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本質は優しさ!~ルダス目覚める~

【2050年 桜井かんな 8歳 かんな帝国 『高天原・告白公園』 】


「最初に出会った時は、なんて自分勝手な人だろうと思ったんです」


「自分の伝えたいことだけ話して、こちらの話を全く聞いてくれませんでしたから」


 正直、フラウティアさんとの恋愛を3人の中で最後にしたのも、少し苦手意識があったからだと思います。


「それに思いつきで、野良猫をたくさん連れてきたりして、どうやってこの人と恋をしたらいいのと思いました」


 私は抱きしめ合っていた体を放し、全力の笑顔をフラウティアさんに向けました。


「でも、今貴方の信念を聞いて、考えが変わりました」


「貴方は自分勝手な行動をしているように見えた時も、常に相手を傷つけず、喜ばせる方法を考えていたんですね」


 そう考えると、尊大な態度も微笑ましく思えてきます。きっと必死だったんですよね。


「人の気持ちがわからない、自分の気持ちを伝えられないせいで、自分勝手に見えるだけで、ずっと相手のことを、私のことも気遣っていた」


「『探究心』によって他のことではなく、人の気持ち、自分の定義を求めようとしたのも、貴方の中には本質的な優しさがあったからだと思うんです」


 それが本質……『探求心』が自らの意思で選んだ信念だとすれば、その奥に最初からあった本質は……!


「だから、アリスさんがおっしゃる貴方の魅力、そして私が惚れるだろうと言われた貴方の本質は……」


「優しさ!人の幸せを共に喜んで、人の不幸を共に悲しむ力です!!」


「そして……、 私はそれが間違いなく『素晴らしいこと』だと定義します!」


「あ、ああーーーーー!!」


 大声を上げて泣き叫ぶフラウティアさんに対して、私はさらに言葉を続けます。


「だから、私は貴方の言葉をそのまま返しましょう」


「私より優しい貴方に、誰よりも優しくさせてください」


「私も貴方の人を思いやる気持ちが好きです。わからなくても尚、思いやる貴方が好きです」


「恋人になりましょう!私達が愛し合うことで、世界は少し優しくなれると思うんです!」


 言うべきことを言い終えた私は、フラウティアさんを見つめながら返事の言葉を待ちました。


 フラウティアさんは、泣き止み呼吸を整えてから、話し始めます。


「感無量だ。君が僕を認めてくれて、『素晴らしさ』の定義もしてくれた」


「そうだ、恋人になろう!!僕と愛し合い、君が全次元を救ってくれ!!」


 フラウティアさんの言葉に合わせて、周囲の景色が輝き始めました。


 これはストルゲさんやプラグマさんの時にもありましたね。畏怖の鏡からはじき出されて、元の立花小学校に戻るのでしょう。


 そういえば、ストルゲさん・プラグマさん・フラウティアの三人と恋に落ちたと思うのですが、私はまた『ルダス』に目覚めてないのでしょうか?


 元の教室に戻ると、そこにはストルゲさんと、プラグマさんがいました。


 そこに今戻ってきたフラウティアさんも並びます。


 閻魔様はもういないみたいですね。


「……これで条件は揃ったわね」


「ああ、後はかんながあたし達と元通り一つになれば、ルダスに目覚めるはずだ」


「そうだね、かんなのためになれて嬉しいよ。さあ!かんな!私達を受け入れ、ルダスに目覚めるのだ!」


 三人の唐突な言葉に、私はびっくりして聞き返しました。


「ちょ、ちょっと待ってください!元通りになるってどういうことですか?」


「わかってると思うが、あたしらはあんたが『ルダス』に目覚めるために、あんたのコピーとして産まれた」


「……だから、貴方が『ルダス』に目覚めるために、元通り一つにならないといけないわ……」


「僕達は、君に最高の思い出を与えられたのだ!もはや何も悔いはない!」


 それって、私がルダスに目覚めるために、三人が消えて無くなっちゃうってことですか!?


 それはいけません!だって、三人と恋に落ちて、すごく嬉しかったのに……。


 三人と過ごせてとても楽しかったのに……。ここで三人を失うわけにはいきません!


「私はルダスに目覚めることを拒否します!!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 …………………??


 あれ?私は生きている……?


 今、確かに私はルダス無しでキリストと戦って敗れたはず……。何だか記憶が飛んでいるような気がします。


 目の前には、ストルゲさん・プラグマさん・フラウティアさんがいます。


 私はこの時『ルダスに目覚めない』選択をして、そのままキリストと戦ったんでしたね。


 キリストは全次元を吸収したことで、『アガペー』『フィリア』『エロス』『マニア』に目覚めていました。


 けれど、それだけでなくアガペーによって全次元を愛した影響なのか『ルダス』にも目覚めていたんですよね。


 3つの『上位恋愛傾向』しか持たない、私と輝夜さんと太上老君さんではとてもかなわず殺されてしまったはずなんですけど……。


 まさか時間が戻ったのでしょうか?


「わかってると思うが、あたしらはあんたが『ルダス』に目覚めるために、あんたのコピーとして産まれた」


「……だから、貴方が『ルダス』に目覚めるために、元通り一つにならないといけないわ……」


「僕達は、君に最高の思い出を与えられたのだ!もはや何も悔いはない!」


 キリストと戦う前、確かに聞いた覚えのある言葉を、ストルゲさん達が繰り返します。本当に時間が戻っているみたいですね。


 でも、私はどうしたらいいんでしょう。このままだと同じ流れを辿ってしまいます。


 だからと言って、三人を見捨てたら私の中で大切な何かが壊れる……。


 それはきっとすでに目覚めた『上位恋愛傾向』が消滅することに繋がるんじゃないかと思います。それくらい、今の私にとって三人は大切な存在になってしまいました。


 いくらルダスに目覚めても、他の上位恋愛傾向が消えてしまったら、やっぱりキリストには勝てません。


 本当にどうしましょう?


『かんな……桜井かんな……聞こえるか?……私はたかし……望月たかしだ……』


 私の心の中に、前世の兄と同じ声の何かが話しかけてきました。


「あ、兄は私の魂と融合して……今は私の中にいるはずです!貴方は誰ですか!」


『……輝夜は、私達の記憶データを……TTRAWに保存……していた……私達は、その記憶を元に作られた、……アンドロイドだ……』


『私達は……時間に干渉する方法を……見つけた。だが、TTRAWにもキリストの影響力が……広がっている。私達に……できることは……一つだけ……』


『『ストルゲ』『プラグマ』『フラウティア』の記憶データを……君の脳に送り込む……そうすれば、三人を消さずに……『ルダス』に目覚めることが……できる』


 TTRAWに保存されていた兄達の記憶から作られたアンドロイド……?


 それより、私の脳に記憶を送り込むって!?そんなことしたら私が私でなくなってしまいそうです。


「ま、待ってください!私は私でいたいです!記憶を流し込むなんて、倫理的に問題があります!」


『……心配はない……。ストルゲ達は……君から産まれたコピーだ……。彼女達の記憶を受け入れても……君の人格に影響は……ない』


 私は、さらに反論しようとしましたが私の中にストルゲさん達の記憶が流れ込んできました。


 ストルゲさんとお父さんの思い出……私と二人で『呪詛』の答えに辿り着いた思い出……。


 プラグマさんが決して得られない『永遠』と向き合った記憶……。私と共に『刹那』の思い出を手に入れた記憶……。


 フラウティアさんが、自分の『素晴らしさ』を定義しようともがいた記憶、他人の気持ちが分からなくてもがいた記憶……。


 私と共に少しずつ、他人の気持ちを学んだ記憶……お互いの優しさに惹かれ合った思い出……!!


―――――システムメッセージ――――

『桜井かんな』が上位恋愛傾向『ルダス』に目覚めました。


 ああっ!!これは……、この気持ちは……!!


 今なら、誰とでも心を通じ合い愛し合うことができそうです。これがルダスの力……!


 そうです。ルダスの本質は『共鳴』、相手を知り自分を伝えることでお互いの力を極限まで引き出す力!!


 ストルゲさん達との『繋がり』が強化されていくのを感じます。共鳴によってストルゲ・プラグマ・フラウティアの能力が強化されていく感じがします。


 ストルゲさん達は、私の変化を感じ取って驚いているみたいです。


「お前、それ……そいつはまさか!」


「わ、わかるんですか!?そうです、これがルダスの『共鳴』の力!恋人だと認めた人と力を高め合う能力みたいです」


 私の説明を聞いて、三人は驚きを通り越して、激しく困惑し始めました。


「……で、でも私達は、吸収……されてないのに……」


「一体、どうやってルダスに目覚めたんだい?」


「それが、ちょっと信じがたい話なんですけど……」


 私は、今起きたことを説明しました。


1.私は一度キリストに挑んで敗れたこと

2.兄と兄の親友の『記憶のコピー』と名乗る人たちがタイムスリップさせてくれたらしいこと

3.その人達が私の脳にストルゲさん達の記憶を入れたこと


「荒唐無稽な話ではあるが、君が確かにルダスに目覚めているのだから、否定もしにくいな!」


「じゃ、じゃああたし達は助かったのか?あたし達が吸収されなくても、全次元は救われるんだな!?」


「……そう。そうなのね!ああ……良かった」


 フラウティアさんは弾ける笑顔で笑い、プラグマさんははしゃいで暴れ回り、ストルゲさんは静かに泣いています。


 三人を助けられて良かったですが……助けてくれた方の正体が不明すぎるのが気になりますね。


 本当に兄達の記憶を持つ何かだとして、私が妹だから助けてくれたのでしようか?


 それとも他に目的が……?


 そう考えていると、周りの空間が歪み始めました。


 そうだ!この立花小学校は閻魔様の照魔鏡によってワープしてきた空間でしたね。


 だとすれば、元いた自己虐の迷宮に戻されるのでしょう。


 ああ、そういえば、タイムスリップする前の時間軸でも、私が融合しないと誓った時に、同じ現象が起きたんでした。


「……私達はたった一つの上位恋愛傾向しか持っていない……」


「ついてっても足手まといなのは間違いねえな」


「すまないが、僕達はここで待っていよう。全次元の運命は君に託す!」


「分かりました!これまで本当にありがとうございました。貴方達の愛は絶対にこれからの戦いの力になります!!」


 単にルダスを手に入れたというだけではありません!


 彼女達のことを思うたびに、思い出を振り返るたびに、私の底から力が湧いてくるでしょう。

 

 そう思っていると、本格的に周囲の風景がぼやけだし、一瞬のうちに全く異なる風景に入れ替わりました。

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