推しパワーと終わらない夢
【 2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア1 ヨンリオ界 ぬか床の間】
「ふおおおおお……!!」
『推しパワー』という言葉を意識すると、俺の頭にこれまでのクロマルの活躍が浮かんでくる。
そして、俺の思い浮かべたシーンが、俺の背後に映像となって浮かび上がる。
そうだ、あの時もあの時もクロマルは颯爽と現れ、マイリズや他の皆がどうしようもなくなっていた事態を、閃きと覇王丸の力で解決した。
【クロマルの活躍】
地球の子供達の夢によって生まれた、『ビッグ・プリン』がナリーランドを押しつぶしそうになったときも、覇王丸でプリンを丁度いい大きさに切り刻み、皆に提供した。
子供達が海賊に憧れ、夢に見るようになったときは……、ナリーランドに海賊団が現れ、『宝探し』と称してゴミ捨て場をめちゃくちゃに漁った。
クロマルは『覇王丸』で彼らの拾った『ゴミ』を斬り刻み、張り合わせて『海賊船』を作ってあげた。そのおかげで彼らは、『お宝』を求めて七つの海を渡る『冒険家』になった。
そして、あの時だ。子供達がお星さまの夢ばかり見るので、ナリーランドの星たちは自我を持った。星達は地上の皆と遊びたい余り、『隕石』になって地面に墜落した。
そのせいで、地面はクレーターだらけになり、皆が困っていた。
そこに現れたクロマルが、『覇王丸』で地面を斬って平らにし、さらに土を細かく切り刻んで柔らかくして、星達が安全に着地できる『発着場』を作ったんだ。
これで星達はいつでも空と地上を行き来できるようになった。
【クロマルの活躍:終わり】
俺の後ろの映像から、その時々のクロマルが現実に飛び出してきて、今のクロマルと融合していく。
映像から出てきたクロマル達は、俺の『推しパワー』の結晶なのだろう。
「よっしゃあ!!来た来たきやしたぜ!!ありがとう!!おめえは、藤田といったかね。おめえさんのお陰で今日もナリーランドの平和が守れそうですぜ!」
く、クロマルから直接話しかけられただと!?
俺は感動と緊張のあまり、ロクに返事もできず固まってしまった。
「お、俺達に、にも、得はある、のだ、き、にす……な」
クロマルは俺に向かって微笑むと、今度はキュリオキュリの方へと向き直った。
「さあ!!おめえにとり憑いた悪夢と!取り込んだ全ての夢!!この『覇王丸』でおめえから切り離させてもらいやすぜ!!」
「覇王丸は皆斬る!!『覇王・大切断!!』」
クロマルがそう叫んで、『キュリオキュリ』の体に斬りかかった!
すると、キュリオキュリの体から大量の『濃い紫の靄』が吹きあがり、どこへともなく飛んで行った。
キュリオキュリは絶望して膝をつく
「こ、これで私はまた醜いただの河童に戻ってしまった」
そう言って、涙を零しながら自分の境遇について話し始めた。
【キュリオキュリの境遇】
私は……、この『沙悟浄』は、幼いころから容姿でとことん馬鹿にされ続けてきた。
それでも、せめて心だけは誠実にあろうと、清く正しく生きてきた。その姿勢を買われ、観音菩薩によって、『取経の旅』のメンバーに選ばれた。
だが、取経の旅は死と隣り合わせだ。何といっても、私には兄者のような特別な力は無いからな。いつも、次は死ぬのではないかと恐怖におびえていた。
そして私は、それらの苦痛に耐えかねて……。
自分が可愛らしい女子だったら……、可愛くて、さらに兄者をも上回る妖術が使えたら……などと強く妄想するようになった。
もちろん、そんなことは起こるはずもなく、やがて私達は無事に取経の旅を終え、私は仏になった。
だが時が進み、地球のアニメで『魔法少女』という概念を知ってからは……。
自分の理想はこれだと!何としても魔法少女になりたいと思うようになったのだ!!
【キュリオキュリの境遇:終わり】
「だ、だが、私の夢も、もう終わりだ」
「せっかく集めた夢の力は、どこかへ飛び去ってしまった。私は……もう、魔法少女にはなれない」
そう言った『キュリオキュリ』にクロマルは近づいて行き、微笑んで肩を叩いた。
「いいや、夢は終わってませんぜ。ご自分のお姿をよく見てごらんなせえ」
そう言って、クロマルは何処から持ってきたのか、手鏡を渡した。
そこには小学5年生ほどに見える少女が写っていた。
「オイラは何でも斬るが、相手が大事にしてるもんを斬ったりしねえんです。」
キュリオキュリは飛び上がって、クロマルの肩を掴んだ。
「そ、それでは私はこのまま魔法少女として、生きて行けるのか!!」
「ええ、オイラはこのナリーランドに生きるモンが皆、幸せになって欲しいんです。だから、おめえさんが女でいてえなら、そうすりゃあいいってことですよ」
「そうか……そうか……ありがとう……」
とりあえずは上手くまとまったようだが、俺達の『アトラクション突破』はどうなるんだ?
「魔法少女でいられるなら、この鍵ももう必要ないのか」
そう言って、キュリオキュリは薄い黄緑色に光る鍵を出してきた。
「その鍵は何だ?それで『夢』を集めていたのか?」
「ああ、そうだ。このナリーランドに溢れる『夢現力』を集めることで、夢を叶えることができる。だが私は鍵に宿っていた『悪夢』に取り込まれてしまった」
「だからオイラが、悪夢の持つ『夢現力』と『悪』の要素を斬りわけたんでさあ。だから、『夢現力』だけが残り、魔法少女になる夢は叶ったままってわけです」
そこまで言ったところで、鍵が強い光を放ち、白い靄を出し始めた。
その靄は少しずつ、形になっていき、巨大な門が出来上がった。
「扉……?この扉に、その鍵を刺せば次の『エリア』に行けるということか?」
しかし、俺達はキュリオキュリを倒したとは言い難いと思うのだが……。何がクリアの条件だったんだ?
この戦いで俺が得たものと言えば『推しパワー』か。だが、それでパワーアップしたのは俺ではなくクロマルなのだが……それでいいのか?
つまり、ここで試されていたのは、『推しパワー』誰かに熱狂的にハマり、その言動を楽しみ、応援する力だと言うことか。それも愛の形の一つではあるのだろうが……。
信孝や正利兄貴と育んだものとはまるで違うのが気になるところだ。それに、証如との愛でもない。
「藤田さん。この鍵が必要なら使ってください。魔法少女になれた以上、私にはもう必要のないモノですから」
「ああ、ありがとう。使わせてもらう。それと……」
俺が言いかけたところで、横から証如が叫んだ。
「あ、あのっ!!良かったら、僕たちに着いて来てもらえませんか!」
「「え!?」」
証如が妙な事を言い出した。だが、確かにそれは必要だ。このアトラクションを突破するために『推しパワー』が必要ならば、俺には『クロマル』が、証如には『キュリオキュリ』が、この先も必要だと言うことになる。
証如の『予知夢』では、証如がキュリオキュリを武器として共に戦うことが、アトラクションを突破する手段らしいからな。
だが、クロマルはこのナリーランドを護る使命があるだろう。キュリオキュリがどうかはわからないが……。
証如の言葉を聞いて、クロマルは俺の方に向き直り、言った。
「オイラにゃ、このナリーランドを護る使命があるんだが……。おめえさん等は、もっと大きなもんを護ろうとしてるみてえだな?」
「教えてくれねえか?おめえさん等、何のために戦ってるんだ?」
ここで変にごまかせば、二人が着いて来てくれないかも知れない。正直に答えるべきだろうな。
俺は信孝に出会ってから、これまでの事を細かく説明した。
教団に監禁されている俺の息子『桃』を助けるべく、信孝の力を借り、戦いの中で恋に落ちたこと。
悟空と戦う戦力を得るため、∞を求めてn座標の迷宮に行き、正利兄貴の『スーパー慈ゴッドなでなで』にほだされ、自らの『撫でられたい願望』を認め、『スーパー甘ゴッドスマイルに目覚めたこと。
そして、全次元を超える力を求めた『太上老君』によって、洗脳された証如達を差し向けられ、彼らの洗脳を解くために精神にサイコダイブしたことを話した。
「そのとき、『恋愛シミュレーション空間』と言う世界に飛ばされたのだ。そこで、『アトラクション』をクリアすることで証如達の洗脳が解けるらしいんだが……」
クロマル・キュリオキュリ・マイリズは、驚きながらも何とか話を理解してくれているようだ。
むしろ、証如の方が俺がしてきた大冒険を聞いて困惑している。
「なあ、聞かせてくだせえ。おめえさんは、それだけの旅をして何を望んでいるんです?」
「何を……とは、どういうことだ?全次元が滅んでしまっては俺の望みも何もない。戦うのは当たり前だろう」
もちろん、その中で信孝や正利兄貴と愛を育んでいくのも目的ではある。だが、そもそも俺達は愛からエネルギーを引き出さないと戦えないのだ。
俺達にとって、愛し合うことは戦うことの一部だと言えるだろう。
「そうですなあ。オイラはおめえさんの『信念』というか『生きる目的』みたいなのを聞きてえんです。共に旅するなら、相手がどんな人か知りてえでしょう?」
次のエリアに着いてくるかどうかは、俺の人格を見て決めると言うことか。
そのためには、俺が冒険の中でたどり着いた『信念』を見る必要があると。
俺の信念は……『生きる目的』は……やはり、あの戦いの中にあるはずだ。
私は幼いころから父親に疎まれ、寂しい想いを抱いていた。ヨンリオに憧れ、ハマった原因もそれだ。
だがあの戦いで、俺はその気持ちをさらけ出し、正利兄貴に甘えることを強要された。二人と自分の命を救うためにな。
そして、正利兄貴の『なでなで』により、俺の心に開いていた穴は埋められた。そして俺は、それまでしたことのない最高の笑顔を身に着けた。それが『スーパー甘ゴッドスマイル』だ。
あの時だ。あの時に俺の信念は目覚めた。やりたいこと、やるべきことが固まったと感じた。
「そう、俺の信念は『甘える』ことで人を癒し、強くすることだ」
「なるほどねえ。それは、今おめえさんがやってることと、きちんとリンクしてるんですかい?」
そう言われて、俺は考える。今、俺は『皇・大和』の自爆から皆を救うため、新しい力に目覚めようとしている。
その力は『推しパワー』らしい。
この『推しパワー』は俺の信念に見合った能力だろうか?
『推しパワー』は相手を応援し、力を与えることでパワーアップさせる。俺の信念は『相手に甘えることで癒し強くする』ことだ。
だから、『推しパワー』は相手と直接触れ合わなくとも、応援によって『推し』を癒し、強くする力と言えるだろう。
「ああ、俺は甘えることで『推し』を強くする。このナリーランドでの戦いは、まさに俺の理想だったと言って良いだろう」
「ははは!!面白い、おめえさん、面白えですよ!!変なやつだが、真っすぐな信念をもってやがる。いいねえ!!」
「よし、わかりやした。おめえさんに着いて行きやしょう。このナリーランドの平和はマイリズに任せることにしやす」
「え、マイリズ?」
元々、マイリズはこの世界の主人公みたいな存在だからな。マイリズがどうしても守れないときだけ、クロマルが出てくるんだ。
だから、何かとんでもないことが起きない限り、マイリズに何とかできないことはない……はずだ。
「んー、マイリズめんどくさいのやだけど、しょうがないわね」
とにもかくにも、これでクロマルが着いてくることは決まった。
「え、ええと」
キュリオキュリの方を見ると、何か言いたげにしていた。こちらをチラチラと見ているが、切り出しにくいようだ。
そうだな、証如のために、彼……いや彼女にも着いて来て欲しい所なのだが。
「わ、私も、連れて行ってください!!」
キュリオキュリが、すごい形相で喉から絞り出すような声で、そう切り出した。
「わ、私は『取経の旅』で辛い思い出しか作れなかった!ですが、魔法少女になった今なら、そして貴方がたのような人達となら、楽しい旅ができる気がするんです!」
『楽しい旅』か。この『アトラクション』は、どうあれ命がけだと思う。だが、俺が信孝・正利兄貴としてきたように、戦いによって愛を育むことができれば、それは楽しい旅と言えるかも知れない。
そう考えていると、横から証如が言った。
「『楽しい旅』!そうか、そんな考え方もあるんですね。僕は、いつ命を失うか怯えるばかりで楽しむことなんて考えてなかった」
突然、証如が会話に入って来たため、キュリオキュリはキョトンとしている。
「いいですね!一緒に旅を楽しみましょう!そうだ、僕だって貴方だって楽しんでいいんだ。ここでは文句を言う人なんていないんだから!」
証如は若くして本願寺の法主になったからな。作法など厳しく躾けられたのかも知れない。
ある意味、俺の幼い頃と通じるものがあるな。
「そ、そうか。ならば私は楽しんでいいんだな。おっさん河童ではなく、魔法少女として旅を、人生を!!」
「もちろんです!!僕も楽しみますよ!!気の合う仲間が欲しいと思っていたんです!」
それは、俺のようなゴツいおっさんと一緒に旅するのは嫌という意味か?まあ、いいだろう。とりあえず、これで次のエリアの探索メンバーは決まったな。
「話は決まったようだな。ならば、この鍵を扉に挿すぞ」
「ええ、おねげえしやす」
「はい。どんなところに出るか、楽しみですね」
「はい!早く行きましょう!!」
三人に急かされて、俺は鍵を扉の鍵穴に挿した。すると、周囲に光が広がり、俺達は次のエリアへと転移した!!
「いってらっしゃ~い」
俺達の耳には、マイリズののんびりした声がかすかに残っていた。