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推しパワーは悪夢を克服する!

【  2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア2 宇宙創造実験室 本能寺跡 】


「にはは、我が名は華春日菩薩。よくぞ、このあたしを再び現世に呼び戻してくれたねえ」


「ちょっと待て!何故、配神霊が融合して、キュリオキュリがかつて戦ったやつが出てくるんだ!」


 普通の状態から合体して別物になったんだから、既存の何かになるのはおかしいだろう。


「それは違うよ。あたしは元々一つだったのが、『あの女』のせいで分離させられてたのさあ」


 元々一つだったのが分離させられてた?一体、誰がそんなことを?


 俺の疑問に横から第六天魔王が答えた。


「輝夜様は我が『夢世界』を作る邪魔にならぬよう、そやつを分離したのだ」


「夢世界を作る?それがお前が夢現エネルギーを集めている目的なのか?」


 世界を作るというくらいだから、この全次元とは異なる異世界を作るのだろう。それなら確かに、全次元級の夢現エネルギーが必要かも知れないが……。


「おうとも、夢世界であれば全次元神でも手が出せぬからのう。『そら殿』が守護者の任を放棄し、輝夜様と共に逃げたとしも、夢世界までは追ってこれぬ」


 ……よくわからないが。輝夜とやらが、そらと一緒に逃げるために夢世界を作ろうとしている?


 だが、そのために大量の人間を夢現エネルギーにするのは、許されないだろう。


 とりあえず、俺達のできることは華春日菩薩の力を借りて、第六天魔王を倒すことか。さっきまで黙っていた第六天魔王が話に加わってきたということは、華春日菩薩が自分を倒し得る脅威だと判断したんだろうしな。


「そのためにも、華春日菩薩よ。貴様を倒し邪魔を無くす。貴様とそこのやつらさえいなければ、我はいくらでも夢現エネルギーを手に入れられるのだからな!」


 第六天魔王がそう言うと、周囲数kmほどが黒い幕で覆われ、第六天魔王の後ろからメタリックな音楽が流れ始めた。


「食らい尽くせ♪夢を黒く染めて♪我が力となれ♪」


 その歌声と共に俺達の回りを黒い靄が覆う。夢現エネルギー化するには、夢を叶える必要があるはずだから、これは別の技なのだろう。


「これは、『夢食い』の歌だね~。第六天魔王が、吉夢を食べてエネルギーにする時の歌だよ~」


「そいつはまずいんじゃねえですか? あんたも第六天魔王と同じく夢でできてるんでしょう」


 華春日菩薩の説明に対して、クロマルが突っ込んだ。なるほど、確かに華春日菩薩が吉夢でできているなら、夜に見る夢と同じように『夢食い』で吸収されてしまうのか。


「あたしだって、簡単に吸収されるつもりはないよ~」


 華春日菩薩がそう言うと、信長とキュリオキュリの体が黄金に光る。これはアイドルが持つ力を夢現エネルギーに変えているのか。


 いや信長とキュリオキュリから無限に溢れてくる『桜井あさひ』や『信秀』への憧れを夢現エネルギーに変えているんだ。元々無限だから、変換しても減らない!!


 やがてキュリオキュリがMMMを、信長がアイドル風アレンジされた敦盛をうたい始めると、華春日菩薩の体がさらに黄金に輝く。


「光を集めて♪夢を力に♪皆を元気に♪」


 華春日菩薩は二人の曲とも異なるオリジナルソングを歌う。


 第六天魔王が出した靄を、華春日菩薩から出てきた黄金の光が包み込む。


「くっ。やはり普通の戦い方をしていては、こうなるであろうな」


 そう言って、第六天魔王は懐から貝のようなものを取り出した。


「オープン・ザ・ドリーム!!悪夢へようこそ!!」


 第六天魔王がそう叫ぶと、貝から黒い光が出て俺達を包む。


 そして光が一気に収縮し、俺達を貝の中に飲み込んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【  2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア2 藤田の悪夢 山田家 庭 】


「燃えろ……燃えろ……!!浩正を正しい極道に導くため、こんなものは必要ない!」


 クロマルが燃える……マイリズが燃える……ハローキミィが燃える……。


 僕が大事にしていたぬいぐるみ達が燃えていく。


「浩正よ。貴様はこの山形組の組長となり、極道を支配する立場になる。警察にも自政党にも強いパイプのある我らは、実質国を支配しているとも言える。お前は王になるのだ」


 僕はぬいぐるみを失うくらいなら王様なんてなりたくなかった。でも父さんは、僕でなければダメだという。


 僕の眼に、燃えていくぬいぐるみが焼き付いていた。その日から僕は悪夢を見るようになった。


【子供の頃の藤田の悪夢】


 夢の中で、僕の周囲は燃えるぬいぐるみで埋め尽くされていた。


『どうして燃やしたの』


『君の事大好きだったのに』


『もっと一緒にいたかったのに』


『熱い……苦しい……酷い……酷い……』


「ごめんなさいごめんなさい。僕だって燃やしたくなかったの。でも父さんが……」


『君が燃やした』


『君のせいで燃えちゃった』


 絶望してうずくまると、僕の体がクマのぬいぐるみになっていることに気づく。


『燃えちゃえ』


『君も燃えちゃえ』


 ぬいぐるみ達がそう言うと、僕の体が燃え始めた。痛い、熱い。皆もこんな苦痛を感じていたんだ。


 痛い……熱い……苦しい……。


 炎の中で僕は絶望する。僕も皆といたかったのに、僕も皆が大好きだったのに。


 その時、不意に声が聞こえた。


『君の愛は、その程度のモノなの?』


 ぬいぐるみ達じゃない。誰の声だろう。女の人の声だ。


 僕はとっさに叫んだ。


「ち、違うっ!!僕は、本当にぬいぐるみ達を愛していたんだっ!!可能な限り全てをぬいぐるみに捧げて、毎日愛でていたっ!その思いにウソなんてない!」


『だったら、その愛の炎を燃やしなさい』


 その言葉を聞いた瞬間、自分の回りの炎が『操れる』ようになった感じがした。


 僕はぬいぐるみ達の炎を制御して、僕の中に貯めこむ。


 僕の中に入った炎は、僕の愛……大好きで応援したいという気持ちに反応する。


『それでいいの。貴方は『推しパワー』で悪夢を乗り越えた』


 僕の中から炎が燃え上がり、ぬいぐるみ達が赤く輝く。


「皆!僕は今でも君たちを愛している!そして、君たちの弟である、新しいぬいぐるみ達のことも愛している!今度は絶対燃やさせたりしない!!」


 僕の言葉に反応して、ぬいぐるみ達が歓喜する。


 彼等の発する光が僕の体を覆った……。


【子供の頃の藤田の悪夢 終わり】


【  2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア2 宇宙創造実験室 本能寺跡 】


 俺は眠っていたのか?いや、そうだ確か第六天魔王が出した妙な貝に飲み込まれて……。


 俺は夢の中の事を思い出す。そうか、あの声は華春日菩薩だったんだな。俺が悪夢の中でもクロマルと、そしてヨンリオのキャラクター達への『推しパワー』を見失わないように導いてくれたわけだ。


 そして……。


「皆!俺の『推しパワー』は悪夢を克服する力を手に入れた!!皆の力をクロマルに集めろ!!」


「ええ!?ホントですか!!突然、貝の中から出てきたと思ったら、そんなパワーアップしてるなんて!」


 慌てる証如に対して、信長は冷静だった。


「華春日菩薩!俺とキュリオキュリの力を全てお前に託す!!証如と光秀は限界まで俺達に『推しパワー』を注いでくれ!!」


 信長の言葉に対して、証如も冷静さを取り戻す。『憧れ』の配神札が輝き、二人はダンスを始める。


 証如と光秀も全身全霊を込めて、『オタ芸』で『推しパワー』を二人に注ぎ込んだ。


「あははー。来たよ来たよ。じゃあ、このパワーをそいつに預けよう」


 華春日菩薩がそう言ってクロマルの方に手をかざすと、クロマルの持つ刀『覇王丸』が白く輝き始めた。


「おおっ!!こいつはっ!これなら夢でも斬れそうだぜ」


 このまま行くと、第六天魔王を斬り殺してしまうだろう。だが、俺は『悪夢を吉夢に変える力』を手に入れた。この力なら第六天魔王を浄化できる!


 俺はクロマルのこれまでの活躍を思い出す。そして、クロマルが第六天魔王を倒すところを想像する!


「俺達のヒーロー!どんなピンチも乗り越えるヒーロー!!」


 自然に祝詞が口から溢れる。俺は証如達の真似をして、『オタ芸』を踊る。これで普段以上にクロマルに推しパワーが届くはずだ。


「おおっ!!いいねえ!さすが、藤田の推しパワーは違うぜ!」


 クロマルは輝く覇王丸を構える。


「第六天魔王!もうそろそろ悪夢から覚める時だぜ!!」


 そして、覇王丸から後方に光を発射するとともに、光速を越えたスピードで第六天魔王に接近する!


「覇王丸は皆斬る!『夢斬・大幸福』!!」


 そう言って、白い光を輝かせながら、クロマルが第六天魔王を斬った!!


「ぬあああ……馬鹿な……夢現エネルギーを集めた我を浄化するなど……」


「それだけ、俺達の『アイドル力』と『推しパワー』が強かったってことだ」


 そして、悪夢から覚めれば第六天魔王も愛を知ることができるようになるだろう。


 クロマルが斬った部分から、白い光が溢れ第六天魔王を包んでいく。さっき俺達が包まれた悪夢の光によく似ている。あれは吉夢の光なのだろう。


 そして光が収まると、華春日菩薩とは白黒の配色が逆の、巨大なバクがそこにいた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「心が満たされたような気分だ。これが貴様たちの言う愛という感情か」


 第六天魔王はそう呟いた。憑き物がとれたようなさわやかな顔をしている。


「どうやら、悪夢から覚めたみたいだな。できれば、お前にこんなことをさせた輝夜というやつのことを教えてくれるか?」


 この先、エリア3もあるんだからな。輝夜とかいうやつの正体や目的を聞いておいた方がいいだろう。


 3の方が難易度が高いであろうことを考えると、絶対にそいつが絡んできそうだからな。


「そうだな。輝夜様は異世界TTRAWを作り出した『なよたけカンパニー』の社長だ。5つの『難題』アイテムを使って、全次元の守護者『そら』様と二人で暮らせる世界を作り出そうとしている」


「二人で暮らせる世界?ということは、この世界で暮らしていくことができないってことか?」


 そう言えばさっき、夢世界なら全次元神の干渉を受けないとか言っていたか。逆に言えば全次元やTTRAWにいる限り、全次元神の攻撃を受けるということなのだろう。


「そらというのは何者なんだ?どうして輝夜と二人で暮らすだけで、全次元神に追われることになるんだ?」


「そら様は『永遠の空白』の守護者だ。永遠の空白は死んだ『次元』のたまり場で、浄化し続けないと全次元が消滅してしまう」


 永遠の空白?そんなのがあるのか。そしてそらがそこを浄化しないと、全次元が滅ぶ。


「永遠の空白にはそら様以外存在してはいけない。だから輝夜様が一緒にいては、全次元の寿命を速めてしまう。だから、輝夜様は夢世界にそら様を『転生』させる方法を考えられたのだ」


「龍の頸の玉でそら様を守り、仏の御鉢の石でそら様を転生させる。転生先の夢世界は燕の子安貝で作る……だが、それぞれのアイテムの力を完全に引き出すには夢現エネルギーが必要なのだ」


 なるほど。『難題』アイテムとやらの力を引き出すために、夢現エネルギーを集めているのか。


 一緒にいさせてやりたい気持ちがないわけじゃないが、そのせいで全次元が滅んだり、人間が夢現エネルギーに変えられるのは困るな。


 そこまで考えてふと気づいた。


「第六天魔王、お前『燕の子安貝』はどうした?さっきまで持っていただろ」


「何、確かに……ない!馬鹿な、あれほど肌身離さず持っていたと言うのに!」


 ということは、まさか今のやり取りの間に輝夜が貝を回収したのか?


 一体どうやって……?


 しかし、これで確定だな。エリア3は輝夜の手の者がボスとして出てくる……。そして、何らかの方法で俺達を夢現エネルギーに変えようとするだろう。


 『アイドル力』と『推しパワー』これらを夢現エネルギーに変換できれば、恐らく輝夜の目的は叶うからな。


「信長、光秀、俺達がこの先戦うためには、『コラボ配神』の力が必要だ。次のエリアについてきてくれるか?」


「やむを得ぬだろうな。全次元が滅びては天下布武もないだろう」


「私は、信長様の行くところなら、どこでも付いて行きますよ!」


「あたしも問題ないよ~」


 どうやら、信長・光秀に加え、コラボ配神である華春日菩薩も付いて来てくれるようだ。


 しかし、エリアをクリアすれば鍵が出てくるはずなんだが……。まさか、まだ第六天魔王を倒したことになっていないのか?


 そう思っていると、華春日菩薩がふいに第六天魔王の手を握った。


「にーちゃん、悪夢から覚めたんだから、もうあたしたち喧嘩することないでしょ?」


「あ、ああ。そうであるな。我ら、これから力を合わせて人々の夢を守っていこう」


 第六天魔王がそう言うと、と二人の間で白と黒の光が交錯し、バクの意匠がついた鍵が現れた。


 つまり、ここのクリア条件は『コラボ配神』である華春日菩薩を作り出すことと、第六天魔王を悪夢から覚めさせること、そして兄弟である二人を仲直りさせることだったわけか。


 そして空中に扉が現れる。これが第3エリアに続く扉か。


 ここまでの道のりも大変だったが、これ以上の何かが待っているのだろう。


 俺はクロマル、証如とキュリオキュリ、信長と光秀、そして華春日菩薩の顔を順番に見渡した。


 そうだな。こいつ等とならば、どんな困難も突破できるだろう。


 そう考えながら、俺は鍵を鍵穴に差し込んだ。


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