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俺が証如を推し、証如が俺を推す

【  2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア3 藤田の夢 魔王の間】


 魔王アスモデウスは、金髪の髪を腰ほどまで伸ばした、欧米人風の女性で胸がとにかくでかい。


 服装はビキニアーマーに毛皮のマントを羽織っていると言ったところか。


「俺の最後の地だと?言ってくれるじゃないか。こちらこそ、貴様を地獄に落としてくれる」


 夢の中とは言え、恐らくあまり時間的な猶予はない。俺達のやっていることに輝夜が気づけば、夢の中に介入してきて、悪夢に変えようとする可能性があるからな。


 その前に、新しい力に目覚め、この魔王を倒してしまう必要があるだろう。


「威勢だけはいいみたいね。でも、何故私が色欲の魔王と呼ばれているか、知っているかしら?それは、この全次元で唯一、上位恋愛傾向『エロス』に目覚めたからよ!!」


 アスモデウスの体がピンク色に光る!『上位恋愛傾向』その言葉はうっすら聞いたことがある。


 確か信孝の目覚めた『アガペー』がそれだったはずだ。やつが、俺や正利兄貴を率いる立場なのも、誰とでも育める『無償の愛』があってこそだからな。


 アスモデウスが信孝に匹敵する力を持っているとすれば、確かに今の俺達では厳しいかも知れない。


 俺達も上位恋愛傾向に目覚めなければならないということか……!


「で、エロスに目覚めたあたしは、推しがその場にいなくても、推しの力を顕現させることができるの!」


 そう言うと、アスモデウスは両手を天に向かって掲げた。


 すると、空中にピンク色の穴が開き、ピンクの靄が漏れ出してくる。


 そう思った瞬間、靄が今の俺達でも見えないほどのスピードで迫ってきて、クロマル・信長・キュリオキュリを包んだ!


「君たちは『エロス』に目覚めてないんでしょ?じゃあ、こうすればどうなっちゃうのかな?」


 アスモデウスがそう言うと、一瞬にしてピンクの靄は消え、そこにクロマル達の姿は無かった。


「な……、お前 クロマル達をどこへやったんだ!?」


「輝夜姫の元、つまりTTRAWに送ったわ。これで、あんた達は『推しパワー』を使えない」


 そう言ったアスモデウスの手のひらに、再びピンクの靄が集まる。


 まずいな、こちらの力を奪った上で確実に止めを刺しに来るのか。


 どうすればいい?やつの話なら、『エロス』とやらに目覚めれば、クロマルがここにいなくとも、力を使えるんだろうが……。きっかけが分からない。


「悪夢の中で、永遠に眠るのね!!コメットミサイル!!」


 周囲が暗くなったかと思うと、空から無数の隕石が降って来た。


 俺達はどうにかかわすが、地面に隕石が落ちるとともに大爆発を起こしていく。


「ぐあっ」


 俺と証如、光秀はたまらず爆発に飲み込まれてしまった。


「ぐ、……まずいな。体がボロボロでロクに動かない」


 このままだと、あの隕石の次弾で殺される。何とかしなくては。


 そう思っていると、俺の体が光り傷がみるみるうちに治っていった。


「ふ、藤田さん。ありったけの回復魔法をかけました。これで何とか貴方だけでも」


「しょ、証如!お前だってボロボロじゃないか!それを俺だけに回復魔法をかけたのか?」


 いや、冷静に考えれば分かる。証如は僧侶としてのレベルが低いんだろう。中途半端に二人回復させるより、一人を万全にした方がいいという理屈は分かるが……。


 まずいな。そもそも俺達はこのアトラクションの突破を目的にして、この夢を見ているんだ。証如が死ねば失格になるだろうし、そもそもこれまで一緒に戦ってきた仲間を死なせたくない。


 何かないか。証如の想いに答える何かが……。


「これで死なないとは中々やるわね!じゃあ次よ!!」


 靄が形をとり、無数の鳥のような姿になる。


「ダークメロディ・合唱団よ!この子達の声を聞いて、悪夢にさいなまれなさい!」


 鳥たちの歌声は周囲を黒く染めていく。俺の体にも黒いあざができ始めた。今度こそまずい……何か……。


 ……妙だ。この技はさっきの流星と同等の破壊力があるはずだ。だが、俺の体のあざは一定の大きさのまま広がらない。


 耐性ができたって言うのか?一体、何故?


 さっきと今の違いといえば、証如に回復魔法をかけてもらったかどうかだが……。防御魔法や補助魔法ではなく、回復魔法にそんな効果があるのか?


 いや、現実に攻撃のダメージは弱まっている。だとすると、証如はやつの力に対抗するだけの力を持っていることになる。キュリオキュリの持つ力を彼女がいなくても引き出せているんだ。


 だが、どうやって?夢に入る前に言われた『もっとも大切なもの』を手に入れたのか?


 それが上位恋愛傾向『エロス』に目覚めるコツだとすれば、『もっとも大切なもの』は精神的な何かで、証如が俺に向ける何かということになる。


 もう少しで考えが纏まりそうなところで、アスモデウスが追加の攻撃を仕掛けてきた。


「まだ生きてるなんて、ホントじれったいわね!仕方ない!!とっておきで行くわ!」


 そう言うと、ピンクの靄が刀の形になった。あれは見覚えがある……覇王丸に似ているぞ!


 だとすると、まさかアスモデウスは俺達の推しの能力をコピーして、上位互換の技を使っているのか?輝夜を推すことで、そんな力が得られるのか……。


「貴方たちと『推し』は推しパワーで繋がってる。この刀でその『絆』を断ち切るわ!!」


 それはまずいな『覇王丸は何でも斬る』その上位互換なら、絆を斬れてもおかしくはない。


 仮に証如が『エロス』に目覚めているとしても、キュリオキュリとの絆を斬られたらお終いだ。


 証如は何故、『エロス』に目覚めた?俺との違いは何だ?エロスは『推し』に関係するはず。だが、キュリオキュリはこの場にいない、だとすれば……。


 原因は俺……?


 つまり、『推しパワー』を使えるものが、同じ『推しパワー』を使えるものを推すことで、『エロス』に繋がるということか?


 だがだとしても、きっかけそして『最も大切なもの』というのは何だ?


 証如は俺にどんな想いを抱いて……。


 いや、『推しパワー』である以上、それは俺がクロマルに抱いた気持ちに近いモノのはず。つまり『憧れ』……?


 いや、アスモデウスが輝夜に抱いている気持ちも共通のはずなんだ。俺のクロマルへの『憧れ』、証如のキュリオキュリへの『応援』、アスモデウスの輝夜への『崇拝』、そして光秀の信長への『尊敬』……。


 これ等に共通する、強い感情は……?


 さらに、地球で8つの愛情の一つと言われていた『エロス』の定義にあうもののはずだ。


 つまり……その答えは『狂乱』!対象に夢中になる余り、あらん限りの情熱を注ぎこみ、相手のためにすべてをかける感情だ!!


 つまり俺が、すべてをかけるほど証如はまり込めば……。証如に『狂乱』すれば!!俺は『エロス』に目覚めることができる!!


 アスモデウスの作り出した刀が空間を斬り裂く!!


 クロマルとの間に繋がっていた決定的な何かが損なわれた感覚がある。推しパワーと『アイドル力』の繋がりが切れたのか。


 だが!!


 俺は証如の元に向かい、体を掴み上げる。


「熱狂……エロス……!!俺の答えはこれだ!!」


 俺は証如の両手を、自分の両手で強く握った!!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【  2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア3 藤田の夢 魔王の間】


 それと同時に、俺の頭に俺と証如のこれまでの冒険の『記憶と感情』が沸き上がった。


 冒険を通して数々の『予知』をし、事態を突破するヒントをくれた証如に俺は『甘え』ていた。


 キュリオキュリと共に、アイドルを目指して『努力』する証如を俺は『応援』していた。


 自らの体を顧みず、俺を回復してくれた証如を、俺は『尊敬』した!!


 そして、握手によって俺は『推し』が手の届かない偶像(アイドル)ではなく、目の前にいる現実だと実感し……。


 ガチ恋の炎!!愛の情熱が燃え上がる!


 俺は!証如に!!『狂乱』する!!!


―――――システムメッセージ―――――

 藤田浩正が上位恋愛傾向『エロス』に目覚めました。

 本願寺証如が上位恋愛傾向『エロス』に目覚めました。


 その言葉が頭に浮かぶと、俺達の体にとてつもないエネルギーが入り込んでくるのが感じられた。


 これは……『推しパワー』か?


 『エロス』を持つ者は、自分を推してくれる者全てから『推しパワー』を受け取れるのか!


 普通のアイドルなら、祝詞を上げて配神霊を降ろし、推してくれるものと魂の波長を合わせないといけないのに……。


 『エロス』はファンと強制的に魂の波長を合わせるらしい。そしてそれは、俺の推しパワーが証如に流れ、証如の推しパワーが俺に流れるということでもある。


 さらにすごいことに、俺の体には信孝と正利兄貴の『推しパワー』も流れてきた。他のパワーとは桁違いのエネルギーだ!


「証如!!やるぞ!これならいけそうだ!!」


「ええ!僕達はファンにしてアイドル!!」


 証如の『推しパワー』と共に、彼が抱いていた感情が俺にも流れ込んできた。


 ナリーランドで、クロマルに『憧れ』力を引き出した俺を見て、証如は自分にはできない困難を突破する姿勢を『尊敬』した!


 本能寺では、証如が推しパワーに目覚めるように、ヒントを与え必死に協力した俺に対して、証如は強い『感謝』を抱いた!


 そして、さっき死にそうだった俺を見て『慈愛』の感情を抱いた!!


 それらの感情が一塊になり、俺に手を握られたことでガチ恋の炎『情熱』が燃え上がり、『狂乱』に至ったのだ!!


 俺達二人の『推しパワー』と『アイドル力』が混ざり合う!そして、さっき斬られたクロマル・キュリオキュリとの絆が復活しているのを感じる。


「顕現!!クロマル・キュリオキュリ!!」


 俺の頭の上に、黒い靄が出てきて、それは刀の形になった。


 同じように、証如の頭の上には白い靄が出てきて、ステッキの形になった。


 それらをつかみ取り、俺達は叫んだ!


「アイドルソード・クロマル!!」


「アイドルステッキ・キュリオキュリ!!」


「クロマルはすべての悪夢を断ち切り!」


「キュリオキュリはすべての悪夢を癒す!!」


 俺達の体から黒と白の混ざり合った光が、放たれた。


「行きます!!魔砲『ハッピードリーム』!!」


 証如がステッキをかざすと、巨大な大砲が出現した。そして、俺の体が砲身に詰め込まれる。


「ハッピードリーム、発射!!」


 ハッピードリームの砲身内で爆発が起こり、周囲に白い☆型の光が飛び交う。


 撃ちだされた俺は、アスモデウスへと真っすぐ向かって行く。


「「悪夢よ!」」


「「吉夢になれ!!」」


 俺は刀となったクロマルを振るい、アスモデウスを真っ二つに斬った!


「はっっぴぃぃぃーーー!!」


 最後にそう叫んでアスモデウスが黒い靄に変わっていく。


 そして徐々に白い靄へと変わっていく。


 そして、純白のドレスを着た天使の姿になった。


「純潔の大天使・アスモデウスです。よく私を浄化してくださいました」


 どうやら色欲の魔王だったのが、悪夢から吉夢になったことで、純潔の天使にジョブチェンジしたらしいな。


 一応、これでハッピーエンドだと思うのだが、まだ夢は覚めないのだろうか?


「貴方がたは、この夢に対する『輝夜』の妨害にも関わらず、吉夢として終わらせることに成功しました。貴方がたと、私の夢の力が外の世界に溢れていきます」


 やはりアスモデウスは輝夜の妨害だったのか。だが、吉夢として終わった以上、『夢牧場』の夢達を叶えることには成功したわけだな。


 そう思っていると、周囲の景色が消え始めた。どうやら、俺が目を覚ますようだ。


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