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藤田の夢~ヨンリオ界のマイリズミィ~

【  2005年 蜂須賀正利14歳 織田信秀14歳  ラブキング・キャッスル 恋帝(れんてい)の間】


 仏陀の転移によって、周囲の景色が変わり、私達は1辺が10mはあろうかという、巨大な部屋に飛ばされました。


 飛ばされた場所の周囲には八つの銅像が建っています。台座には、


・エロスの像

・アガペーの像

・フィリアの象

・ルダスの像

・プラグマの像

・フィラウティアの像

・ストルゲの像

・マニアの像


 と彫ってあります。何のことかはわかりませんが、『フィリア』というのは、私達が目覚めた『上位恋愛傾向』というもののはずです。


 私達が目覚めたもの以外に、あと7つの上位恋愛傾向があるということでしょうか?


「おお!正利じゃないか!!お前も『アトラクション』をクリアしたんだな!」


 そう言って、私達に近づいてきたのは信孝様です。会えて嬉しいのはもちろんなのですが、未来でこの方が暴走すると考えると、複雑な気分にもなります。


 信孝様は私に駆け寄ってきて、私達は熱く抱擁をしました。


『なんですか、お二人はそういう関係なのですか?』


「ええ。そうですね。手を繋ぎ合ったとき映像が流れたかと思いますが、私と信孝様は夫婦の誓いを立てた中ですよ」


 鳳華さんの質問にはっきりと答えました。プロポーズの直後は恥ずかしがることもありましたが、今更 照れることでもありません。


「本当に男同士で愛し合っているのだな。まあ俺も人のことは言えないが」


 私達を見たアリは、少し照れ臭そうに眼を反らしています。


「お主達、そろそろ余の話を聞いてもらっても構わぬか?」


 そう話しかけてきたのは、部屋の中央 大きな椅子に座った10mほどの大男です。中央に『愛』と書かれた王冠を被っていて、衣装やマントもいかにも王様という感じですね。


「もちろんです。貴方様が『恋帝』なのですね」


「いかにも、余が恋帝じゃ。お主達、よく我がアトラクションを突破した!お主達こそ、愛の申し子じゃ!!」


 どうやら、あのアトラクションでは『愛』を試されていたようです。私達は友情の力で突破したのですが、あれで良かったのでしょうか?


「このラブキング・キャッスルには、恋人を得ること、そして夢現界の力をもって夢を叶えることを望む者が招かれる。そして、お主達はアトラクションを突破する中で、恋人を作り、夢を叶える力を手に入れたはずじゃ!」


「ちょ、ちょっと待ってください。夢現界の力とは何のことですか?それに、私はアリ達と親友になりましたが、恋人になったわけではありません」


 確かに、恋愛以上の信頼関係を結んだ自信はありますが、恋人同士ではないでしょう。


『そのことについては、我に説明させてくれ』


 そう言って、横から仏陀が出てきました。私達がどうやってアトラクションを突破したのか説明するようです。


 仏陀は、アトラクションが通常の進行をされず『輝夜の介入』によって、難易度が大きく上がってしまったこと。


 私達が愛は愛でも強い『友愛』によって、アトラクションを突破したことを説明しました。


「なるほど!じゃが、どのような愛の形でも、アトラクションをクリアしたことは立派じゃ!それもさらに難易度が上がったアトラクションを突破したとは、まさに愛の申し子じゃな!!」


「夢現界とは何なのですか?」


 私の質問に対して、恋帝ではなく信孝様が答えました。


「夢現界とは、あらゆる人々の夢が現実化する異世界だ。そこへの扉を開き、エネルギーを取り出すことができれば、理論上どんな夢も叶えることができる」


「で、では私は……いえ、私達6人は、その夢現界から力を取り出す能力を得た……と?」


 困惑する私に対して、今度は恋帝が答えました。


「アトラクションを突破したなら得ているはずじゃ。戦いの中で、普段では考えられない力、あり得ないことが起こらなかったかの?」


 あり得ないこと……?あっ……!!


 『未来の私が、未来の映像を見せた』そんなことは通常ではあり得ません。


「なるほど。確かに、私達は無意識に夢現界のエネルギーを取り出したみたいですね」


 あらゆる夢が叶う力ですか。これはいいですね。しかも信孝様がここにいるということは、信孝様もその力をお持ちだということです。


 この力を鍛え、夢現界からもっと多くのエネルギーを引き出せれば、信孝様が魔物化する未来を防げるかも知れません。


「なあ恋帝、これで現実世界で信秀の洗脳は解けたんだな?」


 信孝様がそう尋ねました。そうです。ツバサ・信秀殿・証如殿・島津義弘の4人は太上老君に洗脳され、彼が作った巨大ロボット『皇・大和』に乗って、我々を殺すため自爆したのでしたね。


 私達は彼らの洗脳を解き、自爆を途中で止めるため、彼らの精神にサイコダイブした結果、この『恋愛シミュレーション空間』に来たのでした。


「もちろんじゃ。これで、そなた達の望みも叶いそうじゃな」


 お二人の話を聞く限り、どうやら私達がアトラクションを突破する度に、一人ずつ洗脳が解けていくと言うことらしいですね。


 信孝様はすでに突破されたようですし、藤田ならばよもや失敗することはないでしょうが……。


「問題は島津義弘と……」


「俺の関係者らしい、『桜井かんな』だな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【  2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳  ドリームワールド エリア1 藤田の夢~ヨンリオ界~ 】


 俺達が転移して来たのは、妙に明るい世界だ。周囲にはぬいぐるみでできた山があり、川が流れている。というか、世界全てがぬいぐるみでできているようだ。なんだ?この世界は?


 他のやつらがどんな所に飛ばされたか知らんが、どうも私は相当厄介なところに来たらしいな。


「ふ、藤田さん。僕たちの体もぬいぐるみになってますよ」


 証如の言葉を聞き、慌てて自分の体を見ると、俺の体がアメリカの『テ〇ィ・ベア』に似た熊のぬいぐるみになっていた。


 何だこれは、どうなっているんだ?内臓は?血流はどうなっている?


 これまで色々な不思議現象に会ってきたが、これは異常すぎてわけがわからないな。


 ちなみに、証如は柴犬をデフォルメしたようなぬいぐるみになっている。


「こんな妙なところに転移させて、俺達に何をしろ言うんだ」


「よくはわかりませんが、アトラクションということでしたから、何かクリアの方法があって、それを探すんじゃないでしょうか?」


 クリアの方法か。そう言われて俺は周囲を見渡した。


 周囲には、ぬいぐるみの木が何本か生えている。地面には道のようなものがあるから、この辺りには人が住んでいて、ここを通っているのだろう。


 この道をどちらかに向かって、村か町を探すのがクリアの方法を探る近道になりそうだ。


 そう考えていると、道の向こうから二人のぬいぐるみがこちらに歩いてきた。


 ……!!あれは!!あのピンクの頭巾を被った、ウサギのぬいぐるみは!!


 赤いリボンの白ネコとともに、ヨンリオを草創期から支える、人気キャラクター『マイ・リズミィ』だ!!


 それに気づいた俺は、ぬいぐるみの短い脚で、必死に走り、マイリズミィ略してマイリズのもとに駆け寄った!!


「あ、あの!お前は……い、いや君は……」


「あら、なぁに?見かけない熊さんね」


 マイリズの声を聞き、私は感動した。アニメと全く同じ声じゃないか!当たり前なのかもしれないが、すごいことだ。


 しかし、だとすると改めてこの世界は何なのだ?本当にヨンリオの世界……全次元のどこかにそんなものが実在していて、そこに飛ばされたということなのだろうか?


 私にとっては幸福なことだが、いつまでもここで遊んでいるわけにもいかない。現実世界では『皇・大和』の自爆によって死ぬ寸前なのだからな。


 だが、とりあえず何をすればこのアトラクションを突破できるのかがわからなくてはしょうがない。


 ならばとりあえず、マイリズと話をしてこの世界の事を聞き出すしかないだろう。


 俺はそう考えて、ウキウキしながらマイリズとの会話を始めた。


「俺は『ラブキング・キャッスル』の試練でここに飛ばされたんだ。ここに俺達の突破しなければならない試練があるらしい。何か心当たりはないか?」


「はあ。マイリズね、難しいことわかんないの」


 完璧な答えだ。マイリズはこうしてボーっとしているように見えて、相手の反応を楽しんでいるんだよな。


「藤田さん。その説明じゃ、多分通じませんよ。ラブキング・キャッスルなんて、事前知識なしに言われてもわからないでしょう」


 言われてみれば、その通りだな。しかし、だとすれば何から説明すれば理解してもらえるだろうか。


「ふーん。何となくわかったわ。あなた達、マイリズの知らない異世界から来たのね」


 何となく理解してもらえたらしい。話の都合で突然理解力が高まるのもマイリズの特徴だが……。


「それで、何か『異変』みたいなことはないか?恐らく、俺達がここを突破するには、それを解決しなければならないんだ」


「ナリーランドは、いつもとっても平和なの」


 どうやら、これと言って異変はないらしい。これから起こるのか、それとも異変ではなく別の『クリアの方法』があるのか?


 だとすれば、怪しい場所を見つけてたどり着く、とかだろうか。


「熊さんも、慌てないでマイリズのお家でお茶でも飲んで行ったらいいの」


 マイリズの家でお茶か。のんびりしている暇はないんだが……。


 だがマイリズの家に行けば両親や祖父母、弟がいるはずだ。聞き込みをするならば、対象が多い方がいいかも知れん。


「わかった。伺おう。何かヒントになるものがあるかも知れん。証如もいいか?」


「はい、とりあえず現状ではこのウサギさんしかヒントがありませんからね」


「犬さんも来るといいのよ」


 俺達はそう言って、マイリズの家に向かうことになった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【  2005年 藤田浩正14歳 本願寺証如14歳 エリア1 ヨンリオ界 マイリズの家】


「あら?お客さんかしら?」


 友好的に聞こえるが、抑揚のない声でそう言われた。この人が『マイリズママ』か。


「お友達かい?」


 そう優しい声で言ったのは『マイリズパパ』だろうな。こちらは人の良さそうな顔をしている。


「道で会ったから、お茶に誘ったの」


「あら、それじゃあきちんとおもてなししないといけないわね」


 そう言って、マイリズママは紅茶を淹れ始めた。


 マイリズママが紅茶を淹れる間、俺達はマイリズの家族に『クリアの方法』について聞いてみることにした。


「さっき、ナリーランドは平和だって言っていたが、本当にこれまでと何の変化もないのか?」


「うーん、マイリズわかんない」


「例えば、今日はあそこで何をしていたんですか?」


 証如がマイリズの行動を聞いた。それは確かに俺も気になるな。いや、ファンとしてではなく、この世界の住人の行動の中に、『クリアの方法』のヒントがあるかも知れないからな。


「そうねえ、今日は……」


「キリィちゃんとお花畑でお散歩してたんだけど、マイリズがくしゃみをした瞬間、大きな穴に吸い込まれちゃったの」


 突然、突拍子もないことを言われ、俺と証如は固まった。


 さっきまでずっと平和だったと言ってたじゃないか……と思うが、考えてみれば少なくともアニメの中ではマイリズの日常はこんなものだったな。


「それで穴の中では、きゅうりの神様にキュウリと一緒に『ぬか床』につけられて」


「疲れたからお茶にしようと思ったら、紅茶の妖精さんが穴の外に案内してくれたのよ」


 うん、マイリズの生活としてはやはり不審な点はない。ちょっと聞くと何を言ってるかわからないけどな。


「それは、『異変』ではないんですか?命の危機だと思うんですけど」


「マイリズの生活ではいつものことね」


 マイリズママがそう言って、俺たちの前に紅茶を置いた。


 証如は驚いているようだが、確かにこれはマイリズの行動としては日常茶飯事だ。


 ただ気になることがある。俺の記憶によると、ヨンリオキャラクターに『きゅうりの神様』などいなかったはずだ。ナスならいたような気もするが……。


 今のところ、手掛かりはこれだけだ。一応、くしゃみの穴とやらに行ってみるか?


 そのとき、証如の表情に変化が起きた。何かに気づいたのか?


「い、今 白昼夢というか……。えっと、僕の能力は『未来の兵器』を夢で見ることなんですけど」


「ああ、そうだったな。では、この世界に危険な『兵器』が生まれたというのか?」


 だとすれば、それがまさに『異変』だろう。その兵器の開発を止めることが『クリアの方法』のはずだ。


「え、ええ。でも……その……。僕が見たのは『ぬか床』なんです。こんなものが危険な兵器なんでしょうか?」


 うーん……?ぬか床が世界を危険にさらす兵器?


 確かに、それだけでは全く意味がわからんが……。だが、どちらにせよ『くしゃみの穴』とやらに何かがあるのは間違いなさそうだ。


「よし、どうやら俺達が『クリア』するための何かが『くしゃみの穴』にありそうだ。そこへ行ってみるとしよう」


「そうですね。少し怖いですけど、行ってみましょう」


「マイリズもついて行っていい?」


 マイリズか。現実世界のアニメからすれば、こいつはボーっとしているようで肝心なときには頼りになるやつだ。


 最も、状況を楽しむために事態を見守っていることもある腹黒なのも事実だが……。まあ、いいだろう。


「ああ、ついて来てくれるなら頼もしい。多分、聞いただけじゃ穴の場所がわからないしな」


 こうして俺達は、アトラクション突破のヒントを求めて『くしゃみの穴』に向かうことになった。

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