コラボ配神 #憧れの人
【 2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア2 宇宙創造実験室 本能寺跡 】
それまで燃えていた周囲の建物が、一瞬にして崩れ去り周囲には瓦礫の山だけが残っている。これは、まさか第六天魔王とやらの仕業か?
「ついに来おったか。気をつけろ、やつに夢を叶えてもらった者は、夢現エネルギーに変換され、やつの一部となる」
夢現エネルギー……。夢を現実にするエネルギーか。ナリーランドは夢現エネルギーでできているという設定が元の世界ではあったな。
第六天魔王は夢を叶えてやる代わりに、人間を夢を叶えるためのエネルギーに変換して吸収しているということか。
しかし、何のためにだ?自分のエネルギーだけでは叶えられない夢があるということか?
それは黒い煙のような姿をしている。こいつが『第六天魔王』か。
第六天魔王は、周囲全体に響くような重低音で俺達に話しかけてきた。
「さあ、願いをいえ、どんな願いも命と引き換えに叶えてくれる」
「命を失ったら願いもクソもないだろう」
「無論、猶予はくれてやる。願いが叶ってから一ヶ月、その後に魂を夢現エネルギーに変えさせてもらうのだ」
なるほどな。人生最大の願いを達成した後ならば、一ヶ月で死んでいいという者がいるわけか。
「私の部下達は、私が信長様に代わり天下を取ることを願ったのです。しかし、夢を叶えれば家臣は『夢現エネルギー』にされてしまう。そこで私は家臣の元を離れ、信長様を頼ったのです」
なんと、光秀の部下は光秀に天下をとらせようとしたのか。
だが、光秀は『第六天魔王』が提示する『対価』を知っていた。
だから、家臣が『夢現エネルギー』にされるのを防ぐために、唯一第六天魔王に対抗できる、『混沌の化身』信長を頼り、共にパワーアップする道を選んだわけだ。
「なあ、藤田よ。あいつは『夢』でできてるみてえだぜ。ちょっと『覇王丸』じゃ斬れねえな」
「!!そ、そうか。予想はしていたが、やはりクロマルでは相性が悪いわけだな」
「すまねえな。今回は証如のぼっちゃんとキュリオキュリの嬢ちゃんに頑張ってもらうしかねえだろう」
証如とキュリオキュリの『救世の巫女コンビ』、信長と光秀の『混沌の化身』コンビ この二組が上手く組み合えば、第六天魔王を倒せるはずだ。
そうすれば、この世界も救えるし、俺達は次のエリアに行けるだろう。
問題は具体的な方法だが……。
「信長よ。具体的にどうやったら、第六天魔王が倒せるか、朝廷の記録には書いてあったのか?」
「やつは人の吉夢を食い、悪夢とする邪神だ。故に悪夢を浄化し吉夢とすることができれば、力を奪えるだろうな」
バクとは反対に、良い夢を悪い夢にするのか。そしてそれを良い夢に戻せれば、倒せる。
「お前たちのダンスで、悪い夢を良い夢に戻せるのか?」
「そのためには、俺達コンビとキュリオキュリ達コンビの、魂の波長を合わせねばならん。朝廷の記録には『コラボ配神』と書いてあったな」
「コラボ配神?」
複数のYourtuberが一緒に一つの企画やる『コラボ配信』なら聞いたことがあるが……。配神というからには、『配神霊』が関係しているのか?
「具体的にはどうやって魂の波長を合わせるんだ?やはり歌やダンスをするのか?」
「記録には『アイドル二人の仲を端的に示す言葉を祝詞として捧げれば』二人に宿った配神霊が融合し、『コラボ配神』になるとあるな」
二人の仲を端的に表す言葉?だが、キュリオキュリと信長はほぼ初対面だぞ。二人の仲を表す言葉なんてないだろう。
待てよ。二人の仲……そうか!『初対面』だって、二人の仲を表す言葉には違いない。だが、やはり仲が良さそうな文言でなければダメだろうな。ううむ。
少しでも、仲良くなるよう促してみるしかないようだな。
「信長、キュリオキュリ。お互いの印象を話してくれるか?二人の仲をあらわす言葉を見つけるヒントになるかも知れない」
どうも、第六天魔王はこちらが願いをかなえてもらわない限り、手を出してこないみたいようだからな。
もっとも、殺しては『夢現エネルギー』にすることができなくなってもったいないと考えている可能性も高いのだが。
その場合、こちらがやつに対抗し得る能力を得られそうな流れになれば、邪魔してくるかも知れない。
ならば、方法を見つけたら一気にパワーアップしなければならないな。
「の、信長さんの印象ですか?ええと……。いつでも自信に溢れていて、どんな困難にあっても異次元の発想と行動力で突破してしまう力強い人というイメージですけど」
「では信長は、そのイメージを強化するエピソードか、異なるイメージを象徴するエピソードがないか?」
とりあえず何でも聞いてみるしかない。信長への理解が深まれば、仲が良くなるかも知れないからな。
それにキュリオキュリは積極性にかける。俺のサポートが必要だろう。
「いいだろう。俺のとっておきの話を聞かせてやろうではないか」
【信長のエピソード】
金ケ崎の戦い……。秀吉が殿を務め、出世の糸口を掴んだ戦いであり、俺にとって最大のピンチでもあった。
このとき俺は越前の『金ケ崎』から近江の『朽木谷』を通り、京へと逃げた。だが、その道のりは簡単なものではなかった。
俺の軍は金で雇い、鍛え上げた精兵だが、それでも日を追うごとに逃亡者は増えた。
やがて軍の体を為さない少人数になってくると、落ち武者狩りや野党に襲われ始めた。残っていたのはガキの頃から鍛えた精鋭ばかりだったから、やられることは無かったが、俺自身も刀を振るい、必死に戦わざるを得なかった。
いつ襲われるか分からないので、睡眠も十分にはとれない。俺達は肉体的にも精神的にもどんどん追い詰められていった。
そんな中で俺は考えた。
『俺が生き残れば』
1.きちんと対峙すれば浅井・朝倉は敵ではない
2.浅井を滅ぼし北近江を得る大義名分が手に入る
3.2.によって北近江の広大な農地が手に入る
4.北近江は堺・京と並ぶ、畿内経済の中心地である
5.北近江の国友には鉄砲の産地がある
5.琵琶湖の水運を支配できる。
つまり、ここを生き残れば、俺は大きく飛躍する!
それだけを思い、無理やりに身体を動かして朽木谷を目指した。
だが朽木谷の領主、『朽木元網』は織田軍に協力的ではなかった。上手く元網を味方につけられなければ、信長達は朽木軍によって全滅させられ、俺の首は高値で浅井に売られるだろう……。
久秀による交渉は難航した。というのも根本的に俺と元網の考え方が異なっていたからだ。
俺は国をでかくする上で、金で雇った家臣に土地を任せ、無能なら首にして他の奴を送るという方針を貫いてきた。
だが元網は『先祖伝来の土地を護る』という考え方が基本にあったからな。俺に従えば朽木谷を盗られると警戒していた。将来的にはともかく、そのときはそれどころではなかったのだがな。
だから、俺は命がけの口から出まかせをやって、元網を乗せる必要があった。
そして、死んだら終いである以上、俺に退く道はなかった。ならば、先に進む道を見つけるしかない。
「朝倉の討伐は義昭公の命令です。それを邪魔した浅井は、幕府の敵でございましょう」
その言葉に元網は乗せられた。俺は元網の事をよくは知らなかったが、何度も将軍が朽木谷へ逃げ込んだことで、幕府の忠臣と呼ばれて舞い上がっていたのは知っていた。
それでも、この圧倒的優位な状況で俺達を殺さないかどうかは確信が無かった。だが、俺が生き残る道はそれしかなかったからやってみた、というわけだ。
【信長のエピソード 終わり】
話を聞いて、キュリオキュリは涙を流し始める。
「そんな……そんなことが……。信長さんはいつも強く毅然としていて、カッコいいと思っていました。ですがその強さは苦境に叩きのめされ、それでも苦境の中に希望を見出し、這いあがることで生まれていたのですね!!」
キュリオキュリがそう言うと、魔法陣から『札』のようなものが出てきた。なんだ? これは?
「おお!これが、伝説に記されていた配神札ですか!」
光秀は札を見つめて嬉しそうに叫んだ。
配神タグ……Xitterのタグじゃないよな。
つまり、この札にアイドル二人の仲を端的に示す言葉を書いて、配神霊に捧げれば、配神霊が融合して『コラボ配神』とやらになるということなんだろう。
「だが札が出てきただけで、何も書いてないみたいだな?自分達で書いていいのか?」
「朝廷の記録だと、二人の仲が深まれば自動的に『仲を示す言葉』が書き込まれるようだな」
仲良くなれば自動的に書き込まれるのか。つまり配神霊達の判断では、キュリオキュリが信長を尊敬しただけでは、不十分ということだな。
ならば、信長の方からもキュリオキュリに対して何らかの感情を抱いてもらう必要があるわけだ。
「じゃあ、信長!お前もキュリオキュリに対するイメージを教えてくれ。出会ったばかりでわからないだろうから、簡単な印象でもいい」
「そうだな。明るく振舞ってはいるが……。消極的で根暗な印象だな。夢を追う姿勢は評価できんでもないが……」
「なるほど。まあ、そうなるよな。じゃあ、キュリオキュリ。さすがに根暗を強調するエピソードだと仲が深まりそうもないから、夢を追う姿勢を表すエピソードはないか?」
「そうですね。私が夢……可愛い魔法少女になることを目指すことになった、直接のきっかけを話しましょう」
キュリオキュリが魔法少女を目指したきっかけは、沙悟浄時代に容姿をあざ笑われたことや、『取経の旅』の時に弱いせいで何度も死にかけ、まるで三蔵法師や悟空の役に立てなかったかことだったはずだ。
つまり直接のきっかけがあるとすれば、『取経の旅』の中で特につらい経験をした瞬間なのだろう。
少なくとも、俺が覚えている範囲で西遊記にそんなシーンはなかった気がするが……。最も全編を読んだわけではないから、はっきりとは言い切れないな。
【キュリオキュリのエピソード】
あの戦いは熾烈を極めました。当時の魔界王『魔菩薩・華音』により、悟空の兄貴は岩に封じられ、八戒の兄貴は子豚に変えられ、三蔵法師は僧封じの札に封じ込められて、私だけが残ってしまったんです。
華音は観世音菩薩のライバルで、彼と同じ力を持ちオリジナルの技として、カノン・レクイエムという、聞いた者を永遠の眠りにつかせる音楽を奏でます。
皆が行動不能にされ、私が抵抗できない中、華音が『カノン・レクイエム』を奏でようとしたそのときでした。
突然、空から それこそ小学生くらいの少女が降りてきました。
「花の魔法少女『桜井あさひ』!悪い子を良い子にするため、やってきたよ!」
少女がそう叫んで、マントのようなものを振るうと、『カノン・レクイエム』の音が元々無かったかのように消滅したのです。
さらに、彼女がもう一度マントを振るうと燃え盛る聖炎が華音を襲い、白い光と共に華音を浄化したのです。そのときから華音は真の菩薩となり、華春日菩薩としてあらゆる魔を食べて、聖へと浄化する存在となったのです。
私は……その、桜井あさひと名乗る人物に目を奪われました。強く、可愛く、そして正義を貫いている。
私がなりたかった理想そのものだと。
その時からなのです。私が本気で魔法少女になりたいと思うようになったのは。
もちろん、この頃は魔法少女という言葉も知らなかったですから、明確なイメージが固まったのは日本でアニメを見てからですが……。
この時から、絶対叶えたい揺るがない夢となったのです。そして、夢を貫き通した結果、それは叶えられた……!!
【キュリオキュリのエピソード 終わり】
「やはりそうか。貴様のような気の弱いやつが、夢を追い何度でも立ち上がるには、すがる何かがあると思っていたぞ」
話を聞いた信長は少し嬉しそうだ。作戦が上手くいったということか?
「俺がかつて父に抱いた感情と同じだ。お互いに『共通』し『仲を深める』言葉はどうやら『憧れの人』のようだな」
「あ、憧れの人……?」
二人共、夢を追う、逆境に耐えるに当たって、憧れの人を思い続けていたということか。しかし、それが『仲を深める』ことになるのか?
「そして、何より今の話を聞いて俺は、貴様の夢を追う姿勢に憧れを持つようになった。貴様もそうなのであろう」
「え、は、はい。それはそうです。どんなピンチの時も、それをチャンスに変えて立ち上がる信長さんは、あの桜井かんなにも匹敵するカッコよさがありますから!」
キュリオキュリがそう叫んだ瞬間、『配神札』に『憧れ』という文字が書き込まれた。そして、信長とキュリオキュリの体から、黒と白の靄のようなものが出てきて、それらが混ざり合い、形になっていく。
『希望と混沌が一つになるとき、そこには無限の夢が生まれる』
そこには黄金の光を放つ、巨大なバクがあぐらをかいて座っていた。