永遠の愛を超える、刹那の思い出
【 2050年 桜井かんな8歳 遊愛地獄 立花小学校 図書室 】
私達は再び、『図書室』に戻ってきました。
『始まりの言葉』の真実の意味、お父さんの愛を知ることができました。そのお陰でストルゲさんに好意を持ってもらえたと思うのですが……。
「ストルゲさん、やりましたね。これで、私達 仲良くなれましたよね!」
ストルゲさんは顔を耳まで真っ赤にして俯きます。
「……そうね」
「あんまり仲良くなれてないでしょうか?」
「そ、そんなことないわよ!!しょ、正直、誰かにこんなに好意を持ったことが初めてすぎて、困惑してるのよ」
それは、ストルゲさんが私に恋をしてくれたということでしょうか。
それにしても、ストルゲさんは私の記憶を持っていると思うのですが、感覚としては恋が初体験なのですかね?
恋愛傾向としては変な形だとしても、私は一応 輝夜さんや太上老君さんと恋をしていると思うのですが。
「好きになってもらえたなら、幸いです。これでルダスに一歩近づきましたね!」
「そうね……。あんたが嬉しそうだと私も嬉しいわ」
そう言うストルゲさんはあまり嬉しそうに見えません。
「……ともかく、教室に帰るわよ。あんたは目的を果たした。私と仲良くなったんだからね……」
「あ、はい!」
できることなら、もっともっとストルゲさんと仲良くなりたいですが、いつキリストさんがこの遊愛地獄にまでやってくるかわかりません。
私達が『4つ』の上位恋愛傾向に目覚める前にキリストさんが来てしまえば、彼の吸収した『全次元』や『そらさん』を切り離すことが永遠にできなくなってしまいます。
それだけは避けなければなりません。
「ねえ……。あんたは私の事、好き?」
突然の質問に私は呆気にとられます。
そして偽りのない、心からの気持ちを伝えました。
「もちろんですよ!愛を疑いながらも本当にお父さんのことが大好きだった純粋さも、なのに全然素直になれない性格も大好きですよ!」
「一緒にいると、どんどん好きになっていくんです。やっぱり私同士、気が合うんでしょうね!」
私がそう言うと、ストルゲさんはまた黙りこくってしまいました。
そして一言。
「嬉しいわ……。これでもう悔いはない……」
「悔い?」
「……なんでもないわ。ほら、教室についたわよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2050年 桜井かんな8歳 遊愛地獄 立花小学校 3-1 】
教室に着くと私達が、帰還の報告をする暇も無く、教室の中から聞き覚えのある大きな声がしました。
「二番目はあたしに決まってんだろーっ!」
そう叫んだプラグマさんは、懐から何かを取り出しました。あれは指輪でしょうか?
そう思っていると、プラグマさんから光の帯が伸びて、指輪がこちらに向かって飛んできました。
避ける間も無く、指輪は私の左手の中指に嵌りました。もしかして薬指を避けてくれたのでしょうか?
「こいつはエターナルリング!永遠の愛を誓った恋人同士の指にはまり、二人を二度と離れなくさせるんだ」
「私は、貴方に永遠の愛を誓ってないのですが……」
そう言った私の言葉にプラグマさんはニヤニヤするだけで答えませんでした。
そして、私の指に嵌められた指輪から光線がプラグマさんに向かって発射されました。
光線がプラグマさんがつけている指輪に当たると、指輪同士が強く惹きつけ合います。
私は指輪に引っ張られ、プラグマさんの方へ向かって、ものすごい勢いで飛ばされました。
「これで二番目はあたしに決まりだな!」
二つの指輪は完全にくっついてしまい、私とプラグマさんはお互いの指を離せなくなってしまいました。
もちろん、指輪そのものも指から外れません。
「ちょ、ちょっと!これなんなんですか?どうやったら外れるんですか?」
指輪はどんなに力を入れても指から抜けません。このままだと本当に二度とプラグマさんから、離れられなくなりそうです。
「言っただろ?エターナルリングは、永遠の愛の象徴。本来なら永遠に満たされねえ、『永遠の愛』が満たされた時にだけ外れるって話だな」
「まあ、もちろん持ち主が死ねば外れるけど」
『永遠の愛』が満たされた時にだけ外れる?どういう意味でしょう?
永遠の愛は永遠に一緒にいることを求めています。けど、永遠という時間は存在しません。
だからどれだけの時を一緒に過ごしたとしても、『永遠の愛』は満たされない……みたいなことでしょうか。
「永遠の愛を求め続けても、永遠に満たされることはねえ。だからあたしは、永遠なんて求めねえ。そんな無駄な事は止めて、10億年や1兆年……そこまでお互い生きられる方法を探す」
「だって、永遠なんてねえからな。妄想上のまやかし、定義の不確定な言葉さ」
「そうだろ?プラグマの始祖である輝夜のやつだって、いくら永遠を求めても、結局最後はそらが死ぬのを止められなかったじゃねえか!」
その言葉に私はカッとなってしまいました。生き返らせられるにしろ、確かに輝夜さんはそらさんを死なせてしまいましたけど……。
人が必死に求め続け、得られずにいることをそんな風に嘲るなんて酷いじゃないですか!
私は思わず、ストルゲさんの頬をはたいていました。
「ふざけないでください!なんでそんな酷いことが言えるんですか!」
「貴方だって私なんでしょう?だったら、輝夜さんのことを愛していて、彼女が本当は良い人だって、分かってるはずじゃないですか!!」
すごい剣幕でまくしたてる私に対して、プラグマさんは悲しそうな目で、私をしっかりと見つめて言いました。
「なんでか知りてえか?」
「簡単さ。そいつが、あたしを口説き落とすのに必要なことだからだよ」
「10億年かけずに、あたしを口説き落とそうと思ったら、輝夜すらどうにもできなかった『永遠の愛』を満たす必要があるってことだな」
輝夜さんは永遠の愛を求めたけど、そらさんを救えなかった。それを見て、プラグマさんは本当は永遠の愛を満たしたいのに10億年で妥協しようとしている。
だから私がプラグマさんと本当に仲良くなろうと思ったら……。
ずっと一緒にいる以外の方法で『永遠の愛』を満たさなくちゃいけないんですね。
でも、そんなことが本当にできるんでしょうか?永遠という時間はない。その上で『永遠の恋愛感情』を満足させる方法なんて。
「へへっ。お悩みならさ、行ってみようぜ。あたし達の大好きな輝夜が夢見た、永遠の愛が実現した異次元『夢世界』にな!」
夢世界?
それって輝夜さんがそらさんと一緒にいるために、上位恋愛傾向と難題の力で作り出そうとしているあの『夢世界』ですか?
「もちろん、本物ではねえさ。そこの閻魔さんが持ってる『畏怖の鏡』で、あたし達だけ仮想体験できる、偽の夢世界を作り出すんだ」
「畏怖の鏡?」
疑問を呈した私に対して、教室に残ったままだった閻魔様が答えました。
「うむ、我の畏怖の鏡はその者が恐れている、来てほしくない未来を映し出し、中に入ることで仮想体験できるというものだ」
「プラグマの想像を元に偽の夢世界を仮想体験させることはできるぞ」
夢世界ですか……。そこに行けば永遠の時間が存在しなくても、永遠の恋愛感情を満たす方法が分かるでしょうか?
そもそもどうやったらそんなことができるでしょう?
夢世界は輝夜さんが五つの難題の力と八つの上位恋愛傾向の力を使って作り出そうとしている異次元です。
他の次元からの干渉をなくし、完全に輝夜さんとそらさんだけが生きていく空間にするつもりらしいですが……。
難題と上位恋愛傾向の力により、夢世界そのものも輝夜さんもそらさんも寿命がなくなのであれば、確かに永遠と言えるのかも知れません。でも……。
やっぱり、時が流れている以上、今も未来も永遠じゃない。
あ!時が流れている以上?そ、そうか!じゃあ夢世界って……!
「つまり、輝夜さんは時を止めることで、そらさんと永遠に一緒にいようとしている。夢世界とは時間の流れがない世界なんですね!」
「そうゆうことさ。んで、あたしを口説き落とすには、これよりマシな方法が必要って訳だ」
輝夜さんの方法では、一緒にいられるのはいいけど、時間が止まってちゃ遊んだり共に笑い合うことができません。
それに、そんなことをしても結局『永遠の愛』は満たされませんし……。
そうじゃくて、時間を止めずに、ちゃんと『永遠の愛』を満たせる方法を考えないと、輝夜さん達も報われないし、プラグマさんと愛し合えない……。
「まあさっきも言ったように10億年一緒にいてくれれば、惚れると思うけどな?夢世界では時間をコントロールできるから、夢世界に10億年いても、外の世界では一秒も経たないぜ?」
プラグマさんと愛し合い、ルダスを目指すだけならその方法もアリかも知れませんが……。
事情を知った以上、輝夜さんに夢世界を創らせるわけにはいかなくなりました。
輝夜さんとそらさんが幸せになるためには、何とかして永遠の愛を満たす方法が必要です。
「閻魔さま、畏怖の鏡というのを使ってください。私は偽の夢世界に行ってみようと思います」
「良いだろう。なお、夢世界の時は止まっているが、かんなとプラグマだけは動けるので、そこは安心して良いぞ」
「あ、はい。そうなんですね。助かります」
そう答えた瞬間、閻魔様の目の前に新たに大きな鏡が出てきました。
鏡はこれまで入ったどの鏡よりも、暗く禍々しく光っています。
そして一層その光が強まり、私とプラグマさんを飲み込みました!!
【 2050年 桜井かんな8歳 夢世界 ―――― 】
鏡に吸い込まれた私達がついたのは、どこまでも無限にお花畑が広がっている場所でした。
ですが、良く見ると花も鳥も光や空気でさえ動きが止まっています。
本当にここでは時間が止まっているんですね。
「それにしても、こんな空間でどうやって『永遠の愛』を満たす方法を探せばいいんでしょう?」
そう呟いた私に対して、プラグマさんははるか遠くに見える塔を指さして言いました。
「そいつは、あの刹那の塔に行けば分かるかもな」
「刹那の塔?あの塔に何があるんですか?」
「刹那の塔は思い出作りの塔さ。永遠に心に残る、刹那の思い出を作るための塔らしいぜ」
永遠に心に残る、『刹那の思い出』……?
「つまり、あの塔で永遠に心に残る思い出を作れれば、永遠の愛を満たせるということですか?」
この偽の夢世界は輝夜さんがそらさんと永遠に一緒にいるために、二人の時を止めた……という設定のはずです。
だけど『永遠に心に残る思い出』を作るための施設がこの世界にあるってことは……。
輝夜さんは、このままいけば時を止めて永遠に一緒にいるという方法をとるけれど、『永遠の愛』を満たす方法も探しているということなんですね。
「どうだろうな?輝夜自身も成功しなかったんじゃ、本当に永遠の思い出を作れるかどうかわかったもんじゃねえぜ?」
「それでも、可能性があるのはあの塔だけなんでしょう?だったら行ってみましょう」
作った輝夜さんも得られなかったら何かを……何とかして手に入れなければいけません。
輝夜さん達に、この偽の夢世界と同じ運命を辿らせないためにも、そしてプラグマさんと恋人同士になって『ルダス』に目覚めるためにも、『永遠に心に残る思い出』が必要みたいですからね。
「ああ、いいだろう。行ってみようぜ。あたしも興味があるからここまで来たんだしな」
そう言って、私とプラグマさんは刹那の塔へと近づいていきました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2050年 桜井かんな8歳 偽・夢世界 刹那の塔 門の前 】
私たちは刹那の塔に近づき、門らしきものがあるところまで来ました。
そして門を開けようとすると……
突然、体に謎の圧力を感じた私は、指輪で繋がれたプラグマさんの手を引っ張って、一緒にその場を飛び退きました。
「い、今のは何ですか?」
そう言って周囲を見ると、狼のような姿の獣が数匹、私達を取り囲んでいました。
額に、時計を模したような紋章がついていて、体毛は青く輝いています。
そう思っていると、今度は四方八方から圧力を感じました。どうやら、あの獣が額の紋章から『何か』を飛ばしてきているみたいです。
逃げ場がなかったため、プラグマさんが鎖を振り回して止めようとしましたが、何と鎖が空中で停止してしまいました。
それと同時に、鎖にぶつかった方向からは圧力を感じなくなったため、私たちは鎖をそのままにしてそちらに飛び退きました。
あれは……鎖の時間が止まったんですか?
「そうみたいだな。どうやら、あいつらは侵入者の時間を止める警備兵らしい」
「夢世界への侵入者の時間を止めることで、輝夜とそらの止まった時を守っているんだ」
つまり、この獣たちを突破しないと刹那の塔へは入れないのですね。
私は再び門の方を見ます。この獣たちを突破して、あの門を開ける方法……。
私達の時間が止められてしまう前に、プラグマさんと二人で、その方法を見つけ出さなければいけません!