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キュウリの神様と『推しパワー』

【  2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア1 ヨンリオ界 くしゃみの穴付近】


 俺達は、マイリズの案内で『くしゃみの穴』にやってきた。


 深い森の中に、真っ暗な穴が空いている。


 穴の周囲には『くしゃみ禁止』と書いた看板が立ち並んでいて、穴の上を手足の生えたきゅうりのようなものが浮遊している。


 これ自体は、ナリーランドでは珍しくない風景だ。


 不審な点は、俺が『きゅうりの神様』というキャラクターを聞いたことが無いことだけだが……。


「くしゃみ禁止とあるが、ここでくしゃみをすれば、穴に入ることができるのか?」


「うーん、でもそれだと」


 マイリズがそう言いかけたところで、穴の中から『ガッデム』という謎の音がした。


「あら、『くしゃみボタン』だわ。大変」


 マイリズの言葉と同時に、浮かんでいた『手足の生えたキュウリ』に花が咲き、そこから花粉のようなものが飛んできた。


「『アレルゲン・ウイルス』ね。これを吸い込むと……」


 そう言われて、俺は花粉もどきを避けようとしたが、花粉もどきは追尾してきて、無理やり俺の鼻の中に侵入して来た。


「はくしょん!!」


 俺がくしゃみをしたせいで、俺達は穴の中に吸い込まれた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【  2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア1 ヨンリオ界 ぬか床の間】


 穴に落ちた俺達は、そのままぬか床に落とされた。このぬか床には神術的な何かがかかっていて、抜け出せないようになっているようだ。


 そして、俺の中から何かが吸い出されているのを感じる。


 このぬか床は、『きゅうりの神様』とやらが、ナリーランドの住人から何らかのエネルギーを集めるために、作ったものだということか。


「また、獲物がかかりましたね。それも、逃げたマイリズが戻ってきてくれるとは、幸運なことです」


 そう言ったのは、きゅうりに手足と白髭が生え、雲のようなものに乗った人物だ。こいつが『キュウリの神様』か。


「お前、ナリーランドの住人じゃないな?何のためにこんなことをするんだ?」


「そんなこと、わざわざ話すはずがないでしょう。夢の力を集めて、私の願望を叶えようとしているなんて知られたら、国王から妨害を受けるでしょうからね」


 なるほど。ナリーランドは人々の夢でできている。その夢の力を少しずつ奪い取って『夢を叶える力』を得ようとしているのか。


 だが、それをするためには、アニメの設定で考えれば、『鍵』のような触媒が必要なはずだ。


 こいつは触媒となるアイテムを、恐らくは外から持ち込んだ……。


 俺達が敵対している組織が作り出したのかはわからないが、ともかくそのアイテムを奪ってしまわないと、ナリーランド中の夢が奪われてしまうかもしれない。


 そうなれば、全次元の『人々の夢』が消されてしまう。皆がふぬけになるわけだ。何の生産も、子孫繁栄もしなくなれば、当然 あらゆる生き物が滅ぶことになる。


 最もこれはアニメの設定だが……。この世界が、『ヨンリオ』のアニメを元に作られているとすれば、本当に全次元を滅ぼす力があっても不思議はない。


「ふふふ、君たちいいね、マイリズに匹敵するほど、濃い夢の力だ。これだけのパワーがあれば、ナリーランドを滅ぼさなくても、私の夢が叶いそうだぞ」


 そう言うと、『きゅうりの神様』は呪文のようなものを唱えた。すると、夢を吸う力が強くなっていく。


 俺の『ヨンリオ』に憧れる気持ちや、信孝・正利を愛する気持ちも夢が吸い取られることで、希薄になっていく。


「ふ、藤田さん……これはまずいです。夢の力が……」


 思えば、証如が白日夢で見たという『全次元を滅ぼす兵器』は、確かにこのぬか床のことだったのだ。


 人々の夢を奪うぬか床なら、確かに全次元を滅ぼすことができるだろう。


 ダメだ。夢を失ってはいけない。


 思い出せ、俺の夢 憧れの中心 ヨンリオにハマった原因、俺の俺だけの英雄を!!


「おひけえなすって」


 どこから入って来たのか、そこに『彼』は現れた。


 紋付き袴を着た、黒いペンギンの少年、任侠を愛し曲がったことが大嫌いな、子供の頃 俺が憧れ続けたヒーロー。


「もう、大丈夫だ。オイラに任せな」


 義侠のクロマルだ!!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「クロマルですか。厄介なキャラが来ましたね。それも、くしゃみをせずにこの穴にはいってくるとは」


「オイラの『覇王丸』はなんでも斬れるんだぜ。次元の継ぎ目だって例外じゃねえ」


 『男女の愛』以外は何でも斬れるというのが、クロマルの持つ刀『覇王丸』の謳い文句だ。


 くしゃみの穴はくしゃみを起点に『次元の穴』を開き、それを通って対象者を転移させる神術なのだろう。


 クロマルは、その『穴』を覇王丸で強引にこじ開けることで、ぬか床に落とされることなく穴の中に入って来たという訳だ。


 さすがは俺の……いや、皆のヒーローだ。


「さて、このまま覇王丸できゅうりの旦那を斬っちまってもいいんだが、情報を聞かねえわけにはいかねえな」


 ああ、それはそうだ。そもそも、どこからどうやってこのナリーランドに来たのか?どうやって、このぬか床を作り出したのか?


 同じことをするやつが現れてもこまるしな。第一、俺達がこのアトラクションを突破するヒントが、『きゅうりの神様』にあるはずなんだ。


 このまま死なれては困ることは間違いない。


「全く、これでは計画が台無しではないですか。仕方ありませんね。『夢現力』の素晴らしさを少しだけ見せて差し上げましょう」


 そう言ったキュウリの神様の周囲を、濃い紫の(もや)のようなものが覆った。


「我が夢よ、叶え!!」


 きゅうりの神の言葉と共に靄が晴れて、中から出てきたのは……!!


 小学五年生ほどに見える少女だ。


 『魔法少女』のようなキュウリの模様が散りばめられたピンクのワンピースに、裾はフリルで飾られ、いくつものリボンが付いている。


 頭にはキュウリの花が飾られた帽子を被っており、髪の毛は『明るいオレンジ色』だ。


 この少女は何者だ?まさかキュウリの神様が変身したのか?


「ふっふっふ!やったぞ!!今はまだ一時的だが、ついに私は魔法少女になった!!」


「私の……いや、あたしの名前は魔法少女『キュリオキュリ』!夢と希望の魔法少女だよ!!」


 魔法少女となった『キュウリの神様』はそう言って可愛いポーズをとって見せた。中身がキュウリの神様だとわかっているから、あまりドキドキはなしないが……。


 声も少女らしい、高い声に変わっているな。さっきまではおっさんらしい声だった。


 しかし、何のためにわざわざ夢の力を集めて魔法少女になったんだ?そんなに憧れていたのか?


「それで、その姿になりゃあ オイラに勝てるってんですかい?」


 目の前の衝撃的な事態を見ても、クロマルは冷静だ。私も落ち着いて、自分のできることを考えなければいけない。


「もちろんだ。このナリーランドでは、夢の力が全てを決めるからな」


 そう言って、魔法少女キュリオキュリは、キュウリのように曲がった『魔法のステッキ』を振りかざした。


 すると、キュウリの神様の周囲を回っていたキュウリ達が、魔法少女のお供っぽい、短足の猫のぬいぐるみに変化した。


 そして、無数の『お供』がクロマルに向かっていく。


「こんなもんで、オイラを倒せますかい」


 そう言ってクロマルは向かってくる『お供』達を『覇王丸』で切り伏せた。


 だが、斬られた『お供』からワンサイズ小さいお供がでてきて、クロマルに向かって行く。


 クロマルは無数の『お供』を斬っていくが、それでも一匹がクロマルの体に付着する。


「く、なるほどねえ。こいつもぬか床と同じってわけですかい」


 どうやら、『お供』達はクロマルの『夢現力』を奪うためのものらしい。だとするとまずいな。このままクロマルが敗れれば、いずれは全次元の夢も奪われてしまう。


 『クロマルが敗れる』?


 そんなことあってたまるか!!ヒーローはいつだって負けない!!ヤクザの俺が言うのも何だが、ヒーローは負けない。負けさせたくない!!


 俺が何とかするしかないぞ!!


「見えます、確かに見える!そうかそうだったのか!!」


 俺がやる気を出していると、隣でそれまで静かだった証如が騒ぎ始めた。


「見えたんです!あの少女がどういう経緯か、僕の武器になって共に戦っている姿が!」


「そのためには『推しパワー』が必要……だというのですが、何のことかわかりますか?」


「推しパワー?」


 推しというのは、アイドルやキャラクターを愛して応援する、あの『推し』のことか?だが、俺がクロマルを推すというならともかく、証如が『キュリオキュリ』を推す?


 経緯がよくわからないな。


 だが、光明は見えたぞ。『推し』は夢に酔う行為と言っていい。


 つまりこの戦いの決着は、俺がどれだけクロマルを『推せて』、証如がどれだけ『魔法少女』を推せるかと言うところにあるらしいということだ。


 俺の『推しパワー』が一定に達し、俺の中に溢れる『夢』が奪われる量を越えればいい。


 そのとき、クロマルは無敵の戦士になるはずだ。


「話は分かったわ」


 突然、マイリズが呟いた。ピンチの状況で突然ものわかりが良くなるのは、マイリズの特徴だ。もしかして何か手があるのか?


「それじゃあ、これを使うといいわ」


 そう言って、マイメロはタクトのようなものを出してきた。これはドリーム・タクトか。アニメで見たことがあるぞ。


「このタクトは、一度だけ今置かれた状態を何とかしてくれるということでいいのか?」


「ええ、クマさんの『推しパワー』を高めるための、何かがおこるわよ」


 クマさんというのは俺の事らしい。この世界に来たときからテ〇ィベア姿のぬいぐるみにされているからな。


 俺の『推しパワー』を今以上に高める『何か』か。期待もあるが不安が大きいな。これ以上、クロマルを好きになったらどうなるのか?


 いや、もっとクロマルを好きになれるなら、最高じゃないか!やってみよう、俺の愛を高め、クロマルにぶつけるんだ!


 そう考えて俺は、マイメロから渡された『ドリーム・タクト』振ってみた。


 これは、クロマルの過去に入り込んでいるのか?このシーンは覚えているぞ。


 『大悪夢暴走事件』マイリズが最大のピンチに陥った、あの事件だ。


 この世界は、全次元の人間の夢によってできている。よって、人々が悪夢にさいなまれればこの世界も悪夢によって汚染されてしまう。


 アニメでは地球で『第二次世界大戦』が起きたことで、ナリーランド全体が悪夢に覆われていた。


 そのため、ちょっとしたことで悪夢が実体化してしまう、混沌とした世界になってしまった。


 飲食店では毎日割られることに激怒したお皿が悪夢を取り込み、おさらザウルスになって暴れまわった。


 アイスクリーム屋では、地面に落とされたアイスクリームが悪夢を取り込み、ナリーランド中の山を二段重ねのアイスに変えたため、ナリーランド中が寒くなり、また上側のアイスが落ちてきて雪崩に巻き込まれる人たちも出た。


 マイリズの頭巾は、せっかく主人公の装備品なのに、自分は目立たな過ぎると言って悪夢を取り込み、闇頭巾ちゃんになってアップルパイを無限に生み出し、人々に無理やり食べさせて回った。


 マイメロのパラソルは空が飛べるって、俺マイリズより優秀なんじゃね?と言って悪夢を取り込み、ナリーランド中のあらゆるものや人を宙に浮かせて遊んだ。


 この混沌とした世界を、クロマルが救ったのだ!!


 クロマルは悪夢を取り入れたもの達を斬っても、根本的な問題は解決しないと考えた。そしていくら戦争が起きているとはいえ、広い全次元の中で地球だけの事なのに、これほど悪夢が反応するのはおかしいと考えた。


 つまり、地球の悪夢だけを一点に集中させ、増幅している者がナリーランドにいるということに、クロマルは思い至ったのだ。


 それは不眠症に悩まされたアドルフ・ヒトラーが毎晩見る悪夢が、ナリーランドで実体化したものだった。


 夢を吸収する能力を持った『ヒトラーの悪夢』は、どんどん他の夢を吸い込み強力になっていった。


 それと同時に現実世界でのヒトラーも力を増していった。これが第二次世界大戦の原因だったわけだ。


 クロマルは『吸収した夢』と『ヒトラーの悪夢』を覇王丸で切り離す作戦を考えた。そしてマイリズの力で残った『悪夢』を浄化しようとした。


「『ヒトラーの悪夢』よ。オイラは、どんな夢でもこのナリーランドに生まれた以上は殺しちゃいけねえと思ってる!」


「だからこそ、調べに調べた。おめえの正体は、『夢を吸い』『自分の力にする』おめえの正体は」


「バクだ!本来ならば悪夢を吸い、浄化するおめえがヒトラーの悪夢から生み出されたばっかりに、何でも吸って力にする存在になっちまった」


「これから、おめえと悪夢を切り離す!おめえはこのナリーランドで幸せに暮らすんだ!!」


「いくぜ、覇王丸!!漲ってきたぜ『皆斬り』!!」


 こうして、バクは悪夢と切り離され、その後のストーリーでもマイリズ達と深くかかわることになった。


 誰でも救う。悪夢の根源すら認め、浄化して仲間にする。


 そうだ、あの時描いた憧れ、そして『信孝』に対する想いでもある……!!


 ヒーローは負けない、ヒーローは敵を認める、ヒーローはそのための努力を怠らない。


 ふ……ふ……ふあああっ!!ほあ……こ、これは『限界化』……。推し活によって頻繁に起こる症状だ。


 そして、『目覚めた』ぞ。推しを最強にする応援パワーに!!


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