輝夜登場!~家族愛と永遠の愛~
【 635年 桜井かんな8歳 島津義弘8歳 アトラクション・『ファミリー』 エリア2 シルクロード】
私はその声に意識を奪われました。
火鼠の皮衣の炎が揺らぎます。これは、助けに行きたいという私の意思を表しているのでしょうか?
エリア1では扉が出てきてすぐに開けたので問題ありませんでしたが、もし出てきた扉を放って、声の主を助けに行ったらどうなるのでしょう?
もし扉が一定時間で消えるようなら、取り返しのつかないことになります。
炎が声の場所を知らせてきます。魔法少女になったことで、困っている人を察知できるようになったということでしょうか?
これは、行くしかないでしょう。扉が消えてしまうリスクはありますが、私達『家族』は困っている人を見捨てたりしません。
ここで信条を変えたりしたら、エリア3を突破することなんてできなくなるでしょう。
炎の揺らぎに集中すると、声の主の場所が感じられます。
私は皮衣の炎を激しく燃やし、その勢いで飛び立ちます。
そして超高速で声の現場へと向かいました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私が現場に着くと、黒地に椿の模様が入った着物を着た女性が、河童としかいいようのない外見の生物と向き合っていました。
そして、着物の女性が叫びました。
「仏陀の時代は終わったわ!今こそ、この魔菩薩華音が、魔界と天界の両方を支配する最初の皇帝、天魔始皇帝となるのよ!」
「くぅっ!兄貴達もやられて、一体どうすりゃいいんだ」
やられているのは、河童の方みたいです。オドオドしていて、とても戦えそうにないですね。
「では!これで終わりよ!『カノン・レクイエム』!!!」
黒の女性がそう叫ぶと辺り一面に、怪しい音が響き渡ります。
私の回りを皮衣の炎が覆い、黒の女性の曲から私を守ります。
河童の人はモロに曲を聞いてしまい、意識が朦朧としているようです。
ですが、私には黒の女性の中にある暗く澱んだ心のほうが気になりました。
あの人を癒さなければいけません!
私は皮衣の炎を、花火のように散らし、魔菩薩華音の前に立ちはだかりました。
「花の魔法少女『桜井あさひ』!悪い子を良い子にするため、やってきたよ!」
そう叫んで私が皮衣を振るうと、カノン・レクイエムの音が元々無かったように消滅しました。
「お姉さん、もう大丈夫。貴方のハートは私が浄化します!!」
私は、家族魔法の炎を全開にして、黒のお姉さんに向けて放ちました。
「『ホーリー・セイントファイア』!!」
火鼠の皮衣から聖炎が燃え盛り、黒のお姉さんを包みました。
そしてお姉さんの中にある澱んだ心がどんどん浄化されていました。
この『火鼠の皮衣』は邪悪な心を持つ人を浄化できるんですね。家族の愛を分けてあげることで、誰かの心が救えるなら、それはとても良いことです。
そう思っていると、黒のお姉さんの服が椿の模様はそのままで、下地が白い着物に変わっていました。
黒髪だった頭髪も、薄いピンクに変わっています。
「お、お姉さん。大丈夫ですか?河童のお兄さんも……」
「あたしは大丈夫だよ~。何か、気持ちがすっきりした感じ!ありがとね、君のお陰で元気になったよ!!」
楽しそうに話すお姉さんに対して、河童のお兄さんは私を見ながらしどろもどろな感じで言いました。
「あ、あわわ……こ、これが本当の魔法少女……」
「本物の?って何ですか?」
私がそう言った瞬間に、思い出したように私の目の前に民家の玄関のような形の扉が現れました。これは……、エリア3に続く扉ですね!
「お二人共、平気そうで良かったです!!それじゃあ、私は行きますね」
そう言って、私が鍵を扉に挿すと、お父さんとお母さん、義弘が私の隣に転移してきました。
そして私達4人は、そのまま扉の中に入っていきました。
【 2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 月 輝夜宮 】
扉から出た私は、様々な調度品が飾られた豪華な部屋にいました。
調度品は、満月や半月、上弦や下弦の月を象ったものなど、全て月をモチーフにしたもののようです。
「あれ……?」
隣を見ると、義弘達 家族がいません。私一人、別の場所に転移させられたのでしょうか?
「ここがエリア3ですか?」
「いいえ、ここはわたくしの住んでいる『輝夜宮』ですわ。貴方に会いたくて、転移先を変えさせていただきましたの」
私の独り言に答えたのは、月を模した紋様の着物姿の女性でした。体がお月様のように淡く光っています。
この人は……。あの『魂融合の記憶』の中で見た人です!
「あ、貴方は……。私達の魂を融合した!か、輝夜……さん!」
どうして『魂融合』事件の黒幕である輝夜さんが、エリア3にいるのでしょう。
いえ、輝夜さんはここが『輝夜宮』だと言いました。それって、本来エリア3に転移するところを輝夜さんのお家に転移させられたということですよね。
だとすれば、私は知らない内に敵のトップに誘拐されてしまったということですか!?
「な、何で私は輝夜さんのお家に連れてこられたんですか!?」
「それはもちろん、かんなさんと愛を育むためですわ」
私と愛を育むため?
全く意味がわかりません。私の前世の家族たちの魂と私の魂を無理やり融合し、世界中の魂を融合しようとしている人と仲良くなるなんて、とても考えられない事です。
「世界中の命を犠牲にするなんて言われて、貴方のことを好きになるわけないです」
私ははっきりと、愛を育むことを拒絶しました。ですが、輝夜さんはニコニコと笑い、少し興奮した様子で、まだ私に話しかけてきました。
「ですから!デートをするのですわ!お互いの距離を縮めるために!!」
そう言われてさらに混乱します。仲良くなりたくないと言ったのに、どうしてデートの話が出てきたのでしょう。
できることなら、世界中の命を犠牲にするような人とこれ以上一緒にいたくはありません。
私がデートを断ろうとすると、輝夜さんは私の肩を掴んで言いました。
「デートをして、貴方が私に永遠の愛を誓っていただければ、私が貴方の魂を吸収し、ストルゲの力を使えるようになりますわ」
私の魂を吸収して、ストルゲの力を使う?
あ、そう言えば魂の声を聞いたとき、たかしお兄ちゃんが言っていたはずです。
『他のソウルと協力しろ』と。
私のストルゲを吸収したがっているということは、輝夜さんも何かの『上位恋愛傾向』に目覚めているのでしょう。
お兄ちゃんの言葉ですから、できれば輝夜さんと協力したいですが、お兄ちゃん達は『輝夜が今やろうとしている方法を使わせるな』とも言っていました。
協力するなら『世界中の命を犠牲にする』以外の方法を使わなければいけません。
もちろん、私の魂だって吸収させません。
そう思っていると、輝夜さんが意外なことを言い始めました。
「逆にわたくしが、貴方を家族と認めれば、貴方は家族魔法でわたくしが持つ『プラグマ』の力を使えるようになるでしょう」
「貴方が家族と認めてくれれば、プラグマの力が使えるんですか?その場合、誰も犠牲にならずに済むんですよね?」
「そうですわね。けれどその方法では、私の夢『そらの転生』は叶いませんの。ですから、貴方の魂を吸収し、私がストルゲを使えるようになる必要があるのですわ」
どうやら、私がプラグマを使えるようになっても、『そら』さんを転生させることはできないようです。
あるいは、やろうとしていることに何か倫理的な問題があって、私が協力しないと思っているのかも知れません。
できれば、全次元の魂を犠牲にせず、かつ輝夜さんとそらさんが幸せに暮らせる方法を編み出したいですね。
そのためには、輝夜さんだけでなく『他の6つソウルとも協力』しなければならないのでしょう。でも、きっと何かの方法があると思います。
「分かりました。私は兄たちの思いを受け継いでいます。貴方の野望を止めなければなりません」
「けれど、貴方の想いはとても純粋に感じられます。突き詰めれば、ただ友達と一緒にいたいだけみたいですし」
「だから、敢えて貴方の罠に乗りましょう。だって、全次元を救い、かつ貴方の夢を叶えるには、ここで貴方の協力を得るしかありませんから!」
私の言葉を聞いて、輝夜さんは驚いた顔になりました。
私がリスクを負ってでも輝夜さんの夢を叶えようとするのが意外だったのでしょうか?
「ふふ、ははは。そうですね、そんな方法があったら良いけれど、きっとそれは吸収するよりずっと大変なことですわ」
「それでも犠牲になる命を減らせるなら、その道を行くしかありません」
「なるほど、よろしいですわ。でしたら招待いたします。わたくし、輝夜が提供する最高のデートスポットへ!!」
【 2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 月 輝夜宮 アミューズメント・ムーンキャッスル】
輝夜さんがそう言うと、再び周囲の景色が変わりどこかに転移しました。
転移して来たのは、狭いまっくらな部屋で、壁にパソコンの基盤のような模様が描かれています。
「この模様は魔法的な効果と、機械的な効果を同時に発揮するための起動陣ですわ。これに二人のエネルギーを注げば、わたくし達にとって『最高のデートスポット』に転移させてくれます」
「つまり、この部屋の模様はその『最高のデートスポット』を導き出すための仕掛けなんですね」
永遠愛のエネルギーを持ってすれば、転移だけなら、そんなに難しい技術ではないはずです。
輝夜さんに対して『永遠の愛』に目覚めさせられるほどの、『最高のデートスポット』を見つけることにスペックが割かれているのでしょう。
「ではわたくしは『永遠の愛』のエネルギーを注ぎますわ。かんなさんは『家族愛』のエネルギーを注いでください」
「は、はいっ」
私は返事をすると、お父さんお母さん、義弘との思い出を頭に浮かべながら、火鼠の皮衣から溢れる炎を周囲の模様へと注いでいきます。
すると模様が淡い光を放ち、私と輝夜さんは再びどこかへと転移しました。
【 2050年 桜井かんな8歳 輝夜56億歳以上 某宇宙 某銀河 無人惑星サヴァイヴ 】
私達が転移したのは、木一つなく、ごつごつした岩だけが周囲に広がる荒野でした。
周囲に川などがありそうな雰囲気もないですね。ここはどこなのでしょう?
「輝夜さん、随分寂しい場所に出ましたけど、ここが『最高のデートスポット』なんですか?」
「ええ、わたくし達の愛を育むのに最適な『最高のデートスポット』であることは間違いありませんわ。ただ……ここがどこかは全くわかりませんわね」
なんと、飛ばされてきたここがどこなのかは、輝夜さんにもわからないそうです。
あまりに無責任ではないでしょうか?
あの『起動陣』はその場で『最高のデートスポット』を探していたみたいですから、実際にエネルギーを込めるまで、どこに飛ばされるかはわからないということなのでしょうけど……。
「で、でも、ここには何もないんですよ!水もご飯も近くには見当たりませんし……。急いで生活基盤を整えないと死んじゃいます」
「そうですわね。おまけに、プラグマの能力も使えないみたいですわ。二人で苦労して生活することで、仲を深めろということかしら」
苦労を共にして仲良くなるために、能力の通じないところに飛ばされたということですか!?
そう考えて自分を覆っている皮衣を見てみると、火が全く消えてしまいただの皮衣になってしまっています。
ここでは家族魔法も通じないと言うことなのでしょう。
「私もストルゲの能力が使えないみたいです。大変です、どうしましょう?は、早く水だけでも探さないと!!」
前世で小学生になったばかりで死に、今世でもまだ小学生の私はサバイバルの経験なんてありません。
どこに行けば川があるか?どんな植物は食べても大丈夫か?そして、どうやって動物を狩るのか?
そんなこと小学生にわかるわけありません!
おろおろする私に対し、輝夜さんは大きな胸を叩いていいました。
「心配しないでください!かんなさん!!今こそ、あらゆる宇宙を股にかけた、わたくしのサバイバル技術を見せてあげますわ!!」
なんだか頼もしい輝夜さんの言葉と共に、私達の奇妙なサバイバル生活が始まりました。