらゆる人の力を借りることでこそ、永遠に近づけることを学んだ。
―――――システムメッセージ――――
『輝夜』が上位恋愛傾向『ルダス』に目覚めました。
「わ、わたくしがルダスに!?け、けれど今の記憶は?一体、何があったんですの?」
私が輝夜さんに事情を説明しようとすると、別の鏡が輝き始め、中から太上老君さんが出てきました。
「やれやれ、どうやら無事に帰ってこられたようじゃな」
「た、太上老君さん!貴方も無事だったんですね!これで、ようやくキリストと戦う目途が着きました!」
「い、いや……ワシは……」
太上老君さんは、口ごもって俯いてしまいました。
そんな太上老君さんの後ろから、やはり三人の太上老君さんにそっくりな人達が出てきました。
「私のスーパー・プリンスよ!今ここに全てを捧げよう!」
「兄さん、ここをこう改造すれば、さらに性能が上がるんじゃないか?」
「皆との愛があれば!太上老君との愛もさらに高まる!」
輝夜さんと同じく、太上老君さんもコピー達を吸収できずに連れてきてしまったみたいです。
太上老君さんは『フラウティア』『ストルゲ』『ルダス』に目覚めていますから、コピーもその三人みたいですね。
これも前の時間軸と同じ現象ですけど、これまでのパターンからすると……。
「ワシはこやつらを吸収することができなんだ。よって、ルダスには目覚められなかった。まことに申し訳ない」
「これでは、ワシはキリスト戦の役には……」
それでも勝てると言った輝夜さんとは対照的に、太上老君さんは本気で申し訳なさそうにしています。
その時、再びあの『声』が聞こえてきました。
『これで……最後……もう……支援は……TTRAWも消滅しつつ……あ……』
「こ、この記憶は……まさか!?し、しかし誰がどうやって?ワシの発明でもここまでのことは……」
自分の知能と発明だけを愛し続けていたフラウティアは、それらによって隠そうとしていた自分の弱さを愛し、それを愛してくれる者がいることを、学んだ。
兄の発明を至上だと考え、サポートすることにしか興味が無かったストルゲは、自分の頭で考え兄を超える発明をすることが、本当に兄のためになることを学んだ。
あらゆる恋愛を遊びとしか捉えられなかったルダスは、兄との恋を通じて『複数の人と本気の恋』をすることを学んだ。
―――――システムメッセージ――――
『太上老君』が上位恋愛傾向『プラグマ』に目覚めました。
「な、なんじゃこの力は?これが永遠か!果てしない研究の末、ワシはついに永遠の愛を手に入れたぞーー!!」
太上老君さんが『プラグマ』に目覚めたみたいです。『永遠の愛』を生み出す発明については気になりますが、それより今はキリストを倒すことです。
全次元に続いて、この八愛地獄まで吸収されてしまえば、全てがお終いですからね。
「輝夜さん!太上老君さん!『4つ』に目覚めたみたいですね!私も『4つ』になることができました。今こそキリストと戦う時です!」
「なのですが、その前に私の経験したことを共有しておく必要があります」
私が一度キリストと戦って敗れてタイムスリップしてきたこと、キリストがルダスに目覚めて『5つ』になること、そしてTTRAWに兄の記憶をコピーしたアンドロイドがいて、私達の脳にストルゲさん達の記憶を埋め込んだことを……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「とても信じがたい話ですけれど、先ほど私の頭にストルゲさん達……私のコピーの記憶が流れ込んできたのは間違いないですわ」
「うむ、ワシの頭にもルダス達の記憶が流れ込んできた。故にこやつらを吸収せずとも、プラグマに目覚められたのだ」
二人はタイムスリップや記憶の保存、コピーといった点を訝しがりながらも、自分に『上位恋愛傾向』が目覚めたことで、とりあえず納得してくれました。
「それより、大変なのはキリストが『5つ』に目覚めてしまうという方ですわ。だとしたら、このまま挑んだとしても、負けてしまう可能性がありますもの」
「その点については……」
私が考えを言おうとした瞬間、世界そのものが『ガクン』と大きく振るえました。
「やあ、皆。私が神の子『イエス・キリスト』だ。よろしくねえ」
気が付けば、銅像や絵画に描かれたキリストにそっくりな人物が、私達の目の前に立っていました。
「き、キリストさん。貴方は愛に溢れた人だと聞いています。どうして全次元を消滅させるようなことをするんですか!」
私はとっさにタイムスリップ前と同じ言葉を、キリストさんに投げかけていました。
「全次元は私との愛に打ち震えているよお。これが、全次元にとってもっと幸せな方法なんだあ」
『全次元の人々はキリストさんの魂の中で生きている』これはタイムスリップ前にも聞いた情報です。
魂の中では、人々はキリストさんと完全に共鳴していて、至高の幸福を得続けているらしいですけど……。
私はそれがどんな状態かわかりません。でも、そこには自由がないと思います。
「君たちもアガペーしようよ。私の愛に取り込まれれば、皆幸せさ」
来たっ!!
「皆さん!頭を伏せ、目をつぶってください!!あの光を見ると、キリストの愛に取り込まれます!!」
そう叫びながら私も、地面に伏せて目をつぶります。
「クワドラプル・愛」
目をつぶっていても、周囲に光が広がっていくのが分かります。
「か、かんなさん。まずいです!い、今にもキリストの中に取り込まれそうに!!」
「じ、自分の意識をフラウティアに集中してください。独善的なフラウティアの気持ちになっていれば、キリストの愛を否定できるはずです!」
そう言って、私は心をフラウティアに向けます。
『私は私のやり方で皆を幸せにする!キリストのやり方は間違っている!!』
そう考えていると、少しだけ光の影響が薄れてくる気がします。
でも、これはまだ『クワドラプル』。タイムスリップ前と同じなら、キリストの次の行動は……。
光が止んだことを確認した私は薄目を開けて、キリストの方を見ました。
「キリストが分身したじゃと!?」
5人になったキリストを見て、太上老君さんが叫びました。
「あれは、私達が『鏡の中』で経験したのと同じ、キリストのコピーです。あれと恋愛することで『ルダス』に目覚めるんです!」
私達と出会うまでにキリストは、元々持っていたアガペーに加え、全次元を吸収することで得た『フェリア』『エロス』『マニア』を持っていました。
そしてこの戦いの中でコピーと恋愛し、『ルダス』に目覚める……!
『クワドラプル・愛』が強化された『クインタプル・愛』が飛んでくるはずです。
タイムスリップ前で私達は、『クインタプル・愛』によってキリストの愛に取り込まれてしまった。
そう考えている間に、オリジナルのキリストがコピーの4人を吸収し、強い光を放ち始めます。
―――――システムメッセージ――――
『イエス・キリスト』が上位恋愛傾向『ルダス』に目覚めました。
「ば、馬鹿な!今の一瞬でコピーと恋愛したというのか!」
「普通なら数ヶ月から一年、わたくし達だって数日はかかりますのに!」
「クインタプル・愛」
さっきまでとは比べ物にならない量の光が私達に降り注ぎます。
私達はとっさに伏せて目をつぶり、フラウティアに集中します。
だけど、クインタプル・愛の温かな光に包まれていると、この愛こそが素晴らしく、身を委ね幸福を受け取るべきという気持ちが溢れてきます。
「か、かんなさん。もうダメですわ。このままでは……」
「す、ストルゲに集中してください!家族のことだけ考えれば、少しは……」
私達は手を繋ぎ、お互いの事だけを考えます。
すると、少しだけキリストの愛の影響が薄れた気がします。
タイムスリップ前とは違い、4つに目覚めているからなのでしょう。
それにルダスの共鳴効果はお互いの『上位恋愛傾向』を強化してくれますからね。
「おうおう、素晴らしい愛だよ。私は感動したねえ」
「これは私の方から寄り添わないといけないねえ」
「モードチェンジ・ルダス」
キリストがそう唱えると、キリストの姿が女の人へと変わっていきます。
その姿は、絵画や銅像で描かれた『マリア様』の姿に見えます。
「ひゃ、百鬼夜后!!」
太上老君さんが叫びます。太上老君さんはキリストの母親である『百鬼夜后』に恋をして、1600年間TTRAWに入る方法を求め続けたのでしたね。
「太上老君さん!落ち着いてください!!百鬼夜后は、彼女自身の遺言に従って貴方が吸収したんでしょう!」
「そ、そうじゃ。百鬼夜后はもうおらぬ。あれは姿形を似せただけの偽物じゃ!」
そう言う太上老君さんに対してキリストはにっこりと笑います。
そして私達に近づいて来て、太上老君さんに手を差し伸べました。
「そうでもありませんよ。私ほど、母の事を知っている人はいませんから」
キリストはそれまでの軽薄そうな口調から、優しく柔らかな口調に変えてそう言いました。
「ねえ、太上老君さん?貴方に辛い役目を押し付けて、本当にごめんなさい」
「でも、それだけ私にとってはあの子が……キリストが『究極』に目覚めることが大切なことだったんです」
「私のために、『ルダス』と『フラウティア』に目覚めてくださった太上老君さんなら、分かってくれますよね?」
百鬼夜后の姿をしたキリストは、縋るような表情で、太上老君さんに問いかけます。
太上老君さんは、分かりやすく狼狽し、汗をびっしょり流して頭を抱え、呻き声を上げました。
「ち、違う!お前は百鬼夜后ではないのだ」
「そ、それに、例えキリストの究極化が彼女の信念だとしても、そのために全次元を失わせるわけにいかぬ」
「それを為すには、かんなや輝夜そしてワシのコピー達に 深い愛を教わりすぎたからのう」
そう言う太上老君さんに対してキリストは、マリア様の顔で……正に聖母のような微笑みを浮かべて、太上老君さんの瞳をしっかりと見つめて言いました。
「例え貴方が信じてくれなくても」
「私は貴方を愛しています。最初に出会った時からずっと……」
「だから、貴方を利用することに、ずっと心を痛めてきました。本当なら貴方に酷いことをさせたくありません」
「でも、それでも!これは私の母としての使命!どうか、貴方も私を愛してくださるなら何とか私の想いを!生涯をかけた夢を叶えさせていただけませんか?」
「く、くああっ!」
「ダメです!太上老君さん!!」
太上老君さんの姿が段々と透明になり、キリストの中に取り込まれていきます。
こ、このままだとキリストは太上老君さんの持つ『フラウティア』『ストルゲ』『プラグマ』を手に入れて……
何とかしようと必死に方法を考えていると、太上老君さんの体が完全に消えたのと同時に、キリストさんの体が大爆発を起こしました。
―――――システムメッセージ――――
『イエス・キリスト』が上位恋愛傾向『ストルゲ』に目覚めました。
―――――システムメッセージ――――
『イエス・キリスト』が上位恋愛傾向『プラグマ』に目覚めました。
―――――システムメッセージ――――
『イエス・キリスト』が上位恋愛傾向『フラウティア』に目覚めました。
私と輝夜さんは、爆発によって遥か遠くに飛ばされました。
そして、爆発の煙が徐々に晴れていくと、そこにいたのは……
―――――システムメッセージ――――
『イエス・キリスト』がファイナル恋愛傾向『信孝』に目覚めました。
そこには、織田信孝が立っていました。