転生した『かんなと義弘』
【 2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア3 夢牧場】
目が覚めると、そこは元の牧場だった。
だが、牧場で育てられている『夢』達が、白く光り輝いている。
「あ、起きましたか?すごいんです!皆がキラキラ光って!!」
そう言って喜んでいるのは、牧場に来たときに話しかけてきた、メイド服姿の少女だ。
「ああ、俺達は上位恋愛傾向『エロス』に目覚めた。無限に近い夢現エネルギーを生み出せるようになったんだ。ここにいる夢達を叶えるぐらいは可能だ」
しかも、これから生まれてくる夢達も速攻で叶えることができる。つまり、この牧場から輝夜への夢現エネルギー供給は途絶えるわけだ。
そこまで考えて一つ疑問が生まれた。『輝夜は上位恋愛傾向に目覚めていないのか』ということだ。
こんな牧場を作って夢現エネルギーを作っているんだから、普通に考えたら目覚めていないように感じられる。
だが、アスモデウスの『推しパワー』によって現れた『アイドル力』の規模から考えると、目覚めていないということはあり得ない。
つまり、この牧場には単なる夢現エネルギー供給以外に、何か目的があるのか……?
いや、それは今考えてもわかるまい。アトラクションを突破し、信孝達と情報を共有してから考えた方がいいだろう。
そう考えていると、夢達の輝きが一層強まり、天に向かって飛び立っていった。
「おお~!綺麗ですねえ。あの子達とお別れなのは寂しいですが、夢が叶ったのなら何よりです!」
「ああ。俺達もあいつらの手助けができて嬉しい」
俺がそう言うと、夢達が飛び立っていった天空から、ハートマークの意匠が入った鍵が落ちてきた。
これはエリア1や2でも起こった現象だな。だとすれば……。
俺が鍵を手に取ると、目の前に巨大な扉が現れた。ついに、アトラクション『ドリームワールド』クリアという訳か。
だが……俺達は『推し』がいなくても力を顕現できるとはいえ、クロマル達は結局TTRAWとやらに連れ去られたままだ。
とりあえずは皇・大和の自爆を防ぐのが先決だが……。TTRAWに行けるようになったら、三人を救わなければいけない。
そう考えながら、俺は鍵を扉に挿した。
【 2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 ラブキング・キャッスル 恋帝の間】
俺が扉を抜けると、そこは『玉座の間』という感じの場所だった。
俺の目の前には10mはあろうかという玉座と、それにふさわしい大きさの『王様』が座っている。
「藤田!アトラクションを突破したのか!」
そう言って俺に駆け寄って来たのは信孝だ。隣にはツバサや悟空、正利兄貴と信秀もいる。
正利兄貴の回りに見覚えのない者が何人かいるのが気になるが……。
そう考えていると、王様が荘厳な雰囲気を出しつつ話し始めた。
「お主達、よく我がアトラクションを突破した!お主達こそ、愛の申し子じゃ!!」
なるほど、そういえばこの王様が俺達をアトラクションへ送り込んだのだったな。
「このラブキング・キャッスルには、恋人を得ること、そして夢現界の力をもって夢を叶えることを望む者が招かれる。そして、お主達はアトラクションを突破する中で、恋人を作り、夢を叶える力を手に入れたはずじゃ!」
その言葉を聞いて、俺は違和感を覚えた。俺達は相互に推し合う『推しパワー』を身に着けたが、『推し』はどちらかと言えば憧れの要素が強い。
少なくとも恋人同士ではないだろう。
「俺達が身に着けたのは『推しパワー』だ。恋人同士とは言えないだろう。もっとも、夢現エネルギーを作り出すことはできるようになったがな」
「なるほどのう。じゃが愛の形は様々じゃ。恋人同士でなくとも『推し』もまた一つの愛の形なのじゃろう。アトラクションを突破する力があるなら、何でもありじゃ」
「私の『友愛』も恋人同士ではありませんからね」
王様の言葉に補足するように、正利兄貴がそう付け加えた。
どうやら正利兄貴も、恋人同士のいわゆる『愛情』とは違う愛に目覚めたらしい。
信孝の『博愛』、正利兄貴は『友愛』、そして俺が『狂愛』のエロスか。
後、出てきてないのは、遊びとゲームの愛『ルダス』、家族愛の『ストルゲ』、永続的な愛『プラグマ』、自己愛『フィラウティア』、偏執的な愛『マニア』か?
「つまり、桜井かんなと島津義弘が、残る4つのどれかに目覚める必要があるってことだな」
横から悟空がそう言った。残り4つ?悟空は俺の知らない『上位恋愛傾向』に目覚めた人物を知っているということか。
「待ってくれ、俺達以外に『上位恋愛傾向』がいるのか?」
「おう、『永遠の空白』の守護者をやってる、そらってのが『マニア』に目覚めたんだ」
「そら……?そらだと?そらというのは輝夜が、一緒に住むために夢次元を作ろうとしているという相手の事か?」
キュリオキュリや第六天魔王の話では、輝夜の目的はそらと一緒に住むことだったはずだ。
悟空は、その『そら』という人物に、もう会っていたのか。
「ああ、夢次元については知らねえが、確かに輝夜はそらと一緒に住もうとしているみてえだ。そらの方は一目会って『マニア』の能力で輝夜の全てを知ろうとしてたけどな」
マニアは対象の全てを知ることができるのか?
ともかく、そらと輝夜には微妙に目的の違いがあるということだな。
「俺達の戦いでは、輝夜は『燕の子安貝』を使って妨害してきたが、信孝達はどうだったんだ?」
「『龍の頸の珠』はボクの中にあって、僕を守ってくれているんだ」
ツバサがそう言った。龍の頸の珠はこちらにあるのか。
「『仏の御鉢の石』は我自身が持っている。必要になれば貸すのは構わんぞ」
大仏のような姿をした男がそう言った。こいつは何者だ?
「ああ、我は『釈迦』だ。輝夜によって魔物に転生させられていたところを正利達に救われたのだ」
正利兄貴……釈迦まで味方につけていたのか……。
「『燕の子安貝』は戦いの中でいつの間にか消えていた。すまないが、輝夜に回収されたようだ」
だとすると、竹取物語でかぐや姫が要求した『難題』のうち、出てきてないのは『火鼠の皮衣』と『蓬莱の玉の枝』だな。
恐らく、輝夜は桜井かんなと島津義弘に対して、このどちらかの『難題』で妨害をしてくるのだろう。
だとすれば、すでにアトラクションのボスとなる人物に『難題』を渡しているのかも知れないな。
桜井かんな達がアトラクションを乗り越えることができなければ、現実世界で島津義弘の洗脳は解けないことになる。
そうなれば、いくらツバサ・信秀・証如の洗脳が解けていても、皇・大和の自爆は止められないだろう。
全てはその二人にかかっているらしい。
「王様、桜井かんなってのは、俺が知ってる人間の『転生体』だと言ったよな?後は、かんな達だけなんだから、いい加減 誰の転生体か教えてくれてもいいんじゃないか?」
信孝の要求に対して、王様はそうじゃのうと呟いた。そして、おもむろに話し始めた。
「わかった。お主が望むなら教えよう。桜井かんなは……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【 2024年 桜井かんな8歳 島津義弘8歳 アトラクション・『ファミリー』 エリア1 家族愛成長試練】
私は、いいえ私達は、2024年の東京に転生しました。私は桜井かんな。前世の名前は……望月麗美。望月たかしの妹でした。
あの日、臓器移植が受けられると言われて、連れていかれた後、私は何らかの原因で死んでしまったようで、気が付けば『桜井かんな』として、この時代に生まれ変わっていました。
何故、前世の記憶があるのかはわかりません。
最初はこの記憶自体が私の妄想かと思ったのですが、何と私の弟も前世の記憶を持っていたのです。
そして、弟……義弘によると、義弘の前世の仲間達がロボットを自爆させたせいで、私の……前世のお兄ちゃんが死の危機に追いやられているというのです。
そしてそれを回避するためには、アトラクション『ファミリー』をクリアしなければならない。
義弘がそう言い出してから、私達はアトラクション突破に関係ありそうなことを、片っ端からやってきました。
それでも8歳の子供ができることと言ったら、テストで良い点をとるとか、成績を上げると言ったことが限界です。
地域で人気者になるというのも試してみましたが、条件が違うのか規模が足りないのか、『突破』には繋がりませんでした。
そんなある日のことでした。
――――システムメッセージ――――
我は家族神ファミリス あらゆる家族が仲良く幸せに暮らすことを望む神である。
――――システムメッセージ――――
そのために、この世界に住む家族達に『家族愛成長試練』を与える。
――――システムメッセージ――――
日本国東京都江東区森下に住む家族よ。そなた達に与える『家族愛成長試練』は……。
――――システムメッセージ――――
『コピー鬼ごっこ』である。
その言葉が聞こえた直後、私の頭の中に『コピー鬼ごっこ』の概要が入ってきました。
【コピー鬼ごっこ】
家族の中で最も身体能力の高い者のコピーを一体作る。神力によって、このコピーの身体能力を二倍にする。家族の力を合わせて、コピーを捕まえることができたときに、『家族愛』がワンランク上がっている。
つまり、お父さんの二倍の身体能力を持ったコピーを、皆で捕まえることで家族の絆が深まるということですね。
当然、普通のやり方では捕まえられないでしょうから、家族で話し合い作戦を立てて、協力し合いながら捕まえないといけないでしょう。
そうやって、行動を共にしている内に、気づいたら仲が良くなっている。ということなのでしょうね。
「姉さん、こいつは俺が待ってた『天啓』かも知れねえぜ」
この子が私の弟、島津義弘です。この世界では『桜井義弘』なのですが、私は彼の事情を知っているので、『島津義弘』だと認識しています。
もちろん、普段は呼び捨てにするので、あまり違いはありません。
「多分そうですね。『神様』のような誰かから声が聞こえるなんてことは、普通ではあり得ないですから」
だとすれば、この鬼ごっこは前世の兄を殺そうとし、前世の義弘を洗脳したという『輝夜』によって世界が滅ぼされることを防ぐための戦いです。
絶対に失敗するわけにはいきません。
お父さんやお母さん、そして義弘との仲には自信がありますが、今のままではダメなのでしょうから、何としてももっと仲良くならないといけません。
そう考えていると、周りがピカーっと光って、お父さんとお母さんが私達の目の前に転移してきました。
一体、どうやったのでしょう?ワープには宇宙二個分のエネルギーが必要だと聞いたことがありますが……。これもファミリスという神様の能力なのでしょうか。
「かんな、義弘、君たちも今の『メッセージ』が聞こえたのか?」
お父さんが慌てた様子で聞いてきました。
「うん。聞こえたわ。ホントに神様かはわからないけど、私達は鬼ごっこをしなくちゃいけないみたい」
そういえば神様は『もし捕まえられなかったら』どうなるのか言っていませんでした。
どうなるのでしょう?まさか、捕まえるまで永遠に鬼ごっこをさせられるのでしょうか?
――――システムメッセージ――――
今から貴方達を『時間の止まった異世界』に転移させます。貴方達が『家族愛』を高めることができれば、この世界に戻します。
――――システムメッセージ――――
『時間の止まった異世界』では貴方達も歳をとらないので安心してください。
「え……ちょ、ちょっと待ってくれ!いくら何でも……」
お父さんがそう言おうとした瞬間、私達の視界が切り替わりました。
そして、次に視界が開けた時、目の前に会ったのは何もない真っ白い世界でした。