困りごとランクS:かんなとフラウティアを恋人同士にする
【2050年 桜井かんな 8歳 かんな帝国 困りごと相談ギルド 】
ギルドに戻って来た私達に、アリスさんが駆け寄ってきて、声をかけてきました。
「お帰りなさい!!陛下、ついに困ったちゃん指数80を下回りましたね!これで皇宮に戻れますよ」
私達は、目的を達成した達成感を感じつつも本来の目的である『恋人になる』ことができていないことで頭がいっぱいでした。
だから、はしゃいでフラウティアさんの手を掴み振り回しているアリスさんに『ちょっと』と声を掛けました。
「アリスさん、実はギルドに依頼したいことがあるんです。手続きと、どのくらいお金がかかるのかを教えてください」
私から声をかけられたアリスさんは、きょとんとして答えました。
「あらら?もう皇宮に戻れるっていうのに、まだ『困りごと相談ギルド』に用があるんですか~?」
「はい。実は私達は『恋人同士』になるために、この世界に来たんです。消滅してしまった『全次元』をキリストさんと分離するために!」
私はキリストさんが全次元を吸収してしまったこと、今にも私達を襲ってくるかも知れないキリストさんに対抗するには『ストルゲ』『プラグマ』『フラウティア』『ルダス』の上位恋愛傾向を揃える必要があることを説明しました。
「へ、へえ~。お話は何とかわかりましたけど、それでギルドに何をしろって言うんです~?」
「それはもちろん、『僕とかんなを恋人同士にする』ことだ。何とか力になってもらえないだろうか?」
フラウティアさんは、アリスさんに頭を下げて頼みこみます。私もフラウティアさんに合わせて頭を下げました。
アリスさんは、ちょっと困った顔になって首を傾げましたが、すぐ笑顔になって言いました。
「なるほど依頼を受注しました」
【困りごとランクS:かんなとフラウティアを恋人同士にする】
「さて、このギルドに所属しているS級ギルド員は、ギルドマスターであるこの私だけです!なので、お二人のご依頼には私が対応させていただきます!」
「アリスさんがですか!?」
「ちなみに、料金は依頼を達成し次第、王宮に要求させてもらいますね~」
「それは問題ない。もちろん国家予算の範囲内ならばだが……」
「ははは、いくら何でも国家予算並みの要求はしませんよ~」
そう言ってアリスさんは、またニコニコと笑っています。そんなに私達の相手をするのが楽しいんでしょうか?
「それでは、お二人の仲を取り持つということで……、作戦を始めさせていただきますね~」
「二人の想いを、互いに理解し……それを愛情に高めるための作戦……」
「コードネーム:『高天原・大作戦』ですね~」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「高天原・大作戦ですか?」
「ええ、高天原というのは神々が住まう天上の国……ではなく、初代皇帝と皇后が結ばれたことを記念する公園のことです」
初代皇帝と皇后が結ばれた公園……?そこで、私達は何をさせられるのでしょうか?
「この公園で、初代皇帝は皇后に10000回に渡って愛の告白をしたんですって。その内9999回は断られて、10000回目に結婚することになったんですよ~」
「皇后の最初の答えは、『貴方は私のことを何もわかっていない』でした」
「けれど、結婚を決めた時の答えは、『貴方ほど私のことを分かってる人はいない』だったそうですよ」
「だからここは皇族の始まりを記念する場所であり、気持ちを伝えることの聖地なのです」
なるほど、気持ちを伝え合う聖地である高天原で、告白して気持ちを伝え合い恋に落ちるのが高天原大作戦というわけですね。
さっきフラウティアさんに、気持ちを聞かれて……。もう一息何か、もっとも深い部分を分かりあうことができれば、私とフラウティアさんは恋人同士になれる……
そう確信できたんです。
この聖地でなら、その何かを分かりあうことができると、アリスさんは感じたのでしょう。
でも、出会ってから数時間なのに、どうしてアリスさんはそこまで私達のことが分かっているのでしょうか?
そう思いながら、私達はアリスさんに連れられて『高天原・告白公園』に向かいました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【2050年 桜井かんな 8歳 かんな帝国 『高天原・告白公園』 】
「それで、具体的にはここで何をするんですか?普通に愛を伝え合えば良いんでしょうか?」
「そこなんですけどねえ」
アリスさんは人差し指を唇に当て、いつものニコニコした笑顔で『実はですねぇ』と言いました。
「私は『悟』と呼ばれる妖怪の一族でしてねえ。人の心が読めるんですよ~」
「妖怪ですか!?」
「いえいえ、この国では珍しくはないですよ〜。貴方がたが助けたミーシャさんも100年もすれば猫又になりそうでしたし~」
どうやら、この国では妖怪は珍しくないみたいです。さんざん色んな世界に行ったので、さすがにそれほど違和感はないですが、ちょっとびっくりです。
それにしてもミーシャは、普通の子猫だと思ってたら妖怪さんだったんですね。
知的生命体だとすると、ミカちゃんとの関係も変わってきそうですけど……いえ、それは良いとして!
「その『心を読む』能力を使えば、私とフラウティアさんで心を通じ合わせることができるんですか?」
「そうですね~。ただし、私が読んだ気持ちをそのまま伝えたとしても、二人がわかり合ったとは言えないでしょう~?」
「ちゃんと、自分達で伝えて自分達で考えて相手の気持ちにたどり着かないといけないですよね~」
それはもちろんですね。情報だけ聞いたとしても、それに気持ちが乗っていなければどうしてそう思うのか、それがどれだけ大事なことかが理解できないと思います。
フラウティアさんの口から聞いて、私の頭で考えないといけません。
「だからぁ、私はあくまでヒントを出すだけにしますね~。二人が伝えようとしていることが、どうやったら上手く伝えられるか、心を読んでヒントを出します~」
基本的には私達に任せるけど、どうしても行き詰ってしまわないようにサポートしてくるということみたいですね。すごく助かります。
「では、最初はアドバイスなしで自分の伝えたいことを伝えればいいんですか?」
「ええ。まずは、陛下……いえフラウティアちゃんに自分の信念、そもそも何故かんなちゃんに恋をしたのか語ってもらいましょう」
「かんなちゃんは、これまでストルゲさんとプラグマさんの最も大切に想っていることを理解して、その想いの強さに惹かれて恋に落ちてきましたよね」
「だから、今回もフラウティアちゃんが最も大切に想っていることに触れるのが、愛し合うための近道だと思いますよ~」
アリスさんは、私の心を読んだらしく、これまでの解決方法から、今とるべき最善の策を教えてくれました。
ストルゲさんが大切にしていた『お父さんの言葉』。プラグマさんが大切にしていた『永遠』……それに匹敵するフラウティアさんの何かに、私はまだ気づけていないということですね。
だからそれを語ってもらう必要があるわけです。そして、勘違いや伝え難さはある程度、アリスさんが補ってくれます。だったら何も問題はありません!
「それじゃあさっそく!お願いします、フラウティアさん!!」
私にそう言われてフラウティアさんは考え始めます。
時には赤くなって『はぅあ!』と声を上げたり、悶えて転げまわったりしていましたが、意を決したように私の肩を掴んで言いました。
「オリジナルのかんな!聞いてくれ、僕の想いを!僕の信念……そして、僕がどうして君に恋をしたのかも!!」
「その理由は僕自身の素晴らしさを『定義』することだ!」
そう言われて面食らいました。フラウティアさんの素晴らしさを定義する?
フラウティアという上位恋愛傾向は、自分自身を素晴らしいものと思っているとは感じています。
私にとっても自分の信念『相手の意思に関わらず幸せにする』ことが素晴らしいことだと感じています。
そう思わない人がいることは理解できても、信念までは変えることができません。
けれど、その素晴らしさを『定義する』とはどういう意味なのでしょうか?
そこにフラウティアさんの本質があるならば、何としてもその意味を聞き出さなければいけません。
「フラウティアの特性なのだろうが、僕には生まれた瞬間から自分が素晴らしいという自覚があった。だがある時、疑問に思ったのだ」
「他人から見たら僕は素晴らしいのか?とね。フラウティアにとって自分の素晴らしさを否定されることは許しがたいことだ。だから、何としても僕の素晴らしさを『定義』しなければならないと感じた」
本来のフラウティアは自分の信念に疑問など持たず、目的に向けて邁進するものなのだと思います。
けれど、フラウティアさんは『探求心』が信念と結びついていたせいで、素晴らしさを定義せずにはいられなかったみたいですね。
「だが、フラウティアは相手の気持ちを読み解けない。自分の気持ちを伝えることもできない。僕自身の力ではどうやっても、他人の評価を調べることができない」
「そう思っていた時に、君と出会ったんだ」
フラウティアさんは肩から手を放し、深く頷きながら『そうだ』と言いました。
「そして、先ほどの猫探しだ。最初はミカの気持ちも猫の気持ちも全く分からなかった」
「だが、そのせいで困っている僕を見た君は、僕の伝えきれないことをサポートしてくれて、僕の読み取れない人の気持ちを教えてくれた」
「そう、君のお陰で何もわからなかった『人の気持ち』について少しだけ知ることができたんだ!!」
そしてフラウティアさんは嬉しそうな表情から、一転して悔しそうな表情になりました。
「ああ、そうだ。『人の気持ち』を知ったことで、僕はこれまで他人に対して異常に傲慢だったことに気づいた」
「悔やんでも悔やみきれるものではない。全員に謝って回れるものでもない。これから礼節を尽くすしか他にないのだ」
「だが」
フラウティアさんは、今度は私の手を握って振り回します。
「今回、あの三姉妹と関わったことで全てが変わった」
「そもそも、猫探しの前にあの三人を見たならば、僕はただのケンカだと思っただろう」
「しかし僕は言葉に隠れた優しさを見抜けるようになっていた。それも君が上手く話を誘導してくれたからなのかも知れないがな」
フラウティアさんは熱い視線で私を見つめながら、興奮した様子で話し続けます。
「そうだ、僕は……僕は!!」
「誰より優しい君に、僕もまた誰よりも優しくしたい」
「君はいつでも、僕がどどうすれば喜ぶか悲しむか、何をしたいのかを逐一読み取り、いつも僕が幸せでいられるよう気遣ってくれた」
「こんな人間は、他に見たことも聞いたこともない!!」
フラウティアさんは、一度言葉を止め、息を吸い込んで『だから!』と叫びました。
「僕と付き合って欲しい!僕のことを、愛して欲しい!!もっと人の気持ちを……君の気持ちを知りたいんだ!」
「あ、愛するという気持ちも知りたい!愛される気持ちがどんなものか知りたい!!僕は、君のことを……知りたい」
私への行為と『探求心』が爆発しているみたいです。
フラウティアさんは私を抱きしめて言いました。
「ど、どうだろうか?君は……君の気持ちを教えて欲しい」
答えようとする私を、アリスさんが『待って!』と言って遮りました。
「ヒントをあげるって言ったでしょ~?一応、聞いた方が良いと思うけどな~?」
「あ、はい。そうですね。わかったつもりになって答えるのは確かに危険だと思います。心が読めるアリスさんのアドバイスがあれば、心強いです!」
私とフラウティアさんは、アリスさんに期待の眼差しを送ります。
「探究心、人の気持ちを知りたい。それにかける想い、かんなさんへの愛情はきちんと伝えられているけど、その奥に隠れているフラウティアさん自身の魅力を伝えきれてないですね~」
「そのことを考えてから、お返事をしたら良いと思います~」
アリスさんは相変わらずニコニコしながらそう言いました。
フラウティアさんの隠れた魅力……?
今の話では伝えきれてない魅力……。でも、これまでフラウティアさんと共に行動して、かつ今のお話を聞いた私ならわかる、『フラウティアさんの魅力』がある?
それに気づければ、私はフラウティアさんのことが好きになる……!!
私は、自分の返事を頭の中でまとめます。アリスさんの言葉を考慮に入れて、言葉を修正していきます。
「お返事がまとまりました。行きますね!!」
私はフラウティアさんの体を抱き返し、耳元で囁くように、告白の返事を話し始めました。