永遠の愛+家族愛『二つ』に目覚めよ!
【 2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 無人惑星サヴァイヴ 望月家 庭 】
爆発しかけた私に『手』が伸びてきました。これは私の手でも輝夜さんの手でもありません。一体、誰の手でしょうか?
『貴女達を消させたりしない』
『気づいて、ちゃんと見て。お互いを』
『貴方達はもう『二つ』に目覚めてる……』
【マニアの手】
愛する人の側に手を出して、周囲の物を触ることができる。愛する人のことを全て知ろうとする『マニア』の究極のストーカー能力
次元を超えたその手で触れることで、サイコダイブを引き起こし相手の『生まれてからこれまで』の行動・記憶の全てを知ることができる。
マニアは相手についての知識を得れば得るほど力を増す。
「これは、そらの手ですの?そらの『マニア』が進化して、離れていてもわたくしに鑑賞できるようになったと?」
事態は飲み込めませんが、空間から現れた謎の手が、私と輝夜さんの手を握りしめました。
『私の知った輝夜の全てを、かんなに伝えます。私の知ったかんなの全てを、輝夜に伝えます』
謎の声がそう言うと、私の中にこの半年の輝夜さんの記憶が流れ込んできました。
そこに現れた『記憶』に映し出されたのは、私……輝夜さんの視点で見た私ですね。
『で、でも、ここには何もないんですよ!水もご飯も近くには見当たりませんし……。急いで生活基盤を整えないと死んじゃいます』
その言葉と共に、記憶の中の私の顔に、深い紫の線が現れ、ヒューンという低い音がしました。
これはエフェクトと効果音でしょうか?この会話の時、そんなのが鳴った覚えはないのですが……。
でも、輝夜さんにはそれが聞こえていたみたいです。現実で人からエフェクトが出たことに非常に驚いている感情が、『マニアの手』を通じて伝わってきました。
[かんなさんからエフェクトが!効果音が!これは魂を融合した影響でしょうか?それとも『ストルゲ』に目覚めたことが関係しているのかしら?]
[何にしても、とてつもなく可愛らしいですわ!これでは、かんなさんを『永遠の愛』に落とす前に、私が恋に落ちてしまいそう]
この時の輝夜さんは、エフェクトを通じて私に『可愛さ』を強く感じていたようです。『マニアの手』を通じて、輝夜さんの私に対する好意がどんどん上がっていくのが伝わってきますね。
『すごいです!まるきり知らない星の生き物に、そんなに詳しいなんて』
シーンが変わって、今度は周りの『岩』から水がとれることが分かったシーンですね。
記憶の中の私の回りに、オレンジの光が点滅し、ファンファーレのような効果音がなっています。
輝夜さんは、人から頼られるのが嬉しかったようで、その感情が伝わってきました。
[『水岩』について教えただけで、こんなに喜んでいただけるなんて……。確かに水の確保は重要ですけど、ここまで喜ばれると私も嬉しいですわ]
[かんなさんがここまでわたくしを頼ってくれるなら、頑張らなくてはいけません。最高の生活環境を準備して差し上げないと]
この時の輝夜さんからは、好意と共に決意が感じられました。知識をフル活用して、どうすれば、より美味しい食料、安全な住居が得られるか、必死に考えていたんですね。
でも、この時点ではあくまで私の見た目や言動、エフェクトや効果音に惹かれているだけで、私自身の性格を見ているわけではないみたいです。
好意も『永遠の愛』や『家族愛』と言えるほど深いものではないようですね。
謎の声は『二つに目覚めている』と言いました。ここから輝夜さんが、私に対して『永遠の愛』と『家族愛』に目覚めるということなのでしょうか?
さらに、シーンが変わります。これは最初の夜、二人で一緒に寝た時ですね。
『何とか、誰も死なずに輝夜さんとそらさんが一緒に暮らす方法はないでしょうか』
『私も死ぬのは嫌ですけど、だからと言ってお二人が一緒に暮らせないのは可哀想です』
この時の私が、キラキラしたエフェクトを出しながら言いました。
これはベッドで私が言った言葉ですね。どちらかがどちらかを吸収しないといけないというのは悲しいですし、お二人が一緒に暮らせないのも悲しいです。
全次元が滅びずに、二人が一緒に暮らせる方法があって欲しいと願うのは当然でしょう。
私の言葉に対して、この時の輝夜さんはすごく意外に感じていたようです。私があまりにお人好し過ぎると感じていたようですね。
[かんなさん、私は貴方を吸収しようとしているのに、それでも私とそらのことを考えてくれるなんて……。私にはとても考えられない発想ですわ]
[ああ、かんなさんが愛しいですわ。かんなさんを守らなくてはいけません。この純粋な子を酷い目に合わせてはいけませんもの]
輝夜さんの『守りたい』という気持ちが流れ込んできます。輝夜さんは私の『お人好し』を稀有なものと感じ、なんとか私を守ろうとしてくれていたのですね。
そして私もその気持ちに同調して、生活の基本を輝夜さんの『宇宙サバイバル知識』に任せ、二人協力して生活の改善をしていきます。
これはまるで……『姉妹』のようですね。姉が妹を守り、知識を提供して、それを元に二人一緒に努力して困難に立ち向かう……!!
なるほど、このころすでに私達はお互いを家族のように感じていたみたいです。
そしてそれから半年の生活……。
ゴム風味の植物のアク抜き、槍茸をゆでたりじゃがいもを栽培したり……。
暮らしの中で私はどこまでも、輝夜さんを信頼し頼るようになり、輝夜さんはもっと知識と技術で私を守ろうとしました。
それに気づいた時、私の中に火鼠族の『家族信条』を感じた時と同じように心が温かくなる現象が起きました。
これは……輝夜さんを『家族』として受け入れたことで、『家族愛』がパワーアップしたのでしょうか?
でもだとすると、輝夜さんの『家族信条』は……?
義弘達、今の家族は『共に守りあうこと』、火鼠族は『家族のために犠牲になること』……。二つの家族が融合して生まれたのが、『家族に託すこと』……。
そして、この半年間で感じた輝夜さんの『家族信条』は……。
義弘達、今の家族のように『守りあうこと』でしょうか?
でも今の私は、輝夜さんを守るだけの力がありません。一方的に守られている感じです。
あ、でも待ってください。そうだとしたら……!
そうか!『姉』が家族信条なんですね!どんな家族であっても姉として振舞うこと自体が『信条』なんです!
私と暮らして、『姉』のように接するうちに『姉』として振舞うのが、家族ともっとも愛を共有する方法だと考え、それが信念になったのでしょう。
だとしたら、私のパワーがアップしたのも、心の中に新たな家族信条『妹』が生まれたからなのですね。
輝夜さんが『姉』として、どんなに私の事を思ってくれていたかに気づき、そして私が輝夜さんを知識・精神の両面でどれだけ頼っていたか気づいたことで、私も『妹』として振舞うことに信念を持てたわけです。
確かに、私達の間に『家族愛』は目覚めていた……!!
これだけなら、私が輝夜さんを吸収する形になりそうですけど……。
マニアの手から聞こえる謎の声によると、私達は二人共『二つ』に目覚めているという話です。だから、まだ続きがあるんですよね?
そう考えていると、またシーンが変わります。
これは、ついさっきの太上老君が現れたシーンですね。
この先はもう現在と繋がってしまいますから、私達が『永遠の愛』に目覚めてい
るとしたら、原因はこのシーンにあるはずです。
輝夜さんの体に陰と陽のエネルギーが注入されて、膨れ上がるシーンですね。
そうなった瞬間、輝夜さんの心を襲ったのは強い『死の恐怖』でした。
輝夜さんは、その恐怖に耐え切れず膝をついてしまいます。
『マニアの手』から送られてくる情報によれば、輝夜さんは全次元においてもTTRAWにおいても常に最強だったため、恐怖というものをほとんど感じたことが無かったようです。
しかし、太上老君は『フラウティア』『ルダス』二つの上位恋愛傾向の力で攻撃してきていますから、『プラグマ』を使えない輝夜さんでは防御する方法がありません。
輝夜さんは『殺される』と思い、初めて強い『死の恐怖』を感じました。
初めての強い恐怖だったからこそ、輝夜さんは心から怯え、全く耐え切れなかったのです。
恐怖に打ちのめされて動けなくなっている輝夜さんに、その時の私が抱き着きました。
陰と陽のエネルギーは私に移ります。私は無我夢中だったのですが、輝夜さんは私が命をかけて守ってくれたと思ったようです。
そのため……
[ひ、ひああーーー!!かんなさん!かんなさん!!かんなさん!!!]
[わたくしがピンチの時に、助けてくれました。命をかけてまで、私の命を救ってくれました!!胸が……胸が張り裂けそうなくらい鼓動を打っています。こんな気持ちは、そらにした抱いたことがありません!!]
輝夜さんにとって、死の危機から救われるというのは、初めての体験でした。
輝夜さんはこれまで色んな男性に口説かれていましたが、死の危機から救ったのは私が初めてだったようです。
人は誰しも、初めての『恋愛アプローチ』を受ければ、耐性がないためモロにときめいてしまいます。
だから、輝夜さんは私に対して『永遠の愛』に目覚めました。
そして……。
私は、『マニアの手』を通じて、輝夜さんが最強のパワーを持っているから気丈に振舞えているだけで、本当は子供のように、繊細で傷つきやすく弱い心を持っているのだと知りました。
それだけでなく、本当はとても『純粋で』『美しく』とっても綺麗な心なのだと知りました。
その限りなく美しい心に触れて私は……私は!!
「か、輝夜さぁん!私が、私が守らないと!!」
輝夜さんの心がこんなに綺麗だと言うことは、彼女は本当は誰も『殺したくない』はずです。
そらさんへの想いが強すぎて暴走しているだけで、本当は限りなく純粋な心を持っているんです。
その心のあまりの純粋さに、私は何とかして守りたいという衝動に駆られます。
心が爆発したみたいに強く訴えかけてきます。輝夜さんを守って、ずーっと一緒にいて輝夜さんと輝夜さんの心を……ずーっと私と一つにしないと……!!
私の心が強く強く訴えかけてきます。輝夜さんと一緒にいたい、一緒にいなければ!!
これは?この衝動はなんでしょう。私はこれまで感じたことがありません。
これが……『永遠の愛』なんですか?
そう考えた時、『マニアの手』の声が聞こえました。
『そうです。ちゃんと気づけたみたいですね。貴方たちはもう『二つ』に目覚めています。そして、アミューズメント・ムーンキャッスルの目的である『恋人同士になる』を達成した今なら……』
『もうあなた達は『二つ』を合わせた力を使えるはずです』
その声とともに、私はサイコダイブの空間から現実に引き戻されます。
私の中で陰と陽のエネルギーが暴れ、今にも爆発しそうになっています。
「か、輝夜さん!今の……そらさんの声が聞こえましたよね!?」
「ええ、もちろんですわ。わたくしもかんなさんも『二つ』に目覚めたと」
やっぱり今のは輝夜さんにも見えていたみたいです。だとすると、私が輝夜さんをどう思っているかも、伝わっちゃってるわけですね。
恥ずかしいですが、今はそんなことを言っていられません。
「でしたら!使いましょう『二つを合わせた力』を!!何となくわかるんです。輝夜さんのことをひたすら思えば使えそうだって!」
「そうですわね。わたくしもわかります。かんなさんの事を思えば、『二つを合わせた力』を使えるはずですわ」
そう言って私達はお互いの事を思います。
家族として暮らした日々、そして輝夜さんの心の美しさに惹かれたこと……。
体中に『プラグマ』の力と『ストルゲ』の力が溢れ、混ざり合います。
「やりましょう!輝夜さん!!」
「わかりましたわ!かんなさん!!」
「「『ストルゲ!』『プラグマ!』」」
「「W愛キャノン!!」」
私達の愛の咆哮が、太上老君に向かって飛んで行きました。