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困りごとランクD:姉妹喧嘩・仲裁

【2050年 桜井かんな 8歳 かんな帝国 困りごと相談ギルド 】


 ミカちゃんに依頼完了のサインをもらった私たちは、困りごと相談ギルドに戻ってきました。


 サインを受付嬢のアリスさんに差し出すと、アリスさんはにこにこ笑って言いました。


「なかなか早く解決できましたね〜。陛下ったら、思ってたよりずっと、他人の気持ちがわかるじゃないてですか~」


「ちょっと見くびってましたよ。ごめんなさいね~」


 そう言われたフラウティアさんは、怒ることもなく少ししょんぼりして言いました。


「いや僕の方こそ、自分のことばかりで周りに迷惑をかけ過ぎていたようだ。本当に申し訳ない」


 それを聞いて、アリスさんはさらににこにこしています。


 フラウティアさんの成長を、共に喜んでくれているのでしょうか?


「さて、次はいよいよ、困ったちゃん指数80のラインとなるDランクの依頼ですね〜」


 この任務によって、フラウティアさんはより人の気持ちを深く知り、それによって私と恋人同士になるはずです。


 そのためには、私の気持ちの変化も必要なのかも知れません。


 私の気持ちを心から理解してもらえたら、私はフラウティアさんに恋をするのでしょうか?


 片目でフラウティアさんを見つめてモヤモヤと考えていると、アリスさんが依頼書を持ってきました。


「Dランクの依頼で、陛下におすすめなのはこれですね~」


【困りごとランクD:姉妹喧嘩・仲裁】


「依頼主は皇都の大商人・ナリモ商会の主、リュート・ナリモ氏よ」


『娘達は、それぞれに才能があるが仲が悪くて将来が心配である。そのため、三人の意見をよく聞いて仲直りさせられる者を紹介して欲しい』


「とのことね」


「仲が悪い姉妹の仲裁ですか?ちょっと難しすぎるような気がするんですけど」


「いえいえ、この三人ホントは優しい子達なんですよ。でもそれぞれ立場や才能が違うから揉めちゃうだけでね。しっかりお互いの気持ちが理解できれば、仲直りできそうなんです」


 気持ちがわかれば、ですか。つまり、Eランクは人の気持ちを理解する依頼でしたけど……。


 今度は他人の気持ちを理解して、それを分かりやすく第三者に伝える依頼、というわけですね。


「それで、その姉妹はどんな子達なんだ?」


「そこまでヒントは出せませんよ~。本人達に会って、ご自分で考えてください~」


 そう言って、アリスさんはナリモ商会の住所を教えてくれたので、私たちはそこへ向かうことにしました。


【2050年 桜井かんな 8歳 かんな帝国 ナリモ商会・本店】


 私達は受付の方に事情を話し、奥の応接室に通されました。


「私が当商会の主人、リュート・ナリモである。この度は依頼を受けていただき、かたじけない」


「いいえ!僕達にも益があるものなのです!何も遠慮することはない!安心して僕達に任せてください!」


 さっきは少しおとなしくなっていたフラウティアさんですが、また自信満々の口調に戻ったみたいです。


 もしかして、自信がないから虚勢を張ってるんでしょうか?


 ベースとなっているのが私だとすると、その可能性もあるかも知れません。


 そう思っていると、ドアをノックする音が聞こえました。


 リュートさんが入るよう促すと、三人の女性が応接間に入ってきました。


「初めまして!あたしが長女のアオイ・ナリモだ!よろしくな!!」


「次女のノエルです。どうぞ、よろしく」


「ええと……三女のセーラです。あの……よろしくお願いします」


 アオイさんは活発そう、ノエルさんは頭が良さそう、セーラさんは大人しそうな方ですね。


「アオイ、お客様に対しては敬語を使えとあれほど言っているだろう」


 タメ口で話したアオイさんを、リュートさんが窘めます。


「別にいいだろ!客の相手はセーラがするんだし、商人同士の折衝はノエルがするじゃねえか」


 活発そうな性格とは裏腹に、アオイさんはお客様の相手をしない立場みたいです。


 でも、何で活発で人懐っこそうなアオイさんが接客をしないんでしょうか?


 他のお二人がすごく向いてるとか?


「私共のお客様や同業者は、高位の貴族やそれを相手にする商会となっております」


「ノエルとセーラは普段は無口だが、社交界で必要とされる礼儀をわきまえているのです。それに話して良いことと悪いことの区別もつきます」


「『沈黙は金』とも言います。話すべきことは話して、後は静かにしていることは商人として相応しい資質なのですよ」


 つまり、アオイさんでは礼儀がなってない上に、商売上不利になるような事を話してしまうということですか。


 リュートさんの言葉を聞いて、次女のノエルさんが『はぁ』とため息をついていいました。


「父さんの言う通りよ。姉さんみたいな乱暴な話し方じゃ売れるものも売れないわ」


「顔はいいんだし、もうちょっと礼儀正しくしてくれたら、売り方に幅が出るのだけど」


「でもさ、何だかんだで二人が売ってくれんだからいんじゃねーか?」


 アオイさんの言葉に、ノエルさんはイラッとした表情で言いました。


「商売というのは、コストや顧客のニーズ、価格や、流通経路と言った 全てが噛み合って初めて売れるのよ」


「すごい商品を思いついて、それがポンと売れるなら、誰も苦労はしないわ」


「そう言った分析、根回し、計算の苦労を姉さんやセーラは全然わかってないのよ」


 私はまあまあと言ってノエルさんをなだめます。


「商品については、アオイさんが、考えているんですか?」


「アオイが商品を考え、作る。ノエルは販路や価格を調査してどうやったら売れるか考える。実際に顧客にプレゼンするのは、セーラだ」


「誰よりも無口だが、見た目が貴族受けするし、作法は三人の中で最も完璧だからな」


 活発なアオイさんや、研究者っぽいノエルさんに比べて、確かにセーラさんはお嬢様っぽい顔つきと衣装をしていますね。


 うーん、アオイさんは商品開発だけして、他の堅苦しいことを妹に押し付けたい。


 ノエルさんは売るための苦労を他のお二人に分かってほしい、というところでしょうか?


「セーラさんは、お姉さん達についてどう思ってるんですか?」


 そう言われたセーラさんは、目を伏せていいました。


「そ、それはとにかく、すごいなって……。私なんかでも売れるように、すごい商品と売り方を提供してくれますし」


「で、でもあんまり革新的すぎるものが多すぎて、辛いことも多いです。姉さん達は私と違い過ぎて、どう接したらいいかわからないことがあります」


 なるほど、セーラさんは尊敬はしてるけど、二人を理解できないことがあって不安ということですね。


「三人には、これからアオイが考えた新プロジェクトについて話し合ってもらいます。かんなさん達はその話し合いを通じて、三人が仲直りできるように誘導してください」


「プロジェクトって……商品を売るお手伝いをするんですか?私達商売なんてやったことないんですけど」


「いや、君たちのすべきことは三人を仲直りさせることだけだ。そして『困りごと相談ギルド』が君たちに可能だと判断したのならば、できるはずだ。是非お願いしたい」


 私達はミカちゃんの猫を見つけることで、少しは人の気持ちを理解できるようになったんだと思います。


 でもそれだけで、三人を仲直りさせることができるでしょうか?


 いえ、でもリュートさんの言う通りです。ギルドが、ギルドマスターで受付嬢だというアリスさんが認めたのですから、きっとできるんでしょう。


 私がフラウティアさんと恋愛して、『ルダス』を手に入れないと、全次元は消滅したままになってしまうんですから!


 そう思っていると、アオイさん達がさっそくその『新製品』について話し始めました。


「ただでさえ可愛いぬいぐるみがでかくなったら皆、買うに決まってるだろー!」


 どうやらアオイさんが提案した商品は大きなぬいぐるみのようです。大きなと言ってもどのくらい大きいのでしょう?


「単純に布や糸、詰め物のコストが上がるのはもちろんですが、姉さんの言う抱きしめて使うと言う意図について前例がなさすぎて、リサーチが行き詰まっているんです」


 どうやら、抱き着けるくらい大きなぬいぐるみのようです。そうすると抱き枕と言った方が近いかも知れません。


 私達の世界では一般的にありましたけど、この世界は中世の世界観みたいですから、確かにあり得ないかも知れません。


「ぬいぐるみは抱っこしたり、おままごとに、使ったりというのが一般的な使用法ですから、自分より大きいぬいぐるみに、抱きつくという情報は、データがとれないんです」


 確かに、前例のないものが売れるかどうかデータを調べるのは大変そうですね。


「だからさあ、二人なら絶対売ってくれるって!あたしは信じてるから大丈夫だ!」


 そう言うアオイさんに対して、今度はセーラさんが自信がなさそうに、ボソボソと答えました。


「ノ……ノエル姉さんの完璧なマーケティングがあるから、私なんかでも売れてますけど……、今回はいくらなんでも革新的すぎて……ちょっと……」


 それを聞いたアオイさんはプンプンと頬を膨らませて言いました。


「何だよ、二人ともいつもいつもあたしのアイディアにケチつけやがって!」


 それに対して、ノエルさんは『はぁ』とまたため息をついて、落ち着いた表情で答えます。


「お店が繁栄するために建設的な問題点を挙げているだけです。すごい商品だったら売れなきゃ損ですから」


「ま、待て、待ってくれ!見えたぞ!!」


 そこまで聞いて、フラウティアさんは三人の言い合いを遮って言いました。


「顔は良い……すごい商品と売り方……絶対売ってくれる……完璧なマーケティング……革新的すぎて……?」


 フラウティアさんは、何かブツブツと呟いています。


 聞く限り、三人の発言に何か気になるところがあったということでしょうか?


「三人は……褒めてる!互いを!!それに、それぞれの業務に対して信頼もしている。いがみ合っているように見えるが、決して嫌っていないのが分かる」


「それってつまりお互いの力を信じてるってことだろ?それに常に無理をしないか、キツくないか心配していることが言葉の節々に見える」


「人の気持ちを少しだけ理解できるようになった今なら、君たちの仲の良さが分かる。そうか、こんな大切なものを僕は見逃していたのか!」


 フラウティアさんは、三人のやり取りを見ながら感動して涙を流し始めました。


 でも、確かに何となく聞いていると聞き逃しそうでしたが、三人の会話にはお互いへの気遣いが溢れてましたね。


 いつも一緒にいる姉妹ならではのことなのでしょう。


「そうか。無意識だったから気づかなかったが、そりゃあそうだよな。姉妹なんだ。互いを尊敬してるし、気遣ってもいるさ」


 アオイさんがそう言うと、ノエルさんは赤い顔をして、顔を背けました。


「そんなことは、当たり前ですから口にする必要はないと思っていました。ですが、こうして言われてみると恥ずかしいと言うか、なんというか、そう嬉しいですね」


「破天荒なところのある姉ですが、別に嫌ってはいません。セーラのことだって、商品を売るために必死に努力している姿を尊敬しています」


「二人のことを大好きだと言って支障はないでしょう」


 セーラさんは二人の台詞を聞いてモジモジし始めました。


 次は自分が何か言わないと、と緊張し始めているみたいです。


「ええと、私の番ですよね。私は……二人のことをとてもすごいと思ってます。

なんかでも売れる商品を考えて、売る方法まで考えてくれるんですから」


「でも、何より普段いがみあってるように見えて、ちゃんと私が怖がったり嫌な気分にならないように少しずつ気を遣ってくれているお姉ちゃん達が本当は大好きです」


「こうして直接言うのは、やっぱり恥ずかしいですけど」


 こうして話を聞いてみると仲違いしているという話自体がリュートさんの勘違いで、三人は元々仲が良かったみたいですね。


 もっとも商品のことでヒートアップし過ぎることはあったみたいですけど。


 それでもセーラさんが怖がらない程度にいがみ合っていたなら、そこまで激しいものではなかったのかも知れませんが……。


 あ、でも……三人は仲の良さは改めて確認できましたけど、結局『大きいぬいぐるみ』をどうやって売ったらいいんでしょうか?


 そこでフラウティアさんが、何か思いついたように叫びました。


「そうか!そうだ。三人の信頼関係を聞いて、気づいたぞ!」


「な、何をですか?」


「ぬいぐるみを売る方法だ!!」


 そう言って、フラウティアさんは三人の絆を利用して、大きなぬいぐるみを売る方法を説明し始めました。


「まず三人が一緒に『大きなぬいぐるみ』に抱き着いている絵を作るのだ!」


「その絵に『皆、仲良し』という文字を書き加える」


「そうだな。三人が良ければ、今言った言葉を手紙にして、絵に添えるのもいいだろう」


「三人で作り上げたものだということ、三人もぬいぐるみを使っていることを強調するんだ!」


「そうすれば、使い方が特殊と言う、ハードルを少し下げることができるはずだよ」


「そして顧客が僕が感じた『見えない心遣い』を絵から感じ取ることができれば……」


「喜ばせたい、買ってあげたいと思うだろう。買う親も娘達にこうあって欲しいと思うはずだ」


 フラウティアさんの言葉に、私もアオイさん達も心を打たれています。


 絆を見せることで商品を売る、というスタイルはこれまで想像したことがなかったのでしょう。


「それなら、いけます!私達の絆もより深まる。これ以上の売り方はありません!」


 ノエルさんが興奮した様子でそう叫びました。


「おう!アタシ達の姉妹愛を、客に見せてやろうぜ!」


「いやいやいや……とんでもなく恥ずかしいんですけど、本当にやるんですか……?」


「いや、まあ……はあ……はい。わかりました。この方法で売れるのは……すごくわかりますから……。やりましょう」


 セーラさんは恥ずかしそうにしていますが、売れるなら文句はないみたいです。


 そこで、それまで黙って聞いていたリュートさんが話に入ってきました。


「君たち、よくやってくれた。私の気づかなかった三人の絆を確認してくれた上に、新商品を売る方法もきちんと編み出してくれた。やはり『困りごと相談ギルド』の眼は間違っていなかったようだ」


「い、いや僕は何もできなかったよ。元々、三人の仲が良かったんだ。僕はそれを確認したに過ぎない」


「でも、それをきちんと読み取って、三人に伝えたことがすごいんですよ!それにぬいぐるみを売るアイディアは純粋にすごかったです!」


 謙遜するフラウティアさんに、私は反論しました。


「そ、そうか。そうかなあ。ははは、そうか、嬉しいよ。僕も多少はマシになってきたってことか」


「マシどころか、もう随分 人の気持ちが理解できるようになったと思いますよ!」


 私にそう言われて、フラウティアさんは目に見えて嬉しそうな顔になりました。


「そうか!それで、君は僕を見直してくれたのかい?」


「え……?」


 そうでした。この世界は私とフラウティアさんが恋愛するための世界!


 私は……、私はどう思っているのでしょう?人の気持ちを理解し、これからは私の気持ちもこれまで以上に理解してくれるであろうフラウティアさんを……。


 ストルゲさんや、プラグマさんのように、一人の女性として愛しているでしょうか?


「まだ……ですね。熱く燃え上がる気持ちがまだ……。」


「でも!ミカちゃんや猫のミーシャちゃん、そしてアオイさん達の気持ちを汲み取れたフラウティアさんを、確かに愛おしいとは思っているんです!」


「でも、仲間というか家族?姉妹みたいな感覚なんです。もう一つ何か、きっかけがあればきっと燃え上がるはずなんです!」


 でも、ここまで随分頑張ってきましたのに、ここからどうすればいいのでしょう?


 悩む私にフラウティアさんは、少しがっかりしたような声で答えました。


「そうだな。ひとまず『困りごと相談ギルド』に戻ってみよう」


「あそこは『困りごとを聞いてくれる』んだろう?こちらから依頼することもできるかも知れない」


「私達の恋を、困りごととして依頼するんですか?」


 なるほど、その発想はありませんでした。でも、そんなことしたら誰かが私達を恋に落ちさせるために派遣されてくるんですよね?


 それってすごく恥ずかしいような……。というか他人頼りでいいんでしょうか?


 そんなことを考えながら、私達は『困りごと相談ギルド』へと歩いて行きました。


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