家族魔法を進化させる~ハレーすい星を家族に~
【 635年 桜井かんな8歳 島津義弘8歳 アトラクション・『ファミリー』 エリア2 唐 シルクロード】
私はその生物を見て、一言呟きました。
「な、なんでしょう?あれは……」
私達はおそるおそる、その生物に近づいて行きました。
「ね、ねえ。危ないんじゃないの?」
お母さんは心配そうな顔をしながらも、お父さんの後ろをついてきます。
確かにわけのわからないものに近づくのは危険なのですが、あの生物が『アトラクション・ファミリー』を突破するヒントを持っているなら、近づかない訳にもいきません。
その生物は見た目は隕石ですが、ちゃんと目のようなものがあり、こちらを見つめてきました。
私は、意を決してその生物に話しかけてみることにしました。
「あ、あの……」
「オイラはコア生命体『ハレー』だ。元々は地球のコアに住んでいたんだが、6600万年前、何かの異変が起きて、宇宙にはじき出されたんだ」
隕石生物の話はとても信じられないものでした。地球のコアに生き物が住んでいた?
そんなことは、私が習ってきた科学ではあり得ないことです。
「地球はコアにオイラがいたから一定の気温を保っていたんだが、おいらがはじき出されたもんだから、地表が極端に冷えて、氷河期になっちまった」
「ええ!?貴方がいなくなったせいで、氷河期が起きたんですか!?」
私の知っている情報だと、6600万年前、地球に隕石が落ちたあたりから氷河期が始まったと聞いています。
それが、隕石のせいでなく、逆に地球のコアを温めていた生物が宇宙にはじき出されたからだったなんて!!
「ええっと、それで宇宙に打ち出されてからは、どうしていたのですか?」
私はアトラクションを『突破』するヒントを聞き出すべく、さらに質問を続けます。
「地球の軌道上から抜け出せず、6600万年間地球の周りを公転していた。地上の者には『ハレー彗星』と呼ばれていたらしいな」
ハレー彗星……について聞いたことはあります。でも前世の私が生まれたのは2008年でしたし、今世は2016年生まれですから、直接見たことはありませんね。
「そのハレー彗星さんが、どうやって……いえ、何のために地球に戻って来たんですか?」
「戻って来たのは、ここがオイラの故郷だからだが……もう一つ理由はある。オイラがいねえのに氷河期が終わってるのが気になるんだ。コアにオイラ以外の何かがねえと、氷河期が終わるはずねえからな」
なるほど。荒唐無稽な話ではありますが、何となくやらなくちゃいけないことが見えてきましたね。
この『ハレー』さんの目的を叶えることが、アトラクションを『突破』する条件だと考えれば、要するに地球のコアに連れて行ってあげればいいわけです。
多分、『家族魔法』でそれが可能になるはず……ですけど。
さすがに、どうすればそんなことができるのか、想像もつきませんね。
「コアに何があるにしても、かなり危険だと思うよ?」
お父さんが心配そうな顔で言いますが、私達に選択肢はありません。
義弘の話では、私のお兄さん……望月たかしが転生したという、織田信孝が皇・大和の自爆に巻き込まれると、全次元が滅びるっていうんですから!
それはどうしても防がないといけません。私達にできることは、やるしかないんです。
「分かりました。コアにいる『何か』の調査。そのサポートを私達が引き受けます!」
「本気か?いや、本気だとしてもどうやってコアにいくつもりだ?今の人間の技術じゃ無理だろう?」
確かに2024年の技術でもコアまで地面を掘るのは不可能だと思います。というか例えできたとしても、地球が爆発したりするかも知れないんだからできないですよね。
「私達には『家族魔法』があります。今はまだ水を出すくらいしかできませんけど、家族の絆を深めるきっかけさえあれば、コアに向かうことだってできるはずなんです!」
なのですが、問題はどうやって今以上に絆を深めるか、ですよね。そのきっかけにもハレーさんが関わっているのでしょうか?
「『家族魔法』か。そいつは今はやりの『上位恋愛傾向』ってやつだな。だが、力を目覚めさせる当てはあるのかい?」
「上位恋愛傾向?」
聞きなれない言葉が飛び出して、私は疑問を浮かべました。恋愛なんて私はしたことがありませんけど、恋愛の力がないと家族魔法を強化できないのでしょうか?
「知らねえのかよ。この世界には八つの『愛の形』があって、それを極めたのが上位恋愛傾向だ。その力に目覚めれば、この世において大抵のことはできるらしいぜ」
愛情は尊いものだとは思いますが、まさか極めると地球のコアに行けるほどのエネルギーになるとは思いませんでした。
いいえ、『大抵のことができる』というなら、それ以上のことも可能なのでしょうか?
「どうやったら目覚められるかは……そうだな。あれをやってみるか」
「6600万年、ぼっちを極めたオイラだからこそできる、裏技・『ぼっち・ざ・ぼっち』。これを使えば、家族愛を昇華させることができるはずだ」
【ぼっち・ざ・ぼっち】
6600万年、孤独だったハレーをぼっちで無くすことができたものに、望む報酬が与えられる能力。
「つまり、あんた達『家族』がオイラを家族として受け入れることができれば、家族愛は深まり、あんた達の願い『上位恋愛傾向』も手に入るってわけだ」
「貴方を家族として受け入れるんですか!?」
私はそう言って義弘やお父さんお母さんの顔を見回しました。
何と言ってもハレーさんとは血のつながりもありませんし、人間ですらありません。絆はこれから作っていくとしても家族として受け入れることができるでしょうか。
「なるほどね。気持ちの問題となると、中々大変そうだ」
「ただ仲良くするだけじゃ、ダメなのよね?家族として認めるにはどうしたらいいかしら」
「『突破』のためなら、何でも為そう」
どうやら、皆はハリーさんを受け入れることに積極的なようです。私も受け入れること自体は問題ないですけど……。
仲良くして、一緒に住むだけじゃダメなんですよね。何か絆を深める壁を越えないと。
「じゃあ、しばらくこの砂漠でハレーさんと暮らせばいいんですか?」
「それはもちろんだが、もう一つ大きな問題がある。オイラ自身があんた達に受け入れてもらえたと感じるためには……」
「俺の『熱』に耐えられるようにならなきゃならねえ」
「熱……ですか?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
つまり、これからハレーさんがすこしずつこの砂漠の気温を上げていく。私達は家族愛の力でその熱を抑え、自分達や周囲を守らないといけない。
もし抑えきれなかった場合、熱によって砂漠全体が溶ける。周囲の国家にも影響が及ぶかも知れない。
「ということですね」
「そうだ。そしてあんた等も急いでるようだから、さっそくはじめさせてもらうぜ」
ハレーさんがそう言うと、周囲の気温が一気に上がりました。
ここは砂漠で、元々日本の真夏よりはるかに暑いのですが、そんなのは比べ物にならないほど気温が上がり、体から汗が吹き出します。
そして次の瞬間、私達を囲むように、宇宙に届くかと思うほど大きな四本の『火柱』が燃え上がりました。
「この四本の火柱は、あんた達の間にある『しこり』だ。あんた達一人一人が、家族に対し絶対に教えたくない秘密、内緒にしなければならないことを話すことで消える」
「そんな話をしても、家族の絆が壊れないなら、あんた達の『家族魔法』は進化し、熱に耐え、オイラを家族として受け入れることもできるだろう」
家族に話したくないこと……内緒にしておかなければならないこと……!
私はそう言われて真っ先に転生のことが思い浮かびました。私は前世の記憶がある……。そんなことを聞いたらお父さんとお母さんはどう思うでしょう?
私や義弘の頭がおかしくなったと思うでしょうか?
そう言っている間にも、四本の火柱は私達の体を焦がしていきます。このままでは、全身が燃え尽きてしまうでしょう。
そう思っていると、お父さんが口を開きました。
「そう、か。では、話すしかないようだね。私の秘密を」
お父さんが覚悟を決めた顔で、私と義弘の手を強く握りしめました。
お父さんの、私達に言ってはいけない秘密とは何でしょう?興味はありますが、聞くのが恐ろしい気もします。
「あれは僕が中学生のときのことだが……」
【お父さんの秘密】
僕は中学生の頃、番長グループからのいじめによって『精神を病み』『お金はかつあげされ』『全身に生傷が絶えなかった』
だが当時としては、少々の怪我くらいでは問題にならなかった。
心を病み過ぎて耐えられなくなった僕は、近くの河原から大小の石を集めてきて、見栄えよく並べあげ『祭壇』を作った。
そこで僕だけが祈る、僕だけの神を作り、祈り続けたんだ。
もちろん、そんなのは何の効果もなく虐め続けられたのだが……。精神崩壊で自傷や柵つきの病院に入院という事態は避けられた。
【お父さんの秘密 終わり】
「全くもって、恥ずかしく情けない話だ。しかし、当時でいえば自分の心を守るにはこの方法しかなかった」
その言葉と同時に、私達はお父さんを抱きしめていました。手を放すと家族魔法が切れるかも知れませんが、今はそれどころではありませんでした。
「お父さん!大変でしたね、辛かったですよね。私達、そんなこと全然知らなかったです」
「ははは、大丈夫。昔の事だからね」
そう言うお父さんに対してお母さんは私とは異なる反応を示しました。
「いかにも、情けないお父さんらしい話ね。でも、私と出会ったときには脅威を言葉で受け流し身を守れるくらいにはなってたわよね」
「あなたは日々成長してるのよ。今更、昔のことを内緒にすることはないでしょう。むしろここまで成長できたことを誇っていいと思うわ」
さすがにお母さんはお父さんの事をよくわかっているみたいです。
元々弱かったとしても、努力で成長してきたんだとしたら、素晴らしいことだと思います。
「ああ、そうか。君と出会ってからも、僕は成長してきた。もうあの頃の僕じゃないんだ。何も悩むことなんてなかったんだね」
お父さんも吹っ切れたような顔で喜んでいます。今のところ、お父さんの秘密に対して家族の理解が進んでいるようですね。
そう思っていると、今度は義弘が口を開きました。
「はは。さすが父上は、身も心も甘いのう。生まれたときから我が見てきた父上の姿そのままではないか」
「どんなに成長しても、心の弱さは変わっておらぬ。今の父上もひどいピンチになれば、子供の頃と同じ、見当違いの対処をするであろう」
「だが、それこそが愛しき我が父だ。だからこそ我は強くなり、強くとも優しく脆い父を守らねばならぬ」
乱暴な言葉ではありますが、義弘はやっぱりお父さんが大好きみたいです。
義弘なら、鍛錬を続ければ家族を守れるようになるでしょうしね。
「ふふふ。随分と手厳しい言葉だけど、そうか。義弘は僕を守るために、いつも訓練をし続けてきたんだね。ありがとう」
その言葉に、義弘はわずかに微笑んで答えました。
「家族ならば当然のことよ」
義弘がそう言った瞬間、私達の回りを覆っている火柱の一本が、急速に勢いを失い、みるみるうちに消えてしまいました。
なるほど、こうやって、一人一人の秘密を家族全員が理解すれば、一つずつ火柱が消えていくんですね。
『家族魔法』の力が上がったのか、砂漠の熱自体にも耐えられるようになってきた気がします。
良い調子です。このまま、全員の秘密を受け入れてしまいましょう!
でも、私達はまだ自分達の『秘密』がどんなに奥深いものか理解していませんでした。