私の『エゴ』~魂が求める夢~
【 2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 太上老君 2621歳 八愛地獄 鏡の中 自己崩界 】
あの時、前世の私の病気はかなり進行し、もう余命がいくらもない状態でした。
それでも私は、ずっと優しくしてくれる家族の事を考え、どうやったら私が死んでも皆が幸せになるか考えていました。
介護やお金の面では楽になるでしょうけど、私がいなくなる悲しみを乗り越えて幸せになれるのかな……と、ずっと考えていました。
そんな私にお兄ちゃん……『望月たかし』が欠けてきた言葉が……。
「大人になった何になりたい?」
でした。私は困惑しました。今にも死んでしまいそうな私に将来の夢を聞くなんて、理解できません。
でも、お兄ちゃんは何か意図があって私にそれを聞いたのだと思い、必死に答えを考えました。
そして私がたどり着いた結論は……もし大人になれたら、健康になって何でもできるようになったとしたら何がしたいか……ずぅっと考えました。
「私は家族を幸せにしたいです。どんな職業につけばそうできるのかわからないですけど、お父さんとお母さんとお兄ちゃんに、どうにか今より幸せになって欲しい」
この時、こう思ったことが私が『家族愛』に目覚めるための基礎になりました。
例え自分が危機に陥っても、家族が幸せなら私は元気になれる。それが、死の淵で私がたどり着いた信念でした。
意識の薄れていく私に、お兄ちゃんは言いました。
「子供は夢を持たなくちゃいけない。麗美の前には無限の未来が広がっているんだから」
その言葉を聞いた私は、もしも元気になれたら、その無限の未来を使って、どこまでも皆を幸せにしたいと思いました。
あの時の私は、家族を幸せにすることだけ考えていました。そのお陰で輝夜さんと仲良くなれて、『家族愛』に目覚めましたけど、あの時 お兄ちゃんが伝えたかったことは私が思っていたこととは違うのかもしれません。
死にそうな私が、何とか生きる希望を得られるように励ましてくれたんだとしたら……。
そこには他人より自分を大切にしろ、家族の事より自分の夢を追えというメッセージが込められていたのかも……!
でもそんなものあるでしょうか?私が家族や恋人よりも大事にすることなんて……。
それが分かれば、私が『自己愛』に目覚めることに繋がるかも知れません。
私が……そう、例えばこの世で一人きりになったら?それでも何としてもやりたいことがあるでしょうか?
そう考えていると、周囲を取り囲んでいた『鏡の影』達が急に動き始めました。
『『害悪』は夢など持ってはいけません』
『それは誰かを巻き込み、必ず不幸にするからです』
そう言うと、鏡の影達は『私』の姿からぐにゃぐにゃと形を変え、黒い球のようなものになりました。
【陰気魂】
『鏡の影』達の正体。かんなの魂のうち、低い自己評価のエネルギーが分離したもの。触れることで、かんなの自己嫌悪を増大させる。
その球達が私の方に向かって飛んできます。
『家族は貴方のせいで、めちゃめちゃになった』
『貴方は家族を幸せにできなかった』
『いくら愛されようと、貴方は家族にとって『ゴミ』でしかなかった』
球はそんな言葉を吐きながら、私に向かって飛んできます。そして、球が体に触れると……、外傷は全くありませんが、何だか魂の底が黒く塗りつぶされたような感覚がします。
それに、球達が言う言葉がよりリアルに感じられて、自分がゴミみたいに感じられます。
確かに家族は迷惑していたはずです。あんなに愛してくれたのに、私は家族に何もできなかった。
周囲の音や見えているものがおぼろげになります。まずいです。これを何度も食らってしまうと自己嫌悪のあまり動けなくなりそうです!
どうすれば……と思っていたところで、魂の底 どこかわからない私自身の奥の奥から、声が聞こえました。
【『エゴ』になれ】
え……?エゴになれって、我がままになれということでしょうか?
い、いえ今の声は私の魂から湧き上がって来ました。私の魂と融合したという兄の意思かも知れません。
つまり『大人になったら』や『夢を持て』と連動しているメッセージのはずです。
それに目覚めることが、今この状況を乗り越える手段だと伝えているはずなんです!
それにしてもエゴとはどういうことでしょう?多分、わがままとか自分勝手……今の太上老君のように、自分が掲げた目標に向かって、他人にどんな迷惑をかけても突き進んでいく意思ということですよね。
【魂に刻まれた『自分だけの欲求』。魂源的欲求に気づき、目覚めろ!!】
また何か声がしました。でも、魂源的欲求……ですか?
つまり太上老君のように『エゴ』になっても叶えたい夢が、私の魂に隠されていると?
家族を幸せにする、ということ以外で私が何を置いてもやりたいことが……。
他人のために尽くすのではなく、私が私のためにどうしてもやりたいことが……!!
『貴方が皆を幸せにしたいのは当然です。だって、貴方は『害悪』だから、その見返りとして皆を幸せにする義務があるでしょう?』
陰気魂達がそんな言葉をかけてきます。確かに私もそう思っているのですが、だからと言って『魂源的欲求に目覚めろ』という魂からの訴えを無視するわけにはいきません。
よく考えてみましょう。何か違和感があったんです。前世でお兄ちゃんからかけられたの言葉の中に……。
「君は幸せにならないといけないんだ」
前世の私は間違いなく幸せだったのです。優しい家族に愛され、こちらも愛していたのですから。なのにお兄ちゃんは幸せになれと言いました。
今思えば、大きな違和感です。お兄ちゃんと私の間に何かとんでもない食い違いがあったということですよね。
何が食い違っていたのでしょう?
そもそも私が幸せだと感じていたのは家族が幸せだったからです。
そしてお兄ちゃんが私の事を不幸だと感じていたのは、ずっと病気だった上に幼くして死んでしまうからですよね。
そんな境遇の人がいつも他人の幸せだけ考えて行動しているのは可哀想ということなのでしょう。
はたから見ると、そんなに不幸に見える状況でも私は幸せを感じていて、それに一切 違和感を感じなかった。今考えると、奇妙な話です。
そ、そうです!確かに、私はいつもどんな時でも家族が幸せなら幸せだった。
生まれつきあった、何としてでも家族を幸せにしたいと願う欲求、そしてそれができたときの異常な幸福感、これらは普通の人とは大きく乖離した、異常な感覚なのでは?
だとしたら、私の魂源的欲求というのは……!!
幸せにすること……!!相手が幸せになりたくなくても、『私が幸せになるために』誰かを幸せにすること!!
それは確かにエゴです。でも確かに、私は誰かを幸せにしないと生きていけない。魂に刻まれたように生まれた時から、その欲求を抱き続けています!
「貴方達、私は『害悪』であろうと、人を幸せにしたいんです!だから、私は自分の『エゴ』で貴方達に命じます」
「私と一つになり、人を幸せにするのに協力しなさい!!」
―――――システムメッセージ――――
『桜井かんな』が上位恋愛傾向『フラウティアに』目覚めました。
『桜井かんな』は絶対自我・『幸福強要』に目覚めました
魂がっ!洗い流されたように綺麗になりました。心が晴れやかで、迷いがありません。
もう陰でも陽でもない、陰陽が混じり合い、魂を『幸福強要』という形に作り上げたのです。
これがフラウティア……輝夜さん!私はちゃんと、フラウティアに目覚めましたよ!!
私の魂の形が、さらに変化します。私は魂から『手』を出して、陰気魂達を鷲掴みにしました。
そして魂は陰気魂達を引き寄せ、魂に取り込みました。元々は私から分離した魂ですし、今や陰気も陽気も『幸福強要』の元に融合していますから問題ありません。
私は自分の抱えていた自己嫌悪を乗り越えることで、自分の魂源的欲求に気づき、フラウティアに目覚めた。
やはりこの『自己崩界』は、入った人の自我を崩壊されるだけでなく、フラウティアに目覚めさせる力があったということですね。
そう考えていると、周囲の空間が揺らぎました。
元々、『鏡の影』達に引きずり込まれてここに来たのですから、彼女たちを取り込んだことで、『自己崩界』が消えようとしているのでしょう。
段々と周囲の景色が希薄になっていき……気が付けば、元々『霊道』から入って来たミラーハウスのような部屋にいました。
【 2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 八愛地獄 自己虐の迷宮 】
周囲の鏡には、私が取り込まれたときとは異なる部分がありました。
無数にある鏡の内の二つが、黒い光を発しているのです。
「この二つの鏡が、それぞれ輝夜さんと太上老君が取り込まれた鏡ってことですよね」
私は二つの鏡を見つめます。恐らく今の力なら鏡に入り込んで、輝夜さんか太上老君の『自己崩界』に干渉することは可能だと思います。
けど、問題として
1.『自分との対話』に干渉してしまうと、失敗の原因になるかも知れない
2.どっちがどっちの鏡かわからない
3.太上老君の鏡に入った場合の方針が決まってない
輝夜さんの鏡に入って、『対話』の邪魔をしてしまうのは最悪です。太上老君の鏡に入るかも知れないので、『どうするか』考える必要がありますね。
つまり太上老君の『対話』を助けて『フラウティア』が失われないようにするのか……?
それとも対話に割り込んで、『プラグマ』や『ストルゲ』に目覚めるように誘導するのか……?
もしくは……殺してしまうのか。
殺すのはなしですね。絶対に、私らしくありません。
誰彼構わず、無理やり幸せにするのが、私の『エゴ』なんですから、太上老君にも幸せになってもらうしかないでしょう。
つまり、もし太上老君の鏡に入ったら彼の『フラウティア』を守りつつ『プラグマ』と『ストルゲ』に目覚めさせます!!
加えて、絶対に私や輝夜さん、そして全次元の皆を殺させない!!
それが私にとって正しい『フラウティア』の使い方ですよね。
私はもう一度、二つの鏡を見つめます。入った鏡が輝夜さんのものでも、太上老君のものでも、私は全力でサポートをする。
邪魔するかもなんて心配しても、仕方がないですからね。やらなくて後悔する方が嫌ですから。
私は二つの鏡を指さし、『どちらにしようかな』と言うのをやって、結局右の鏡に飛び込むことに決めました。
輝夜さん!太上老君!!待っててください、すぐに私がお二人を、新たな『上位恋愛傾向』に目覚めさせて魅せますよ!!
そう叫んで私は、黒く光る右の鏡へと飛び込みました。