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鬼ごっこと家族愛の魔法

【  2024年 桜井かんな8歳 島津義弘8歳 アトラクション・『ファミリー』 エリア1 時間の止まった異世界】


 周囲には真っ白な空間が果てしなく広がっています。少なくとも見える範囲には何もありません。


 少なくとも足元には地面があるみたいですが……。


――――システムメッセージ――――

 それでは、コピーを生成します。家族愛を深め、コピーを捕まえてください。


 そんな声が聞こえたかと思うと、お父さんの体が光り始めました。


 そして、その光が段々とブレてきて、お父さんの体から飛び出しました。


 その光は、お父さんと同じ姿になり、ものすごいスピードで逃げていきました。


 あれを捕まえないといけないんですよね。パッと見た感じでは、オリンピック選手より早そうですけど……。


「作戦を考えよう。あのスピードだと闇雲に追いかけても無駄だろうからね」


 お父さんがそう言ったので、私達は同意しました。確かに普通のやり方では捕まりそうにありませんからね。


 問題はどういう作戦なら捕まえられるかですが……。


「あのさー。あたし子供の頃に考えたんだけど……」


 お母さんの話では、鬼になったときに皆を追いかけず、その場に座り込んだそうです。


 鬼がそんなことをすれば、そもそもゲームになりませんから、怒って近づいてくるだろう。という考え方ですね。


「でも、お母さん。休み時間や日暮れと言った時間制限があるならともかく、ここでは時間が無限らしいですから……」


 こちらが捕まえに行かないなら、コピーは永遠に隠れていればいいんですよね。


「んー、確かにそうね。コピーはゲームを楽しむ必要もないんだし」


 ゲームにならなくて損なのはこちらだけですから、お母さんの作戦は役立ちそうにないですね。


「ならば、罠にかけるしかあるまい」


 義弘が8歳の可愛い声に似合わない武士っぽい喋り方でそう言いました。


「罠ですか?義弘には何か作戦があるんですね」


「ああ、昔 家族でXTAGGAMEなるものを習ったことがあるだろう」


 「X TAG GAME」とは、障害物が置かれたフィールドで行う鬼ごっこです。


 街中の障害物を利用して自分自身を鍛える「パルクール」の流れを汲んでいて、最適な動きと緻密な作戦で、競い合う「本気の鬼ごっこ」で、今や新しいスポーツとして競技化されています。


 もちろん私達は本気で学ぼうとしたわけではなく、レクリエーションの一環として体験指導してもらっただけなのですが……。


 でも義弘はその後も訓練を重ね、自分が前世で学んだ『示現流』の動きにパルクールの動きを加えて、独自の体の使い方を編み出しました。


「でも、いくら義弘の『動き』が完璧だとしても相手はお父さんの二倍の身体能力ですよ?いくら何でも子供の足では捕まえられないのではないでしょうか?」


「そこで、策を打つのだ。やつはコピーとはいえ、趣味嗜好は父上を踏襲しているはず。ならば、父上をおびき寄せられるような囮を使えば良い」


 なるほど、お父さんが好きそうなものを囮にして、それに近づいてきたところで、義弘が瞬発力を活かして捕まえるわけですか。


 総合的な身体能力では敵わなくても、一瞬のスピードだけなら『動き』を最適化した義弘の方が早いかも知れません。それに油断を突くこともできます。


「僕が、無条件に誘われるほど好きなものか。確かにそれならコピーをおびき寄せられるかも知れないな」


「でも、こんな真っ白い空間で、その囮を用意できるかしら?」


 私達は自分の身と着ている服ぐらいしか、この空間に持ち込めていません。だとすれば、囮になれるのは人間だけということになります。


 お父さんにとって『家族』はかけがえのない大切なものであることは確かですが、今コピーがこちらへ来ないということは、家族というだけではコピーをおびき寄せられないということです。


 何か……きっかけが必要ですね。


「お母さんの言う通り、好きなモノを用意するのは不可能だと思います。だったら私たち自身が囮になるしかないでしょう」


「だが、姉上や母上が囮になるにしても、どうやって奴をおびき寄せるのだ?」


 義弘の言葉に対して、お父さんが答えました。


「いや、それなら考えがあるよ。さっきも言ったように僕が好きなモノを用意すればいい。その方法は思いついたよ。何せ僕の事だからね」


「そんな方法があるんですか?」


 コピーがお父さんと同じ知能を持っているなら、この鬼ごっこのためだけに創り出されたこと、そして捕まれば消滅するかも知れないことを理解していると思います。


 だから、かなり慎重に動いてくるはず……。ちょっとやそっとではおびき寄せられないと思うのですが。


「ああ、僕は『初めて見るモノ』や『理解不能なモノ』に異常に興味を惹かれる。だから……」


「僕が中央で回転し、その周りを皆が怪しい踊りを踊りながら回るんだ。恐らくコピーは気になって近寄ってくるはず。そこを義弘が捕まえればいい」


「ふえっ?」


 お父さんが回転して、その周りを私達が回る!?


 確かにその動きはすごく奇妙でわけがわからないですけど……。そんなのでコピーをおびき寄せられるんでしょうか?


 い、いえコピーの元であるお父さんが言うんですから、間違いないんですよね。


「相手の虚を突くのは戦術の基本だ。父上が奇妙なものに惹かれるというのなら、その方法が一番であろう」


「そ、そうですよね!それじゃあさっそく、やってみましょう!」


 そう言って私達はお父さんの回りを囲むように、配置に着きました。


「そういえば、『怪しい踊り』って何を踊ればいいんですか?」


(われ)が『薩摩踊り』を教えよう。この踊りを父上は知らぬであろうからな」


 薩摩踊りは、義弘が前世の薩摩(鹿児島県)で習った盆踊りだそうです。確かに東京出身のお父さんは薩摩踊りを知らないでしょう。


 コピーの気を引くには最適の方法かも知れません。


 それからしばらく私達は義弘に習って、『薩摩踊り』の練習をしました。


 謎の踊りの練習をしているのですから、すでにコピーはこちらに気を取られているかもしれませんね。


 そして、いよいよ本番です。私達に囲まれたお父さんが、クルクルと回転し始めました。


 お父さんにの回転に合わせて、私とお母さんと義弘も『薩摩踊り』を踊りながら、お父さんの回りを回り始めました。


(ハ よいよい ヨイサット) (ハ よいよい ヨイサット)


 しばらくそうして踊っていると、コピーに動きがありました。


 視界の端に、ゆっくりと近づいてくるコピーの姿が見えます。


 踊りを続けながら、義弘が身構えました。一切の隙なく、動作を切り替える示現流の秘術です。


「チェストーーーっ!!」


 独特の叫び声と共に、義弘がコピーに襲い掛かりました。


 そして、両手両足でコピーの体をしっかりと挟み込みます。


「捕まえたぞ!!これでいいのだろう!」


 義弘がそう叫ぶと、コピーは強い光を放って消滅しました。


――――システムメッセージ――――

 家族・『桜井家』よ。よくぞ『家族愛成長試練』を突破しました。


――――システムメッセージ――――

 貴方がたは父親の趣味を知り、息子の技術と知識を活かし、それらの情報を共有することで、試練を突破しました。


――――システムメッセージ――――

 力を合わせ、作戦を話し合うことで貴方がたの家族愛は一段階の進化を遂げました。


――――システムメッセージ――――

 家族の事を思えば、その力を使い 迫りくる敵を倒すこともできるでしょう。


 そんな言葉が頭の中に流れ、次の瞬間 私達の目の前に『島津家の家紋』の意匠が入った鍵が落ちてきました。


「これは……!鍵ですよ、義弘!これがきっと、アトラクション『ファミリー』を突破するための鍵ですよ!!」


 私がそう言うと、今度は目の前に大きな扉が現れました。


「ああ、姉上よ。どうやら我が8年間、望み続けた瞬間が来たようであるな」


 普段、無表情な義弘が今はとても嬉しそうにしています。


「じゃあ、鍵を刺しますよ」


 そう言って私は、扉の鍵穴に鍵を刺しました。すると、自動的にドアが開き、私と義弘、そしてお父さんとお母さんも扉の中に、吸い込まれました。


【  635年 桜井かんな8歳 島津義弘8歳 アトラクション・『ファミリー』 エリア2 唐 シルクロード】


「うわっ……なんですか、ここは?」


「すごい暑さだねえ。ここは、砂漠かな?」


 扉から出た私達の目の前には広大な砂漠が広がっていました。


 扉によって、ここに転移したということでしょうか?やはり、理解不能な『魔法』みたいな力が働いているみたいです。


 でも、これはちょっとまずいかも知れません。私達は飲み水なんて一切、持ってきていないのです。このまま砂漠の暑さにやられたら、数時間ももたずに死んでしまうかも知れません。


 どうしましょう?まずは、水のある場所を探すべきでしょうか?


「ねえ、義弘……」


 そう言って、義弘の方を見ると……。


「え、ええーーっ!?どうしちゃったんですか!その姿!!」


 私の視線の先には、二等身の猫のぬいぐるみがいました。


 トラ猫のような模様で、二足歩行で立っています。


「姉上、これもどうやら『アトラクション』の一部のようだ。恐らく何度か試練を超えることで『突破』になるのであろう」


 トラ猫のぬいぐるみが、幼い声・武士のような話し方で喋ります。可愛いのは確かですが違和感が凄いです。


「ここで私達は、何をすればいいのでしょう?」


「それはわからぬが……どうやら姉上は家族魔法というのを使えるようになったようだ。水はそれで何とかなるだろう」


「魔法!?」


 魔法って、魔法少女になったってことですか!?確かに、前世では小さいときに憧れていたこともありましたが、本当になれるとは思いませんでした。


 私や義弘の転生で、不思議なことがあってもおかしくないと思ってはいましたが、いよいよファンタジーな雰囲気になってきましたね。


「姉上よ。我らと手を繋ぎ、家族の事を思うのだ。それで、家族魔法が使えるはずだ」


 なるほど、私が家族の絆を感じることで使える魔法ということですね。


 義弘の言葉に従って、私はお父さんお母さん義弘の三人と手を繋ぎました。


 体の中からこれまで感じたことのない力が沸き上がってくるのを感じます。これが『家族魔法』でしょうか?


「なんだか不思議な力を感じるけど、これをどうすればいいの?」


 さっきも言いましたが私達は水筒なんて持っていません。このまま水を出したとしても、地面に落ちてしまいそうです。


「まずは『容器』と唱え、容器を出せ。それから『水』と唱えて容器に水を入れればいいだろう」


 私は義弘の言葉に従って、水筒を頭に思い浮かべます。そして『容器』と唱えると、私達の目の前に、プラスチック製の1Lくらい入りそうな水筒が出てきました。


「わあ!本当に水筒が出てきましたよ!?家族の絆でこんなことができるなんて……魔法ってすごい!」


「かんな、それはいいけど早く水を出そう。パパは喉がカラカラになって来たよ」


「あ、はいそうですね」


 水稲の蓋を開けて、今度は頭の中で大量の水をイメージします。


 1Lくらい……海やプールをイメージして本当に出てきたりしたら大変なことになりそうですからね。


「水」


 私がそう唱えると、水筒に水が注ぎこまれていきます。これで水は確保できましたね。


 家族魔法の使い方も何となくわかってきました。後は、ここで何をしないといけないのか分からない事ですけど……。


 そう思った瞬間、突然 空が暗くなり。辺りが霧に覆われ始めました。


 そして空から赤く燃え盛る隕石のようなものが墜落してきました。


(ドガゥォーーーーーーン)


 とてつもなく大きな音を立てて、『それ』は地面に激突し、巨大なクレーターを作りました。


 そして、なんとその隕石は突然、喋り始めました。


「ケケッ、やっと地球に戻って来たぜ」


 どうやら、この隕石生物こそ私達が『ここでやらないといけないこと』の鍵となるようですね。


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