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かんなと輝夜が、どこかの星で『宇宙サバイバル』

【  2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 某宇宙 某銀河 無人惑星サヴァイヴ 】


「でも、そうは言ってもどうするんですか?周りは岩ばっかりで水がありそうには見えないですけど」


「申し上げましたでしょ?宇宙のサバイバル知識を見せると。ほら、見てください。わたくし達の回りの岩を」


 私は周囲の岩を見渡しますが、どう見てもただのゴツゴツした岩にしか見えません。


 これに水や食料を得るヒントがあるようには見えないのですが……。輝夜さんはこの岩について何かを知っているということでしょうか?


 私は近くにあった小さい石を拾い上げて言いました。


「この石がサバイバルの役に立つんですか?」


「これは岩のように見えますけれど、非常に保水力の高い植物なのですわ。地下水脈から水を吸い上げ、どんどん大きくなって、この植物同士食い合って、さらに大きくなるのですわ」


「この石から水がとれるんですか!」


 私はびっくりして、石をまじまじと見つめました。


「石同士をぶつけると、ヒビが入って中から水が漏れ出してくるはずですわ。もちろん、割らずに持ち歩けば水筒替わりにもなりますわ」


「すごいです!まるきり知らない星の生き物に、そんなに詳しいなんて」


「色んな星で冒険しましたもの。水と食料については、どんな星に行っても確保できる自信がありますわ」


 輝夜さんの知識で、水に関しては全く問題がなくなりました。この調子なら、食料の場所もわかるかも知れません。


 問題は……このままだと私が輝夜さんを頼りにし過ぎてしまうことですね。


 そうなれば、その内『永遠の愛』に繋がる感情が芽生えるかも知れません。


 できれば、私も輝夜さんの役に立って『家族愛』を目覚めさせたいのですけど。今のところ、どうすればそれができるのかわかりませんね。


 火鼠族のときは火鼠族の過去を見て、その信条に触れたことで、家族愛が目覚めました。だとすると、輝夜さんの『家族信条』を理解できれば良いということでしょうか?


 そしてそれは多分、そらさんのことと関係があるはずですよね。


「どうしたんですの?かんなさん?水は確保できましたし、次は食料を探しましょう」


「でも、この近くには今の岩生物以外、ホントに何もいないみたいですけど、何か当てがあるんですか?」


 ちなみに岩生物自体は岩のように固いので、かじって食べるのは無理そうです。


「そうですわね。わたくしの知識でも、この周囲にはまともな食料になりそうなものはいませんわね」


「じゃあ、遠くまで探しに行かなくちゃいけないんですね」


 私がそう言うと、輝夜さんは首を振って笑った。


「いいえ、少し行ったところにある素材で『武器を作れば』ほとんど動かずに食料を手にすることができますわ」


「ほとんど動かずに、ですか!?」


 輝夜さんの話では、この岩生物には必ず『槍茸(やりたけ)』というキノコの菌糸が寄生しているそうです。


 槍茸は岩生物から水分を摂り、岩生物は異常に硬い槍茸が表面につくことで、壊されないように身を守っている……という共生関係にあるらしいです。


 この槍茸は、岩生物の表面にいるだけなら、ただの超固いキノコなのですが、一定以上水を与えると、一気に巨大化し人の身長に近いほど大きな槍の形になります。


「この槍茸を武器にするんですか?でも、輝夜さんもおっしゃったように、周りに獲物がいませんよ?」


「この槍茸を宇宙まで飛ばして、惑星軌道上にいる衛星生物を撃ち落とすのですわ」


「は?」


 この大人の身長ほどある槍を、宇宙まで飛ばす?


 輝夜さんは普通の女性といえる体格や筋肉をしています。私は小学生ですし、そもそもどんな人間だって宇宙まで槍を投げられるわけありません。


 もちろんプラグマやストルゲの能力が使えれば、簡単なんでしょうけど、今はそれも使えません。


「い、一体どうやって槍を宇宙まで飛ばすんですか?」


「まずですわね、成長した槍茸は絶対潤滑油を分泌するため、一切の空気抵抗を受けませんの」


 一切の空気抵抗を受けない。つまり投げた時のスピードでずっと飛び続けることができるわけですか。


 い、いやそれは重力が無ければの話です。この星には地球と同程度の重力があるみたいですから、結局初速でとんでもないスピードを出せなければ、途中で落ちちゃいます。


「で、でも例え減速しないにしたって、どうやって宇宙に届くほどのスピードで飛ばすんですか?」


「それには『マッハゴム』を見つける必要がありますわ。その群生地も大体、見当がついていますわね」


「マッハゴム……ですか?」


「ええ、マッハゴムは異常な弾力があって、引っ張ると極超音速で元に戻ろうとするんですの。このゴムでパチンコを作って飛ばせば、槍が宇宙まで届きますわ」


 マッハの弾力を持つゴムですか……。引っ張った力以上で戻るのは、物理的におかしい気がしますが、何か魔法的な力が働いているのかもしれません。


「ええと、そのゴムの群生地が近くにあるんですか?」


「ええ、臭いを感じるわ。恐らく5分と歩かない場所にマッハゴムの群生地があるわね。そこに食料になる植物もありそうだから、そこに行ってみましょう」


 私にはゴムの臭いなんて全く感じられないのですが……。輝夜さんは随分、鼻が良いみたいです。


 これもサバイバル生活をしてきたことで身に着いた能力なのでしょうか?


「食べられる植物が生えている場所があるんですか!?じゃあ、早くそこに行きましょう。宇宙の狩りも重要ですけど、とにかくお腹を満たさないといけません!」


 マッハゴムでの狩りには時間がかかりそうですし、食べられるものがあるならそちらを優先したいです。


 というか植物の群生地があるなら、先に言って欲しかったですね。


「あー。一応、そこの植物は食べられるし味は悪くないんですけれど、『ゴムの風味』が強すぎて、食べるには苦痛を感じると思いますわよ。最初に『まともな食料は近くにない』と申し上げましたでしょ?.」


「ご、ゴムの風味ですか。マッハゴムから、何らかの影響を受けているんですかね。確かに、そんなのを食べ続けるのは無理がありそうです」


「そうでしょう?ですから、一刻も早くマッハゴムのパチンコで『衛星生物』を撃ち落とす必要があるのですわ」


 だったら、一刻も早くマッハゴムの群生地に向かわなくてはならないのですが……。最初に見た時に思った通り周囲は岩ばかりで、とても植物の群生地があるようには見えません。


「パッと見た感じでは、周囲に群生地があるようには見えないのですが……」


「ここからは見えにくいですが、あちらの方向に崖があって、その下にマッハゴムの群生地があるみたいですわね」


 なるほど、低くなっている場所だから見えなかったんですね。


「え、じゃあどうやって崖を降りるんですか?」


「もちろん、飛び降りるんですわ。大丈夫、かんなさんはわたくしが抱えてさしあげますから」


「ええっ!?本気ですか!!」


 私がそう言い終わる前に、輝夜さんは私の体を抱えて走り出しました。


「ちょ、ちょっと待って下さ……」


 言い終わる前に、すでに輝夜さんは崖から飛び降りていました。本当に近くにあったんですね。


 崖下には確かに何かの木が生い茂っているところがあります。


 そう考えていると、『ドォン』という音がして、輝夜さんが地面に着地しました。


「ええと、怪我とかされてませんか?あんな高い所から飛び降りるなんて」


「もちろん大丈夫ですわ。高い所から降りるのもサバイバル技術の一つですから。着地のときのダメージさえきちんと分散できれば、誰だって多少の高さからは飛び降りられますわ」


 私には、とてもできそうな気がしないんですけど。


 ともかく崖から飛び降りてすぐの場所に『マッハゴム』の群生地がありました。


【  2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 無人惑星サヴァイヴ マッハゴム群生地 】


「ほら、これがマッハゴムの木ですわ。これからマッハゴムをとって槍茸を宇宙に飛ばせば、衛星生物が狩れますわね」


「ええと、それでこの木からどうやってゴムを作るんですか?私、作り方なんて全く知らないんですけど、加工に結構時間がかかるんじゃないですか?


 少なくとも学校で習った覚えはないと思います。もし習っていたとしても、実戦で作れるほど細かいところまで覚えていないでしょう。


「ああ、地球のゴムは確かに工程が多くて加工が大変ですわね。でもマッハゴムは違いますわよ」


「そうなんですか?」


 だとしても、1時間や2時間でできるものではないのではないでしょうか?


 もしもの時はさっき言っていたゴム風味の植物を採集することになるかも知れません。


「この、マッハゴムは樹皮を剥がせば、それがゴムの形になるのですわ。」


 そう言って輝夜さんは樹皮を剥がします。そして、少し引っ張ると「ゴウン」という音がして、元の形に戻りました。


 ホントに、剥いだ樹皮がそのままゴムになっているようです。確かにこれでゴムの準備はOKですね。


「このマッハゴムを、『枝の間』に張るのですわ。ほら、マッハゴムの木は丁度Y字型になっているでしょう?この枝の間にマッハゴムを張って『パチンコ』にするのですわ」


 そう言われて木を見ると、確かにマッハゴムの木は幹から左右に大きく枝が分かれています。


 この大枝と大枝の間にマッハゴムを固定できれば、確かにパチンコになるかも知れません。


 輝夜さんが、持っていた樹皮を木の枝に押し付けると、そのために作られたかのようにしっかりと樹皮が木に張り付きました。


 反対側を私が貼り付けたのですが、ほとんど力を込めなくてもしっかりと張り付きます。


 これなら極超音速の力がかかっても外れないでしょう。


「それじゃあ、行きますわよ!」


 輝夜さんの掛け声に合わせて、私たちは、槍茸をマッハゴムのパチンコにセットし、思いっきり引っ張りました。


 私達が手を放すと、マッハゴムは極超音速で元に戻り、その勢いで槍茸が空へと撃ちだされます。


 衛星生物は、地上から見たら胡麻のような大きさなのですが、僅かに視認できます。


 輝夜さんは、このタイプの狩りに慣れているので目視で照準をつけられるようです。


 『だって、見えないわけじゃありませんから』と得意そうでした。


 それにしても、輝夜さんは本当に頼もしいですね。前世でお兄ちゃんに、こんな風にたくましく引っ張られたことがありました。


 お兄ちゃんは、小さい時から探検なんて言って私を引っ張ってどこまでも走り回っていました。


 でもどんなピンチでも全力を尽くして守ってくれました。思えばあの時、初恋みたいな気持ちを抱いていたのかもしれません。


 そして、魂融合事件では、自分の魂をかけてでも私を守ろうとしてくれたんですよね。


 輝夜さんは、命をかけてでも私を守ろうとしてくれるでしょうか?


 って何を考えているのでしょう。永遠の恋に落ちることだけは、避けないといけないんです。


 私が輝夜さんの『永遠の愛』に取り込まれたら、全次元の終わりなんですから。


 そう思っていると、天から何かが降ってきました。どうやら、槍茸が命中した、衛星生物が重力によって落下してきたみたいですね。


 大気圏突入時に程よい熱が加えられたのか、衛星生物の体は良い具合に焼きあがっています。


 輝夜さんは、衛星生物に刺さっていた槍茸を引き抜いて、器用に解体を始めました。


 これで食料の心配は無くなりましたね。


 生きていくには衣食住が必要です。食料が何とかなったのですから、次に考えないといけないのは住むところでしょうか。


「かんなさん!解体は終わりましたわ。ところで……」


「わたくしは、ここまでかんなさんの心を射止めようと全力を尽くしてきたのですが、まだまだ足りないみたいですわね」


「え、あ、はい。全く気にならないわけじゃないですけど、恋しているかと言われるとしてないと思います」


 何とか永遠の愛に落ちないようにしないといけませんが、今少し惹かれているのは確かです。後、兄に似ているから、惹かれているというのも少し恥ずかしいですし、失礼かも知れません。


「ならば、今度はかんなさんのターンですわ!わたくしに家族の素晴らしさを伝えるパフォーマンスをしてくださいな」


「私のターン、ですか?」


「ええ、この星はわたくし達の『最高のデートスポット』ですから、かんなさんがわたくしを『家族愛』に目覚めさせるための仕掛けも用意されているはずですわ」


 こうしてとにもかくにも、私は輝夜さんを『家族愛』に目覚めさせるためチャンスを得たのでした。

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