イチャイチャダンジョンで掴む『幸せの答え』
【 2050年 桜井かんな8歳 偽・夢世界 刹那の塔 イチャイチャ・ダンジョン 】
中に引きずり込まれた私達は、六畳ほどの広さの小部屋にいました。
周囲を見回していると、門に入った時と同じ声のアナウンスが流れ始めました。
『イチャイチャ・ダンジョンへようこそ!』
『ここでは貴方達を仲良くするさまざまなイチャイチャ・トラップが仕掛けられています!』
『この地図を元にゴールに辿り着いた時には、貴方達は望む関係を手に入れているでしょう!』
そんなアナウンスと共に、私とプラグマさんの前に一枚の紙が落ちてきました。
アナウンスが言う通りなら、このダンジョンの地図でしょうか?
私達は、紙を拾い上げ、教科書を忘れて見せてもらう時のように、地図の両端を二人で持って、覗き込みました。
入口からゴールまで、最短ルートがありますが、間に妙な大部屋があって何か仕掛けがありそうです。
「普通に行くならこのルートが早そうだが、どう思う?」
「でも、何だかあからさまに怪しい大部屋がありますよ」
プラグマさんは、より地図に顔を近づけ『どこだって?』と聞いてきました。
私とみているルートが違うんでしょうか?
「ここですよ。ほらこのルートの……」
私達はお互い身を乗り出して、地図を見ます。
すると……。
“ごつん”
頭がぶつかりました
「ごめんなさい。ちょっと夢中になり過ぎましたね」
「いや、大丈夫だ。じゃあ、とにかくまずはこの大部屋を目指してみるか。罠があるかもしれないから慎重にな」
「そうしましょう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2050年 桜井かんな8歳 イチャイチャ・ダンジョン PONゾーン】
それから私たちは慎重に周囲を警戒しながら少しずつ進んで行きました。
そして、目的の『大部屋』の前までたどり着きました。
部屋の入り口には『PONゾーン』と言う文字が書かれています。
PONゾーン?何のことでしょう
「プラグマさん、PONゾーンって何のことかわかりますか?」
「うーん、わからねえが、PONって言うのはネットスラングでポンコツって意味だと思うぞ」
ポンコツのゾーン?ますます意味がわかりません。
「ネットで使われてるそのままの意味なら、不注意や勘違いによる可愛い失敗みたいな意味もあるな」
「ここに入ると、可愛い失敗をするんですか?」
「そうかも知れねえ。入るなら十分気をつけようぜ」
そう言いながら私たちは、恐る恐るPONゾーンへと足を踏み入れました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋の向かい側を目指してしばらく進むと、地面に何かが落ちているのが見えました。
「あれは、スタージュエル!!星の力を取り込み、永遠に輝き続ける神秘の宝石だ!」
「え?スタージュエル??あ、待ってください!罠ですよ、絶対!!こっちの欲しいものを見せて引き寄せる……」
私の言葉も聞かずにプラグマさんは走り出します。
指が繋がっているので、私も引っ張られます。足で踏ん張っているのですが、ズリズリと引きずられていきます。
私同士、同じ力ではないのでしょうか?
「どわーーっ!!」
スタージュエルのあった場所に落とし穴が開き、私達は情けない叫び声と共に落ちていきました。
しかし、何故か落とし穴は浅く、ちょっと体を打ったくらいで助かりました。
すごく痛いですが、怪我とかはしていないみたいです。
「もう何やってるんですか!気をつけようっていいましたのに」
「すまん……。好みの物というのもあったが、何だか無性に気になって調べずにはいられなかったんだ」
「そっか、これがこの部屋の力なんですかね?だとしたら、危ないですよ。催眠みたいなので、思考を弄られてるのかも知れません」
「そうかも知れねえな。PONが起こるよう思考を誘導するダンジョンってことか。だとしらマジで危険だ。戦闘でPONが起こったら致命的だぜ」
プラグマさんの言う通りだと思いました。ここからはさらに気をつけていかないと……。
そう話しながら進んで行くと、また地面に何かが落ちているのが見えました。
あれは……お人形でしょうか?
そう考えて、私は目を凝らしてよく、その何かを見つめました。
「!!!あれは!ニチアサの変身ヒロインのフィギュアですね!」
以前お誕生日に、お父さんにお人形を買ってくれるように頼んだら、これを買ってきてくれて、すごくハマったんです!
慌てて駆け出しそうになる私を、プラグマさんがしっかりと引っ張ります。
さっきとは違い、今度はプラグマさんの方が力が強いのでビクとも動きません。
そして、プラグマさんは必死に叫んで私を止めようとします。
「おい!罠だって分かってんだろ!行くんじゃない!」
「でも……でも!あのお人形が私と遊びたいと言ってる気がするんです!」
何としてでも手に入れないといけません!
そう言って私は上位恋愛傾向「ストルゲ」と「プラグマ」の能力を全開にして、プラグマさんを引きずりながらお人形のもとへ向かいました。
その瞬間
どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!
巨大な爆発音と共に、周囲が爆風に包まれました!
私たちは爆発に巻き込まれて……!!
あ、あれ?無事ですね。何ともありません。
「ねえ、プラグマさん大丈夫……」
そう言いかけてプラグマさんの方を見ると、なんとプラグマさんの髪の毛が昔のコントみたいにアフロヘアーになっていました。
「ちょ、何ですかそれ!ふふふ……何で爆発してそんなことに!はははっ……」
私は悪いと思いながらも堪えきれずに笑ってしまいました。
でも
「いやあんたの頭もアフロだぞ」
「ええーーーっ!?」
そう叫んで私は自分の頭を触ってみました。
するとチリチリになった髪の毛が大きく膨らんでいるように感じました。
「なんで私もアフロに!?」
「どうやら、やはりこれがPONダンジョンの仕様らしいな」
「でも、PONとアフロとどう関係があるんですか?」
「おそらく、この部屋の仕様はPONを通じて、あたしたちを仲良くさせることだ」
「だから、落とし穴とかアフロになる爆発みたいに、殺傷力が無くあたし達がPONをしても、お互い和んで笑い合えるようなことが起こるトラップばかりなんだ」
「なるほど。確かにここまでのトラップで二人の距離が縮んだ気がしますね」
ニコニコしながら言う私に対して、プラグマさんも恥ずかしそうに笑って「そうだな」と言いました。
「でもトラップにかかって仲良くなれるなら、かかった方がいいんですかね?」
「わざとかかったんじゃあ、本気で責めたり恥ずかしがったりできないだろ」
確かに、わざとかかったのでは叱咤も反省も演技みたいになっちゃいますよね。
ホントに仲良くなるには、本気でトラップを避けようとして、それでもPONをするしかかないわけですか。
「じゃあ、やっぱり基本はトラップにかからないよう、警戒して進むしかないんですね」
「ああ、そうしようぜ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2050年 桜井かんな8歳 イチャイチャ・ダンジョン 桜井家・結婚式場 】
さらに進むと部屋の出口に着きました。
「この部屋を出たら、ゴールらしき場所まで一本道ですね」
「ああ、だが警戒はしておいた方がいいだろうな。こういうダンジョンは……」
ゲームとかのお約束だと、ダンジョンの奥にはボスキャラがいるイメージですよね。
「やっぱりボスみたいなのがいるんですかね?」
「多分な。ただイチャイチャダンジョンってくらいだから、ボスがいるにしても……」
「さっきのPONトラップみたいに、私達をさらに仲良くするための、ボスとかトラップがあるってことですか」
そんな風に話しながら進んでいくと、新たな部屋が見えてきました。
部屋のドアには……『桜井家 結婚式場』と書いてあるみたいです。
『私』の結婚式場?あ、でもプラグマさんも桜井かんなですから、私とプラグマさんの結婚式場ということでしょうか?
「やっぱりあたし達を仲良くさせるための『ボス』がいるみたいだな」
「結婚式がボスなんですか?」
「いや、多分あたし達が結婚してもいいと思うようになる『何か』がボスなんだろ」
「私達が結婚していい気持ちになる何か……洗脳とかじゃなく、心からそう思えるようになる何かが……?」
私達はこのダンジョンでかなり仲良くなったつもりです。
でも恋人かと言われたら、もう一押し何かが足りません。
ここのボスはどうやってそれを補ってくれるのでしょうか?
プラグマさんは『結婚……』と呟いて、私のことを見つめます。
「覚悟はいいな。ここを出るときは、あたし達は恋人同士、キスも済ませてるはずだ。それでもいいんだな?」
「当たり前です。プラグマさんとならきっと幸せな恋人になれると信じてますから」
私達は頬を赤らめながら見つめ合います。
そして意を決して扉を開きました。
【2050年 桜井かんな 8歳 刹那の塔 桜井家・結婚式場】
見た目は普通の結婚式場に見えますが……神父さんのいそうなところに、黒く光る球体が置いてありますね。
『桜井家・結婚式場へようこそ。よくここまでたどり着きました。ダンジョンを乗り越え、貴方がたの愛も高まっていることでしょう』
『ここで貴方がたを本当の夫婦にするため、最後の試練を与えます』
私とプラグマさんは、ゴクリと唾を飲み込み、続きのアナウンスを待ちます。
『中央にある黒い球体が見えますでしょうか?これは『夢破壊装置・ドリームデストロイヤー』です』
『この装置は、この偽・夢世界が完全に消滅するまで、世界を破壊し続けます』
『貴方がたがさらに言葉を交わし、プロポーズをし合い、結婚して良い気持ちに辿り着いた時に、装置は止まります』
「私達がプロポーズして」
「結婚できる気持ちにならなきゃ」
「「夢世界もろとも、私達は死ぬ」」
そう言った瞬間、黒い球体から黒いハートが無数に発射されました。
それが部屋の壁に引っ付くと、そこが最初から何もなかったように『空白』になりました。
黒いハートは瞬く間に周囲全体を覆い尽くし、塔だったモノは消えて頭上には空が見えます。
「プ、プラグマさん、どうしましょう。こんなにハートを飛ばされたら、もう偽・夢世界そのものが何分も持ちませんよ!」
私の言葉を聞いて、プラグマさんは私の手を握り、訴えかけるように言いました。
「そうだ。もう一刻の猶予もねえ。この偽・夢世界と共にあたし達が死んだら、現実の『全次元』もキリストに吸収されたまま……全てが無に帰してしまう」
「やるしかねえ!プロポーズを!!考えるぞ、あたしはあんたに想いの全てをぶつける!!」
「わかりました。私もプラグマさんに思いをぶつけます!」
さあ、考えましょう。
私の気持ち、私の思いがどんなものか?結婚しようとする上で、何をプラグマさんに伝えたいか?
どうすれば、私のことが分かってもらえるのか?より好きになってもらえるのか?
私の基準は誰かが幸せになること、そしてプラグマさんは私が幸せでなければ幸せになれないということは、すでに伝え合いました。
確かに私を守ろうとしてくれるのは、嬉しいです。でも、プラグマさんにも危なっかしいところがあって、守ってあげなくてはいけないんだということが、このダンジョンを通じてわかりました。
魔獣の攻撃に後先を考えず、私を庇ってくれたこと。そして私と同じように物に釣られるPONをしたこと。
放って置いたら、暴走して取り返しのつかないPONをするんじゃないでしょうか?
だから、私ももっともっと強くなって、プラグマさんを守りたいです!そして、それでも危ない時には、逆にプラグマさんの愛で私を守ってほしい。
それらの思いを込めて、私はプロポーズの言葉を選び出し、プラグマさんに伝えました。
「私と二人、守りあい助け合って、貴方が辿り着く『幸せの答え』を私に見せてください」
その答えを待っていると、プラグマさんもまた考えに考えたプロポーズの言葉を話し始めました。
「ここに来るまで、あたしはただ守ることが、命をかけてでも守ることが愛の極点だと思っていた」
「だが、死の恐怖を感じた時、最高の幸せこそ求めるべき『刹那の思い出』だと確信した」
「そのためには生きてなきゃいけねえ。あんたの言う通り共に守り合い、足りないところを補わなくちゃな」
「それこそが、あたしの求めるホントのイチャイチャなんだ」
「優れたところ、足りないところを語り合い、触れ合ってそれらを伸ばし、補い、愛を育んで行く」
「そして、あたしはこのイチャイチャ・ダンジョンで、あたしの望むイチャイチャを、充分に楽しむことが出来た」
「だからこそ、後は結婚とキスだ!」
「そのために、あたしの想い全て乗せたこの言葉を伝える!」
「今この瞬間を……あんたと過ごせる最高の時間を、あんたとの『キス』を……あたしがたどり着く『幸せの答え』にしてくれ!!」
私は、プラグマさんの最高の幸せを望み、プラグマさんはそれを今ここで成し遂げることを望みました。
心が通じ合い、私達の心は激しく燃え上がります
幸せを!私とプラグマさんの幸せを!!
私とプラグマさんの服が、突然光り始めて、『ウェディング・ドレス』へと変わりました。
いよいよ、その時が訪れたようです。
私達にそれを促すアナウンスが流れます。
『では、誓いのキスを……』