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太上老君と百鬼夜后~純愛に"見える”思い出

【  2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 太上老君 2621歳 八愛地獄 鏡の中 過去後界(かここうかい) 】


 私が鏡の中に入ると、そこには何重もの鎖で縛りつけられた太上老君がいました。


 ここが太上老君が引き込まれた鏡の中ですか。


「お主は……。何をしに来た。どうやってここに?」


「『フラウティア』に目覚めたので、貴方を助けに来たんです!貴方のフラウティアを無くさせず、全次元も滅ぼさせないために!」


 私は『誰も彼も幸せにする』というエゴによって、フラウティアに目覚めました。


 だから、太上老君も幸せにするんです。彼がそれを望まなくても……。


「馬鹿な!ワシは全次元を滅ぼそうとし、お前達も殺そうとしたのじゃぞ。助けて一体、どうするつもりじゃ!」


「私が貴方を助けるのは『自己満足』のためです!それが私がフラウティアによって目覚めた『エゴ』ですから!」


 私がそう言うと、太上老君が明らかに動揺しているのが見て取れました。


 敵対する人間を助け、幸せにしようという考えを理解できないのかも知れません。


 そう思っていると、太上老君を繋いでいる鎖がカチャカチャと動き始めました。


『お前は救えなかった最愛の人を』


『お前は吸収した。最愛の人を』


『お前は、強くなるために最愛の人を食った』


 最愛の人を食べた?しかもパワーアップの原因が、最愛の人を食べたこと?


 一体、太上老君の過去に何があったのでしょうか?


 あ、そう言えばさっき太上老君は『ラプラス』を食べて『ルダス』に目覚めたのだと言っていた気がします。


 だとすれば、『ラプラス』という方が太上老君の最愛の人なのでしょうか?


「太上老君さん!この鏡の世界は、自分の分身が『自己嫌悪』に陥らせてきて、極鬱という状態にさせ、動けなくするみたいなんです!」


「なるほどのう。それでさっきから、この鎖共はラプラスのことばかり話しておるのか。お主の場合は極鬱だったかも知れんが、こいつらはワシを自らをも破壊する『自暴自棄』にしたいようじゃからな」


 自暴自棄に?鏡の世界では、本人が抱えているトラウマごとに、向かわせようとする状態が違うということでしょうか?


 どちらにせよ、太上老君の『フラウティア』を守り、『プラグマ』や『ストルゲ』に目覚めさせるためには、彼の過去を洗いざらい話してもらう必要がありそうですね。


「太上老君さん!貴方は、この世で自分一人になるという『エゴ』を目指しているんでしょう!ここで『自暴自棄』になったら、その夢も叶いませんよ!」


「じゃ、じゃが、ワシはそのためにラプラス……いや、我が妻『百鬼夜后(ひゃっきやごう)を……』


「だったら!話してください!!奥さんとの間に何があって、彼女を犠牲にしたのか!!そしたら私は、それでも貴方が幸せになる方法を編み出します!!」


 私がそう言うと、太上老君を縛っていた鎖が激しく暴れ始めました。


『許さぬ、ワシがワシを許してはならぬのじゃ。百鬼夜后を犠牲にして、のうのうと力を手に入れて良いはずなかろう!!』


 呪うような口調で、その言葉を吐きだした後、鎖は太上老君の体を離れ、私の方へと向かってきました。


 ですが、『ストルゲ』『プラグマ』に加えて『フラウティア』にまで目覚めた私には、このくらいの攻撃なんて、ちっとも効きません。


 魂から『手』を伸ばし、それを極限まで硬化させて、鎖を叩き、引きちぎります。


 すると、砕け散った鎖が霧のようにぼやけ、映像を映し出します。


 これは……、もしかして、太上老君を苦しめている記憶のかけらでしょうか?


 私の陰気魂達は、前世で麗美だった頃の記憶を持っていました。


 だったら、太上老君を追い詰めようとする『鎖』は太上老君と百鬼夜后の『辛い記憶』をもっているはずですよね。


 私が鎖を砕くほど、映像ははっきりしたものになっていきます。そして、少しずつ話の流れが理解できてきました。


【太上老君と百鬼夜后の思い出】


 今から2600年前、青年だった太上老君は不老不死の秘薬を研究していく内に一つの発明をしました。


 それが、人の魂を溶かして固めることで『仙丹』と呼ばれる薬を作り出す装置『八卦炉』でした。


 太上老君は不老不死を実現するため、多くの人間を八卦炉に入れ、できた仙丹によって、溶かした人の寿命を取り込み、自分の寿命を延ばしていきました。


 ですが、あの世を支配する天帝は、不老不死の人間がいては、この世とあの世の堺が乱れると考え、太上老君を無理やり天界に呼びつけました。


 そして天界人の寿命を延ばすため、地獄の受刑者の魂を仙丹にする仕事に就かせました。


 太上老君は何とか天帝から自由になるため、悟空をモルモットにして、地上に突然現れた不思議なエネルギー『TTRAW』のエネルギーを研究し始めました。


 そんなある日、一人の女性が太上老君に接触して来ました。それが百鬼夜后でした。


~ここから太上老君視点~


「この魂を使って欲しいんです!」


 彼女はいきなり、ワシの研究室にやってきてそう言った。


 『不老不死』に繋がり得るワシの研究を盗もうとする者は少なくない。この女もそうした類の者だろうと、最初は思っておった。


「魂を使えじゃと?確かに仙丹を作るのに魂は必要じゃが……。どこの誰とも分からぬ者からもらう訳にはいかんのう」


「私は百鬼夜后と言います!太上老君さまに憧れて、何とかお手伝いがしたいと思って、ここに来たんです!!」


 百鬼夜后は弾けるような笑顔で、とても楽しそうにそう言った。


 こちらを上目遣いで見る、その姿はワシに心底憧れ、技術を盗もうなどと言う腹は一切ないように見える。


 もちろん、見も知らぬ相手なのじゃから警戒しないわけにはいかぬが、どうも間者という訳でもないのかも知れぬ。


「ご、ご迷惑だったでしょうか?」


 不安そうにワシを見つめる百鬼夜后、やはり悪意などないようじゃ。手伝いたいと言うならば手伝わせても良いじゃろう。


「そんなことはない。ワシも助手の一人でもおればいいと思っていたところじゃ。それで、お主は何ができる」


「私は『テイマ』なんです。ですから、倒した魔物や戦いの中で敗れ亡くなってしまった魔物の魂を提供できます!」


 『魔物の魂を仙丹にする』という発想はこれまでのワシには無かった。じゃが魂のもつエネルギーだけで見るなら、魔物の魂は人間の魂より遥かに優れておる。


 単純に寿命を延ばしたり、力を得ようというのならば魔物の魂の方がいいに決まっているのじゃ。


「なるほどのう。それは願ってもないことじゃが。それで、お主は何を求めるのじゃ?」


 これほどの物を提供するのだから、見返りなしという訳にもいかんじゃろう。それによっては取引が上手くいかぬ可能性もある。


「え?」


 百鬼夜后は、きょとんとした表情でしばらく無反応になってしまった。


「い、いえ!私は太上老君さまのお役にたてるなら、見返りなんて何もいりません!!私が手伝って研究が進むなら、それだけでいいんです!」


 そう言い切った百鬼夜后を前に、ワシは怪しんだりする前に胸を打たれた。なるほど、他人のために尽くそうという考え方もあるのか。


 ワシはこの奇妙な少女に惹かれ、魂の提供を受けるとともに、助手として全面的に協力してもらうことにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから数ヶ月、ワシ達は共に研究をしていく中で仲を深め、これまでの人生の中でも初めてと言うくらい心を許せる仲になった。


 あの事件が起きたのは、そんな時だ。


 あの日、ワシは天帝の呼び出しを受けて、仙丹の研究結果を報告するため帝都に赴いた。


 『魔物の魂』のおかげで、大きく『エネルギー』や『伸びる寿命の年数』が増えたことで、天帝は大喜びだったが……その帰りの事だ。


 『たまたま』通りかかった百鬼夜后が……、『恋愛』に関する研究をしている施設『上位恋愛傾向研究所』に行こうと言い出したのは……。


 ワシはそれまで『上位恋愛傾向』という概念を知らなかった。じゃが、施設員の話を聞いて、実現できれば仙丹など及びもつかないほどの高エネルギーを得られる可能性があると感じた。


 だから、やつらの実験を手伝うことにした。


「だから、太上老君さんが目指す『力』の研究にも役立つと思うんです!それに……太上老君さんと、どれくらい仲良くなれたのかも知りたいですし」


 顔を赤らめながらそう言ってくる百鬼夜后の言葉を断ることなどできるはずもなく、私は引っ張られるように、『上位恋愛傾向研究所』へとついて行った。


◇◇◇◇◇◇◇


 研究所についたワシ達は、所員にこの施設の説明と、ワシ達がすべきことについて説明を受ける。


「この『上位恋愛傾向研究所』では、恋愛の生み出すエネルギーについて研究しております。その測定方法として、この『告白マシーン』を使っておるのです」


「告白マシーンじゃと?」


 恋愛のエネルギーを研究しているとは聞いていたが……。そんな遊園地のような機械で本当にエネルギーの増減が測れるのだろうか?


「ええ、名前の通り、男女が告白することによって、エネルギーがどう増減するのかを測る機械ですが、告白の嘘を暴き告白者と告白された者の心の動きを完璧に暴き出す画期的な機械なのです」


 嘘が通じぬか。なるほど、確かにそれならば告白が上っ面かどうかよくわかるだろう。


 そして、本当にときめいたときエネルギーがどう発生しているかもわかる。研究をする上で『紛れ』がないのは大きい。


「この装置で、告白し合えば私と太上老君さんがどれくらい仲が良いかわかるでしょう?」


「そ、それはそうかも知れぬが……」


 汗と動悸が酷い。今から、ワシの百鬼夜后に対する想いがさらされると思うと、妙に緊張する。


 現世で研究していたときは、こんな思いを抱いたことはないのだが……。


 これが恋愛感情というものなのだろうか?


 研究員達は、ワシと百鬼夜后に機器を取り付けた。


「それでは、今の相手に対する想いを告白してください。まずは太上老君様からお願いします」


 人前で自分の想いを告白するなど、拷問に近い所業なのだが……。だが百鬼夜后が望んでここに来たのだ。


 これまで研究で多大な協力を得てきたし、彼女の笑顔はワシの心を支えてくれている。彼女が望むなら、叶えてやりたいと思うのは当然だろう。


 私は頭の中で言葉を紡ぐ。私の想いを乗せ、彼女の喜ぶ言葉を捧げなければならぬ。


「ワシは、そなたの行いや言葉、そして眩しい笑顔に惹かれておる」


「子供のようにふるまいつつも、無意識に見せる男を誘うような仕草も」


「天使のように澄んだ、全てを預けてしまいたくなる声も」


「見たもの誰もが、怒りも悲しみも一切忘れてしまいそうな眩しい笑顔も」


「全てを愛している!そなたと、恋人同士になんとしてもなりたい!」


 私の言葉に反応して、百鬼夜后の顔が耳まで真っ赤になる。『あわわ……』と小さく声を出して震えている。


「告白マシーンの反応でも、言葉に嘘はないようですね。計器によれば、お二人の恋愛エネルギーが増大しています」


 研究員の言葉通り、『告白マシーン』は針が振り切れんばかりにエネルギーの増大を示している。


「これは……いいですよ。さすがに『上位恋愛傾向』ではないようですが、これだけのエネルギーがあれば、世界に確変を起こせます」


「さあ!百鬼夜后さん、告白の返事をしてください。そうすれば、さらにとんでもないエネルギーが生まれるはずです。これは歴史に残る実験になりますよ!」


 そう言われて、百鬼夜后は照れと緊張で大量に汗を流しながら、ワシの方を見つめてくる。


「そ、そうですね!こんなに素晴らしい告白を頂いたのだから、ちゃんとお返事しないと!!」


 百鬼夜后は目を瞑り、深呼吸をして心を落ち着け始めた。


 ワシと過ごしてきたこれまでのことに思いを寄せているのじゃろう。


 そして、心を決めたように強い視線でこちらを見つめ、『告白の返事』をし始めた。


「最初は、貴方の素晴らしい功績に憧れていました。仙丹という、人の寿命を延ばす薬を生みだしたのですから、この世でもあの世でも前例のない大功績です!」


「私も何とか、こんな素晴らしい研究をして、皆の役に立ちたいとずっと考えていました。その気持ちはいつしか、貴方のお側で研究したいという想いに変わっていました」


「出会ってからは、貴方の『努力に一切妥協しない』姿に惹かれていきました。貴方は研究を続け、植物にも魂があることを突き止め、仙丹に『桃の魂』を混ぜ込むことでより寿命を延ばせることを突き止めました」


「それだけでなく、貴方は謎の異世界エネルギー『TTRAWエネルギー』を研究し、この世に新たな秩序をもたらそうとしています。私の『魔物の魂を仙丹にする』というアイディアも躊躇することなく柔軟に受け入れてくださいました」


「そして何より!私がもっとも惹かれたのは、貴方がとても、誰よりも優しい人だと言うことです」


「あまり喋る人ではないし、かと言って行動で示すわけでもありませんから誤解されがちですけど、貴方は本当は優しいんだって、私だけは知っています」


「貴方は誰かの寿命を伸ばすために、誰かの命を奪う、そんな非情な仕事をこなしながら、それでも何とかして命を救うことをずっと考えていた」


「魂の持つ、エネルギーとコアを分離することで、エネルギーを奪った後も通常の転生をさせられないかと、いつも悩んでいました。そしてその方法に辺りをつけていましたよね」


「もちろん、私が疲れたとき悩んでいるときに、そっと声をかけてくれるのも、とても感謝しています」


「私は貴方の『功績』と『努力』と『優しさ』にたまらないほど惹かれています。私は貴方の虜です」


「だから、告白をお受けします。こちらこそ、貴方と恋人同士になりたいです!」


 私達は『告白』によってお互いの想いを通じ合わせた。


 単なる『告白マシーン』の実験などではなく、心からの想いを伝え合ったのじゃ。


 こうしてワシ達は結婚し、幸せな日々を送ることになる。


 あの日、『存在X』……輝夜が現れるまでは……!!


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