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四つの愛、ぶつかる!~自分も愛するこということ~

【  2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 無人惑星サヴァイヴ 望月家 庭 】


 私達の『声』は大砲から発射された弾のように、丸い形になりました。


【W愛キャノン】

 『プラグマ』と『ストルゲ』の力が融合することによって生まれる。二人の『声』が周囲に『永遠家族振動』を起こす。


 『永遠家族振動』は触れたものの陰と陽のエネルギーを強制的に『家族の波長』に変換し、一緒にいて心地よい感覚に取り込む。


【自己完結】

 相手の陰と陽のエネルギーを陰陽バランスの黄金律である『中庸』にする。中庸になった魂は、魂としての記憶を失う。よって、これを吸収しても人格に影響を与えない。

 一度、上位恋愛傾向に目覚めた魂は、記憶を失っても進化したままである。


『W愛キャノン』によって作られた家族弾は、『永遠家族振動』を起こします。それによって、『中庸』にさせられかけた私の体は、私と輝夜さんだけの固有の『家族の波長』に戻っていきます。


 さらに、太上老君も『永遠家族振動』に巻き込みます。太上老君は『自己完結』によって、中庸の状態でも、記憶を保ち考えることができるようですが、『永遠家族振動』に巻き込めば、その陰陽バランスを崩すことができるはずです。


 上手くすれば『フラウティア』の力を大きく弱めることができるかも知れません。


 そう思っていたのですが、太上老君の後ろに『太陽』と『月』が現れ、太上老君の体が激しく光り始めました。


「あれは……っ!まさか『隠し難題』の……。『太陽』と『月』ですの!?」


「太陽!?太陽や月が、この『火鼠の皮衣』みたいな、アイテムってことですか?」


「そうですわ。究極の陽の気を持った太陽と、究極の陰の気を持った月は、5つの難題以上に『上位恋愛傾向』の力を引き出すアイテムですわ」


 私達の世界を照らす太陽が、『難題』の一つだったなんてびっくりです。だとすると、これら二つの『難題』も、輝夜さんがそらさんと一緒に暮らすために必要なアイテムと言うことでしょうか。


「極陽!!極陰!!……合わせて!!」


 太上老君の後ろで太陽と月が合わさっていきます。


 二つが完全に混ざり合うことで、太上老君の輝きがより一層増していきます。


「『究極自我』」


 その言葉と共に、注意深く陰陽の気を探っていた私はそれまでとは規模が大きく異なる、大きな気の変化が起きたことを感じとりました。


「こ、これは?さっきの全てを『中庸』にする技が全次元に及んでいる気がします」


「まずいですわ。あの技は、『自己完結』と同じく、相手の陰陽バランスを崩す技ですわ」


 これまで、あくまで冷静を保ってきた輝夜さんが、かなり慌てています。私も、信じられない変化に思考がついていきません。


「『自己完結』が周囲の相手を『中庸』にしようとするのに対して、『究極自我』は全次元中の魂を『中庸』にして、強制的に回収する技のようです」


 だとすれば、太上老君は今まさに私達以外の全ての魂を吸収し、パワーアップしていると言うことですか?


 だ、だったら早く止めないと、全ての魂を吸い尽くしてしまえば全次元から生き物がいなくなってしまいます。


 太上老君の目的である、『全次元に自分だけしか存在しなくする』という目的も、ほぼ達成されてしまいます。


 でもどうすればいいでしょう『永遠家族振動』はあくまで私達と周囲の陰陽バランスを、私達の丁度いいバランスに整える技です。


 この技では、自分達の身は守れても全次元中の人々を守ることができません。パワーアップさせるにしても、全次元に及ぶほどにできるでしょうか?


「そんなのダメです!何とか、あの技を止める方法はないんですか?」


「そうですわね。普通の方法では難しいと思いますわ」


「普通じゃない方法があるんですか?」


「ええ、わたくし達が彼の『上位恋愛傾向』『フラウティア』と『ルダス』に目覚めることができれば、こちらの『愛』は四種類になって、技を破れると思いますわ」


 確かにそんなことができれば、こちらの戦力は2倍どころか無限にパワーアップして、『究極自我』だって吹き飛ばせるでしょうけど……。


 でも、二つの上位恋愛傾向に目覚めるだけでも、とてつもなく大変でしたし、今から太上老君と一緒に暮らしたりするわけにもいきません。


 向こうの同意がない状態でそんなことをしようとしても、家の中で攻撃されるだけですからね。


「それはもちろんそうですけど、一体どうやったらそんなことできるんです?」


「できる限り太上老君に接近して、わたくし達の全エネルギーで『永遠家族振動』を起こすのですわ」


「そうすることで、『プラグマ』『ストルゲ』『フラウティア』『ルダス』の4つのエネルギーがぶつかり合い、混ざり合って大爆発を起こします」


「その時、虚空に『霊道』が開きますから、そこへ太上老君を抱えて飛び込むのです」


 何か話がとんでもないことになってきました。4つの『上位恋愛傾向』をぶつけることで、霊道が開くからそこへ太上老君を引きずり込む?


 何のためにそんなことをするんでしょう?い、いえ私達が『フラウティア』と『ルダス』に目覚めるためなんでしょうけど、どういう流れでそうなるのかわかりません。


「『霊道』は複数の上位恋愛傾向のエネルギーをぶつけた時にだけ開く『地獄の門』ですわ。その先は無間地獄よりさらに下にある『八愛地獄』に繋がっていますの」


「な、何でそんな地獄なんかに行くんですか?」


「八愛地獄には愛そのものがありませんわ。ですから、わたくし達も太上老君も力を使えないはずです。つまり同等の条件に持ち込めるわけです」


「そして、元の世界に戻る『霊道』を開くには4つの愛の力をぶつけなければいけません。愛そのものがない『八愛地獄』でそんなことをするには、一人の人間が『4つの愛の力』に目覚め、自らの魂を燃え上がらせるしかありませんわ」


 なるほど、同じ条件なら太上老君は簡単にこちらを殺せない。そして、元の世界に帰るには『4つの愛』に目覚めるしかないとなれば……。


「太上老君は『4つの愛』に目覚めるため、私達と『話し合い』、『理解し合う』ことを避けられないということですね」


 確かにその方法なら『4つの愛』に目覚めることができるかも知れません。


 私達が太上老君を通じて『フラウティア』や『ルダス』を理解することができれば……ですけど。


 あるいは『プラグマ』や『ストルゲ』の精神を心から伝えることができれば、太上老君は『この世で自分だけになる』なんて寂しいことを考えなくなるかも知れません。


「さあ!やりましょう!!太上老君は『究極自我』の影響を全次元に渡らせることに精いっぱいで私達への対処がおろそかになっています!」


 今のうちに接近して、私達の力を太上老君の力にぶつける、ということですね。


「くっ!馬鹿な!霊道を開こうと言うのか!二度と戻れぬかもしれぬのじゃぞ!!」


「それでも死んだり、全次元の生き物が吸収されるよりいいです!!」


 私達が、これまで『家』で過ごしてきた生活の事を思い出します。狩りやベッドで話し合った過去、そして栽培やアク抜きなどアイディアを出し合って楽しく暮らした毎日……。


 私達の永遠家族振動が高まります。それは全次元の魂を『中庸』にしようとする、太上老君のエネルギーとぶつかり合い、二つのエネルギーは私達と太上老君の間に激しい渦を作り出しました。


 そしてその渦の中から、鬼火のようなものがいくつも浮かび上がり、門の形を作り上げました。


 門の中からは、これまで感じたことがないほど強い『陰の気』が溢れてきます。もちろん、『永遠家族振動』や『究極自我』の陰陽バランスを壊すほどではありませんが……。


 すると、門は強力な引力で扉に周囲の全てのものをひきつけ始めます。


 そしてものすごい勢いて、私と輝夜さん、そして太上老君も門に引き付けられていきます。


 何とか抵抗しようとしますが、『プラグマ』や『ストルゲ』の力でも、引き付ける力に抗えません。


 私達3人は霊道に吸い込まれて……別の場所に転移しました。


【  2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 八愛地獄  自己虐の迷宮 】


 その部屋は遊園地にある『ミラーハウス』みたいに周囲を鏡に覆われた部屋でした。


 太上老君は、その場に座り込み、疲れた顔でため息をつきながら言いました。


「ここは『自己虐の迷宮』じゃな。フラウティアを持つものに、自己愛への不信を抱かせ、能力を消してしまうという」


「一方で自己愛を持たないものが試練を突破できれば、自己愛に目覚めるとも言われていますわね。それが、わたくしがここに来た理由の一つですわ」


 輝夜さんは微笑んで、太上老君を挑発するようにそう言いました。


「この『八愛地獄』に落ちて発狂しなかったものはおらぬ。『上位恋愛傾向』を持たぬものは永遠の苦しみを与えられ、持っているものもそれを失う。そんなことは分かっておろう」


「それでも、あのまま貴方に全次元を滅ぼされるくらいなら、こちらの方がマシですわ。それにうちのかんなちゃんは、きっと奇跡を起こしてくれますもの」


 何だか過大な期待を寄せられている気がします。誰もが発狂するような場所に連れてこられて私に何ができるでしょうか?


 そう思って周囲を見渡すと、無数の鏡にそれぞれ私達の姿が映っています。鏡の中の私は不思議な雰囲気を持っていて、今にも動き出しそうです。


 その瞬間、不意に鏡の中の私が手を伸ばしてきて、掴まれていまいました。


「か、輝夜さん!か、鏡の中から手が……」


 見れば、輝夜さんも太上老君も『手』に捕まれています。これが『自己虐の迷宮』とやらのトラップなのでしょうか?


「かんなさん!貴方ならできます!!わたくしとかんなさんが自己愛に目覚めれば無敵ですわ!どうか……」


 そう言っている間にも輝夜さんは鏡に引きずり込まれていきます。


 私は半分以上を鏡に取り込まれながら答えました。


「わ、わかりました!何とか……いいえ、全次元と輝夜さんと自分自身のために!必ず自己愛に目覚めて見せます!!」


 その言葉を最後に、私は鏡に取り込まれていきました。


【  2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 八愛地獄 鏡の中 自己崩界 】


 鏡の中は、光の反射が無い真っ暗な世界でした。その中で、唯一私の周囲を蠢いているものが見えます。


「これは……私!?真っ黒な私がたくさん……」


『そう、ここは自己愛を崩壊させるための空間、貴方は『私達』に触れるほど、自分を愛せなくなる』


 黒い『私達』は私の回りを取り囲んでいます。その内の一人が少しずつ見覚えのある姿に変化してきました。


『お兄ちゃん……お母さん……お父さん……ごめんなさい……ごめんなさい……』


 これは前世で望月麗美だった頃の私みたいです。


『私は病弱で、お金でもお世話でもずーっと家族に迷惑をかけ続けています。こんな私んなんていなくなった方が、きっと皆 幸せになれるんです』


「何を言っているんですか!お兄ちゃんもお父さんもお母さんも、あんなに優しくしてくださったじゃないですか!」


 前世では本当に家族にお世話になりました。最後にはお兄ちゃんのせいで死んでしまいましたが、お兄ちゃん達は私に魂を託してくれました。


 不満なんて全くありません。


『でも『私』は皆に頼り切りで、どんなに愛してもらえても、何もお返しができなかった』


 確かに当時の私は、家族に迷惑をかけ何もできないことに強くコンプレックスを感じていました。


 でも私が『自分なんていなくなってしまえば』と思う度、両親とお兄ちゃんが優しい言葉をかけてくれました。


 私はそれに甘え続けていて……。自分が価値あるものだと思うことはできませんでした。


 家族に愛されているから価値があるけど、結局私は自分を『価値のないもの』だと思い続けていました。


『貴方は愛され、家族を愛したけれど、自分には家族に愛される資格がないと感じた。貴方は迷惑をかけないと生きていけなかったから』


 それでも、家族は私を愛してくれました。だけど、私が私を愛していたとはいえません。家族から愛情を受け、家族に愛情を与えながらも、いつも自分を卑下していました。


 今の私もそうなのでしょうか……?


 私は、心からの介護をしてくれた家族を愛し、家族も私を無条件に愛してくれました。


 けれど、私にとって『私』は、介護に多大な時間とお金を使わせることで、大好きな家族の夢や希望を打ち砕く『害悪』でしかなかった。


『どんなに愛し愛されようと、貴方にとって貴方は、家族の『障害』でしかなかった』


「私はどこまでもお荷物でしかなかった」


 私は鏡の影達の言葉を聞いてふさぎ込みます。彼女たちは私の気持ちの核となる部分を知っていて、そこを集中的に攻めてきているようですね。


 この地獄に入った者が皆、発狂するというのも理解できます。


 苦痛から、私が心を閉じかけたその時、私の心に一つの言葉が浮かびました。


「大人になったら、何になりたい?」


 それは私に希望を与える言葉でした。

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