家族信条の昇華!~ストルゲ目覚める~
【 635年 桜井かんな8歳 島津義弘8歳 アトラクション・『ファミリー』 エリア2 バーチャル空間 狩りの森】
お姉ちゃんの言葉に耐えられず俯いてしまった私に対して、お姉ちゃんは優しい声で説得してきました。
「ねえ、かんな。お腹がすいたらとっても悲しいでしょ?火鼠族は今は平和だけど、ちょっと気候がズレただけで、すぐに食料が足りなくなるの」
「そうしたら、お年寄りや子供からどんどん亡くなっていくわ。昨日元気だった人がどんどんやつれてきて、最後には死んでしまう」
「私は、そんな悲しいことを断ち切れるんだったら、命をかけても惜しくないと思うわ」
「だって、歳をとってお婆さんになったら結局死ぬんですもの。どうせだったら、火鼠族みんなのために、なりたいじゃない?」
お姉ちゃんは諭すように、丁寧に私に自分の覚悟を説明してくれました。
でも、私は受け入れることができません。
そりゃあ、皆がお腹がすかなくなるのは素晴らしいことです。
空腹で死ぬ人が、いなくなったら幸せです。
でもだからって、お姉ちゃんが犠牲にならなくてもいいじゃないですか!
私が泣きそうになっていると、今度はお母さんが話してきました。
「ねえ、かんな。お母さんには双子の妹がいたの。その子は私にそっくりで何をするにも一緒だった」
「ある日、私が川に流されそうになったとき、ロクに泳げないのに、川に飛び込んで二人で溺れそうになったところを、お爺ちゃんが助けてくれたの」
「その時、妹に巫女の証が目覚めた」
「私は必死に止めたけど、妹は生贄になるって聞かなかった。これまで行動も考え方も一緒だと思っていた妹と初めて考えが食い違ったのよ」
「それから、お母さんと妹は徹底的に話し合ったわ。思い出作りよりも何よりも、私が妹の意志を理解することが、二人にとって最大に重要だったからね」
「そして話し合えば話し合うほど、その強い思いを私は理解せざるを得なかった。だって双子ですもの。私だって同じ立場ならそうするって、わかっちゃったのよ。」
「妹が生贄になったとき、火鼠族は初めて『家族魔法』に目覚めたの」
「それまでの火鼠族は貧弱で、魔物が襲ってくるたびに、多くの犠牲を出していたんだけど、魔物を倒し、食糧にできるようになったことで、火鼠族は大いに繁栄したわ!」
「これまで死んでいた人が死ななくてすみ、おまけに食料が手に入ってさらに亡くなる人は減った。そうして火鼠族が繁栄していく度に私は妹を誇りに思ったわ」
お母さんの話は衝撃的でした。
家族が殺されたら悲しい。それは分かります。けど、家族が魔物を倒す力を得るために、自分が犠牲になるなんて、それは私の理解を超えています。
でも一方で、それがとても尊い意志だということ、共に守り合うという、私たちの家族信条に通じるものがあるのも理解できます。
私たちは皆が生きることで、家族を守る。火鼠族は誰かが犠牲になることで、家族を守る。
「分かりました。嫌だけど、お姉ちゃんの覚悟は伝わりました」
「お姉ちゃんが、火鼠族の皆をなんとか幸せにしようと思って、身を捧げるというのなら、私は止めることができません」
そうして、お姉ちゃんは身を清められ、生贄の祭壇へと連れていかれます。
このことは火鼠族全体に伝えられ、皆が祭壇に集まりました。
祭壇の周りには数千の火鼠族が集まっています。魔物に勝てなかった頃には数百人にも満たなかったそうですから、叔母さんの犠牲は確かに火鼠族に幸福をもたらしたようです。
そう考えていると、お姉ちゃんの隣にいた二人の神官が何やら言葉を唱え始めました。
「我らは家族エネルギーを高める、我らは家族エネルギーを超える。神に全てを捧げ、家族に全てを捧げます」
その言葉に応じて、祭壇から上空の『火鼠の皮衣』に向かって階段が現れました。
これは……元の世界にも同じ仕組みがあるんだとすれば、『火鼠の皮衣』に近づくことができますね。
お姉ちゃんは、その階段を登っていきます。
『火鼠の皮衣』の熱で、階段を登るごとにお姉ちゃんの体には汗が溢れ出してきます。
そして最上段に登り、火鼠の皮衣に触れると、お姉ちゃんの体から強烈な光が発せられて、そのまま消滅してしまいました。
火鼠の皮衣に取り込まれたということでしょうか?
それと同時に祭壇に数トンはあろうかと言う、稲や麦が現れました。同時に牛や豚などの家畜も無数に現れます。
これがお姉ちゃんの犠牲で、火鼠族が得た能力なのですね。
私は思います。お姉ちゃんのこと、叔母さんのこと、現実世界の家族のこと、前世のお兄ちゃんのこと……。
これが火鼠族の力、家族信条……犠牲を得る度に新たに進化する力……。
それでも私は、家族が死ぬのは受け入れられません。それが私たちの家族信条ですからね。
でも、『犠牲によって進化する』という信条も理解しました。そして、火鼠族の家族と過ごしたことで、『異なる信条の人でも家族として受け入れられるように』なりました。
私が心の成長を噛み締めていると、周りの景色が変わり始めました。これは、元の世界に戻るみたいですね。
試練を超え、火鼠族の家族信条を受け入れたと認められたみたいです。
これで、私の記憶に隠された謎、そして火鼠族の歴史に隠された謎も明らかになるはずです。
そう考えるのと同時に、私の頭の中に膨大な量の情報が流れ込んできました。
これが、私の先祖の記憶と、火鼠族の先祖の記憶でしょうか。
私は頭がクラクラしてきて、意識が飛びそうになります。
「え、そ、そんな。そんなこと、あり得ません」
そう呟いたのを最後に、私は意識を失いました。
【 635年 桜井かんな8歳 島津義弘8歳 アトラクション・『ファミリー』 エリア2 地球コア 火鼠の家 】
次に目が覚めたとき、私はベッドに寝かされていました。見覚えのない天井ですね。
「ようやく起きたか。よう『信条共鳴』を乗り越えたな。思った以上や」
ハレーさんがそう言いました。どうやら、『信条共鳴』は終わったみたいです。ということは、火鼠族側の代表者も『共に守りあう』という信条を理解してくれたということでしょうか?
「あ、あああっ!!!」
私は叫び声を上げて起き上がりました。
そうです、さっき流れ込んできた記憶が……。でも、そんなはずありません。
義弘の話では、前世のお兄ちゃん『望月たかし』は織田信孝に生まれ変わったのだという話です。
「それで、お前さん自身も気づいてない『秘密』とやらはわかったんか?」
「え、ええ。わかりました……けど」
このエリア2を突破するには、私の『私自身も知らない秘密』を暴き出し、ハレーさんと共有することで、ハレーさんを『家族』だと認めなければいけません。
だから、私は今 流れ込んできた記憶についてハレーさんに話さないといけないんですけど……。
「あんたはエリア2を突破したいんやろ。そして俺はこの『コア』の秘密について知りてえ。なら、情報を共有するしかないんや。その内容が、俺やあんたにとって辛いもんだとしてもな」
「そう……ですよね。わかりました」
流れ込んできた記憶は私にとって受け入れがたいものでした。しかし、だからといって受け入れることを拒否したら、ここまでやってきた意味がありません。
このエリア2を突破することで状況が進展するのは確かなんですから。
【流れ込んできた記憶】
山形組が捕まった後、高木茂・望月たかしは薬で眠らされ、あの『開かずの間』に連れ込まれた。
そこには『しずく』と『望月麗美』の遺体も運び込まれていた。
そこに『輝夜』と名乗る、月を模した紋様の着物姿の女性が現れた。
輝夜の回りには、火鼠の皮衣らしきものや、他に鉢や枝、貝のようなものが回っていた。
輝夜が、貝を四人の体にかざすと私達四人の体から透明な何かが出てきた。それは火鼠の皮衣に吸い込まれた。
そして今度は『鉢』のようなものをかざすと、火鼠の皮衣から一体の透明な何かが出てきて、どこか遠くへ飛んで行った。
輝夜は『アルティメット・ソウル』の準備が出来た。と言った。
5つの難題を融合し、一つの最終難題にまとめあげるための器、それが『アルティメット・ソウル』だ。
アルティメット・ソウルができれば、夢世界を作り出し、守護者・そらを転生させることができると……。
『高木茂』『望月たかし』『《あまみや》しずく』『望月麗美』の魂は融合した魂は、望月麗美の記憶を持った状態で『桜井かんな』に生まれ変わった。
【流れ込んできた記憶 終わり】
私はハレーさんに、そのことを伝えました。私の中でも混乱し、事実を受け止めきれていません。
ですが、ハレーさんと『隠された秘密』を共有することは、この『信条共鳴』の目的の一つでした。これを伝えなければ、火鼠族の過去を見てきた意味が無くなります。
『秘密』を伝えた私に対してハレーさんは言いました。
「そうか!輝夜ってのは、融合が最高の『家族の形』だと判断したんやな!!魂を融合させれば、完全に一つになれるからの」
「魂の融合が家族の形……ですか?」
「そうだ、身も心も魂も一つになれば、思考も行動も完全に一致するやろ。それならば、最高の家族愛を引き出せ、上位恋愛傾向『ストルゲ』が生まれると考えたんや」
私の常識では、家族愛とは家族同士思い合い、助け合って生まれるものだと思います。
それは『共に守る』でも『誰かが犠牲になる』でも変わらないでしょう。
魂を融合させるなんて、歪んだ愛の形ではないでしょうか?
「納得いかんようやな。けど、魂はそう簡単には融合せんのや。それが融合したと言うことは、高いレベルの真実の家族愛が元々あったということ、そして他の魂が融合を受け入れたということや」
「望月たかし……お兄ちゃん達が、魂の融合を受け入れた?それは本当ですか?」
「隠された『秘密』に気づいた今なら、融合された魂達の『声』が聴けるはずや。後は自分で確認すればええ」
そう言われて、私は目をつぶり自分の心を見つめます。
兄だった望月たかし、兄のように愛してくれた近所のお兄さん高木茂。同じく姉のように接してくれた『天宮しずく』。
3人との思い出に、思いを馳せていると、確かに声が聞こえてきました。
『よく俺達の魂を呼び出してくれた』
『この状態は長く続けることができないんだ。だから、俺達の意思を完結に伝えるよ』
『『『輝夜の野望を砕いてくれ』』』
『やつの願いを叶えるかどうかは、君に任せる。だか、今やろうとして方法を使わせてはダメだ』
『輝夜は全生物の魂の融合、それによってそらに代わる人工の守護者を作り出そうとしているんだ』
『そんなことしたら、全次元は守護者以外に誰も存在しない無の空間になっちゃうわ』
『輝夜によって、無理やり魂を融合させられたとき、俺たちと君はやつの企みを聞いた』
『それでなんとかして、彼女の野望を防ごうと考えて』
『転生する貴女のパワーを極限まで高めるため、私たちは自ら融合を受け入れたのよ』
『あえて、君をやつの求めていたストルゲ・ソウルにしたんだ』
『僕達の妹なら他の七つのソウルと協力し、輝夜の野望を止められると信じてね』
『俺たちは、家族に世界の運命を託した』
その言葉を聞いて私は、兄たちの意思が私の家族信条『共に守り合う』、火鼠族の信条『家族のために犠牲になる』を含んでいることに気づきました。
そして、家族を信じて『託す』という新たな信条を含んでいることに気付きました。
そう、兄達がそう覚悟したのなら、家族を守るため犠牲になり私に希望を託したのなら!
私は自分と家族を、そして全次元を救わなくてはなりません!!
そう思った瞬間、私の中で何かが弾けました。
そして口から言葉が溢れてきます。
「火鼠の皮衣よ、我に従え!我こそはストルゲなり!」
私がそういうと、天で地下世界を照らしていた火鼠の皮衣が落下してきて、私の体を包みました。
そして、炎の赤を基調としたまま、変身ヒロインのようなフリフリの衣装に変化しました。
そう、魔法少女……。
「灼熱の家族魔法少女 桜井かんな 私の炎はすべてを浄化します!」
―――――システムメッセージ―――――
桜井かんなが上位恋愛傾向『ストルゲ』に目覚めました。
「やったな!お前は俺と火鼠族を家族だと感じた。異なる家族信条を受け入れたことで、ストルゲに目覚めたんや」
こ、この力が家族魔法の究極、上位恋愛傾向ストルゲですか!
義弘達とも、火鼠族とも魂が繋がっているように感じます。
物理的に融合しなくても、ストルゲなら家族と力を共有しあえると言うことでしょうか。
家族と繋がった心地よい気持ちを感じていると、皮衣の炎が燃え上がりました。それと同時に周囲の空間が歪みます。
気づけば周囲には、見渡す限り砂が広がっています。
あれ……ここは、元の砂漠ですか?
良く見ると、周囲にはお父さんとお母さん、そして義弘もいます。一緒に転移されてきたみたいですね。
「あら?『信条共鳴』の儀式は終わったの?」
「その服は!燃えているけど、大丈夫なのか?」
「姉上、成功したようだな。これでエリア2も突破か?」
「え、ええ。大丈夫です!私、家族愛の究極『ストルゲ』に目覚めたんですよ!!」
嬉しそうにそう伝え、三人と抱き合って喜びました。
そのとき、太陽が目を開けていられないほど眩しく輝き、それに呼応して火鼠の皮衣が激しく燃え上がりました。
その炎の中から、炎の意匠が入った鍵が出てきました。
これが!エリア3に続く扉を開ける鍵ですね!
私はそう考えて、扉が現れるのを待ちました。
ですが、扉が現れる前に……。
「おわーーーーーーーーーっ」
遠くから、奇妙な叫び声が辺りに響き渡りました。