三つの恋!『プラグマかんな』『ストルゲかんな』『フラウティアかんな』
【 2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 八愛地獄 自己虐の迷宮 】
3つの上位恋愛傾向を手に入れた私たちは、次にどうすればいいか悩んでいました。
この八愛地獄は上位恋愛傾向を生み出す施設だと言うのですから、ちゃんとしたやり方に従えば、私たちがプラグマやルダスに目覚めることもできると思うのです。
でも、このミラーハウスのような空間からどう移動すれば、他の上位恋愛傾向が手に入るのでしょう?
それとも、他に入れる鏡があるのでしょうか?
でも、これまで入って来た鏡は分かりやすく黒い瘴気を発していました。
今見ている限り、周囲の鏡にそんな様子はありません。
私たちがどうしようか話していると、突然周囲の全ての鏡から一点に向かって光が照射されました。
そしてその光の中から巨大な何かが現れました。
身長は3mほど、赤い顔と体をしていて顎には立派なヒゲが生えており、頭には「王」と書かれた帽子をかぶっています。そして、赤黒い模様の立派な和服を着ています。
「我は閻魔、地獄の裁判官 閻魔大王である」
え、閻魔様!?確かにここは地獄なんですけど、閻魔様がホントにいるなんて……!
私が困惑していると、閻魔様はゆっくりと説明を始めました。
「この自己虐の迷宮は、八愛地獄の上層であり、4つの上位恋愛傾向を得たものだけが下層に行くことができる」
「その資格を得るための恋愛裁判をこれから行う」
「ちょ、ちょっと待ってください!私たちはまだ3つしか上位恋愛傾向を得ていないんです!」
「それはわかっておる。だが、恋愛裁判の結果、『無罪』すなわちそなた達が既に残る上位恋愛傾向を得るのに相応しい『恋愛経験と信念』を持っておると認められれば、即座に新たな上位恋愛傾向が得られる」
「有罪だとどうなるんですか?」
勝手に上位恋愛傾向が手に入るんだったら良いですが、私がすでに『ルダス』を得られる『恋愛経験と信念』を持っているとは思えません。
有罪の場合どうなるか、聞いておく必要があるでしょう。
「その時は、足りぬ恋愛経験を補うため、求める上位恋愛傾向に『該当する地獄』に落ちてもらうことになる」
「ルダスならば遊愛地獄、プラグマならば永遠地獄だ」
「じゃあ、どちらにせよ新たな上位恋愛傾向を得られるってことですか?」
それならやってみる価値はあるかも知れない。だって、キリストさんはいつ私達を吸収しに来るかわからないんですから。
できるだけ早い方法で、上位恋愛傾向を得たいと思うのは当然だと思います。
「地獄の責め苦を乗り越えることができればな」
「それだったら大丈夫です!私たちピンチにはなれてますから!」
私はガッツポーズを作って勢いよく言いました。
ホントは地獄なんで怖いですけど、全次元の運命とそらさんの命がかかっていますからね。怯えているわけにはいきません。
そらさんを復活させて、輝夜さんの幸せを取り戻すんです!
「頼もしいことよ。さあ、もう時間もない。お主達が3つの上位恋愛傾向を得たことに気づいたキリストがここに向かってきておる」
「ええっ!?そんな!じゃ、じゃあ地獄から戻ったらすぐにキリストさんと戦うんですか?」
覚悟はしていましたが、決戦は思ったより早くなりそうですね。それまでに、私達3人全員が、新たな上位恋愛傾向に目覚められるでしょうか?
「では行くぞ!」
そう言って閻魔様が『笏』をかざすと、周囲の鏡がどんどん合体していき、一つの大きな鏡になりました。
「ジャッジメント!見抜け、照魔鏡よ!!」
合体して巨大になった鏡が強い光を放ちました。これが全てを見抜く閻魔様の照魔鏡!
「ジャッジメントかんな!
有罪!遊愛地獄送りとする!」
「ジャッジメント輝夜!
有罪!遊愛地獄送りとする!」
「ジャッジメント太上老君!
有罪!永遠地獄送りとする!」
「刑務執行!!」
その言葉とともに、今度は照魔鏡から黒い光が発せられて忽ち私たちを包み込みました。
そして私たちは真っ暗な空間を通って、どんどんどんどん下に落ちていきます。
そして突然、真っ暗だった空間が入れ替わり、私は、それまでとは別の場所に立っていました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2050年 桜井かんな8歳 遊愛地獄 立花小学校 3-1 】
ええと。ここは、教室ですか?私たちは照魔鏡の中に吸い込まれて…。
そう思って周りを見渡しますが、輝夜さんや太上老君さんの姿はないようです。また、私一人でチャレンジしないといけないんですね。
そう思った瞬間、どこからともなく、無数の鎖が飛んできました。咄嗟だったため私は防御ができず、手足を拘束されてしまいました。
「ひゃあーっ!これでアタシが一番乗りだあ!!最低でも一億年は一緒にいてもらうぜーっ!!」
そう言ったのは、私と同じ顔、体つき、格好をした少女でした。
「や、や、やめなさいよ……こ、このクソゴミ……。そんなことして怒らせたらどうすんの……。ちょっとは相手の気持ちを考えないと……嫌われちゃうよ……」
それを言ったのは、先ほどとは別の少女でした。この子も私と同じ顔や体つき、格好をしています。
でも一人目の方とは随分性格が違う様な……。
そう考えていると、さらに三人目が現れて胸を張っていいました。
「全くだ!せっかく出会えた同士を不快にさせてどうする!」
「さあ!オリジナルよ!!僕に任せて貰えば、最高の幸せを提供することを、約束しよう!」
え、ええと私のそっくりさんが三人も?一体これはどういう状況ですか?
「それは我が説明しよう」
この声は!さっき私たちを照魔鏡でワープさせた、閻魔様ですね!
「桜井かんなよ。そなたは四つ目の上位恋愛傾向を手に入れるため、この遊愛地獄に落ちた」
「この地獄で、そなたがやるべきことはルダスを手に入れること、それはわかるな?」
そうですね。ここでルダスを手に入れることができれば、キリストさんに対抗できます。キリストさんとの決戦の末、『8つ』になって、全次元とキリストさんを分離することもできるかも知れません。
「はい、でもそれとこの人達とどんな関係があるんですか?」
私は私にそっくりな三人を見渡しました。
鎖で私を拘束し『一億年一緒』と言った子、怯えながらつたない言葉で一人目の子を批判した子、そして何だかとっても自信たっぷりの子……。
この『遊愛地獄』で出てきたと言うことは、私がルダスに目覚める鍵になるんでしょうけど、一体どうやって?
「ふむ。ルダスは遊びの恋、愛されることが至上であり、そのためにあらゆる技術を磨くというのは知っておろう」
それは太上老君さんが言っていましたね。私も誰かに愛されたら嬉しいですが、他のなにより大切かと言われたら自信がありません。
こちらから愛することや、相手を幸せにすることの方が私にとって重要ですからね。
「つまりお主は今から、複数の相手と矛盾なく恋をして、ルダスの精神を身につける必要があるのじゃ」
「ええ!?そ、それでこの人達なんですか?」
「そう、こやつらはそなたのストルゲ・プラグマ・フラウティアを具現化させた者たちだ」
「自分同士ならば、たとえ性格が異なっても、少しは恋愛しやすいだろうからな」
この人達、私の恋愛傾向からできたんですか……
それにしては性格が私に似てない気がします。
でも、上位恋愛傾向だけを切り抜いて極端にしたら、こんな感じになるんでしょうか?
つまり『一億年』一緒にいたがる『プラグマ』の子と、家族以外にはまるで心を開けない『ストルゲ』の子と、自分のやり方が一番だと信じてる『フラウティア』の子というわけですね。
「そうだ!だから、まずはアタシと恋愛するんだよ!!なーに、たった一億年でいいんだ。永遠までは望まねえよ。アンタにも都合があるんだしな!」
一億年も恋愛していたら、その間にキリストさんが何をするかわかりません。モタモタしている内に残りの上位恋愛傾向に自力で目覚めてしまう恐れだってあるんです。
でも、この子の要求がそれなんだったら、何とか上手く話し合って時間をかけなくても愛し合える方法を考えないといけませんね。相手が『プラグマ』だと、すごく難しいと思いますが。
「か……勝手に順番……。あ、あたしだって恋愛したいのに……」
「まずは僕に決まっているだろう!僕が最高の幸せを与えれば、その後の恋愛も上手くいくはずだ!」
これはもしかして、誰から恋愛するか私が決めないといけないんでしょうか?
「桜井かんなよ。どのような順番で恋愛するか、二人目以降で一人目の事をどう思うかも『ルダス』に目覚める条件である。よって責任を持って順番を選ぶが良い」
確かに、結局全員と付き合うなら順番は大切です。
この子達の中から、私なら誰から恋愛したいでしょうか?
私は……!!
「では私は『ストルゲ』の子を最初に選びます」
そう言った私に対して、ストルゲさんは顔を真っ赤にして、それまでのボソボソとした声からは考えられないくらい大声で叫びました。
「ばっ!なっ!な、なんで私よ!私なんか……その……、二人にツッコんでただけで……一番目立ってなかったでしょうが……」
「それは、ストルゲこそ上位恋愛傾向の中で私が一番大好きなものだからです」
だって、やっぱり私といえば家族との愛だと思うんです。
最初に目覚めた上位恋愛傾向だし、誰かを幸せにしたいという、私の信念の始まりは虚弱な私をどこまでも愛してくれた前世の家族だったわけですからね。
何より、私は家族の皆が大好きですから!
「だ、いす……バ、バカ!」
そう言うと、ストルゲは照れてうずくまってしまいました。
あ、そうか。この子は私のストルゲそのものだから、ストルゲが大好きって言ったら、この子を好きだって言ったことになっちゃうんですね。
でも、家族愛のことが大好きなのは本当です。
何より、私から家族愛を切り出したというこの子が、どんな考え方をして、今の様な性格になっているのか気になります。
彼女が、前世や今世の家族、そして輝夜さんや太上老君さんのことをどう思っているのか聞いてみたいです。それが、どんな風に私と同じで、どこが異なっているのか非常に興味があります。
もちろん、他の二人だって気になりますけど、今はストルゲさんのことが知りたいです!!
「なるほどね。君が彼女を選択するならば、それも仕方ない。だが、僕の番が来たら、必ず最高の幸せを与えてみせるよ」
「ぐっ、しゃーないですね。ここで逆らっても心象が悪くなるだけですし、譲りますよ。けど、それならあたしは後でストルゲの一兆倍、オリジナルと一緒にいさせてもらいますからね!」
フラウティアさんとプラグマさんも、どうにか納得してくれたみたいです。
「話は決まったようだな。それでは……お主達の望む施設はこの『立花小学校』にあるはずだ。そして『ストルゲ』達はその場所を知っていよう」
私達が望む施設?それは家族のいる場所とかでしょうか?また、前世や今世の実家に飛ばされるのかも知れません。
いえ、『学校』の中にあるんだったら、家に飛ばされることはないですよね。だったら、どこに行くんでしょう?
「わかった……案内する……」
そう言ったストルゲさんに、私はついて行きます。
教室を出て、廊下を通って……見た感じは普通の小学校みたいですね。
「……ここよ」
そう言ってストルゲさんが止まったのは『図書室』というプレートが張られた部屋でした。
「……ここは『ストルゲ・レコード』。貴方の家族に関するあらゆる記録が保管されているわ……」