家族エネルギーを高めるために~家族の信条を共鳴させろ~
【 635年 桜井かんな8歳 島津義弘8歳 アトラクション・『ファミリー』 エリア2 シルクロード】
私達は手を繋ぎ、これまで共有して来た秘密の事を考えます。
お父さんの『自分で祭壇を作って祈っていた』秘密、お母さんの『同性愛と、相手がお父さんの妹だった』秘密、義弘の『転生とハレーさんのクローン・ソウルの一つだった』秘密。
そして私の『転生と死の記憶によるトラウマ』の秘密……。
私の体の奥から暖かいエネルギーが溢れてきます。これは水を出した時と同じ家族魔法のエネルギーですね。
周りでは火柱がゴウゴウと燃え盛っていますが、まるで熱さを感じません。この状態な確かにコアまででも行けそうです。
家族エネルギーが私達の足元に広がり、家のような模様の魔法陣を描きました。
そして、私達を光が包むと、私達はどこかへ転移しました。
【 635年 桜井かんな8歳 島津義弘8歳 アトラクション・『ファミリー』 エリア2 地球コア】
私達が転移して来たのは、広い部屋のような場所でした。地球のコアは固体だと聞いたことがあるのですが、その中にこんな空間があるなんて、聞いたことがありません。
「貴様達!地上人がこの聖域に何の用だ!」
「えっ!?」
私は驚いて、声のした方を見ました。地球のコアに人が住んでいるとは思えないのですが、一体、誰が話しかけてきたのでしょう。
声のした方を見ると、体が炎で燃えている、二足歩行のネズミの顔をした生き物が百人ほどいました。
全身にグレーの毛が生えていて、耳はネズミのように大きいのですが、体つきは人間に似ている気がします。
私達がどうしていいかわからないでいると、ハレーさんが彼らに話しかけました。
「お前達は何者だ?どうやって、コアにこんな施設を作った?」
ハレーさんの質問に対して、ネズミの一人が歩み出てきて答えました。
「我らは火鼠族!家族神の神託により、6600万年この地を守り続けている神の民だ!貴様らこそ何者だ!」
「6600万年……?」
私達のハレーさんの声が重なりました。
6600万年前、ハレーさんか宇宙へ打ち上げられたのと同時に、この方達がこの地球のコアに住み始めた、ということでしょうか。
でしたら、この人達のおかげで氷河期が終わったのかも知れません。
最も最近の氷河期が終わったのが1万年前なら、それまでの間はこの方達がいても氷河期と間氷期を繰り返していたことになります。
はっきりとしたことはわかりませんね。
私は一旦気を落ち着け、そもそもここに来た目的である『隠された私の秘密』について、ハレーさんに問いかけました。
「あ、あの。私も知らない『私の秘密』というのは、結局何なんでしょう?ハレーさんはここに来ればわかるとおっしゃってましたよね?」
「ああ、そうやったな。そのためにはどうも……。こいつらの事情を詳しく聞き、『家族の信条』を理解せんといかんようや」
「家族信条ですか?」
「ああ、家族全員が『最も大切にしていること』、『これだけは譲れない』という考え方やな」
「それを理解できれば、『かんなの秘密』が何なのか、そして『こいつらの歴史の秘密』もわかるはずや。家族信条は先祖から受け継がれてきた一族の秘密、それは『先祖の記憶をつたえるもの』でもある。その中には氷河期のことも、かんなのこともあるはずやからな」
私達がポンポンと話を進めていくのに対して、今度はネズミの方々の方が困惑しました。
そこでネズミさん達の一人、特に身体が大きくが筋肉質な方が、私達の方に歩み出てきて話し始めました。
「地上人よ。ワシは火鼠族の族長『ファイアス』だ。お主達の話は複雑で、完全には理解できぬ」
「だが、要するにそなた達も、我らと同じく、家族の絆を高めることで辿り着きたい境地があるのということであろう。ならば、『信条共鳴』の儀式を行うべきだ」
「信条共鳴の儀式ですか?」
名前からすると、お互いの家族信条を理解するための儀式でしょうか?
そんな便利がものがあるなら、一刻も早くするべきでしょう。
【信条共鳴の儀式】
1.家族からそれぞれ代表を選ぶ
2.代表には『お題』が与えられる
3.代表2人はお題に基づき、家族の信条に沿って、考え行動する
4.それぞれの家族が、その行動にどれくらい心打たれたか評価する
5.お互いの評価が一定以上なら、『信条共鳴』が起きる
6.信条共鳴が起きればお互いの家族エネルギーが格段にパワーアップし、信条の共有によって先祖が受け継いできた記憶も共有できる
なるほど、家族が代表を出して『お題』と『家族信条』に沿った行動をする……。
「でも、そもそも我が家の家族信条って何なんですか?」
私はお父さんの方を向いて、聞きました。
「僕たちが家族に対して共通に感じている『想い』のようなものだろうね。だとすれば、僕は心当たりがあるよ」
私達が家族に対して感じている『想い』……!
それなら、さっき想いを共有したことで確かにわかります。
私達が家族に感じている想いは……!
「「「「共に守りあうこと!」」」」
昔、酷い目にあって異常行動に出たというお父さんを守りたいと思いました。昔の恋人がお父さんの妹だったと打ち明けたお母さんに、自由でいて欲しいと思いました。必死に戦っている義弘と共に戦いたいと思いました。
だから、私達家族の家族信条は『共に守りあうこと』です!どんなお題がでるかはわかりませんが、この信条に沿って行動すべきでしょう。
「それじゃあ、代表を決めるんですよね?こっちは誰が代表になるんですか?」
どんな勝負になるかわからないのですから、やはり体力や知識に優れたお父さんが代表でしょうか?
「ここは、かんなが出るべきだろうね」
「ええ、お母さんもそう思うわ。ここでは『家族信条』をどれだけ理解してるかが重要みたいだもの」
「姉上こそ、この一家の中心だ。我も姉上を推薦するぞ」
ええっ!?私が代表ですか?あんまり自信がないのですが……。
でも、皆を守りたいという想いは確かに誰にも負けない気がします。それに私が一番、家族信条を理解していると皆が言ってくれているのですから!
「わかりました。こちらの代表は私が出ます!」
私がそう言うと、ネズミさん達も話し合って代表を決めたようです。
「こちらも代表が決まった。彼こそは、神の使徒。我々の信条をもっとも理解している者だ」
選ばれたのは、他のネズミさん達より背が低く幼く見えるネズミさんでした。恐らく子供なのでしょう。
「では始めましょう。まずはどうしたらいいんですか?」
儀式というくらいだから手順があるのだろうと思って、私は代表となったネズミの少年に聞きました。
「まずは、信条共鳴に参加する家族全員で、家族神『ファミリア』に祈りを捧げます。神への祝詞は我々で唱えますので貴方がたは、ただひたすら家族の事を思ってください」
そう言われて私達は家族のために祈りました。
「家族神ファミリアよ。今ここに家族の親愛を深め、ストルゲを望む二つの家族が現れました。どうか、我らの魂を昇華する試練をお与えください」
ネズミの少年がそう唱えると、私達の足元に地上から転移して来た時と同じ家の模様の魔法陣が浮かび上がりました。これも家族魔法の一種ということでしょうか?
『お家探訪で絆の証を見つけなさい』
【お家探訪】
1.信条共鳴において代表に選ばれた者が、共鳴しようとする相手の家を訪れる
2.そこには相手の家族はいないが、相手の家族の『家族信条』を象徴する何かがある
3.相手の家には自分達の信条を揺らがせるトラップがある
「えーと、つまり私がネズミさん達のお家に行って、『家族信条の象徴』を見つければいいんですか?でも、お家ってここなのでは?」
私は『象徴』があるかと思って周りを見渡しました。
「ええ、私達の家はここです。ですからここを探索してもらって構いません。ただし、挑戦する間、代表者以外は家族神ファミリアによって『待合室』に転移させられます。もちろん我々もです」
ネズミの少年がそう言うと、また足元に魔法陣が出てきて、私の家族とネズミさんの家族が消えました。
ルールからすると、少年以外は『待合室』に、少年は私達のお家に飛ばされたのでしょう。
さて、この部屋の中に私達の『家族信条』を揺らがせる何かと、ネズミさん達の『家族信条』を象徴する何かがあるんですよね。
私はそう考えて周りを見渡しました。ネズミさんのお家は体育館のような構造で、すごくだだっぴろい部屋が一つだけあって、他には部屋がないみたいです。
そして、この部屋は視界を遮るような障害物が全くなく、部屋の隅までまるで何もありません。
これでどうやって『象徴』を探せば良いのでしょう?
私はともかく探してみないと始まらないと考えて、一歩目を踏み出そうとしました。すると……。
突然『ザシュッ』という謎の音がしたかと思うと、私の目の前にRPGのステータス画面のようなものが現れました。
『お父さん:HP375 お母さん:HP315 義弘:HP175』
『貴方が歩く度に、家族にダメージが入ります。何もしないでいると、5分ごとに貴方にダメージがはいります』
『全員死亡するまでに『象徴』を見つけられなければゲームオーバーです』
何ということでしょうか。私が動けば、家族にダメージが入る!?
だったら不用意には動けません。お父さん達のHPは高いですが、私はたった一人でも家族が欠けることは受け入れられませんから、義弘のHPが無くなるまでには決着をつけなればいけません。
それに代表である私が倒れればアウトです。その場合、皆は死なずに済むのかも知れませんが、目的が達成できなければ結局全次元が滅ぶ恐れがあります。
つまり、これは死のリスクを家族で分け合うことで、『共に守りあう』信条を試すためのトラップという訳ですね。
私も、誰も死なずに突破するためには、慎重になり過ぎず、かつ無駄な動きを減らしながら調べないといけません。
そう考えて、私は再び周囲を見渡しました。怪しいものはありません。本当にこの部屋の中にネズミさん達の『家族信条の象徴』があるんでしょうか?
ルールをメタ読みすれば、ある程度動かないとヒントが見えてこないのかも知れませんね。でも、どっちに動けばいいんでしょう?
そもそも、ネズミさん達の『家族信条』って何なのでしょうか?あまり会話を交わせなかったので、まるで予想がつきませんね。
確か、ネズミさん達は家族神を信仰する『神の民』だと言っていました。
自分達を神の民だと思っているなら、家族信条もそれに関係したものかも知れません。
そう考えて改めて周囲を見ると、違和感を感じました。『何もなさすぎる』んです。
ここには神様を奉る、像も経典もありません。もちろん口伝だけで伝えている可能性もありますが……それにしたって家具も調理器具もありません。
ここは確かに火鼠族の家なのかも知れませんが、エントランスか集会場みたいな場所で、お祈りの間や、寝室・リビングなんかは別の場所にあるのではないでしょうか?
だとしたら、ここは地球のコアでここより下はないわけですから……。
私はそう思って顔を上に向けました。
天井は思いの外高く、遥か上空にうっすらと膜のようなものが見えます。
そして上空には、全体が炎によって燃え盛り、太陽の如く燦々と部屋全体を照らしている『何か』が浮かんでいました。